さっくりと一記事の文章も短めに三回から五回くらいで終わらせます。
よければお付き合いくださいませ。
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<三箇日には隠者の聖なる刻印を>
こじんまりとした洋館には、シュウたち各々の個室に少し余る数の小部屋と広めのリビングにダイニングキッチン。そしてバス・トイレに洗面所と、最低限の客をもてなす程度の設備しかなかった。
「また根城《ヤサ》を変えたのか」と、以前に彼らが拠点としていた洋館にも訪ねたことがあるマサキが尋ねてみれば、「ひとところにじっとしているのは性に合わないもので」と、隠者のような生活を好む男にしては意外な言葉が返ってきた。
そんなシュウに促されるがまま。朝からテロリストのアジトを探索し、地上に出てはミオの着付けを待ち、立ち食い蕎麦屋で年越し蕎麦を食べ、神社の人待ちの列で除夜の鐘を聴き、年越しと共に初詣を済ませ、しまいには県を跨ぎ海岸に出て初日の出を拝んだマサキは、当然がらここまでの道のりで一睡もしておらず。ミオ共々案内された空き部屋で、一日ぶりの睡眠を貪った。
まだシュウに対する疑念を捨てきれていないらしいミオは、マサキに交代での仮眠を提案したが、さしものシュウも眠気がピークを迎えていたとみえる。「そんなに私を疑うのでしたら、私はリビングのソファで休みますから、好きにどうぞ」と言い切って、そのまま本当にリビングのソファであっという間に眠りに就いてしまった。
眠れるときに眠らなければ急場で身体が持たないことを知っているマサキは、よもやこの状態からシュウが策を弄するとも思えず、そのまま案内された空き部屋のベッドに身体を沈めることにした。ミオもひとりで眠っているシュウの監視をするのは嫌だったとみえる。ひたすらに眠りを貪ったマサキが数時間後、目を覚ましてリビングに足を運んでみれば、ソファに身体を埋めたシュウがひとり。
外に出て、サイバスターの操縦席《コクピット》から情報局に連絡を入れてみれば、サンプルの準備は明日になるとの返事。することもないマサキはリビングに取って返し、そこでようやく起きたらしい。不機嫌が服を着て歩いているような表情のシュウが、気だるそうにソファに身体を起こすのが目に入った。
「サンプルの到着は明日になるってよ」
「そうですか。なら、私は例の付着物の成分の分析を始めることにしましょう」
億劫そうにソファの背もたれにかけてあった上着を取り上げて袖を通すと、シュウは付着物のサンプルが入っている鞄を片手に洋館の一番奥の部屋へと姿を消した。
「あれ? シュウは?」
「例の付着物の成分の分析をするってよ。数時間は出てこないんじゃないかね」
「ふーん。まあ、その結果は教えてもらわないと困るもんだものね」
少し遅れて起きてきたミオに食事をどうするかと聞いてみれば、彼女はキッチンの設備や器具を一通り確認して、「少しぐらいは正月気分を味わってもいいんじゃない?」と、意気揚々。どうやら正月料理を作るつもりらしい。そのまま、夕方の市場へと使い魔三匹と一緒にザムジードを駆って、足りない食材を買い出しに出かけて行ってしまった。
リビングの作り付けの家具の上にラジオが一台。ひとりリビングに残されたマサキは、毛足の長いラグマットの上に場所を変えて惰眠を貪っている二匹の使い魔を尻目に、そのスイッチを入れた。
夕方のニュース番組。代わり映えのしない調子でアナウンサーがニュースを読み上げる。地上の賑わいとは裏腹に穏やかな日常を刻む地底世界。その極めてありきたりなニュースの羅列にマサキは思う。
この世界の平穏な生活を守るのは自分たち魔装機操者なのだ。マサキはニュースに耳を傾け続けた。
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