忍者ブログ

あおいほし

日々の雑文や、書きかけなどpixivに置けないものを。

ALL is VANITY/嘘と本音
これはリベンジ案件な気がします、しますよ@kyoさん。
嫉妬に拗ねる白河を書いてなんちゃらかんちゃらなつもりが、痴話喧嘩になっているような気がひしひしと。もっと、その、ベタベタに甘やかす予定だったのですが……い、いかがでしょうかね?
 
【追記】10/30(AM9:00) 悔しかったのでシュウサイドの話を追加しました。甘やかしているのとはまた違った感じになってしまいましたが。(結局マサキの人たらし術が発揮されただけのような笑)どうぞお納めください。
<ALL is VANITY>
 
 国家の繁栄の象徴たるラングラン城下。広大な土地に民が溢れかえっているこの街の中央通りを西に行くと、酒場が軒を連ねる通りがある。通称『|私の憩いの場《Mon lieu de détente》』と呼ばれるこの通りは、昼間はひっそりとしたものだが、夜になった途端に賑わいを見せる。
 そこに軒を連ねる建物の中でも中規模ぐらいのホールを擁する大衆酒場。その店内の一角にマサキは腰を落ち着けて、かけつけ一杯と頼んだジョッキサイズのビールを飲んでいた。
「あれ? マサキさんじゃないですか。どうしたんです、ひとりで飲んでいるなんて珍しい」
 ザシュフォード=ザン=ヴァルファレビア。雷の精霊ガルナンサに認められし紅の魔装機ガルガードの操者は、連れの兵士たちが隣の席に着く中、ひとりその輪から外れるとマサキの座っているテーブルの脇に立った。
「人待ちなんだよ。早く着いちまったからな、取り敢えずのビールさ」
「へえ」ザッシュはマサキの斜め前の椅子を引くと腰を下ろし、「だったら待ち人来たるまで、僕がお付き合いしましょうか?」
「尋ねるより前に座ってるんじゃねえよ」
「まあまあ、マサキさん。少しぐらい付き合ってくださいよ。毎度似たような面子で飲んでいると、話題が決まってしまって座が持たないんですよ。偶には違う顔ぶれで飲むお酒も悪くないでしょう?」
 すみません、ビールを。軍人育ちの割には折り目正しい。ホールを忙しなく行き交う給仕係を片手を挙げて呼ぶと、ザッシュはそう飲み物を頼み、メニューブックを開くと素早くその中身に目を走らせ、更に追加でいくつかの料理を頼んだ。
「俺と飲むのも変わらない気がするんだけどな。ところでその料理の代金だが」
「僕の奢りですよ。押し掛けて座っているんです。そのぐらいは当然」
 そして懐から何枚かの写真を取り出して見せた。どれもこれも、ザッシュと年頃の近そうな何人かの若者と映っている写真ばかりだ。
「この間、マサキさんにお話したじゃないですか。実家に帰るか迷ってるって」
「ああ、言ってたな。父親の件もあるし、実家に帰るのに迷いがあるって。それでお前自身の価値が変わる訳じゃないんだから、胸を張って帰れって俺は無責任に言っちまったけど、帰ったのか?」
 マサキはそれらの写真を一枚、また一枚と眺めてみる。思わず口元に笑みが浮かんでしまうほど、どの写真にも年相応の笑顔を浮かべたザッシュの姿がある。余程、気心の知れた仲間たちなのだろう。彼らもまた無邪気な笑顔を浮かべて写真に収まっていた。
「ええ。向こうの友人たちが待ち構えていて、随分と歓待してくれて。心配かけていたみたいです。音信不通にしていたものですから、尚更」
「そうだろうな。友人だったら当然だろ。これはその時の写真か」
「はい。マサキさんの言葉で決心が付いたので、見せたいと思っていて――」
 料理を届けにきた給仕係を振り返って、ザッシュはそこで言葉を切った。おや、と思ったマサキも同じ方向に視線を向ける。そしてザッシュが言葉を切った意味を悟った。その給仕係の傍らに見知った顔を見付けたからだ。
「お邪魔でしたら、私は別のテーブルで待ちますが」
 マサキの待ち人たるシュウは悠然としたいでたちながら、どこか不穏な雰囲気を漂わせてそこに立っていた。その口元には皮相的《シニカル》な笑み。いつものことではあるものの、他人がいる席でくらいもう少し愛想よくできないものかとマサキは思いながら、「待ったぞ。座れよ」と、シュウに自分の正面の席を勧める。
「あまり僕がいていい話にはならなさそうですね。どうぞ、僕は戻ります」
「別に私は構いませんよ。偶には外で飲むのも悪くないと思っただけですから。それよりも話の途中だったのでしょう? 戻るのは、その話を終わらせてからでもいいのでは?」
「いえ、後は特にはありませんよ。ただマサキさんにお礼をと思っただけですから。マサキさん、本当に有難うございました。料理はふたりで食べてください。僕からの気持ちです」
 マサキから写真を受け取ったザッシュが隣のテーブルに着く。同時にシュウがマサキの正面の席に着く。兵士たちは兵士たちで、ザッシュにとっては気心知れた仲間なのだろう。そんなに時間も経たずに、隣のテーブルから楽しげな笑い声が上がった。
「気になりますか?」隣のテーブルを眺めているマサキにシュウが問う。「あなたにとっては魔装機の操者同士。彼らのように気心知れた仲間でもあるのでしょうね」
「そりゃあ、な。他にも親しい連中がいるにはいるが、やっぱり立場を同じくするあいつらとは違う。気心知れているかはさておき、仲間っていうのはそういうもんだろ」
「あなたからすれば、私もその他大勢のひとりということですか……」
 テーブルに近付いてきた給仕係にボトルでワインを頼むと、シュウはそんなに時間を置かずに届けられたそのワインを、先ずは一杯とばかりにグラスに注ぐと一気に飲み干した。
「そんなことは言ってねえだろうよ。仲間とはまた違った付き合いだって、人生には必要だ」
「では、私はあなたの何?」そしてシュウは、二杯目のワインもあっという間に飲み干してしまう。「答えて、マサキ」
 どうやらシュウが怒っているらしいことにマサキは気付いたものの、その理由で思い当たることといえば、約束した相手たるシュウを待っている間にザッシュと飲み始めてしまったことぐらい。とはいえ、マサキは約束の時間より先に来て待っていたのだ。これが時間ギリギリなってのことだったら、だらしがないと言われても仕方がないと思う。
 けれどもそうではない。そうではないのだ。そもそもシュウからして、約束の時間より大分早く酒場に着いている。マサキはホールの柱に掛けられている時計を見上げた。まだ約束の時間まで二十分もある。
「答えてはいただけないのですね」
 マサキの沈黙をそう受け止めたのだろう。シュウは僅かに目を伏せるとそう呟いた。
「そうじゃねえよ。ここでそんなこと言うなんて、できるかって……」
「私は聞きたいのですよ。ここでね、マサキ」
 そして三杯目のワインに口を付ける。上機嫌な酒とは行かなさそうな塩梅に、マサキはもしや、と思った。もしかしてシュウは、マサキがザッシュと話をしていたことで、自分を蔑ろにされたと感じたのではないかと。
「場所変えようぜ、シュウ。どうやらここでしていい話じゃなくなりそうだ」
 ワインと料理の残りを持ち帰り用に包んでもらい、マサキはシュウを連れて夜の街へ出た。どこに行こうか迷ったが、結局、手近な安宿に居場所を求めることにした。一気に杯を重ねたシュウの足取りが覚束無いものに変わりつつあったからだ。
 酔いがついに回ったのだろう、部屋に入るなり、靴も脱がずにベッドの上に寝転んだシュウが、「ねえ、マサキ」言いながら広げた両手をマサキに伸ばしてくる。マサキは仕方なくその腕の中に身を納めた。
「さっきの話の続きですよ。聞かせて、マサキ。私はあなたの何?」
「それは……」マサキは口篭る。
 恋人、というたったそれだけの単語を口にするのが難しい。誰に認めて貰える関係でもないような気がするからこそ、尚更に。それをシュウも悟ったのだろう。いっそうマサキを強く抱き締めると言った。
「なら、質問を変えましょう。あなたは私をどう思っているの?」
 ああ、もう。面倒くさい奴と付き合ってしまった。マサキはそう思いながらも、縋るようにマサキを抱いているシュウの胸の鼓動を聞く。早鐘のように打ち鳴らされている鼓動。それは酔いの所為なのか、それとも。
 マサキは自分を胸の上に抱えているシュウの腕を解くと、その額に、頬に、そして口唇に口付けて言った。
「好きだよ、シュウ」
「それだけですか、マサキ?」
 本当に面倒臭い。それでも、そんな面倒臭い男がマサキにはどうしようもなく愛おしい。そう、愛おしくて仕方がない。
 
 ――……愛してる。
 
 言って、マサキはその身体を抱き締めると、ひたすら、何度も何度も、ワインの残り香のする口唇に口付けた。
 
 
<嘘と本音>
 
 ふたりで家にいると味気ない食事が増える。たったそれだけの理由だった。
 王宮を飛び出してから身に付けた自炊能力は、残念ながら幾つかの才能に恵まれたシュウに、その才能はなくても生きていけるだろうと告げているような程度の腕前しか授けてはくれなかった。唯一の得意料理らしき料理が豆と野菜を煮込んだスープ。これにチーズを溶かし、軽く焼いたフランスパンを浸して食べるのが、マサキは好きなようだ。
 それと比べるとマサキの料理のレパートリーは多い。そこは魔装機操者の女性陣にみっちり仕込まれたというだけはある。ただ、偏食甚だしいシュウに合わせようとすると、どうしても作れるものは限られてしまうようだったが。
「焼き物・炒め物だったら得意なんだけどな。けど、お前、肉嫌がるし」
 薄い味付けのスープや煮物、蒸し物ばかりをシュウに食事として出してくるマサキは、恐らくシュウに対してかなり気を使っているのだろう。必要最小限の栄養摂取は生きる上での義務――食事をそういうものでもあると思っているシュウはさておき、まだまだ育ち盛りにあるマサキをそれに付き合わせてしまうのは酷だ。しかし、自分の食べたいものを作ってもいいのだとシュウが言っても、マサキの姿勢は変わらず。口の悪いマサキに言わせれば「病人食のような薄さ」の味の料理を、そのくせ彼はせっせと作り続けている。
 だからそれは、そんなマサキへのシュウなりの心配りだったのだ。
 別にシュウとて食事を楽しむ舌を持っていない訳ではない。ただ、頻繁に濃い味付けの食事を摂っていると舌がそれに慣れてしまう。魔術祭祀には潔斎が必須だ。潔斎時にスムーズに断食に移行する為にも薄い味付けの料理は必要だったし、こうして偶にの外食をしっかり味わう為にも薄い味付けの料理は必要だった。
 そもそも貴族の日々の食事など貧相なもの。パーティの機会が多い彼らの日々の食事はつつましやかなものだ。パンにスープ、サラダ。マッシュポテト、卵・燻製肉料理……実のところ、どういった立場の貴族であれ、食卓に本物の肉&魚料理が並ぶことは珍しかったりするのだ。
 代わりにパーティでは贅を尽くした料理の数々を味わうことができる。けれども、ハレの日の料理というものは、どこの世界であろうともそういったもの。取り立てて特別なことでもない。
 だからシュウはマサキを外食に誘った。幸い、用事があって王都まで出る。その帰りにマサキと食事を楽しむのも悪くない。「それは別にいいけど、お前の選ぶ店って俺がこの格好で入ってもいいのか悩むような店が多いんだよな」
 だったら、偶にはマサキが酒や食事を楽しんでいる店に足を踏み入れてみてもいいだろう。どんな風にマサキがそういった場で酒や食事を楽しむのかを見たい。そんな僅かな好奇心から、シュウはマサキに店を選ぶのを任せた。
 そして、思った以上に早く王都での用事を終えたシュウは、先に待っていようとその店に足を踏み入れるより前に、その光景を目にしてしまったのだ。ガラス張りのホール。所狭しと木製のテーブルが並ぶ。その一角で、ザッシュとふたりで何か話をしながら酒を飲んでいるマサキの姿を。
 少しばかり皮肉めいた笑みを浮かべてみせるマサキ。本人は気付いていないようだったが、彼は魔装機操者たちでの前では、稀にそういった笑顔を見せる。素直に笑っているとは言い難い、他人を小馬鹿にしたような笑み……根っからの皮肉屋なシュウには及ばないけれども、そのシュウと付き合っていられるのだから、マサキの皮肉屋な面も相当なものである筈なのだ。
 だのに、彼はそうした表情を自分の前では見せてはくれない。
 借りてきた猫。と言うでまでではなかったものの、『あの口達者な風の魔装機神の操者が』と思う程度には、マサキはシュウと一緒にいるときは静かに過ごしていることが多かった。黙ってソファで隣に座り、そして時々、甘えてみせるように自分とスキンシップを取りたがる……勿論、そうしたマサキもシュウは好ましく感じているのだが、果たして、自分が心惹かれたマサキ=アンドーという男はそういった男であっただろうか?
 嫌味や皮肉を口にすることもあれば、人をおちょくったり、見え透いたお世辞に舞い上がってみせたりすることもある。真っ直ぐな心で責務に向き合っているかと思えば、それと同じくらいの残虐さで任務を果たしてみせることもある。それが、シュウが心を動かされたマサキ=アンドーという男だった。
 そう、シュウは、マサキの限定された一面しか見せてもらえていないのではないか? といった不安を抱えていた。だからこそ、ザッシュに対して気安い顔をしてみせているマサキが例えようもなく不快に感じられるのだ。その皮肉めいた笑顔も、その生真面目に見える横顔も、全部、自分だけのものにしたいのに、と。
「あまり僕がいていい話にはならなさそうですね。どうぞ、僕は戻ります」
 紅のガルガードが操者は、この辺り察しがいい。姿を現したシュウに即座にそう言ってのけると、いくつかの手つかずの食事が残るテーブルを、マサキが手にしている写真を受け取ってから離れた。
 ザッシュの手に戻る瞬間にちらと目を走らせてみると、その写真は非常にプライベートなザッシュの写真であるようだった。マサキのいないその写真を、マサキは口元を綻ばせて見ていたのだ。そう思った瞬間、どうしようもない憎さがマサキに対して込み上がってくるのをシュウは感じた。
 ――嫉妬しているのだ、自分は。
 時々、シュウは考えてしまうことがある。世界の存亡の危機と、魔装機操者たちの命と、自分の命。どれかひとつを選べと言われたら、マサキはどれを選ぶのだろう。その時には自分を選んで欲しい。愚かな感情の奴隷たるシュウは望む。けれども、その瞬間から、そのマサキは自分が心惹かれたマサキではなくなってしまうのだ。
 それでもいい、と言える程に、シュウは己の自尊心を捨てていない。
「場所変えようぜ、シュウ。どうやらここでしていい話じゃなくなりそうだ」
 シュウが一気にワインを三杯飲み干したところで、マサキは何かがシュウの癇に障っていることに気付いたらしい。そのまま、店を後にさせられると、手近な安宿に引っ張りこまれた。余程、自分はマサキにとって、帰路が怪しく感じられる様態であるようだ。
 シュウはテイクアウトしたワイン食事をテーブルに置くマサキに手を伸ばした。酔いが回ってきた所為もあるのだろう。何もかもが不安で仕方がない。限定された顔しか見せてくれないマサキも、つれない言葉を平気で吐くマサキも。
 自分は見たいマサキの顔を見られる権利を手に入れてしまった代わりに、それと同じくらい大事な顔を見る権利を失ってしまったのではないだろうか? そんな思いが過ぎる。
「さっきの話の続きですよ。聞かせて、マサキ。私はあなたの何?」
 酔っ払いに逆らうのが面倒だとでも感じているのだろうか? 素直にシュウの腕の中に収まっていたマサキは、「それは……」と口篭った。それもシュウの不安を煽るのだとは知らずに。
 実の所、それはシュウにもどう答えて欲しいのかよくわかっていない問いだった。シュウからして答えに詰まる問いをマサキにぶつけるなど、相当に意地が悪いことをしているとは感じる。けれども、だからこそ、自分の思いつかないような答えを、ぽんと与えてもらいたくなる時があるのだ。
 シュウは考えた。知人ではあるだろう。でも友人ではない。肉体関係はあるけれども、では恋人かと聞かれるとそうではない気がする。もっと違う形の関係――……考えて、結局その答えを出せそうになかったシュウは質問を変えた。
「なら、質問を変えましょう。あなたは私をどう思っているの?」
 ああ。まるでこれでは愁嘆場の女みたいだ。未練がましい。やりきれない怒りに任せてすべきことではなかった。シュウは思う。それでも聞かずにいられない。自分はもうずっとマサキだけを求めて続けている。言葉にして求めてしまうほどにマサキだけを。
 次の瞬間、マサキはシュウの腕を解くと、額に、頬に、口唇にと順番に口付けてきながら、言った。「好きだよ、シュウ」滅多に吐かないその手の台詞を、いざという時には、こうして自分の顔を間近に、そしてきちんと目を合わせて言える男がマサキなのだ。「それだけですか、マサキ?」シュウはその続きが聞きたいと思った。もっと、もっと言葉にして自分への思いを語って欲しい。そして自分を安心させて欲しい。
 
 ――……愛してる。
 
 何度も何度も口付けられた。シュウの不安を振り払うかのように何度も。時折、瞼の端やこめかみの辺りを舐めるように舌を這わせては、また口唇へ。顔中をマサキの口唇と舌が這う。そうして、どれだけの時間が経ったのかはわからない。ふと思い付いたといった様子で、マサキはシュウの顔を見下ろしながら言った。
「さっきの話なんだけどな。多分、パートナーなんじゃないかな。人生の」
 シュウはそこで今日初めて、自分からマサキに口付けた。思う存分舌を絡めながら、そのまま、自分の身体の下にマサキの身体を引き入れる。今夜は長い夜になりそうだ。シュウはそう思いながら、マサキの服に手を掛けた。
 
 
.
PR

コメント