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あおいほし

日々の雑文や、書きかけなどpixivに置けないものを。

My heart is always with you.(前)
キスの日最後のお題です。「4時間以内にRTされなくてもマサキが苦しげに腿に支配のキスをされるところを描き(書き)ます」の前編。2000字ほどと少ないですが、先に書きました事情の通り、わたくし現在長くキーを打ちますと左手に痛みが生じますもので、どうかご容赦ください。

こういう話って、基本白河がぐるぐる回ってる話になるんですけど、今回もそんな感じになりそうです。ふふ……回ってる彼を書くのは愉しいですねえ……。笑

自分のことでいっぱいいっぱいで云うのを忘れておりました!
ぱちぱち有難うございます!励みになります!では、本文へどうぞ!
<My heart is always with you.>

 シュウが目を瞠《みは》ったのは、喫茶店の窓際の席から臨める外の光景に、彼が姿を現わした次の瞬間だった。
 通い慣れた城下にある落ち着いた雰囲気の喫茶店。ベージュの壁にダークブラウンの柱がクラッシックな趣を湛えている店内には、シュウと同じ嗜好を持つ客がまばらに点在していた。
 余計なBGMが流れることもない。床を叩くように動き回る店員もいない。静かにひとりきりの時間を過ごすのに最適な店には、静寂という表現が良く似合う。
 そんな静けさに満ちた店内のいつも好んで座っている窓際の中央の席で、読んでいた本からふと顔を上げたシュウの目に飛び込んできた往来の光景。日々を穏やかに過ごしている人々が雑多に行き交う道の奥から、人波に沿って、こちらに向けて歩いて来る彼の姿がある。
 マサキ=アンドー。
 どこであろうとシュウの目と意識を惹かずにいられない存在であるところの彼は、窓の奥から自分に注がれている視線には気付いていない様子で、いつもと変わりのない表情を浮かべながら、シュウの目前に迫って来た。
 やたらと大きな荷下げ袋。両手に幾つも下げているということは、買い物の最中なのだろう。それにしても量が多い……シュウは自らの胸に浮かんだ疑問に、瞬時に判断を下していた。
 元来、計画的ではないものの、そこまで物欲を持っている様子もない彼が、衝動的にしたにしては不審に感じられる物量。恐らく、彼自身の買い物ではないのではなかろうか。そもそもが口では跳ね返ってみせるこも多々あれど、他人の我儘に寛容である彼のことだ。恐らくは、彼の身近に居る仲間たちに頼まれたか、買い物そのものに付き合いを頼まれるかしたのだろう……そこまで考えて、そこで初めて彼の周りにいるだろう連れ合いたちを探し始めたシュウは、その視界に捉えた複数の人影に、思いがけず目を瞠《みは》っていた。
 サフィーネにモニカ、テリウスがいる。
 そう云えば先日、王都の行き付けの店での会員限定バーゲンセールがどうだと煩かった。それで……とシュウは納得する。ふたりともシュウに荷物持ちをさせるほど浅はかではなかったものの、バーゲンで買い漁った荷物を自分たちで持つほど殊勝な性格でもなかった。何せ、男を従わせることを歓びとするサフィーネに、自ら荷物を持つことを知らなかったモニカの組み合わせだ。大方、テリウスを引っ張り出して荷物持ちをさせていたところでマサキと鉢合わせでもしたのだろう。それをこれ幸いと荷物持ちの随行者としたに違いない。そう予想は付いたものの、シュウの胸中は穏やかではなかった。
 ――気に食わない。
 自らを蚊帳の外に置かれたことを心外に感じているのではない。ただただ女ふたりが騒ぎ立てるだけの買い物に、荷物持ちとして付き合いを迫られる。そんな面倒事はシュウでなくとも遠慮したいものだ。だからこそ、彼女らも女性に従うことを厭わない気性のテリウスを付き合わせているのだろうに。
 ――そこまではいい。
 その役割を偶然顔を合わせただけのマサキにまで強いていることに、シュウは強い不快感を覚えているのだ。
 赤の他人と呼べるほどに浅い付き合いではないにせよ、仲間と呼ぶには遠い他人。そういった付き合いでしかないマサキを巻き込んで城下を闊歩する彼女らは、その安直さがどういった結果を招くかまで考えを及ばすことはないのだろう。それはマサキの立場を危うくする切欠となるやも知れないのに。
 そもそもマサキもマサキだ。頼まれれば断り切れない自らの性質を、少しは改めようとは思わないものか。
 自らの仲間たちが相手であるのであれば、そこは信頼度の差もある。シュウは不快感を感じることもなかっただろう。けれどもサフィーネたちは異なる。敵でもなければ味方でもない。友人でもなければ知人でさえもない。敢えて形容するのであれば、共犯者。簡単には交わらない道を往く自分たちと、決してその道が交わることがないからといって、おおっぴらに行動を共にしてしまうマサキの気安さは、危うさしか感じられないからこそシュウの神経を逆撫でしてくれたものだ。
 ――それに……
 シュウはその先に考えを及ばせようとして、自らの愚かさに小さく溜息を吐いた。
 どう取り繕ってみせたところで、シュウがその光景を面白くなく感じていることに変わりはない。そこに自分の姿があればまた違った感情を持ったのだろうか……シュウは自ら抱いたその疑問を即座に打ち消していた。それは自らが心に抱いている感情を認めたに他ならず。
 そっと本を閉じる。
 カップに残されていた紅茶を飲み干して慌ただしく席を立ったシュウは、会計を済ませて店の外に出ると、少し離れた道の上で背中を見せるだけとなったマサキたちの後姿に目を遣りながら、ポケットの中に忍ばせていた自らの使い魔を取り出した。そして彼に何言か囁きかけると、その小さな身体を宙へと放った――……。


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