いやあ、偶にリューネを書くと可愛くて仕方がないですねー。
お約束の展開てんこ盛りですが、それもまた楽し!
色々と伏線を張りまくってますが、半分位は無意味になると思います。
お約束の展開てんこ盛りですが、それもまた楽し!
色々と伏線を張りまくってますが、半分位は無意味になると思います。
<愛を囁く日に聖者に甘い贈り物を>
※ ※ ※
「無難だな。所詮は与太話だ」
「その与太話を信じて武器庫跡をボーリングするのと、予言を実現させることに何の違いがあるのかしら」
「ないだろ。何かが出るかも知れないし、出ないかも知れない」
「投資する価値はあるかも知れないわね」
マサキが考えている以上に、セニアはマサキの思い付きが気に入ったようだ。
「精霊信仰のラングランの王都の地下にヴォルクルスの遺物があるなんて、ロマン溢れるおとぎ話じゃない」
真面目にそう言ってのけると、話に一区切り付けたいと思ったのか、それともようやく客人たるマサキに何のもてなしもしていないことに気付いたのか。セニアはデスクの上の呼び出しボタンを押して秘書官を呼び付けると、コーヒーをふたつ頼む。
そして、ついでとばかりにマサキを自分の方に呼び寄せると、デスクの上に置かれていた書類を渡した。
「あなたも一睡もしてないんでしょう? あたしもよ。自分たちが人員配置をしたくせに、|あの人たち《軍部》と来た日には。経歴調査は情報局の管轄だってうるさいったら。ちゃんとこの通りやってるのにね」
椅子に戻り、程なくして運ばれてきたコーヒーに、マサキは間を置かずに口をつけた。香り高いコーヒーは、配給の泥水のようなコーヒーとは匂いも舌触りも味も違う。それは、疲れ果てた身体に心地よい刺激を運んでくれる。体の内側からじんわりと立ち上ってくる温かみ。それを感じながら、マサキは渡された書類に目を落とした。
「難癖つけたい年頃なんだろ。奴らも長い反抗期だ」
「そろそろ自立してくれないと、|お母さん《情報局》としては困ってしまうのよ」
Ⅰ-Ⅰ
北より白き葉が、南に降りてくる
Ⅰ-Ⅱ
中点に炎舞い、【巫女】は歌い踊る
Ⅰ-Ⅲ
東に黒き果実が、その実を口にした者に祝福を与えしとき
Ⅰ-Ⅳ
西の双【子】は【奇跡】を起こす
虫食いばかりだった預言書の写しには、飛躍的論理演算機《デュカキス》の演算結果と思われる単語で穴埋めされていた。成程、こうすれば意味が通る……それはマサキが予想した通りのものもあれば、意外なものもあった。
「ファーガートン炎舞劇団にしたって、もう少し突っ込んだ聴取をさせてくれだのなんだの。上がってきている報告書の通りだったら、彼らに聞けることなんて武器庫が爆発した瞬間の目撃情報だけよ。迂闊なことをしたら外交問題になっちゃう。
そもそも、彼らがラングランに入国してから今日まで警護をしていたのあなたたち軍部じゃないのよ。それを……」
自分たちの失態は棚に上げて、あれこれ要求ばかりの軍部に鬱憤が溜まっているらしい。終わりの見えないセニアの愚痴を左から右へと聞き流しながら、マサキは中程まで預言書を読み進めてみる。
けれども、文章の意味は通るようになったものの、では、それで何が起こるのか。その予想までは立てられそうになかった。そう、ヴォルクルス信教に対する予備知識が僅かしかないマサキでは、彼らの解釈次第でどういった結果にも転ぶだろうテロ計画で起こり得る事態の予測など出来ないのだ。
年越しにシュウとミオと三人で預言書を読んだ時もそうだった。シュウはマサキたちに意見を求めているというよりも、自分の考えを話すことで整理しているようだった。それをふたりとも黙って聞いてはいなかったが、思い返せば、マサキもミオも見当違いの感想ばかりを口にしていたような気がする。
こういった話は専門家に任せた方がいいに決まっている。そう考えてマサキはそれ以上預言書を読み進めるのを止め、面を上げた。
「で、この預言書のコピーがどうしたって? お前から聞かされた話からして、このコピーはデュカキスの演算結果か」
「そう。あなたにも渡しておこうと思ってね」
「それで? 渡しただけで『はいオシマイ』って訳じゃないんだろ」
「それ自体は参考資料として渡しておこうと思っただけよ。でも勘はいいのね。次の任務の依頼よ」
「だろうな」
そしてマサキはラングラン東部へ赴くこととなったのだ。
後手後手に回っている今の状況をセニアが面白く感じていない筈がない。次こそは先手を打ちたいというのが彼女の希望だった。
幸い次の予言には虫食いがなく、穴埋めの単語の間違いを気にせずに済む。
黒き果実によって与えられる祝福が何であるのか……こういった話は、存外、地元民の方が詳しく知っていたりするものだ。民間伝承が転じて予言となったもの然り、その逆も然り。だからこそ、セニアは他のいくつかの東を示す予言とともに、そういった内容の伝承が地元民の間に伝わっていないかを調査して欲しいとマサキに頼んだのだ。
「こういうのこそ、練金学士の出番じゃないかね」
「ただの現地調査《フィールドワーク》だったらそれでもいいけれど、藪をつついたら蛇が出るものよ、マサキ。だからあなたたちに頼むんじゃないの。彼らは国の発展に寄与する優秀な頭脳を持つ非戦闘員。あなたたちは身体を張って世界存続に関わる危機に立ち向かう戦士。忘れないでね。まあ、ヴォルクルスが間近に出現したら、研究大好きなあの人たちは飛び上がらんばかりに喜ぶんでしょうけど」
調査の随行者《パートナー》をひとり選んでもいいと言われたマサキは誰にするか悩んだものの、結局、サポート役として優秀なテュッティを連れてゆくことにした。ゼオルートの館に残してゆくプレシアのことが気がかりではあったが、王都の警備を手薄にするわけにも行かない。火力の強い|炎の魔装機神《グランヴェール》を駆るヤンロンや、敵の足止めに効果的な範囲攻撃を持っている|地の魔装機神《ザムジード》を駆るミオは残しておきたかったし、何よりプレシアだって優秀な魔装機操者のひとりなのだ。
「おかえりなさい、マサキ。東部の調査はどうだったの?」
「訛りがキツくてな――って、なんでお前がここにいるんだよ、ミオ」
部屋に荷物を置いてマサキがリビングに取って返してきてみれば、テーブルにはミオがひとり。テュッティはまだ荷解きがおわっていないのか、それともプレシアと一緒にキッチンにいるのか。どちらにせよ、テーブルの上にお土産の箱が開封されずになっている辺り、お茶の準備にはまだ時間がかかりそうだ。
「王都の厳戒態勢が解除されて暇だから、ちょっとね」
それだったらミルクたっぷりの紅茶が飲みたいと要望を伝えにマサがキッチンを覗けば、カウンターテーブルの上には散乱したボールにへら、バターにミルク。見た目はお菓子作りのようだが、ボールの中には何とも形容しがたい黒い物体が塊になっている。
奥のガスコンロの前に、輝かんばかりの金髪を無造作に纏めてリューネが立っている。こちらに背中を向けているということは、鍋でも火にかけているのだろう。何故か棒立ちになっているリューネを避けながら、キッチンの中を立ち回ってお茶の準備を進めていたプレシアが、マサキを見て困ったように目を瞬かせた。
「その、黒いガサガサした物体はなんだ? まさかチョコレートとか言わねえよな?」
微かに漂ってくる甘い匂い。ところどころ焦げ臭い。「見ちゃダメ」と、プレシアが口だけ動かしてマサキに語りかけてくるも、見てしまったものは今更どうにもならない。地上の暦では二月も半ば。バレンタインが近いとあっては、不器用さでマサキに勝るリューネもおとなしくは過ごしていられなかったようだ。
「何度教えてもチョコを溶かすのに失敗するのよ。どういうこと?」マサキの隣に立ってミオが言う。「もうあたし、ダメになったチョコを食べられる形にリカバリーするのに疲れちゃって」
「お前ら、去年も一昨年もリューネに同じ失敗をさせてねえか?」
「湯煎でチョコを溶かさせるとチョコにお湯が混じって失敗するから、今年は弱火の鍋でって思ったんだけど、そうしたらこの有様」
「意地を張らずにチョコを溶かすのだけ、お前らに任せればいいのになあ。他のことは雑にせよ出来るんだから。どうせまた最初から全部ひとりでやりたいって言って聞かなかったんだろ」
そんなふたりの会話は聞こえていないらしく、リューネは棒立ちのまま。暫くして、ようやく木べらを持った手をコンロの方に向けた。背中に隠れて見えないが、恐らく、鍋にかけたチョコレートをかき混ぜようとしているのだろう。
「あいつが失敗するのは力加減じゃないかね。外させろよあのリストウェイト」
「外したら腕が軽くなるからか、高速でかき混ぜるのよ。それで去年は壁をチョコレートまみれにしたじゃない。ほら、リューネ。マサキもこう言ってるし、もうちょっと静かにかき混ぜようよ。そんなに早くかき混ぜなくてもチョコレートは逃げないから。あと火はもう止めて!」
「ああ、忘れてた……っていうかマサキがいるのっ!?」
コンロの火を止めるより先にリューネが振り返る。そしてマサキの存在が現実であることを認めたようだ。大きく目を見開く。けれどもそれは、再会を喜ぶためのものではなく。
「マサキにあげるチョコレートなんだから、マサキに見られたらサプライズにならないじゃん!」
「お前、俺の家のキッチンでチョコレート作りをやって、どうやったら俺に見つからずに作りきれると思ったんだよ……。
あのな、リューネ。こういうのは形じゃなく気持ちなんだよ。無理して手作りにこだわらなくたって、既製品でも気持ちがこもってりゃ男は有難いって思うもんなんだ。だから力を借りるべきところは借りるか、思い切って既製品のチョコレートを買うかしろ。じゃないとここのキッチンが爆発しそうだ」
強烈に漂ってくる焦げ付いたチョコレートの匂いに気付いたマサキが言えば、「あーっ!? マサキが余計なことを言うから!」慌ててリューネがコンロの火を止めるも、時既に遅し。かつてチョコレートだった物体は、鍋の中で見るも無残な有様になっていた。
「だから溶かすのだけ任せろって俺が今言っただろ」
「マサキだって料理の腕はどっこいどっこいのくせに!」
「切って焼くぐらいしかできないのは一緒だが、湯煎でチョコを溶かすぐらい俺にだってできるんだよ。テュッティやプレシアのお菓子作りに付き合わされてるしな。これでも測って混ぜるだけのスコーンぐらいだったら作れるんだぜ?」
「本当かしら? マサキ適当ぶっこいてない?」不貞腐れた顔でリューネが言う。
「嘘吐いてどうすんだよ、こんなこと。何だったら今ここでやって見せてもいいぞ」
「あー、もう。ふたりとも張り合うのはそこまで!」
不穏な空気が漂い始めたことに我慢しきれななったミオが声を上げた。
好きだ好きだと煩い割には、リューネの愛情表現は子供並み。好きな相手に突っかかるところから一向に成長をみせない。いつだったか、シュウがリューネを評してこう言ったことがあった。「偏った教育と愛情を受けて育った彼女は、私たちが思っている以上に子供なのですよ」と。
それはある面で当たっているのだとマサキは思う。
「リューネ、マサキもさっき言ったでしょ。こういうのは気持ちだって。目的と手段を履き違えないの。ね? だから何かアイテムと一緒に買ってきたチョコをあげたら? マサキ最近、アクセに興味があるんだって」
フォローしているつもりらしい。マサキの小指に嵌められた指輪に目配りをして、ミオが言う。すっかり嵌めるのが日常になった指輪だったが、突然に触れられればマサキも動揺する。「馬鹿、お前……」けれども、リューネはそんなマサキの焦りには気付かなかったようだ。
「へえ。そういや指輪してるね? 自分で買ったの?」
「あ、ああ、まあな。本当はもうちょっとごついのが良かったんだが、気に入るデザインがなくて……」
しどろもどろになりながらもそう言うと、リューネは信じたようだった。ごついアクセ、と何度か口の中で繰り返して、それがどういったものか想像したのだろう。うんうん、と一人納得した様子で頷いた。
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