天気が悪いと具合があんまり良くなくなるんですよねえ。
メンタルに問題を抱えている人間というのは、どうも気候に体調が左右されやすくなっているようで、私が通う施設の通所者さんたちも皆、気候で体調をやられることが多いのです。
そんなこんなで続きです。このシリーズ、のんびり一年かけてイベント日ごとに続きを打つつもりなので、まだまだヴォルちゃん絡みの陰謀は続きます。
メンタルに問題を抱えている人間というのは、どうも気候に体調が左右されやすくなっているようで、私が通う施設の通所者さんたちも皆、気候で体調をやられることが多いのです。
そんなこんなで続きです。このシリーズ、のんびり一年かけてイベント日ごとに続きを打つつもりなので、まだまだヴォルちゃん絡みの陰謀は続きます。
新しき年に幸いなる祝福を(3)
地下室から出たマサキはシュウを監視しつつ、先にミオを建物の外に出し、人目のつかないところから再び建物内部に回り込ませると、その身柄を引き渡し、自らも正面から一度外に出て、ふたりに合流することにした。
「そこまで手間をかけなくとも、私は逃げませんよ」
そうはシュウは言ってくれたものだが、ことヴォルクルス絡みの話ともなると、途端に信用がなくなるのがこの男なのだ。自らの手で決着をつけたいと考えているらしいだけに、どこでどういった形で余計な意地を張って話をややこしくしてくれるかわからない。それでも、軍の兵士の目に付かないように処理してやろうとしたのは、せめてものマサキの情けだった。
「どうだか。てめぇはアレが絡むとおかしくなりやがる」
「ただ自分の手で始末を付けたいだけですよ」
それから兵士の目を盗んで建物の敷地内から出たマサキは、三人が乗り込むには少々狭こましいサイバスターの操縦席《コクピット》内に、ミオともどもシュウを連れ込む。
「あたしはザムジードで良くない? 通信機能あるんだし」
「傍受されると面倒だからな」
「そこまで警戒しなきゃいけない話かなあ。どうせヴォルクルス信仰って言ったって、最終的にあのワカメが蘇ってくるだけじゃないの?」
「そうならなかったときの話をするんだろ。っていうか、その辺はこいつの持っている情報次第なんだよ」
と、マサキがシュウを顎でしゃくって見せれば、
「私の持っている情報など、さしたるものでもありませんがね」
相変わらず涼しい表情で、まるで今しがた捕えられたばかりの敵方の人間だとは思えない台詞を吐く。
「それだったらあんな場所で鉢合わせするような真似をするかよ」
「確定ではないのですよ。その調査をしようと思って足を運んだのですが」
「何を調べていやがったんだか」
「室内に付着しているだろう細菌を」
どうせ簡単には口を割るまいと思って身構えていたマサキの予想をさらりと裏切って、シュウはそう答えるとカバンの口を開き、中に並ぶ密封容器に詰め込まれた布切れの数々を、取り出してはひとつひとつマサキとミオに見せる。その布切れに、橙色や緑色のカビに混じって、目を凝らさなければわからない白い粒子のような細かい粒が付着しているのを見て取ったマサキは、
「まさか白鱗病の細菌とか言わねぇだろうな」当てずっぽうに言葉を吐く。
「そのまさかですよ」シュウはカバンの口を閉じながら、「とはいえ、持ち帰って検査してみないことには私の予想が当たっているかはわかりません。ただのカビの可能性もある。あなた方はセニアから情報を仕入れて来たのでしょう? それだったら軍部が押収した物品リストを見られたと思うのですが」
「見るには見たが、細かいところまでは覚えてねぇぜ」
「肥料が大量に押収されていませんでしたか?」
「ああ、あったな。テロリストどもは農家に擬態していたとかで、近くの農場で作物を育てながら、あの拠点で生活していたらしい。ただ、その作物も、大半、白鱗病にやられちまったみたいだがな」
「それこそが彼らの本当の実験の結果だったと言ったら、どうします?」
「なんだって」マサキは息を呑む。予言が叶ったかと思わせておいてのまさかの自作自演説に、思いつく可能性はひとつだけ。ミオもシュウが言わんとしていることに気付いたようだ。眉を潜めて、「バイオテロ……」と呟いた。
「単純に、白鱗病が流行っているこの地域だからこそ、検出された可能性も捨てきれない以上、もしこの布の付着物から白鱗病の細菌が検出されたからといって、そう断じるのは早計なのですがね。
それに、もし、これがバイオテロだったとしても、もしかしたら、彼らというテロリストとヴォルクルス信仰に関わるルートが、たまたまかち合ってしまっただけかも知れない。しかも、必ずしもヴォルクルス信仰が絡んでいるとも限らない。彼らの上層部の人間が、件の預言書の存在を知って、ただ濡れ衣を着せたいがために利用しただけの可能性もあれば、そこにテロのヒントを求めただけの可能性もある。何にせよ、肥料の中身や流れも調べてみた方がいいでしょう」
「肥料に細菌を混ぜたって?」
「検査を通って流通している一般的な肥料に、この手の細菌が混入するとは考え難いでしょう。だからこそ、敢えて混入させたと私は考えます。それを他の農家の肥料に混入させたのか、直接撒きに行ったのか、それとも安く流したのか私にはわかりかねますが、この手のバイオテロを仕掛けるとしたら、肥料を使うのが一番手っ取り早いのは間違いありませんからね」
「シロ、クロ! 軍部に連絡を!」
それが現実のものとなったら大変な騒ぎになるに違いない。何せ白鱗病による作物汚染は、予言によれば、ここから南下を始める筈なのだ。ただの流行り病なら回復が見込めるが、バイオテロとなれば話は異なる。被害は拡大の一途を辿るだろう。
それだけの大事を、まるで他人事のように語ってみせたシュウに、ミオは不信感を抱かずにいられなかったようだ。マサキの命令に、あいニャ! と慣れた様子で軍部に通信を入れるシロとクロが、その回線が繋がるのをマサキとともに待っている間、「随分、簡単に情報を吐いてくれた気がするんだけど……」と、疑わし気な眼差しをシュウに向ける。
「無用な混乱は私とて好まないのですよ。憶測が憶測を呼ぶぐらいなら、裏付けを取れる部分は裏付けを取ってしまって、確実な情報にしてしまった方がいい。このぐらいなら軍部に調査を任せてしまった方が早いですしね。それに、共闘できる部分は共闘してしまった方が、お互いに余計な労力を使わずに済むでしょう」
「それはそうなんだけどね。予言を自作自演する意味って何なのかなあって」
「信仰とは、ときに非科学的な思考を生み出すものです。あなたには理解出来ないかもしれませんが、予言に書かれた事象を作り出してしまうこと、それもまた予言の実現なのですよ」
「その実現の果てに、ヴォルクルスの復活があるの? あたし、ちょっと意味がわからないんだけど」
「実現を続ければ、自ずとヴォルクルスが復活する。そう考えるような輩が存在している、と言った方が正しいでしょう。まあ、色々と調べなければ確定的な情報になる話でもなし、そこまで今は難しく考えなくてもいいですよ。どの道、次の予言への対策は、白鱗病が南下を始めてからでも遅くないのですから」
おい、ちょっとシュウ――そこでマサキはシュウを呼んだ。ようやく軍部に繋がった通信に、肥料の調査をするように求めたものの、その返事が色好いものではなかったからだ。
今以て、魔装機操者たちに余計な力を持たせたくないと考える軍関係者は多い。彼らからすれば、この件に関しての“万全を期した”調査は既に終わっているのだ。今更、ああだこうだと、外様である魔装機操者たちに口を挟まれたくないのだろう。
バイオテロの可能性があることを、どう説明すべきかマサキがシュウに尋ねると、彼は「その体質が軍の腐敗を招いたのですがね」と、皮肉たっぷりに言い放ち、「少量でいいので、いくつかの肥料の袋からサンプルを手に入れられませんか? それさえ出来れば、私の方で調べますよ」と、言った。
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