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あおいほし

日々の雑文や、書きかけなどpixivに置けないものを。

新しき年に幸いなる祝福を(4)
三が日で終わらない気がひしひしと……
このノリでヴォルクルス信徒の陰謀を書くのは難しいですねえ。
新しき年に幸いなる祝福を(4)
 
 軍部との押し問答の末、サンプルを入手できなかったマサキが頼ったのが、セニアになったのは当然の成り行きだった。まだ振袖を着ることを諦めていないミオをザムジードに移し、シュウをサイバスターに同乗させたまま、王都に辿り着いたのは昼下がり。格納庫にサイバスターを収め、情報局でいつも通りの職務をこなしていたセニアは、マサキの愚痴を聞くと、「軍部も暇じゃないのよ。不確定な情報に人員や資金を割く余裕はないの」とマサキを窘めつつも、サンプルが入手出来るよう、軍部に口を利いてくれることを約束してくれた。
「ところでシュウはどうしているの?」
「サイバスターで待たせてるぜ。ここまで足を踏み込むほどあいつだって厚かましくはないだろ」
「それだったら、件の預言書を写しでいいから、サンプルを渡すときまでに用意しておいてくれるように言ってくれない? 情報局で出来る範囲で打てる手は打っておきたいのよ」
「そんなに入手が難しい本なのか?」
「こちらでも手を尽くしてはいるんだけれど、ヴォルクルス復活の書となると結構な稀覯本らしくてね。しかも、ほら、ラングランは精霊信仰の土地柄でしょ。元々、破壊神信仰関連の書物の流通がないようなものなのよ……そうね、軍部の態度次第ではあるけれども、一両日中には用意させてみせるから」
 と、かんからと笑って豪語したセニアにマサキは礼を述べ、その返事を持ってザムジードが監視を続けているサイバスターの元に戻った。
「お疲れ様です、マサキ様。先日はテロリストの移送に伴う護衛任務、お疲れ様でした。無事に彼らの移送も済み、裁判が無事に開廷できる予定です。また何かありましたら……」
「お久しぶりです、マサキ様。セニア様との会談は無事に済まれましたでしょうか……」
「ああ、これはマサキ様。頼まれていたファング様の消息ですが、新しい情報が……」
 途中で顔見知りの局員たちに声をかけられる。全てを適当にやり過ごすのは難しい。挨拶を交わしたりしていたからだろう。格納庫に戻る頃には昼下がりも大分過ぎている。「遅いよ、もう!」ミオはつまらなさそうな表情で、ザムジードの肩に座ってマサキの帰りを、待ちくたびれた様子で待っていた。
「見張り、ご苦労。ほら、さっさと中に戻れ」
「あー、もう絶対に後でマサキに地上で何か奢らせる」
 愚痴りながらザムジードの操縦席に戻るミオに、やれやれと肩をそびやかして、マサキもまたサイバスターの操縦席へと戻れば、
「おい、シュウ」
 よもやマサキの二匹の|使い魔《ファミリア》と仲良くしているとは思わなかったが、大人しくとは待たない使い魔二匹が、通信機を使ってミオの使い魔三匹とやいのやいのと騒ぎ立てている中で、呑気にもシュウは手元の書物をつまびらくのに余念がないのだから恐れ入る。「おい」重ねて声をかけても返答がないのだから相当だ。どうやらマサキが戻って来たのにも気付かない程に、シュウは本に熱中しているらしい。
 仕方なく、マサキはそのその肩を叩く。それでも尚、巌のように動かないシュウの耳元近くで、
「余裕綽々じゃねえか」言えば、ようやくシュウは面を上げて、
「ああ、いかがでしたか? セニアの方は」
「一両日中にはサンプルを用意させるって。で、例の預言書を、写しでいいから欲しいって話だったんだが」
「原本から書写で写しを取るのは一両日中では無理ですね。時間を頂ければ用意出来ますがが、今直ぐにというのは難しい」
 そこに通信を通じて、「あのさ」とミオの声。美容院の時間が押し迫っているからだろう。不満が服を着て歩いているような表情が、通信画面に映し出される。
「この際なんだし、地上《うえ》でコピー機使っちゃえば?」
「お前、未だ地上に行くの諦めてなかったのかよ」
「いいじゃないのよ。一応、差し迫った事態なんだし。そのついでにちょっと息抜きするぐらい大目に見て貰えるって。そうすれば堂々と地上に出る口実もできるしね。あたしとしては地上でコピーを取る、これに一票」それに、と言葉を継ぐと、彼女はにっこり笑いながら、「シュウだって確証があって言ってる話じゃないんでしょ。だったらあたしたちに付き合う時間ぐらいあるんじゃない?」
「お前、こいつを初詣に連れて行くつもりなのかよ!」
「いいじゃないのよー。シュウだって一応、日本人の端くれでしょ? 初詣に胸が騒がない日本人なんてそうそういないって。それに、あの人たちと違って、シュウだったらマナー的におかしなことはしないと思うし。どの道、サンプルの検査結果が出るまでは一緒にいた方がいいでしょ? 監視だってしなきゃいけないんだから。それだったら軍部からサンプルが届くまで、のんびり新年の地上観光と行こうよ」
「無茶言うな、お前。大体こいつが初詣なんてガラかよ」
 そう言って、マサキが手前で厚かましくも操縦席を占拠しているシュウを見れば、案の定。シュウは余程興味を掻き立てられる内容なのだろう。どうかすると手元の書物に視線を落としがちになりながら、
「お二人のデートを邪魔するつもりはありませんよ。私とてここまで協力を申し出た以上、おかしな真似はしないと約束します。どうぞ気兼ねなく地上観光に赴かれてください」
「ほらな」
「いいから行こうってば!」ついにしびれを切らしたミオが絶叫した。「もう時間がないの! 魔装機置ける場所にザムジード転送して、そこから美容院だよ! なんだったらあたしが美容院に行ってる間にコピー済ませればいいでしょ。それにマサキは信用してるみたいだけど、あたしは未だ疑ってるからね、あなたのこと。その辺あたしが納得行くように、もっとちゃんとわかりやすく話を聞かせて貰うんだから!」
 
 
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