新年明けましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いします。
除夜の鐘は全国的に自粛なんですかね。
全く聞けないまま年が明けてしまいました。寂しいものです。
今年もよろしくお願いします。
除夜の鐘は全国的に自粛なんですかね。
全く聞けないまま年が明けてしまいました。寂しいものです。
新しき年に幸いなる祝福を(5)
言うなりザムジードの転送システムを起動させたものだから堪らない。「馬鹿、お前! 場所を弁えろ!」まるでテレビのノイズの裏側にいるかのように歪み、霞み始める機体が、そのノイズの向こう側で様々に色や形を変える。
「行くったら行くの!」
「行くならせめて転送先の座標を寄越せ!」
マサキはシュウを押し退けてコントロールルームに収まると、素早く機体を動かし、その手でザムジードの腕を掴んだ。ミオの転送に巻き込まれるように、サイバスターの腕先が歪み始める。それは徐々に顔から肩口へ、そして胸元へと広がりを見せると、直ぐに全身を飲み込んだ。
紛失を避けるために預言書を持ち歩いていたらしいシュウと共に、着飾った女たちが集う華やかな場でミオの着付けが終わるのを待つのが嫌だったマサキは、ミオに美容院の場所だけ教えて貰い、先ずは近くのコンビニに預言書のコピーを取りに向かうことにした。
「魔装機神二体をひとりで転送させるパワーが出せるくせに、あいつはどうして戦闘でその実力を発揮できないかね」
滅多に出ない地上の割には、手馴れた様子で預言書のコピーを取るシュウに、マサキが話しかければ、
「我欲が強いのでしょうね」と、にべもない。
これだけの短期間に二度も地上に出るとは思っていなかったマサキは、時間もある。今度こそ少しは娯楽を楽しみたいと、雑誌を数冊購入すると、それを読みながらシュウがコピーを取り終わるのを待っていた。
政治に、娯楽。社会問題。健康記事に生活の知恵。マサキにはさっぱりよさのわからないグラビアアイドルが、悩殺的なポーズを取っている巻頭カラー頁を捲れば、そんな硬いのか柔らかいのかわからない記事がぞろぞろと続いている。地底だけでなく、地上でも、この手の話題は需要が多いらしい。
「我欲ねえ。まあ、やりたいに勝るパワーは確かにないしなあ」
「そこを上手くコントロールしてこその魔装機操者でもあるでしょう。ただ闇雲に目の前の問題に首を突っ込めばいいという話でもない。力を力で制し続ければ、いつかはどこかで歪《ひずみ》が出ますよ。それがあなたたちを飲み込む時代の潮流とならないよう、願ってはおきますが」
マサキが地底世界に居を構えて随分経った。その時間の流れを思い知らせるように知らない名前が大分増えた記事を読み進める。
「お前、機嫌悪いな」
「悪くはありませんよ。ただ、もう少し、静かに年を越す予定でしたので」
本当かよ、と、マサキは呟いてシュウの横顔を覗き見た。能面のような無表情。コピー取りなどという退屈な作業で笑顔を浮かべろとは言わないが、それにしても人間味に欠ける表情をしている。
そう思いながら、「そんなつまらなさそうな表情をしやがって」
「言ったでしょう。静かに年を越す予定だったと。サンプルの分析をしながら預言書の解読を進める。そのつもりでいたのですよ、私は。例の男の所在調査はサフィーネに、ヴォルクルス教信徒たちの動向調査はモニカとテリウスに任せましたしね。久しぶりにひとりで静かに年を越せると思っていたのですが」
「あー……そりゃ、済まなかった」
「あんなところであなたと鉢合わせしてしまった私も悪い。これでも随分、軍部に工作をしたつもりだったのですが、それが却って裏目に出てしまったようです。余計な警戒心を抱かせてしまった」
「……てめぇ、まさか俺たちが介入出来ないように働きかけたとか言わねぇだろうな」
「そのぐらいには、私とて人脈を持っているのですよ」シュウの口元が歪む。
「油断も隙もねぇ」
「不確定要素が増えすぎると計画を遂行するのが難しくなる。あなたとて、そのぐらいのことがわからない年齢ではないでしょう」
マサキが想像していたよりも分厚い預言書。それを一頁捲ってはコピーを取り、また一頁捲ってはコピーを取る。
美容院への来がけにシュウが話をしてくれたところによると、この預言書は百年ほど前に記された比較的新しいものなのだという。信徒の間にだけ出回った書籍だからだろう。現存している数は極端に少なく、ナンバリングは五十まで。しかもヴォルクルス復活の預言書とだけあって、記された当時は相当に信徒の間で物議を醸したようだ。その結果、梵書にしてしまった信徒も多かったという。そうした事情もあって、下手をすれば十部に満たない量しか出回っていない可能性もあるという噂らしい。
ルオゾールは信じていませんでしたね、とシュウは何かを思い出したように、物憂げに呟き、その真贋の議論が予言内容の研究の進みを遅らせてしまったのですよ、と、付け加えた――……。
「人のことを不確定要素呼ばわりしやがって」
「あなた方に統率の取れた動きを期待するほど、私は自分の知能に自信を持っていない訳ではないのですよ」
「言ってくれやがる」
確かにシュウの言う通りなのだから、マサキに反論のしようはなく。強がって吐いてはみたものの、それ以上の言葉は続かなかった。
そもそも、それぞれに地底に居所を持ちながら、全員の所在が知れない日の方が多いのだから、あにはからん。それに、人間関係の拗れもある。主義主張の違いもある。同じ目標に向かっているからといって、魔装機操者の足並み全てが揃うとは限らない。今日の味方は明日の友でもあるのが、独立独歩の魔装機操者たちだ。
溜め息をひとつ。そしてマサキは再び手元の雑誌に視線を落とす。
「ところで」シュウはコピー機から視線を動かさずに言った。「指輪はどうしましたか」
「下手に付けて回ると煩い連中がいるんだよ。それにあちこち付け回って無くすのも怖いし――」マサキはポケットからリングケースを取り出す。「どうしたものかね」
折角貰ったものを直ぐに曇らせるのも嫌だと、柄にもなく買い求めてしまったケースに指輪を収めてみたはいいものを、マサキはその扱いに困っていた。ゼオルートの館の女性陣たちは、どうかするとマサキの許可なく室内に立ち入ってくる。その目に触れさせたくないばかりに、結局マサキはこうして普段からリングケースごと指輪を持ち歩く羽目に陥っているのだか、いつまでもこういったいつ無くすかわからない扱いを続ける訳にもいかず。
「ファッションリングとでも言っておけばいいものを」
「テュッティが勘付きかけてるんだよ」シュウの提案に首を振る。
「言い張れば真実ですよ」
マサキはリングケースを開く。鋭く光る指輪は、まだ買って貰ってから日が浅いからだろう。クリスマスの日のままに輝いていた。
それをそっと左手の小指に嵌めてみる。ひんやりとした、しかし確かな存在感。今日ぐらいはいいか、とマサキはリングケースを閉じるとポケットに収めた。
「そういやお前、テュッティに聞いたら左手の小指だってよ」
「ああ、プロミスリングですか」
「そう。中途半端な知識で物を買おうとするんじゃねぇよ。願い事が叶わなかったらどうするんだ」
「路傍の石ころも念が込められれば神となる」そろそろコピーも終わるようだ。預言書の少なくなった頁数に、シュウはコピー紙の排出口に山と溜まった紙をコピー機の上で纏めながら、「願掛けとはそういったものでしょう」微笑みながら言った。
.
.
PR
コメント