ここまでのお付き合い有難うございました!
なんとか無事に年内脱稿しました!
今回のBGMはこちら。
そして私はのんびり加筆・修正する旅に出ます笑
もしよろしかったら、完成版の配布をお待ちください。
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夜離れ(了)
「靴屋の息子だった私にはある特徴があった。この切れ長の目に、薄い口唇、筋の通った鼻。似ていると思いませんか? 今となっては身長差もついてしまいましたが、幼かった頃の私は殿下に瓜二つだったのですよ。それはご本人に噂が届くほどに。それを面白く感じられたのでしょう。ある日、まだ幼かった私の元に王宮を抜け出した殿下が訪れてくださった。それからしばしば、王宮を抜け出しては私の元に遊びに来られるようになったのです。
思えばあの頃の殿下はまだ明るくていらした。ご両親の仲もそこまでこじれてはおられなかった。だからなのでしょう。殿下は大層面白おかしく私のことを大公殿下にお話くださったようで、私はそれから数ヶ月もしない内に王宮に呼び出されることとなりました。そして命を受けたのです」
「何を」とマサキが全ての言葉を吐き切るより先に、彼はマサキを真正面から見据えて、
「影武者ですよ」
「ああ……それで、そんな言葉遣いを。確かに、最初は混乱した」
「苦労しましたからね。私は殿下と違って学がない。知識を求められれば襤褸が出る。黙って立っていればいいだけの影武者とはいえ、時には他人と話をする必要も出てくる。だからせめて口ぶりだけでも似せようと頑張ったのですよ。お陰で数分なら他人を誤魔化せるようになった。ご覧の通り、今となっては用のない特技ですが、私としては殿下と私の大事な縁《よすが》でもあるものですから」
「用済みになって、今までの功績を讃えられて地方貴族になったって?」
「身分を与えられた方が先です。そうでなくては平民風情が大公殿下に拝謁できないと」
わかりますか? 彼はそう言葉を継いだ。「わかりますか? 殿下が私を再びこうして自分の代わりとして差し出した意味が。わかりますか? その覚悟が。なかったことにしようとしているのですよ、あの方は。あなたと過ごした日々を。それを覆すのは容易ではない。何より時間が進んでしまった。私にはあなたがそこまで無慈悲になれるとは思えない。父《・》親《・》と《・》な《・》る《・》こ《・》と《・》を《・》選《・》ん《・》だ《・》あの方に、今以上の何かを求められる人とはどうしても思えない」
そうなのだ。マサキはそのどうしようもない現実を突きつけられて、この関係がどうにも覆しようがないものであることに気付かされたのだ。あの男はこれから父親になるのだ。なって、厄災の種を再びこの地に降り注がせる魔となるのだろう。そこだけは決して譲らない。譲る気すらない。そんな男に、これから先も同じ関係を続けられるのか?
自問自答。無理だ――マサキは頭を垂れた。
いずれまた、自分たちは対峙する日が来る。この広大な地底世界ラ・ギアスに、最大国家として君臨するラングランで。
どこまであの男が先の手を読んでいるかマサキにはわからない。わかりようがない。強大な知能と底なしの頭脳を有する動くコンピューターのような男相手に、自分がどこまで自分の意地を貫き通せるのかもマサキはわからない。挫ける日もあるだろう。己の情けなさに歯噛みする日もあるだろう。それでも、その幾度とない絶望から自分は這い上がってきたのだ。だからこそ、答えは決まっている。どちらを選ぶのかと問われたら、マサキはマサキの意地を最後まで貫き通すことを選ぶのだと。
あの男に譲れないものがあるように、マサキにだって譲れないものがあるのだ。
「昔はよかった」ぽつりと男は呟いた。
「二人でよく王宮を抜け出しては城下で遊んだものですよ。私の顔馴染みだった子供たちと一緒に泥だらけになって、首が飛びそうになったこともありました」
もし、その日々に自分がいられたら、何かが変わっていただろうか。何度目の|IF《もしも》を繰り返して、そうであっても何も変わらなかったに違いない。マサキは首を振る。
幸福な日々を奪った絶望が、あの男を変えてしまったのだ。
もしもあの男が変わる日が来るのだとしたら、それは己の目的を達した日だけだ。それをマサキは何度だって阻むだろう。元々の考え方が相容れないものであるのは、出会ってからのこれまでの日々で嫌というほど思い知っている。そうである以上、偶然ではなく必然的に、マサキはあの男と対立し続けることになるに違いない。
目の前の男が視線を窓の外から戻して、ベッドから立ち上がった。空気が動く。それから彼はベッドの上で半身を起こしているマサキの前に膝まづくと、深々と頭を下げた。
「殿下を破壊神の呪縛より救ってくださって有難うございました。私はこれをあなたに伝えたかったのです」
※ ※ ※
ふと気付いたときには一か月が経過していた。
※ ※ ※
ふと気付いたときには一か月が経過していた。
回診の結果は問題なしとのことだった。マサキは直ぐに病院を出ると、|風の魔装機神《サイバスター》を管理してくれているらしい最寄りの軍の駐屯地に立ち寄り、数日ぶりに愛機の操縦席《コクピット》に収まった。
それから物足りなさに懊悩する日々を過ごすこと二か月。気紛れでしかなかった逢瀬が、思った以上に自分を支配していたことを知った。三か月を数える頃には諦めにも似た気分で、時折、餓えた狼のように身体を襲う欲望を、自ら慰めることで鎮めるしかなくなった。
先ずは王都を目指して西へ。
四か月が経過する頃には、欲望よりも悲しみが増すようになり、他人の前で笑っている自分が、滑稽な道化のようにしか思えなくなった。五か月目には物煩いも収まりを見せつつあったものの、心にぽっかりと空いた穴はどうにも埋められなかった。
セニアに会ったら何から話そう。そう考えながらマサキは帰路を急ぐ。
思い出ばかりがいや増してゆく日々に、幾度か耐え兼ねて当てのない放浪をしてみたこともあった。いくら彷徨えど消息の掴めない相手に、それまでだったらあって当然だった偶然の邂逅が、決して偶然ではなかったことを、マサキは思い知った。
帰路の最中。思い知って、そうして。
六か月目。マサキは知ったのだ。過去は消えない。消せはしないものだと。
それから物足りなさに懊悩する日々を過ごすこと二か月。気紛れでしかなかった逢瀬が、思った以上に自分を支配していたことを知った。三か月を数える頃には諦めにも似た気分で、時折、餓えた狼のように身体を襲う欲望を、自ら慰めることで鎮めるしかなくなった。
先ずは王都を目指して西へ。
四か月が経過する頃には、欲望よりも悲しみが増すようになり、他人の前で笑っている自分が、滑稽な道化のようにしか思えなくなった。五か月目には物煩いも収まりを見せつつあったものの、心にぽっかりと空いた穴はどうにも埋められなかった。
セニアに会ったら何から話そう。そう考えながらマサキは帰路を急ぐ。
思い出ばかりがいや増してゆく日々に、幾度か耐え兼ねて当てのない放浪をしてみたこともあった。いくら彷徨えど消息の掴めない相手に、それまでだったらあって当然だった偶然の邂逅が、決して偶然ではなかったことを、マサキは思い知った。
帰路の最中。思い知って、そうして。
六か月目。マサキは知ったのだ。過去は消えない。消せはしないものだと。
そしてようやく泣いた。自分の過去を振り切る為に。
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