私がザッシュを好き過ぎる。
歪んだ愛情もここまでくれば本望です。笑
何だか生まれて初めてBLを書いた気分になりました。今まで書いていたものは何だったんだと思うぐらい、ちゃんとBLしているなあと。同人女としてはあるまじき発言ですが。そんな回です。
ここまでお付き合い有難うございました。そしてぱちぱち有難うございます。(*´∀`*)
歪んだ愛情もここまでくれば本望です。笑
何だか生まれて初めてBLを書いた気分になりました。今まで書いていたものは何だったんだと思うぐらい、ちゃんとBLしているなあと。同人女としてはあるまじき発言ですが。そんな回です。
ここまでお付き合い有難うございました。そしてぱちぱち有難うございます。(*´∀`*)
<ボタンの行方>
情報局でのセニアとの語らいで知見を得たシュウは、己が機体の改修を思い立った。方針を決め、文献に当たり、計画を立て、設計図を引く。力が欲しい。全ての鎖を断ち切れるだけの力を。そう望んだあの日から、シュウはその目的を果たす為に、己が獲得すべき力を逆算して選び抜いてきた。十指に及ぶ博士号の大半はそうした作業を独りで行える為に得たものばかりだ。
モニター画面に向き合って、細かい数値を入力しながら図面を引くこと数日。思い描いた部品《パーツ》の設計図も大分形になってきた。資材の調達も順調に進んでいる。鋳型の発注や切り出しの手配も進めなければならない。
気付ば情報局を訪れてから半月が経過していた。
気紛れに家を訪れる闖入者は、多忙な生活に身を置いているのだろう。作業のスムーズな進み具合に、ふとマサキと顔を合わせない日々の長さに思い至ったシュウが、そろそろ連絡のしどきだろうか……そう考えた夕暮れ。マサキの訪れがなければ、シュウの生活は乱れがちになる。食事のペースは日に一、二度。家の手入れは二、三日に一度。他人に世話をされることに慣れているシュウは、自らの生活を自らの手で整えることに疎い。気付けば今日も朝から食事らしい食事を口にしていない有様だ。
生きる為に必要な最低限の栄養を摂取するのですら、あくなき知への探求の最中にあってはうっとおしい作業のひとつでしかない。それでも生きてゆくには仕方のないことであるのだ。そう思いながら、シュウがキッチンに足を運びかけたその時だった。
「おや、マサキさん。ご主人様でしたら、今日は朝から書斎に篭ってますよ」
就寝時間以外は開け放しにしてある玄関扉を開け閉めする音。次いで、リビングへと進んでゆく足音がする。チカの騒々しい声だけが響いてくるということは、いつものように軽口を叩くこともせずに、マサキは家に上がり込んだのだろうか? シュウは訝しく感じながらも、リビングへと歩を進める。
「あれ? もしかして、酔ってらっしゃいます? こんな早い時間から飲んでいるなんて珍しい。ちょっと待ってて下さいね。ご主人様を呼んで……あら、ご主人様。丁度良い所に。マサキさんが来てますよ」
ソファに気だるそうに横になって、身を投げ出しているマサキの近くに寄ってみれば、その頬が微かに赤く染まっているのが見て取れる。荒い息。この距離でも感じ取れるほどに酒臭い。どうやら快い酒ではなさそうだ。シュウはその頭を浮かせて膝に乗せてやりながら、自身もソファに腰を落ち着けた。
「酷い顔をしている」
苦しげに息を吐くマサキの顔にそっと手を這わせると、その手が力なくシュウの手に重ねられた。シュウの手のひらの温もりを確かめるように頬に手を押し当てて、言葉もないままに暫く。マサキは身動ぎひとつせず、ソファの上にいた。
「何があったのです、マサキ」
そうシュウが訊ねると、今にも泣き出してしまいそうに見えるマサキの表情が、僅かに歪む。
「泣かせちまった」
「誰を?」
「ザッシュを」
純粋で素直なガルガードの操者をシュウは脅威に感じてはいなかったけれども、彼の思いがけない激しさと、それに翻弄されているマサキの態度には思うところがある。魔装機操者という絆で結ばれた仲間である以上、完全に付き合いを断てない相手。情に流され易いマサキにとって、彼の存在は毒にこそなりすれど、薬にはならないだろう。そう感じたからこそ、シュウは彼の前に立ちはだかる決心を付けたというのに。
だから言ったのだ……溜息を洩らしたくなるのを堪えて、シュウはマサキの瞳から零れ落ちた一筋の涙を拭った。
「あんな風に泣くなんて思ってもいなかった」
「だから拒絶しろと言ったでしょう。あなたは情に脆過ぎる」
「応えられないのをわかってるって言うんだ。わかっているのに、ただ、俺に自分の気持ちを許してくれって。そんなのどうやればいいんだよ」
シュウが彼を脅威に感じないのは、その気持ちに共感を覚えてしまう自分もいるからなのだ。ままならい想いに、彼はどうにもならない閉塞感を覚えている。そこから抜け出したくてたまらない。たまらないからこそ、答えを求めてもがいている。それはシュウもかつて抱えていた感情だ。
だからといって手心を加えてやろうとは思わない。何事にも勝ち負けや序列は付いて回る。諦めきれぬのであれば、圧倒的な力で捩じ伏せるまで。大人げない振る舞いをしているとシュウ自身感じてはいるものの、世の中には絶対に譲ってはならない場面というものが存在するのだ。
かといって、今がその局面に立たされている状態なのかと問われると、そこまでではないと答える他ない。現にマサキは、シュウを頼ってわざわざここまで足を運んでいる。けれども……シュウには拭えない思いがある。自分がどれだけ彼をそうやって突き放しにかかったとしても、マサキの在り方が変わらない限り、これからもマサキは彼に対する悩みを抱えることになりはしないか。
「目を開いて世界を見ればいい」
「だからそれをどうやってやればいいか、俺には」
「あなたは彼の気持ちをなかった事にしてしまいたいのでしょう、マサキ。恐らく、それが愚かな行為であると彼は言いたいのですよ。他人の気持ちに自分が蓋をしてやれる筈がないでしょう。見て見ぬ振りをした所で蓋は開いてしまうもの。そこにあなたは蓋をしようとしてしまった。違いますか、マサキ。相手とてひとつの独立した考えを持つ人間です。自分の気持ちを他人に制限されるような真似など許せる筈がない」
「それと拒絶の何が違うっていうんだよ」
「在るがままにですよ、マサキ。彼の気持ちを許すとはそういうこと」
他人の気持ちに鈍感で不器用なマサキに、自分たちは高い望みを抱いてしまっている。シュウは苦笑しながら、酩酊しているマサキの顔を見下ろす。シュウの話をわかったようなわからないような表情で聞いているマサキの顔を。そういったマサキだからこそ惹かれるのだというのにも関わらず、消しきれない望みがシュウの胸の奥には燻り続けている。風の魔装機神の操者に相応しい品位と誇り。自分は、或いは彼は、それをマサキに獲得して欲しいのだ。
風に揺れる柳のように泰然としてそこに在って欲しい。
シュウが彼の前に立ちはだかりながらも、彼自身を憎々しく感じるのではなく、マサキにそれをぶつけてしまいたくなるのは、マサキのそういった側面を魅力的に感じながらも、その側面こそが自分を悩ませる原因であるとわかっているからだ。
そう、そしてそれは、恐らく彼自身も同様に感じていること。
でなければどうして、マサキをここまで狼狽《うろたえ》させるまでに、激しくその感情をぶつけようものか。
いずれ自分たちは破綻を迎えるときが来る。人より先を見通す能力に長けているシュウは、不意に浮かび上がった考えに、けれどもその未来を回避する為の方策を求められる相手がマサキしかいない現実に突き当たって、静かに目を閉じた。閉じて、沈考して、目を開く。
「わからなければ、わかるようになっていく努力をすればいい。あなたがその努力を放棄しない限り、この件に関しては、私はあなたの味方でいましょう。だからもう、彼の事で酒に溺れるような真似は止めなさい」
マサキがわからないままでいようとするのであれば、自分たちがわからせるまで。シュウの覚悟をどこまでマサキが思い至れているのか、酔いに身を任せているその表情からは窺い知れなかったけれども、マサキはシュウの言葉に深く頷いてみせた。
好きな人がいる。そう告げて縁談を断ろうとしたザッシュに、「そうではないかと思っていました」彼女は電話口の向こうで穏やかに言葉を紡いだ。「そんなあなたを気に入ってしまったと言ったら迷惑でしょうか」
「その気持ちに応えられる自信がないんです。だからこそ、僕の為にこれ以上、時間を割かせる訳にはいきません」
「私、これでもゼノサキス家の縁者です。人を選ぶ目に間違いはないと思っています。剣の手合わせはまだですけれども、あなたの人柄には感じるものがあります。待てというのなら待ちます。いえ、待つなと言われても待ちます。その結果、独りで生涯を終えることになったとしても悔いはありません」
そこでくすくすと声を上げて笑った彼女に、申し訳なさを感じながらも、ザッシュは自分の気持ちを翻そうとは思えなかった。
好きな人がいる。ザッシュの告白を聞いた親類縁者は、盛大に呆れ果てた。無理もない。リューネの次はマサキときた。如何に軍部に太い縁《パイプ》を持っているヴァルハレビア家であっても物には限度がある。どれだけの伝手を使っても、風の魔装機神の操者以上に強い女性など見付けられないに違いない。「昔からお前はそうだった。自分より強い相手ばかり好きになる」ザッシュの大叔父は頭を抱えて呻いたものだ。
せめて子供だけでも、と追い縋る親族を、相手の女性に失礼だからといなし続けること数日。「だったらきちんと自分の言葉で断りなさい。それが相手へのせめてもの誠意だ」ザッシュの意志の固さに根負けした親族はそう言って長い溜息を吐いた。
「僕はそこまで想いを懸けて貰えるような相手ではありませんよ。現にあなたを自分の身勝手な感情で振り回してしまった。どうか思い直しては頂けませんか」
「きっと、私とあなたは似た者同士なのでしょう」彼女は再び小さく声を上げて笑った。「安心して下さい。お見合いはこれで終わりにします。その代わり、時々でいいですから、消息を尋ねる手紙を出させて下さい。それだけで充分です」
ザッシュは彼女のその申し出を承諾した。期待を持たせる真似をしてはならない。わかっていても、彼女の境遇に自分を重ねて見てしまう。
彼女と自分と、自分とマサキと。それが例え、頼りない縁《よすが》であっても縋らずにいられない……叶わぬ恋であるのならば、せめて切れずに繋がれる縁が欲しい。その望みを誰よりも理解してやれるザッシュに、どうしてその申し出を断れたものか。
電話を切って暫く。物思いに耽っていたザッシュは、時計を見上げて、そろそろ頃合と軍服の上着に袖を通した。昼前に出なければ、交代の時間に間に合わない。
城下を留守にして親戚の説得に当たった数日間。仲間には勤務を交代して貰ったりと、随分と迷惑を掛けた。それをこれから返していかなければならない。窓から差し込む眩い光の向こう側に広がる景色を見渡しながら、ザッシュは今日の予定《スケジュール》を頭の中で確認する。昼には詰所。夕方には夜間演習が控えている。いつまでも、自分のことだけを思い悩んではいられない。
親族にも打ち明けたのだ。もう後には退けない。
ただ前に進むだけ。
自分の心の弱さに負けてなどなるものか。ザッシュはこれからの未来に思いを馳せながら、自分の部屋を抜けると、扉の向こう側へとその一歩を踏み出した。
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