当然ながら三が日をミオとマサキは邪神組の元で過ごすことになるのですが、それについては次回作でちょこっとだけ。間延びし過ぎてだれてきたので、今回はここまでにしとうございます。
何がしたいってこのシリーズ、ただイベントの日をマサキとシュウと魔装機組のゲストがのんびり過ごすだけ(偶にバトルとアクションアリ)なので……
次回のゲストはヤンロンとテュッティです。ここまでお付き合い下さって有難うございました。ではまた次回!バレンタイン編でお逢いしましょう!
何がしたいってこのシリーズ、ただイベントの日をマサキとシュウと魔装機組のゲストがのんびり過ごすだけ(偶にバトルとアクションアリ)なので……
次回のゲストはヤンロンとテュッティです。ここまでお付き合い下さって有難うございました。ではまた次回!バレンタイン編でお逢いしましょう!
新しき年に幸いなる祝福を(了)
だから、少なくとも、御社殿の賽銭箱の前までは一緒だった筈なのだ。
マサキがその事実に気付いたのは、参拝を済ませ、大鳥居に戻る列の脇。居並ぶ屋台を横目に先をゆくシュウを追い掛けながら歩くこと数分後。ふっと気付くと、ジャケットの裾を引っ張っていたミオの手の重みが消えている。
慌てて周囲を見渡してみるも、人垣に頭が隠れてしまうミオを探し出すのは至難の技だ。「おい、シュウ!」呼べば、少し離れた先をゆく彼は足を止めて、マサキが追い付くのを待っている。「ミオ、そっちにいないか?」急いでその許に駆け寄るも、「ここからは見えませんね」
「あいつ、本当にはぐれやがった」
「話をしていた通り、大鳥居で待ち合わせればいいのでは?」
「振袖だしなあ。時間かかるんじゃねぇか」
「急ぐ用事があるわけでもないのですから、約束通り待って差し上げればいいでしょう」
気を遣う相手もいないとなれば行動も早い。シュウは歩みを早めると、人垣の中、流れるように先を抜けてゆく。マサキは置いて行かれまいと慌ててその上着を掴む。元々の歩幅が異なるのだから、いつまで経っても差が縮まるはずもなく。掴んで追いかけ続けること十数歩。
「あなたには申し訳ないのですが、この上着を私は気に入っているのですよ」
シュウは一旦、その歩みを止めると、上着を掴んでいるマサキの手そうっと外す。「だったらゆっくり歩けよ」当然の愚痴に、シュウの口元に悪戯めいた笑みが浮かんだ。次の瞬間、彼のマサキより一回り大きな手が、マサキの手を包み込む。
冷えた温もりに、絡み取られる指先。行きますよ、と、手を引かれて歩き始める。
「子供じゃねぇんだけどな」
「歩くスピードに手加減が必要なのが子供なのですよ」
絡んだ指が、時折、マサキの指先を弄ぶ。撫でるように、なぞるように。なんとも言えない気恥ずかしさに、マサキは俯きながらもその手を振り払うことができぬまま、
「お前、手、大分冷えてるな」
「あなたも」
ゆったりと前をゆくシュウに、言葉少なに後を着いて歩く。
何故だろう。彼は時々、こうやって人目に付き難い方法で、マサキとスキンシップを取りたがった。今だってそう。ひしめきあう人混み。肩より下は殆ど見えなければ、見られない。だからなのだろう。けれどもそれが終わってしまえばいつも通り。嫌になるほど理性的に、彼はマサキと向き合ってみせた。
それがほんの少しだけ、マサキにとっては悔しく、そしてもどかしく感じられたものだった。なのに、何故? 常々感じている疑問を、シュウにそのままぶつけられるほど、マサキは素直にはなれない。なれないからこそ、彼のこうしたささやかなスキンシップの数々に、その都度、胸が騒ぎ続ける。
絡め合った手が、互いの温もりで、徐々に温かみを増してゆく。
たった数十メートルの大鳥居までの距離が、永遠にも感じられる。
けれども時間は過ぎゆくもの。大鳥居に辿り着けば、彼はあっさりとマサキから手を離し、何事もなかったかのように振舞ってみせるのだ。
「お前はさ、何を願ったんだ」
「わざわざ言うまでもないことですよ。今年一年、静かに、穏やかに、つつがなく日々を過ごせるようにと。面倒事に巻き込まれずにね。あなたは何を願いましたか」
「まあ、お前と似たようなもんだ。平和が一番だしな」
目の前を流れゆく人波。人熱《いきれ》が冬の凍える寒さを和らげる。ふと空を仰げば、澄んだ宇宙《そら》。その果てには、もう初日の出が昇っている国もある。マサキは目を伏せた。
足元には冷えたコンクリートの地面。この底に、天地の裏返った世界がある。戦乱絶えないマサキの第二の故郷、ラ・ギアス。きっと自分はその大地に骨を埋めることとなるのだ。それよりも先に――そうしてマサキは目を開け、隣で静かに佇んでいるシュウを横目で盗み見る。
――それよりも先に、てめぇに引導を渡すなんてことにならなきゃいいんだけどな。
左手の小指に嵌めたままの指輪が、その瞬間、マサキにはやけに重く感じられた。
遅れること十分ほど。「ごめんね、遅くなっちゃった」鳥居に姿を現したミオは、いい加減に疲れ果てているかと思いきや、水飴を片手に掲げて呑気なもの。マサキたちへの土産はないらしい。
そうしてミオとの合流を果たしたマサキは、シュウと三人。連れ立って駅に向かう。改札口では折角だからと、貰った一万円札を交通費に充てがおうとするミオを片手で制して、どんな気まぐれやら、シュウは三人分の切符代を出してみせた。
「珍しいこともあるもんだ」
「そのお金を大事に扱って欲しいのですよ」
混雑にも限度があるホームから、今日という日ばかりは一晩中運行している電車に乗り込み、百万都市を抜けて南へ。亀の歩みで進んでいた電車は県境を超える頃にはスピードを上げ、湾岸に出る頃には通常運行となった。
「やっぱり疲れてるんじゃねえかよ」
「着物というものは、見た目よりも体に負担がかかる衣装なのですよ。洋装に慣れた人間にとっては、しなれない所作をしなければならないのですから。ましてや腰周りを帯で締め付けているのですし」
人気もまばらになった車内で、セットした髪の毛が乱れるのも気にせずミオは一眠り。マサキの肩にもたれて静かな寝息を立てていた。お陰でマサキは、金と時間をかけて整えた見目が崩れるのではないかと気になって仕方がない。
「お前はまた読書か」
「当然ですね。これだけ読書に適した時間と空間もない」
「なんだろうなあ。通勤時間に暇を潰すサラリーマンみたいなことを言いやがる」
「彼らだって仕事を円滑に進めるために通勤時間を有効に使っているのでしょう」
そのまま黙って読書に耽溺するシュウをひとつ隣に、マサキは窓の外を眺め続けた。夜の闇の向こう側で、波を微かに煌めかせている海。水平線の彼方にせり出す小島。あの騒々しい使い魔たちがいれば、海だ山だとさぞ賑やかだったことだろう。
外の景色とシュウやミオを交互に眺めながら、目的地へ。マサキとシュウは起き抜けにしてはテンションの高いミオに引っ張られるようにして、駅近くの24時間営業のファミレスに陣取ると、そのまま数時間。他愛ない雑談混じりに預言書を再び読んで、明け方近くに海岸へと出た。
「ああ、東の空が明るくなってきたな」
「そうだね。もう直ぐ日の出だね。あたし、そろそろ目が痛くなってきちゃった」
「ほぼ徹夜ですからね」
ミオはどうにかして貰った一万円を三人で使いたいらしく、ファミレスでも支払いを自分がすると出しゃばったものだが、「大事に取っておきなさい」とシュウはまたもそれを許さなかった。
「そのお金は、いつかあなたを支えるお金となるでしょう」
考えることは誰しも同じらしく、海岸の人出は結構なものだった。
黒山の人だかりの奥に白んだ空。ゆっくりと顔を覗かせる太陽に歓声が上がった。
――いつか、過去を振り返ったときに、この日を懐かしく思う日が来るのだろう。
ミオを間に挟んで男二人。マサキはそんなことを考えながら、今年の始まりの眩い太陽の光に目を細めた。
<了>
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