時季外れとなってしまったホワイトデイネタともう一本。
シュウマサって白河からアクションがあるのが当たり前ぽくなってるじゃないですか。でもマサキからアクションがある展開があってもいい。てかそんな日もある筈だ。(ないとただの駄目カップルになってまう!)そう思って書きました。らぶ。
シュウマサって白河からアクションがあるのが当たり前ぽくなってるじゃないですか。でもマサキからアクションがある展開があってもいい。てかそんな日もある筈だ。(ないとただの駄目カップルになってまう!)そう思って書きました。らぶ。
<ふとそう想った瞬間に>
ただずっと科学の世界に没頭していた。
とうに整備が済んだ機体が並ぶ|格納庫《バンカー》の一角。積み上げられた木箱を椅子代わりに、そして、コンテナを背凭れ代わりにして、シュウは最近入手したばかりの論文集を読み込んでいた。隣にはマサキ。話し相手がいないからだろう。退屈そうな表情を惜しげもなく晒している。
それでもシュウは論文を読むのを止められなかった。
戦場に出ていると最新科学へのアクセスが途切れる。機体の整備に出る影響も少なくない。科学は鮮度が命だ。科学者たるシュウにとって、情報遮断は切実な問題だった。
そんな中で、ウェンディから届けられた最新の論文集。シュウの目と心が同時に奪われたのは当然の帰結だった。
隣にいるマサキもそれを理解しているのだろう。無闇に話しかけてくることもない。ただ、大人しく頬杖をついて、薄暗い|格納庫《バンカー》内部に視線を彷徨わせている。とはいえ、他に人もいない。さぞや退屈だろうと思うものの、他の場所に行く気も起きないようだ。なんとはなしに腕を上部に伸ばしたりしながら、無為な時間を過ごし続けている。
彼の二匹の使い魔は、主人の足元で丸くなって惰眠を貪っている。
シュウの使いは上着のポケットの中で休息中だ。マサキの話し相手になれるだけの器量があれば出してやらなくもないが、皮肉屋なシュウの気質を大いに受け継いでいるチカは、マサキとの相性があまり良くない。五分と経たずに言い争いを始める一羽とひとり。騒々しいのが苦手なシュウからすれば、文章を読んでいる今は、両者の騒々しいがなり声を聞くのは遠慮したいところだった。
故に、シュウは黙するばかりだった。
いや、声をかけようと思えばかけられもしたが、それで折角咀嚼の進んだ最新科学の世界から引き離されるのが嫌だったのだ。
やれば出来るのが当たり前なシュウは、何かに対して能動的に興味を持つということが極端に少ない人間だ。与えられたものに目新しさを感じてのめり込むのは最初の内だけ。出来るようになってしまうと、途端に興味が失せてしまう。その中で、称号を得るまで続いた趣味――シュウにとって、|総合科学技術者《メタ・ネクシャリスト》の称号は自身の経歴に燦然と輝く勲章であるのだ。
だからシュウは、少しだけマサキに意識を向けては、論文を読み耽るのに専念した。次第にマサキの顔が自分の側に向いてくるのを感じ取りながら……。
そうして、その瞬間は不意に訪れた。
頬に感じた柔らかい温もり。何が起こったのか理解するより先に身体が動いた。咄嗟にマサキを振り向いたシュウは、どことなく幸福そうな表情でいたマサキが、瞬間頬を染めるのを目の当たりにした。
「……どうしたのです、突然」
「……お前が集中してる姿を見てたら、なんとなく、な……」
気まずそうに言葉を吐いたマサキが、照れ隠しか。前髪を掻いた。
どういった感情でシュウの頬にマサキが口付けてきたのか。それだけではシュウには、マサキの内心は理解出来なかったが、彼が好意的な意味でシュウに触れてきたのは間違いなさそうだ。
「口にはしてくれないの?」
耳元に口唇を寄せて囁きかけるも、やだよ。と、一言。
真っ赤に染まったマサキの頬の熱は引きそうにない。それがなんだか愛らしく感じられて堪らなくなったシュウは、「なら、私からしますよ」と、マサキの身体を自分の胸へと抱き寄せた。
<雪のホワイトデイ>
<雪のホワイトデイ>
季節外れの雪が降った。
しんしんと降り積もる雪が窓の外の景色を白く染めている。
昨日のうちに買い物を済ませておいて良かった――と、思いながら、シュウがリビングで寛いでいると耳慣れた動力音が外から響いてきた。直後、玄関ドアが開かれたようだ。空気が動いたかと思うと、冷気が室内に吹き込んでくる。
「雪だってよ、笑えねえ」
「なら、来なければいいでしょうに」
「冗談云うなよ。この日を楽しみにしてるってのに」
バタバタと小煩い足音を立てながら姿を現したマサキが、シュウの目の前に立つなり手を差し出してくる。
シュウはソファの隅に置いておいたラッピングバックを取り上げた。両手で抱えられる程度の大きさ。片手で持つには少々重いプレゼントマサキに手渡しながら、「ハッピーホワイトデイ、マサキ」と、言葉をかける。
「開けていいか?」
「勿論ですよ」
去年は長財布、一昨年はグローブだった。その前の年にはブーツ。
律儀にバレンタインのチョコレートを贈り続けてくるマサキに、シュウはなるべく彼の好みに沿うようにと気を遣ってお返しのプレゼントを選んできた。それらをマサキが身に着けているところをシュウはあまり見たことがなかったが、マサキなりに気に入っていたようだ。頭に雪を残したまま、かじかんだ手でリボンを解いている。
「やっぱりな」
今年のお返しも身に着けるものになると踏んでいたようだ。リボンを解いてラッピングバックの中を覗いたマサキがニヤリと笑う。
「天気に裏切られちまったな」
「春めいた陽気の日にでも着てくだされば」
今年、シュウがマサキに贈ったホワイトデイのお返しは灰色の開襟シャツと黒いデニムパンツだった。
いつも似たような格好ばかりをしているマサキのワードローブが賑やかになればと思ってのことだったが、シャツの袖丈が半袖だったのは、タイミングが悪いとしか云いようがない。選んだ本人ですらそう感じているのだ。マサキが揶揄するような口振りになるのも頷ける。
とはいえ、温暖な気候が常なラングランである。一年を通せば活躍出来る日の方が圧倒的に多い衣装である。そうである以上、いつかはこの衣装を身に着けて家を訪れるマサキが見られるだろう。
シュウはラッピングバックから取り出したシャツを自分の身体に当てて、サイズを確認しているマサキに目を遣った。活動的な格好を好む彼からすれば、オーバーサイズの開襟シャツにワイドパンツは少し窮屈そうな印象を受けたが、それでも貰えるのが嬉しいようだ。自分じゃこういう服選ばねえもんな。と、上機嫌でいる。
「あなたが来るのであれば、レストランにでも行こうかと思っていたのですが」
「この雪の中か?」
「嫌ならケータリングにしますよ」
「いや、行く。いい飯が食いてぇ。ホワイトデイだしな」
シュウはマサキの返事に頷いて、ソファから立ち上がった。
この雪ではいつもの格好という訳にはいかなさそうだ。窓の外を確認したシュウは相応の格好をするべく、クローゼットのある寝室へと足を向けた。
「なあ、これ着てもいいか」
瞬間、背後から響いてきた声に目を瞠る。
振り返ればラッピングバックから取り出した服を両手に抱えて、マサキが満面の笑みでいる。
「雪ですよ」
「お前の上着を借りるさ。何かあるだろ」
「なら、厚手のコートを出しましょう」
やった。と、声を上げたマサキが愛くるしい。シュウは満ち足りた気分で、隣に肩を並べてきたマサキとともに寝室に向かって行った。
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