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あおいほし

日々の雑文や、書きかけなどpixivに置けないものを。

トロフィーワイフ(二):シュウマサ
今回は心情回です。

白河がうだうだ何か云ってるだけなので、Rが目的の方は読まなくても大丈夫です。
次回はエロ回の予定です。甘くなるといいですね!(儚い希望)



<トロフィーワイフ>

 有象無象の実力者集団、ロンドベル。遊撃部隊として独立裁量権を得ている彼らは、拠点となる母艦で寝食をともにしながら、戦火の激しい地域の鎮圧を行っていた。
 西に東、北に南。今日と明日の戦場が千キロ以上離れているのも当たり前。百戦錬磨の傭兵集団も舌を巻く勢いで世界各国で股にかける彼らの働きは、その大半が軍の手柄とされてしまっていたが、そういった高慢な組織理論にも飲み込まれることなく、彼らは彼らの道徳に従って正義を行使し続けていた。
 シュウがその一員となったのはつい先日のことだ。
 彼らのように、『力を合わせて地球の平和を守る』などといった大それた目的をシュウは持てなかった。破壊神サーヴァ=ヴォルクルス。邪悪なる意識の導きのままに非道の限りを尽くした過去の大戦の記憶は、今もシュウの胸に深い爪痕を残している。驕れば足元を掬われる。シュウは正義を標榜することの危うさを、過去の経験から熟知していた。
 だからといって、罪滅ぼしなどといった自己欺瞞的な献身の為に彼らと共闘しているのでもなかった。シュウはただ、今も自らに影響を与えている当時の因縁に始末を付けたかったのだ。それが数多くの人々の命を無為に奪ったシュウの、最低限の責任の果たし方であったし、シュウが望む自由を手に入れる為に通らねばならない道でもあった。
 それだけの話だった。
 マサキやその仲間たちのように純粋な感情で戦えないシュウは、だから戦時であるこの時間をも好機のひとつであると捉えていた。
 マサキ=アンドー。
 跳ねっ返りの強い風の魔装機神操者は、闘志だけは一人前だった。どれだけ絶望的な状況に追い込まれようとも、足掻くことを止めようとしない。泥に塗れようとも立ち上がってみせる。その不屈の精神を軽んじていたかつてのシュウは、結果として歯牙にもかけていなかった彼に絶命させられることとなった。
 感謝はしている。
 長年、シュウの意識を食らい続けたサーヴァ=ヴォルクルス。意識を覆う邪神の妄念は、シュウ=シラカワという人間の自我を完膚なきまでに封じ込めていた。狭い籠の中にいるような閉塞感。シュウは幾度、その拘束から解放されたいと願ったことか。それを叶えた比類なき力。白光を背にグランゾンを貫いたサイバスターの姿は、さながら宗教画に描かれた神のように貴いものとしてシュウの記憶に刻み込まれている。
 だのに、いざマサキを目にすると、シュウは重苦しいまでの忌々しさを感じてしまうのだ。
 彼に救われたという事実と、彼に敗北したという事実。真っ向からぶつかり合うふたつの事実にシュウは苦しめられた。それは精密な機械時計が時刻の遅れをみせた瞬間の焦りのように。胸に湧き上がる不穏な感情。得体の知れない|そ《・》|れ《・》は、いつであろうと理性に勝るシュウの鋼の心を強力に揺さぶってくる。
 自分の中にはマサキに対する暴力的な衝動がある。
 それをシュウが自覚したのは、ラングランの内戦の終結後。誇り高き英雄として、彼がラングラン国民に熱狂的に迎え入れられている姿を目にしたときだった。彼を手に入れたい。唐突に湧いて出た抗い難い欲望に、シュウは自分が制御出来ていると思っていた自らの精神性に綻びがあること知った。
 欲に手をかけるまではそうは時間はかからなかった。
 疑惑の全てを捨てきったのではないにせよ、マサキはそれまでのシュウの行動にやむを得ない事情があったことを認めたようだ。個人的なシュウの呼び出しに応じ、情報交換の名の下に会話を交わす。たったそれだけの関係を、彼は拒否することがなくなった。
 顔を合わせれば掴みかからんばかりの勢いで、シュウに食ってかかってきたかつてのマサキはもういない。年齢よりも大人びた横顔。蘊蓄混じりの言葉も増えた。何より向こう見ずな行動が減ったのだ。彼が幾度もの大戦を経て精神的な成長を遂げたのは間違いない。
 変化を迎えたマサキ。寛容なその態度は、シュウを大いに付け上がらせた。
 日々、たわんでゆく自制心。シュウはこの年齢になって、理性の脆さを思い知った。マサキを手に入れたい。強烈な飢餓感はシュウの理性を容易く食い荒らした。
 だからシュウはマサキを抱いた。抱いたというより、制圧した。

 ※ ※ ※

 だらりと股間に下がった男性器が、射精の残滓を吐き出した。
 顔を伏せているマサキの表情は窺えなかったが、どうやら射精後の虚脱状態にあるようだ。ぴくぴくと腰を揺らしてはいるものの、力の抜けきった手足。はあはあと荒ぶった息の音が、資料室内に響き渡っている。
 だが、シュウの心は満たされなかった。
 マサキと身体を重ねる度に胸を過ぎる寂寥の念。人間関係に於けるひとつのゴールが性行為にあるのだとしたら、シュウはとうにマサキを手に入れていると云えただろう。だが、現実はそうではない。マサキは決して溺れない。彼は精神的にシュウに屈するのを躊躇っている。
 今にしてもそうだ。恥辱に塗れるよりも、自らの自尊心を優先する。
 それはシュウにはない感情だ。
 シュウはマサキを道連れとなるのであれば、地獄の果てまで堕ちていってもいいと思っている。
 治まることのない飢餓感は、シュウの心を荒ませた。そう、シュウはマサキとの関係が白日の下に晒されても構わなかったのだ。どの道、シュウは陽の当たる世界では生きていけない。剥奪された身分は、シュウから帰る場所を奪ってしまっていたし、そうである以上、これからの居場所は一から作り上げていかねばならないものだ。
 限りない自由は限りない不自由と同義である。
 ヴォルクルスから解放されたシュウは、全ての頸木から解き放たれた気になっていた。それが過ちであることは直ぐに知れた。人はひとりでは生きていけない。シュウが今ここにこうして立っていられるのも、仲間の献身的な助けがあったからだ。だからシュウは、誰かの助けなくして自立が不可能な、自らの脆弱な立場にフラストレーションを感じてしまった。
 それをマサキにぶつけているなどとは流石にシュウも云わない。ただ、盤石だった地位に代わる新たな精神的支柱を求めているのかも知れないとは思った。
 マサキ=アンドーという人間は、本質的に無垢だ。世界平和――吹けば飛ぶ霞のような理想の為に、その身を地底世界に捧げられるまでに。それがシュウをときに酷く苛立たせた。自分のことより他人のことなど自己犠牲に過ぎる。何より彼には地上に日本という確かな故国があったのだ。地底世界に構っている暇があるのであれば、地上世界の彼是にかたをつける方が先であるだろうに。
 だが、その青臭さがシュウを救ったのだから、正義感というものも馬鹿には出来ない。
 諦めの悪さは彼の美徳だ。地底から地上へと場所を変えて、彼と戦った日々。思い返すだに胸を熱くするかつてのマサキの執念を、シュウは懐かしく、また惜しくも感じながら今のマサキに目を遣った。
 どうやら虚脱感から回復しつつあるようだ。意思に漲る瞳がシュウを向いている。
 その双眸が、記憶の中の少年マサキに重なる。あれほどまでに自分に囚われている表情を、シュウはこれまでの人生で目にしたことがあっただろうか? シュウにとって人生最大の甘美だったマサキとの戦い。大切なものの重要さを知るのは、いつでもそれが過去のものとなってからだ。
 だからシュウはこう思うのだ。
 マサキを手に入れられるのであれば、他人の侮辱など恥の数にも入らない。
 シュウを救ったのはマサキで、シュウを斃したのもマサキだ。そう、彼は少なからずシュウの人生に影響を与えた。汚名と栄光。シュウが人権を取り戻すのには、気の遠くなる歳月が必要だ。その責任を、マサキは負わねばならない。




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