ただ初詣をして初日の出を見に行くだけの話が、まさかこんなに長くなろうとは……
三が日では終わらないことが確定したので、延長戦です。
俺、七日までには終わらせるんだ。(フラグ)
最近、あれもこれも書きたくて困ってるんですよね。
書きたいネタが次から次へと思い浮かぶものだから、筆が追いつきません。
三が日では終わらないことが確定したので、延長戦です。
俺、七日までには終わらせるんだ。(フラグ)
最近、あれもこれも書きたくて困ってるんですよね。
書きたいネタが次から次へと思い浮かぶものだから、筆が追いつきません。
新しき年に幸いなる祝福を(8)
駅から駅へ。電車に乗って、目的の神社がある駅まで数駅。
そのたった数駅を、のろのろと時間をかけて電車は進んだ。そこそこの混雑の中、乗客の話に耳を傾けると、毎年こうなのだと言う。年越しに向けて神社の最寄駅への人出は一気に増え、年を越すまでダイヤは乱れっぱなし。駅は人でごった返し、数メートル進むのも困難な有様なのだとか。
なんだかんだで朝から動きっぱなしだったマサキは、そろそろ足に軽い疲れを覚え始めていた。対して、自分が望んだ通りの年越しを過ごしているミオは元気なもの。代わり映えのしない冷めた表情のシュウがどれだけ疲れを感じているのかはわからなかったが、そんなマサキとシュウに守られながら、ミオは進行方向とは逆側の扉の脇に立ち、ひとつ話を終えては次の話と話題に暇《いとま》がない。
普段ならば十分もあれば着く道のりを、三十分ほどかけて進んだ電車から降りれば、うんざりするほどの人いきれがマサキたちを待ち構えていた。
一歩先に進むのも難儀なほどに、ホームは人で溢れ返っている。
それでも、それも改札までだろうと我慢して進めば、誰も彼も神社方面へ抜けるものだから、よくもここまで人が集まったものだと思うほど。微塵も人波が途切れる気配がない。
駅から神社まではそう距離もないというのに、中々前に進まない人の列。その向こう側、夜の帳の奥から除夜の鐘。彼方より響き渡ってくるのが聴こえてくる。それを耳にして、「ついでだし、お寺にも寄る?」などとミオは気軽に言ってのける。
「つーか、お前。寺もいいけど、初日の出はどこで拝むつもりなんだよ」
「海まで出ようかと思ってるんだけど。ここから電車で二時間ぐらいで出られるみたいだし」
「海!? そらすげーや。どんだけ今日に賭けてるんだ」
それだったらいっそ、魔装機に乗って空中から日の出を拝んだ方が早い。そんな風にマサキは考えたりもしたのだが、それを口にしてみたところで、浪曼がどうだこうだ、日本人としてどうだこうだ、とミオに反対されるのが関の山。
白い吐息が絶え間なく宙を舞う。無駄口を叩けるほどの陽気でもなしと、マサキがうんざりした表情でシュウを見上げるだけに留めておくと、それをどう捉えたものか、「まあ、稀にはそんな日があってもいいのでしょうね」と、珍しくもシュウはミオの肩を持つように言葉を吐く。
「お前、この間からなんかおかしくないか」
「ああだこうだとひとりで物を考えていると、気詰まりすることがあるのですよ。何も考えずに身体を動かしていたいと思うことだってある。あなたは何か誤解をしているようですが、私とて気晴らしを求めずに、いつまでも鬱々と物事や理屈を考えているばかりではありませんよ」
「だったらあいつらと楽しめばいいじゃねぇかよ。ひとりで生きている訳でもなし」
「彼女らが日本文化に通じていればいいのですが、そもそものラ・ギアス文化に通じているかすら怪しい人間もいるもので」
そう言って、何かを思い出した様子で頭《かぶり》を振った。恐らくは、ミオが他の魔装機操者を誘いたくなかった理由に通じるのだろう。マサキたち地上人ですら、それぞれの国に対する認識には大きな差があるのだ。ましてや生粋の地底人ともなれば、何を言わんや、でもある。
「ああ、あの淫蕩女……」シュウの言葉に思い当たったのだろう。ぎょっとするような例えを出したミオは、「あれは筋金入りのインモラル育ちっぽいもんねえ。真っ当な人生を歩んできていないっていうか、根っからの裏街道《アンダーグラウンド》人間っていうか」そうサフィーネを評すると、「でも、シュウでも日本が恋しくなることってあるの?」と、訊ねて寄越す。
「自らの出自《ルーツ》という意味であれば、何がしかの感慨を抱くことはありますよ」
「あるんだ。なんだかそういうのとは無縁の世界で生きてるように見えるんだけど」
「郷愁が足を引っ張ることがないぐらいにですがね」シュウが笑って言えば、
「そんなことだろうと思った」ミオが安心したように笑う。
そんな話をしながら人の流れに乗って数十分。北の参道に入る。警備員が列の整理をしている辺り、敷地内への立ち入りには制限が掛けられているようだ。「表参道と北参道と西参道だったかな。三ヶ所から境内に入れるのよ。その列を大鳥居の前で合流させるらしいの。だからどうしても混雑しちゃうみたいで」下調べだけは充分らしいミオの説明を聞きながら、牛の歩みの如く参道を進んでゆく。
「それだったらその大鳥居の前をいざってときの集合場所にしておけばいいかねぇ。この混雑が更に凄くなるんじゃ、誰かしらはぐれそうだ」
「そうだね。最初から集合場所決めておいた方がいいよね。背の高いシュウを目印にするって方法もあるけど、――あ、明けたんだ」
列の方々から、ぱらぱらと「明けましておめでとう」の声が上がった。
ようやくの年明け。混雑は果てしないけれども、半日ツアーの折り返しを迎えるところまで来た。地底世界と違ってそうそうあることではなかったけれども、トラブルが発生するのは地上世界とて同じ。特に何事もなくこの瞬間を迎えられたことに、マサキは少しばかり安堵する。
安堵して、振袖姿も慎ましやかに、「明けましておめでとうございます」それぞれに頭を下げるミオに、「ああ、あけおめ」と言えば、シュウもまた「明けましておめでとうございます」と、会釈。
「今年も宜しく、でいいのかなあ。シュウとはあたし、あんまり宜しくしない方がいいと思うんだけど」
「顔を合わせる場合が場合ですからね。そういう意味では、あまり顔を合わせたい相手ではありませんね。まあ、この先はそうならないように願っていますよ」
「でも、サンプルの分析結果が出るまでは監視するからね」
「わかっていますよ」
新年を迎えて列が大きく動き始める。人が増え、ざわめきが一層大きくなる。喧騒、また喧騒。そして人垣、また人垣。御社殿に向かって舞い飛ぶ小銭。行きては帰る人の波。老いも若いもが迎える厳かながらも騒々しい年の明けの風物詩、その活気溢れる光景が大鳥居の向こう側にて繰り広げられている。
「お前は何を祈願するんだ」
「あたし? あたしはいい出会いがありますようにって」
その手ではぐれないようマサキのジャケットの裾を掴みながら、後を着いて歩いて来る。ミオはマサキに話しかけられて顔を上げると、満面の笑みでそれが当然と言ってのけた。
「見事なまでの我欲ですね」僅かに眉根を寄せてシュウが言う。
「嘘でもいいから、世界平和って言えよ……お前、魔装機操者の立場をなんだと思ってるんだよ……」
「だってあたしたち、地底世界じゃ神様に喧嘩売ってるのよ。しかも思念を実体化できちゃう神様。だから、神様にだって我欲はあるみたいだし、それだったら我欲をぶつけた方が叶えてくれそうだなー、なんて。
それにあたしたちにとっての世界平和って、自分たちの力で実現させるものでしょ。それだったら、それより叶えるのが難しいお願いをした方が現実的じゃない?」
「逆転してるんだよ……世界平和が叶えられるんなら、出会いぐらい自分の力で叶えられるだろ……」
「だったらマサキ、いい男、紹介してよ」ぷくう、と、ミオは頬を膨らませる。「あたし自分より稼ぐ男なんて贅沢言わないから。お金と世界平和をあたしに任せてくれる、他のことで頑張ってる人。どこかにいない?」
そんな男が身の回りに存在していたら、マサキとて自らの女性問題で苦労していない。「この際、あたしが知らない情報局の人たちでもいいし」だというのに、思いの他、真剣にミオが新たな出会いを望んでくるものだから、マサキはその視線を逸らさずにいられなく。
逸らして、そうして、助けを求めてシュウを見上げる。
「……まあ、あまり口を挟みたいことではありませんが、マサキの周りにいる女性たちを見てから、それは言った方がいいかと思いますよ」
「それって見るの女運より男運じゃないの?」
「少なくともあのお転婆娘よりは、彼らは格段に真っ当に見えますがね。何か問題でも?」
「あの人たちの酒癖の悪さを知らないって幸せだよねえ。うわばみも真っ青な勢いで呑むのに」
魔装機操者の男性陣の酒の嗜み方は、潰れるまで延々と強い酒を呑み続けるか、酔いに任せてさして面白くもない話題について滔々《とうとう》と論じてみせるかのいずれかだ。あまり陽気な酒ではない上に、脱いだりナイフを投げたりの女性陣を窘めることもしない。
そんな毎度|々々《まいど》の乱痴気騒ぎに、ミオはミオで思っていることがあるらしい。いつも酔い潰されてばかりいる彼女は、飲む・打つ・買うはご遠慮したいのよ――そう付け加えながら、迫り来る御社殿にバッグを開くと、中から小銭を取り出した。
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