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あおいほし

日々の雑文や、書きかけなどpixivに置けないものを。

【R18】彼→彼(二)
続きです。

私は多分、アレですね!拗れている白河を書くのが大好きなんですよ!



<彼→彼>

 冷えたシュウの指が、菊座の奥でゆるゆると、確かな存在感を放ちながら蠢いていた。
 暴虐的な欲望に晒されたマサキの身体は、抵抗する気力を奪われてしまっていた。いや、抵抗したくとも出来なかったのだ。微かな熱情を宿した瞳が見下ろす先で、ぐったりとベッドに伏せたまま、じんわりと染み出てくる劣情に途惑いを覚える主人の意志に反して身震いを繰り返していた。
 ――そう悪いものでもないでしょう。ここを弄ばれるのも。
 シュウの指がぬとりと腸内を抉る度に、背中に走る悪寒に似た刺激。けれどもそれは決してマサキの心に不快を生じさせなかった。異常な出来事に遭遇しているというのに、拒絶を起こすどころか、この先の行為に期待を抱いている……それは戦いに明け暮れる日々でマサキの中で燻っていたストレスが、性欲の発散という形で現れた瞬間でもあった。
 ――や、だ……や、めろ……
 だからこそ、やがてその行為が終わりを告げるなり、シュウに足首を引っ張られて身体を開かされたマサキは、抵抗の意を唱えずにいられなかった。
 生々しい行為の残滓が、紅斑となって肌に散っている。その痕を辿ってゆけば、終わりなく与えられた愛撫に馴染んだ身体の中央で、濡れそぼったペニスが天を仰いでいる。見、るな……と、咄嗟に口を衝いて出る言葉。それは、マサキのなけなしの自尊心がまだ生きている証拠でもあった。
 ――ここまでさせておいて、今更やめろとはあなたも酷いことを云いますね。
 自分に劣情を催している相手に、欲望の発露を目の当たりにされて正気を保てる人間はそういまい。図太さが売りのマサキにしてもそうだ。今にも溶けて消えてしまいたくなるほどの羞恥心が全身を支配している。
 ただただ恥ずかしい。
 性欲という浅ましい欲と、相手に従属をしたくないというプライド。
 拮抗する感情に、マサキは引けもしなければ進めもしなかった。

 ――ねえ、マサキ。悪いようにはしませんよ。だから、あなたの中に|挿入《いれ》させて……

 シュウの視線が自らの股間から逸れたのに安堵したのも束の間。マサキの身体に覆いか被さってきたシュウが、菊座の入り口に漲った自らの欲望を押し当ててくる。
 同時にぞくりと背なを駆け上がってくる悪寒。巫山戯ている――微かに込み上げてきた期待に、マサキは自らの性欲を打ち消そうと躍起になるも、火照った身体の熱が引くことはなく。ましてやその手足は、陸に上がった魚のようにぴくりぴくりと震えるだけだった。

※ ※ ※

 はっとなって目を覚ました。
 心地よさに溺れそうになる意識の底で、警告音を聴いたような気分だった。
 食堂を出て、一直線に割り当てられている|自室《キャビン》に戻ったマサキは、甲児とさやかに八つ当たりをしてしまった自分に自己嫌悪を感じながらベッドに横たわった。足りていない睡眠が補われれば、冷静になれるのではないかと思ったからだ。
 けれどもそれは逆効果だったようだ。
 昨日の出来事を夢で見返すことになったマサキは、頭を押さえながら簡易ベッドから身体を起こした。ぼんやりとした頭を大きく振って覚醒を促し、火照った身体を冷ますべく洗面台で顔を洗う。股間に感じる強い熱は、性欲を刺激されたことによる生理現象の現れだ。その事実が腹立たしい。
 こんな気分でこれから先の艦内生活を過ごさねばならないのか。絶望的な気分を溜息に乗せて、のそりとベッドに戻る。
 仰向けに寝転がり天井の一点を見上げれば、使い込まれた艦は必ずしも新品同様とはいかず、掃除では消しきれない染みが各所に浮かんでいる。それが化け物のように映って見えるのは、精神状態が不安定だからだ。理解していることを再確認したマサキは、これからどうするかを考え始めた。
 あの澄ました顔に、一発をお見舞いしないことには気が済まない。
 シュウのペニスがアナルに抽迭する度に、マサキの身体は奇妙なわななきを繰り返した。嫌だと思っている筈なのに、ペニスが膨張をし続ける。あの瞬間のマサキは――恐ろしいことに、初めての行為に悦びを感じてしまっていた。息苦しさの中に確かに息衝く快さ。冷えた温もりが肌を滑る度に心が震える。
 認め難い事実を受け入れたマサキは、だからこそシュウに一矢報いないことには終われないと思った。
 自らのプライドを打ち砕く存在。シュウ=シラカワという男はいつだってそうだ。信念など大したものではないのだと嘲笑うかのように真理を突き付けてきては、マサキの魔装機神操者としての誇りと意地のみならず、人間としての尊厳まで崩しにかかってくる。しかもさもありなんといった態でだ。かつてのシュウとの関係を思い起こしたマサキは、だからこそ、彼が自分に好意を抱くことが有り得ないことだということを覚るより他なかった。
 彼は自らの万能感を打ち砕いた人間が気に入らないのだ。
 蝋のように滑らかな肌に、出来のいい彫刻を想起させる端正な面差し。均整の取れたプロポーションに恵まれている彼は、のみならず、知性や魔力、身体能力にまで優れていた。こうなると、神に愛された申し子――というよりは、世界の|不具合《バグ》と表現した方がすっきりするぐらいだ。
 しかもかつては王族ですらあった。
 地位に容姿、能力と三拍子揃った自らの優位性にシュウは自覚的だ。それは態度に良く表れた。失敗の二文字を知らないかのような発言。窮地に追い込まれようとも、理路整然と、理知的に言葉を紡ぐ彼は、自身の成功を疑っていないのか。非常に自信家で、それ故に無自覚に他人を下に見てしまうことがままあった。とはいえ、それが許されてしまうのも、その全能性故。彼に畏敬の念を抱く|信奉者《シンパ》は多く、むしろ積極的に自分を下に置こうとしている輩も数多い。
 だからマサキは殴りたいのだ。この溜まった鬱憤を全てぶつける勢いで。
 彼はマサキに服従を強いた。それも性欲の捌け口にするという最悪の形でだ。かといって、その是非をシュウに問うたところで、彼はまたいつもの調子でマサキのモラルを潰しにかかるだけだろう。それがマサキには腹立たしかった。
 そもそも、常識や節度、モラルといった問題を全知と評される男が理解しきれていない筈がない。即ちシュウがしていることは性質の悪い開き直りなのだ。そうした人間を相手に、人並みの常識論しか持ち合わせていないマサキが、どうやればものの道理を云い聞かせられたものか。
 殴るしかない。
 そう結論付けたマサキが怒りのままにベッドから飛び起きた瞬間だった。来客を告げるブザーが鳴った。
 はっとなった。
 そういえば、シロとクロはどうしているのだろうか。
|格納庫《ドック》に放置している二匹の使い魔のことを場違いにも思い出したマサキは、ブザーの発信源が彼らであるかも知れないと思った。何せ、昨日の戦闘後からサイバスターの修理に詰めっ放しだ。そろそろ彼らにも休息が必要だろう。そう考えながら、何気なくドアを開いて、そこに立っていた人物に――絶句した。
 白く伸びた長躯は紛れもない。シュウ=シラカワのものだった。
 咄嗟に手が飛び出る。
 やりきれなさやままならなさ、怒りに、憎しみ。それは全てを込めた渾身の一撃でもあった。
 けれども、風を切ってシュウに迫ったマサキの拳に、彼は微塵も動揺することなく、開いた手のひらでその一撃を防ぎきってみせた。同時に立つ乾いた打撃音。マサキの拳を掴んだ彼は、腕を一払いすると、冷ややかな眼差しでマサキを見下ろしながらこう口にした。
「魔装機神を動かすのに慣れ過ぎて、肉体の動かし方を忘れたのではありませんか」
 怒りが沸点を通り越しそうになる。それをぐっと抑え込んで、マサキはシュウを睨み付けた。
「よくも俺の前に顔を出せたもんだな」
「私にとっては答え合わせのようなものでしたからね」
「答え合わせ?」
 しまったとマサキは舌打ちした。
 これをやるからシュウのペースに乗せられてしまうのだ。
 わかっているのに直せない己の性分。理解出来ない理屈に出会うと問い返さずにいられない。自然に口を衝いて出てしまった言葉に、例えようのない口惜しさが込み上げてくる。だのにシュウは、そうしたマサキの態度を目の当たりにしても、余裕然とした態度を崩すことはないのだ。
 巫山戯ている。
 マサキはふいとシュウから顔を背けた。その視界の隅でふっと|シュウが微笑《わら》う。水晶にも似た深い煌めきを湛えている瞳が、マサキの姿を納しっかと収めている。
「何にせよ、お元気そうで何より」
「元気だ? どこを見ればそんな風に」
「私を殴ろうとする程度には情動が回復したということでしょう。結構なことですよ、マサキ。朝のあなたはそうした考えすら思い浮かばないようでしたからね」
 その瞬間にマサキの心に過ぎったのは、絶望的なまでの虚無感だった。
 どうしてこんなにも、シュウ=シラカワという人間は人の神経を逆撫でするような物言いしか出来ないのか。いや、マサキがそう感じているだけで、彼の軍門に下っている人間からすれば、こうした彼の物の云い方は、自身の心酔を裏付ける要素にしかならないのかも知れない。
 ならばそれは、気が合わないという一言で片付けられるものであるのだろう。
「何しに来たんだ、てめぇ」マサキは視線を戻すことなく口にした。「俺のご機嫌伺いだってんなら、もう用は済んだだろ」
「食堂でマジンガーチームと揉めたのでしょう。アムロが心配していましたよ」
「アムロが?」
 僅かな時間しか顔を合わせなかった青年の、思いがけない観察眼の鋭さにマサキは焦る。何せ彼はニュータイプだ。マサキに感じ取れない波長さえも感じ取れる彼からすれば、マサキの気分の波を読み取るぐらいは容易いことだろう。
 その奥にある秘密までは読み取れまい。そう自分を説得しても、ざわめく心は止まらない。マサキはどうかすると腰が引けそうになる己を奮い立たせて、シュウの顔を睨み付けた。狭苦しい|個室《キャビン》は、昨日の惨禍の舞台でもある。その場に惨禍を引き起こした当の本人とふたりきり。この状況を恐ろしいと感じないほど、マサキの情動は壊れてはいなかった。
「それで俺の部屋までのこのこと出しゃばってきやがったって訳か」
「出しゃばるとは失礼ですね。あなたに働いた無体を気遣う程度の情けは私にもありますよ」
 しらと云ってのけたシュウに、脳が焼ききれそうな怒りを覚える。
 ここまで自分を追い詰めた元凶たる人間が吐いていい台詞ではない。マサキは両手を拳の形に握り締めた。隙あらば、今度こそ。頭の中をぐるぐると回り続ける彼に対する憎しみを、いつ形にするか。機を窺いながら言葉を継ぐ。
「人の身体を性欲の捌け口にしただけの人間が良く云いやがるな……ッ」
「私は『性欲が愛情に支えられている』という楽観的な思考に侵されたいとは思えないだけです」
 シュウの言葉は虚無だ。マサキは口唇の端を噛んだ。
 彼の取り澄ました表情は、良く出来た蝋人形のようでもある。嫌になるほどに美しい。だのにその口元から吐き出される言葉は、現実感を喪失している。
 そう、シュウの言葉はいつだって、マサキの耳を上滑りしていった。マサキが理解を放棄している訳ではない。ただ、それらの言葉からは、シュウ=シラカワという人間の実態がまるで伝わってこなかった。机上で考えた理論をなぞっているだけにも感じられる言語の実在の不在。マサキはシュウの言葉を、自分が真に理解することはないのだろうと思うより他なかった。
「てめぇが何を云っているか、俺にはさっぱりわからねえ」
 唾を吐くように言葉を吐き捨てると、刹那、シュウの顔から表情の一切が消えた。

「――あなたは私を『人間』だとは思っていないようですね」

 同時に開かれるドア。
 何かが酷く彼の気分に障ったのは間違いなかった。けれども、それが何であるのかがマサキにはさっぱりわからない。そのまま、ドアの向こう側へと姿を消したシュウに、マサキは「くそっ」と、ドアを力任せに蹴ることしか出来なかった。






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