Q.@kyoさん、最近またSSに逃げてなぁい?
A.ハイその通りです!WDが行き詰っているので逃げています!(開き直り)
A.ハイその通りです!WDが行き詰っているので逃げています!(開き直り)
<あなたであれば>
昨日の昼頃家を訪れ、一晩を過ごしたマサキが帰途に就く為の支度をしている中。シュウはリビングのソファで読書に勤しんでいた。
疲労が溜まっていたのだろう。昼近くになって起床してきたマサキは、慌ただしく朝食を済ませると、洗面所に飛び込んで行った。
何でも、どうしても外せない用事が王宮であるのだそうだ。
王宮騎士団の任命式。確かに、剣術指南に赴くこともあるマサキが式典に顔を欠く訳にはいかない。とはいっても、スケジュールに融通が利くシュウとしては、多忙な中、暇を見付けるようにしてまで家に来なくともいいものを――と思ってしまう。
「ヤバい」
身支度を終えたようだ。眠気の取れた表情でマサキがリビングに姿を現すものの、彼には何か懸念があるらしい。焦っていることが窺える口振り。王都に戻るのに不都合でも起きたのだろうか――シュウは読んでいた本から顔を上げ、目の前に突進してきたマサキを見上げた。
「どうかしましたか」
「太った」
シュウは脱力するも、マサキの表情は至って真面目だ。
仕方なしにマサキの引き締まった体躯を観察する。だが、元来が細身だからだろう。シュウの目にはマサキが焦るほどに肉がついたようには思えなかった。
「別にそこまで焦ることでもないでしょうに」
「三キロ」
「筋肉量かも知れませんよ。体脂肪率は見ましたか」
「見たよ。脂肪なんだな、これが」
シュウは読んでいた本を脇に置いた。
「それであなたの何かが変わると云うのであれば、減量に付き合わないこともありませんが……」
「変わるだろ。脇腹が抓めるようになってるんだぞ」
「いえ、そういう意味ではなく」
シュウはマサキをまじまじと見詰めた。
成長期の最中にラ・ギアスに召喚された彼は、ハードな戦いが続いたからだろう。実に良く食べた。食が少ないことを自覚しているシュウからすれば到底入りきらない量――二人前ぐらいならぺろりと平らげる。それでいて太らないのだから恐れ入る。
けれどもそれも納得だ。
成長期だった彼は、縦に縦にと身体が伸びていった。食べた分が全て身長になっているのではないかと思う程に。だからいつまで経っても体格そのものには変化が訪れなかったのだ。
だが、流石にそうした成長も打ち止めを迎えたようだ。
青年らしい溌溂さと戦士らしい精悍さに満ちた面差し。科学者として研究畑を歩き続けてきたシュウは、必要に応じてしか戦闘に参加しないからか、年齢を重ねても神経質そうな面差しに変化はなかったが、マサキは違う。幼さが消えた分、逞しさを感じさせるようになった。
それでいて、中身は変わらぬマサキ=アンドーのまま。年齢や経験を重ねた分、理性と感情のバランスが取れるようになってきたようだが、青臭くも壮大な理想を追い求める彼の心の姿勢は色褪せることがない。
「あなたの内面や性格に変化があるかという話ですよ、マサキ」
だからシュウはそう口にした。
無論、戦士である彼の瞬発力や持久力に影響が出るのであれば、その理想にも直結する問題である。シュウとしてはダイエットを勧めないこともなかったが、どちらかといえば細身の身体つきだ。三キロぐらいであれば、むしろ好ましい傾向でさえある。
「わからないぜ」マサキはシュウが本を置いたのとは逆側のソファに腰を下ろした。「昔な、クラスメイトに凄ぇイケメンがいたんだよ。そいつが歩くと女子生徒が振り返ってキャーキャー云うようなさ」
「物語の中だけかと思っていましたよ、そういった話は」
「学校って特殊な空間だからな。まあ、良くある話さ。そいつも学年のアイドル、なんて云われてたぐらいだよ。実際、芸能事務所に所属してたらしいんだけど」
「その彼がどうかしたのですか」
「太った」
「ふむ」
マサキの話を総合するとこうなる。
そんなイケメンである彼にも恋する女性が出来たらしい。人目も憚らずアタックを続けていたのだが、この女性が難攻不落。学外の社会人と付き合っているようで、まるでなびく気配がない。それどころか、公衆の面前で迷惑だ何だと彼を罵しり始める始末。それで、これまでの人生で狙った女を落とせなかったことがなかった彼は、盛大に心を挫かれてしまった。ストレスから過食に走り、呆気なくニ十キロオーバー。見る影もなくなった彼は、自分の自信を支えていた容姿を失ったことで、卑屈な方向へと性格が一変してしまったのだとか。
「しかし、マサキ。私にはあなたが彼と同じ道を辿るとは思えないのですが」
「そうかねえ。俺は自分が格好いいと思ってるしなあ」
「あなたには他にも自分の支えとなるものがあるでしょうに」
「だったらいいんだがな」
クラスメイトの何にマサキがそこまでシンパシーを感じているのか。シュウにはまるでわからなかったが、マサキとしては太ることよりも、それによって齎される自身の性格の変容こそが受け入れ難く感じられるらしい。愚図愚図と言葉を重ねて太ることに対する恐怖を共有しようとしてくるマサキに、だからこそシュウはこう言葉を被せた。
「剣技に魔装機神の操縦、それらが出来て当たり前だと思っているのであれば、その鼻はへし折る必要があると思いますがね」
「流石にそれはねえ」マサキの頭がシュウの肩に凭れかかってくる。「本当にお前、俺が太っても平気なのかよ」
「あなたの中身がよろしくない方向に変わるのでなければ、私は構いませんよ。あなたの外見に惹かれてこうしている訳でもありませんし」
「本当に?」
「私の名に懸けて誓いましょう」
「なら、いい」
弾かれたようにソファから立ち上がったマサキが、壁に掛かっているジャケットを手に取った。「けど、ダイエットはするからな」そう笑って云い切ってから、二匹の使い魔とともに外に飛び出して行く。リビングに一人残される形となったシュウは、台風のようなマサキの慌ただしさに「どうぞご勝手に」と、届かぬ言葉を吐くしかなかった。
<晴れの日に>
思えばマサキ=アンドーと云う人間は、言葉足らずな面があった。
直感的に生きているからだろう。自身の感情や思考を説明するよう迫ると、途端に言葉に詰まる面が見受けられた。それでも通じる人間には通じるのであるから、理論自体を放棄しているのではなさそうだ。とはいえ、今日のマサキに関しては、そういった彼の傾向は全く関係ないようである。午前中も早くからシュウの自宅の玄関ドアをドンドンと叩いてきた彼は、喧しさに負けてドアを開いたシュウに向かって開口一番こう云ってのけた。
「来たぞ」
「何をしに」
ぱっとしない天気が続いたのちの好天。天気予報では過ごし易い一日になると謳っていただけあって、爽やかな風が吹き抜けている。
けれどもそれも今日限りだ。明日から一週間ほどは雨の予報。確実に当たる預言システムを有しているラングランでは、天気予報が外れることはない。だからこそ、湿度を嫌う古本の入手を目論んでいたシュウはマサキの来訪を遣り過ごすつもりでいたのだが。
「洗濯に決まってるだろ」
さも当然と云い放ったマサキに、シュウは眉を顰めずにいられなかった。
「いつからあなたは通いの家政婦になったのですか」
「お前、放っとけば自分の欲を優先するだろ。やるべきことはきちんとやれよ」
ずかずかと家に上がってきたマサキが、真っ直ぐにベッドルームに向かってゆく。どうやらシーツやブランケットのカバーを洗うつもりでいるようだ。ばたばたと慌ただしく動き始めたマサキに、仕方なしにシュウはロボット掃除機を動かして掃除を始めた。
「出せるもんは全部出せよ。この先の分もぜんぶやるからな」
洗濯機が置いてある洗面所から響いてくるマサキの声。この調子では、終わるまでマサキが家から動くことはなさそうだ。
シュウはついでと羽箒を取り上げた。
家具の上の埃を払い、ロボット掃除機に吸わせる。主人が動き始めたのを察したのだろう。あらあらあら。と、天井の桟の上から降りてきたチカが、「さしものご主人さまもマサキさんには形無しですねえ」シュウの肩にとまりながらしみじみと呟いた。
「まあ、マサキの云うことにも一理ありますからね。折角の古書店巡り日和を無駄にするのは残念ですが、仕方なし。今日は家事に精を出すことにしますよ」
「ご褒美にマサキさんを連れて出て、街に行けばいいじゃないですか」
「マサキに興味がある品ではありませんしね。古書店巡りはまたの機会に――」
「そういう話なら付き合うぞ」
洗濯機を回し始めて手が空いたようだ。リビングに姿を現したマサキが、シュウの手元から羽箒を取り上げながら口にする。
「しかし、折角一緒に街に出るのに、あなたを手持ち無沙汰にする訳には」
「荷物持ちならやってやるよ。どうせ一冊二冊なんて量じゃなくなるだろ」
「あなたがついてきても面白いものは見られませんよ」
「お礼は昼食でいいぞ。お前ならステーキの美味しい店ぐらい知ってるだろ」
久しぶりの好天に、気分が舞い上がっているのだろうか。それとも美味しい料理をロハで食べられるのが嬉しいのだろうか。鼻歌混じりで家具の埃を払い始めたマサキに、シュウは苦い笑みを浮かべずにいられなかった。
「負けですよ、負け」そんな主人の様子を横目に、チカが笑う。「結局、ご主人様はマサキさんには勝てないんですって」
全くその通りだ。
決して生活能力の高くないマサキが自分を案じて脚を運んできた。その事実に、シュウの胸に誇らしさが湧いて出る。マサキの心遣いを素直に受け入れることにしたシュウは、ならば早く家事を終えてしまおうと、リビングで掃除を続けているマサキに背を向け、シンクに漬け込んでいる食器を片付けるべくキッチンへと向かうことにした。
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