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あおいほし

日々の雑文や、書きかけなどpixivに置けないものを。

待ち合わせ
お題ガチャを改変。元ネタの影がほんのりしかない作品になりました。


待ち合わせ

 王都の時計塔の下でシュウはマサキを待っていた。
 待ち合わせの時間からは既に二時間が経過してしまっている。とはいえ、いつものこととシュウはあまり焦りを感じてはいなかった。
 決めた時間に辿り着くことが少ないマサキは、どうかするとラ・ギアス一周旅行に出てしまうことも珍しくなかった。それでも地底世界で話が済むのであればまだいい。いつぞやなどは異世界に迷い込んでしまっていて、シュウは戦艦を駆ってマサキの探索に幾つもの平行世界を渡り歩くこととなった。
 ――あと二時間ほど待ったら諦めることにしよう。
 小型情報端末ハンドブックに詰め込んだ蔵書データを読み耽りながら時間を潰す。と、背後から「あっれー?」と、耳慣れた声が響いてきた。
「シュウじゃないの。どうしたの、こんなところで」
 左右に結わえた青い髪が静かに揺れている。髪を飾るのは赤いリボン。大きな二つの眼をくりくりさせながらシュウの顔を覗き込んできたのは、地の魔装機神の操者ミオ=サスガだった。
「人を待っているのですよ」
 シュウにとってミオは御しやすい反面、厄介に感じる人間だ。
 シュウが敢えて口にせずにいる部分の思考まで読み取っているらしい彼女は、含みのある言葉を吐くことが多い。その分、引き際は心得ているようだ。決定的な対立が生じることはなかったが、自らの内心を覚られるのを厭うシュウからすると、あまり長く会話を続けたい相手ではなく。
「ああ、マサキ?」
「そこはご想像にお任せしますよ」
「素直じゃなーい」
 口唇を尖らせたミオが、再度、シュウの顔を覗き込んでくる。その視線を避けるように小型情報端末に目を遣れば、
「今日は素直になった方がいいと思うけどなあ」
 思わせぶりにそう口にしてきた彼女に、さしものシュウも心を動かされずにいられなかった。その口ぶりからして、マサキに何かあったのは間違いない――シュウは小型情報端末を閉じると、今だシュウの前で上目遣いでいるミオに向き直った。
「何かあったのですか」
「シュウ、マサキに何かプレゼントしてない?」
 自らの行動を、云い当てられて動揺しない人間はそうはいない。鋼の精神力を有するシュウであるからこそ、表情に出さずにいられるものの、相手はこのミオである。シュウが表情を作っていることさえも、彼女は見透かしてしまっているのではないか――。
「私がマサキにプレゼントをしていたとして、それが何か問題でも?」
「それが何か当ててみせよっか。シャンプーとリンスでしょ?」
 居心地の悪さを感じながらも、取り繕うように問い返してみればこの返事。どうやら先日渡したプレゼントが問題を生じさせてしまったのだと、遅まきながら気付かされたシュウは焦るも、時既に遅し。
「すっごい高価なシャンプーとリンスでしょ、あれ。しかもマサキが使うにはちょっと匂いが甘いっていうか……」
 云いながらつま先立ちになったミオがシュウの髪に鼻を寄せてくる。こんな香り。そう言葉を継いでにっかと笑った彼女に、シュウは暗澹たる気分になった。
 マサキを自分のものだと知らしめたい半面、厄介ごとを避けたい気持ちがある。
 仲間に可愛がられるタイプのマサキの周りには世話焼きな人間が多い。彼らがシュウとマサキの仲を知って口を閉ざしているとは、シュウには考え難かった。
 何より、シュウは自立心の強い人間である。マサキとの仲に他人が絡んでくるのだけは耐えられない。シュウがマサキとの仲を彼らにひた隠しにしているのは、そういった個人的な自尊心からだった。
「もう大変。リューネがウェンディを呼んじゃって、つるし上げ大会」
「成程」
 どうやらマサキはシュウが渡したプレゼントを寝かせておくか失念するかしていたようだ。時間差で生じた騒動に、シュウとしては溜息を洩らすより他なく。
「助けに行くなら、ザムジード乗せるけど?」
 ミオの言葉にシュウは首を静かに横に振った。
「騒動を大きくするのは御免ですよ。それに……」
「それに?」
 火中の栗を拾うほど鉄面皮でもない。だとすれば、シュウがこれからマサキにしてやれることはひとつだけだ。
「それだけの騒動になっているのであれば、そのうち耐えきれなくなったマサキが家に転がり込んでくることでしょう。そちらのアフターフォローに手間を割かなければ」
 微かに笑みを浮かべつつそう口にすれば、「お惚気ご馳走様!」虚を突かれた表情になったミオが呆れた口ぶりで吐き捨ててきた。




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