へきのさんのネタをいただいて書きました。
洗脳されるマサキと白河の戦いです。
洗脳されるマサキと白河の戦いです。
<A fascinating showdown>
マサキに纏わる重要な情報がサフィーネよりシュウに齎されたのは、今から十日ほど前のことだった。邪神教団の動向を探っていた彼女は、シュウですら把握しきれていない巨大な情報網から、マサキが教団の過激派に捕まったという情報を仕入れたのだそうだ。
シュウがセニアに連絡を取ったところ、どうやらマサキが行方不明であるのは事実らしい。
とはいえ、重度の方向音痴であるマサキのこと。どこぞに迷い込んでいないとも限らない。しかも歴戦の覇者である。そう簡単に教団に身柄を捕らえられるとは考え難い。よしんば捕らえられていたとしても、自力で事態を打破出来るだけの能力を有している――。と、続けての調査をサフィーネ命じたシュウは、だからその時点では、そこまで事態が深刻化するとは考えていなかった。
ところが、である。
二日経ち、三日経ち、と時間が過ぎてゆくに連れて、そう呑気なことを云ってはいられなくなった。
目撃情報が出たのだ。
遺跡化した神殿に出現した咒霊機や死霊装兵、デモンゴーレムなどの一団の中にサイバスターの姿があったと。恐らくは邪神教団の神殿であったのだろう。ヴォルクルスを召喚して姿を消した一団の行方は、サフィーネやセニアの力をもってしても突き止めることが出来ず。
こうなってしまっては、呑気にしていられない。シュウはグランゾンを駆って、マサキの捜索に乗り出した。
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救国の英雄が邪神教団と行動をともにしている現実は、ラングラン全土を激しく動揺させた。
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救国の英雄が邪神教団と行動をともにしている現実は、ラングラン全土を激しく動揺させた。
破壊神サーヴァ=ヴォルクルス。精霊信仰のラングランに於いては邪教とも呼べる異教の神。一度、姿を見せたが最後。破壊の限りを尽くす神は、マサキとサイバスターを筆頭とするアンティラス隊の活躍によって、幾度となく打ち倒されてきた。
彼らの働きを知らぬラングラン国民がいないからこその衝撃。国境を越えて活躍するサイバスターとマサキは、ラ・ギアス世界の守護者であるのだ。
無論、その認識はラングラン国民に限らない。
シュウにとってもマサキとサイバスターは、特別な位置を占める存在だ。魔装機神計画において最も重要な位置を占める白亜の機神サイバスター。風の精霊に認められし唯一無二の操者は、サーヴァ=ヴォルクルスに精神を囚われたシュウを解放してくれたのみならず、新たな人生を与えてくれた。
だからこその過信。そして怒り。
マサキであればどういった困難であれど、自らの力で打破してくれるだろう。マサキを信頼しているからこそそう思い込んだシュウは、グランゾンを駆りながら己の認識の甘さに腹を立て続けた。王家に生まれつき、常人よりも強靭な精神力を有する自分でさえもサーヴァ=ヴォルクルスという『神』の前では無力であったのだ。如何にマサキが経験豊富な戦士であっても、精神面ではまだ幼さの残る青年だ。そこにヴォルクルスが付け込まないとどうして云えたものか。
もっと早く動くべきだったのだ。
後悔が形を取って表れた瞬間、シュウの胸を占めたのは果てのない絶望だった。
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ラングラン正規軍の通信を傍受したシュウは、サイバスターが王都近くに姿を現したという報を受けて現場に急行した。
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ラングラン正規軍の通信を傍受したシュウは、サイバスターが王都近くに姿を現したという報を受けて現場に急行した。
アンティラス隊もいる。サイバスターの足止めぐらい彼らの力をもってすれば容易いだろう。そうである以上、そこまで被害は拡大しない筈だ――だのに、現場に辿り着いたシュウが目にしたのは、取り返しがつかないほどの壊滅的な状況だった。
大破した王立軍の機体が層をなして辺りに積み重なっている。焼け焦げた大地にくすぶる黒煙。原形を留めていない機体の操者たる王立軍の兵士たちがどうなったのかは定かではないが、サイバスターを取り巻くようにして布陣を敷いているアンティラス隊が、圧倒的な力を誇る白亜の機神相手に攻めあぐねているのは把握出来た。
「マサキ!」
シュウは通信チャンネルを繋いで、モニターの向こう側に映し出されたうつろな表情のマサキに語りかけた。妖しい光を孕んだ双眸は、シュウを通り越した虚空を見据えているように映る。その口がにたりと裂ける。オマエニオレガトメラレルカ? 抑揚のない声でそうマサキが言葉を吐いた次の瞬間、一陣の風がグランゾンの脇を吹き抜けた。
続いて、グランゾンの機体に襲い掛かる衝撃。サイバスターが太刀を揮ったのだとシュウが理解をするまでには、衝撃が起こってから数秒の時間が必要だった。
「無理だよ、シュウ! 一度下がって!」
切り替わったモニターに映し出されるリューネの顔。珍しくも焦りを感じているらしく、額に汗を浮かべている。
アンティラス隊と足並みを揃えて攻めた方が、マサキを救出出来る可能性は高くなるだろう。その程度のことはシュウも理解している。だが、なけなしの自尊心がその選択肢を良しとしない。ヴォルクルスに支配されたマサキを解放するのは、彼に救われた自分でなければならない。シュウは背後に回ったサイバスターの太刀を避けながら、リューネに向かって吠えた。
「私が止めなければ、誰が彼を止めるのです!」
通信チャンネルを再びマサキに合わせる。マサキ! その名を叫びながらサイバスターの腰部目指して剣を振る。
けれども簡単には攻撃を当てさせてくれない。空を切った剣劇。サイバスターの疾風の如き運動性能は健在だ。残像を引きながら、またもグランゾンの背後に回ってくる。
シュウは次の攻撃の準備をしながら、モニターの向こう側に映し出されているマサキに語りかけた。
「あなたの精神力も大したものではなかったようですね。こうも簡単にヴォルクルスに支配されるなど!」
「ウルサイィィィィィッ!」
マサキの絶叫とともに砂塵が舞った。
サイバスターの機動力を生かした攻撃。四方から迫りくる風の中心点にハイファミリアがある。シュウはグランゾンの動力炉のタービンを絞った。動力炉内にエネルギーを溜めることで瞬発力を上げて、全てを撃ち落とす。そう考えての行動だった。
「トッタァァァァァァァッ!」
シュウが動力エネルギーを解放しようとした瞬間、死角から飛び出してきたサイバスターが太刀を振り上げるのが目に入った。
風を起こしたのはこの為か。シュウはコントロールパネルを連打した。ファミリアを全て撃ち落としてからでは、サイバスターの太刀を避けるのは無理だ。ダメージを覚悟の上で切り返すしかない。シュウは剣を構えてサイバスターに向き直った。
「あなたのやりそうなことなどお見通しですよ!」
着弾したハイファミリアの衝撃に耐えながら、太刀を握るサイバスターの手元を狙う。「ご主人様、今です!」チカのフォローを受けながら振り下ろした剣は、僅かに目標に届かなかったものの、確かな手応えをシュウに伝えてきた。
サイバスターの手元から弾け飛んだ太刀が、焼けた大地に突き刺さる。
だが、流石は高位精霊に守護されし魔装機神である。剥がれた太刀には目もくれず、サイバスターが宙に舞う。かと思えば、目を覆いたくなるほどの眩い光を放出してくる。コスモ・ノヴァだ――シュウは即座に咒術を展開し、グランゾンの周囲に防護壁を張り巡らした。
「クダケロォォォォォッ!」
大地に沈む、グランゾンの脚部。じりじりと後退してゆく躯体が、サイバスターの攻撃の威力のほどを伝えてくる。かといって、やられっぱなしでは説得もままならない。その為にはサイバスターを消耗させる必要がある……シュウはグランゾンの砲門を開いた。
「――食らいなさい、縮退砲!」
黒く渦巻くエネルギーがサイバスターを包み込む。切り札とでも呼ぶべき攻撃を放った直後だからだろうか。まともに攻撃を食らった感がある。
バチバチと火花を散らしながら、剥がれ落ちる装甲。かなりのダメージであったようだ。ウォォォオオオオオッ! 吠え猛るマサキの声が辺りに木霊した直後、サイバスターが大地に膝を折った――……
※ ※ ※
「何だ、その。迷惑をかけたな……」
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「何だ、その。迷惑をかけたな……」
ベッドの上でしおらしくもシュウに謝罪の意を伝えてくる彼に、シュウとしては苦笑を禁じ得なかった。
サイバスターから救出されたのちに病院に運び込まれたマサキだったが、幸いにも打撲程度の傷で済んだそうだ。動くと痛みを覚えるらしく横になったままであったが、うつろだった表情から一変。生気が宿った面差しに、シュウとして安堵するばかりだ。
「私を挑発めいた言葉で目覚めさせた人とは思えぬ台詞ですね」
「まあ、お前の気持ちがわかったっていうかな……」
歯切れ悪く言葉を継ぐマサキに、シュウとしては調子っぱずれな感が否めない。そう恐縮しないでください。と、顔を合わせて声をかければ、気まずさが拭えないのだろう。視線を逸らしたマサキが、この借りはいつか必ず返す。と、呟いた。
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