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あおいほし

日々の雑文や、書きかけなどpixivに置けないものを。

誇りと傷
あれもこれも手を付けて何しとんじゃい!!!
そう云う声が聞こえてくるようでございます……

ダイジョウブです!明日で研修も最終日!@kyoさん頑張りマッスル!
拍手有難うございます!励みとしております!もうちょっとで帰って来れるので待っててくださいませ!


<誇りと傷>

 地上に連れてきたのが間違いの元だったのだろうか。四六時中シュウ様シュウ様と姦しいふたりの女性から逃れるべく、艦の非常階段に潜り込んだシュウは、暫く踊り場に身を潜めておこうと長い階段を下り始めた。
 女性の勘というものは、あれで結構侮れない。探すべき場所を探しきった彼女らは、そう遠くない内にこの場所に見当を付けることだろう。とはいえ、それも扉を開けたところまで。さしもの彼女らも、この長い階段を下ってまでシュウを探そうとは思わない筈だ。
 カツン、カツンと硬質的な靴音を辺りに響かせながら、階段を下り続ける。点々と天井に設置されている明かりにぼんやりと照らし出されている階段は、終わりなく続くかのようにも感じられる。けれどもやはり切れ目はあったようだ。暫く下り続けていると、不意にシュウの目にそれが飛び込んできた。
 見慣れたアイスブルーのジャケット。踊り場の影から肩だけが飛び出している。
 シュウは引き返すべきか逡巡したものの、先客がマサキだからと退散していては、何処にも行き場がなくなってしまう。今の彼は同陣営――即ちシュウの味方でもあるのだ。時には戦場で肩を並べて戦うこともある相手に、採っていい態度でないのは明らかだった。
 さりとて、かつては敵だった彼と、忌憚なく二人きりの時間を過ごせるかと問われれば、それは難しいと答えるより他ない。ならばもうひとつ先の踊り場を目指すことにしよう。そう決めたシュウは、マサキに一声だけ声をかけてその場を通り過ぎようとした。
「先客がいるとは思いませんでしたよ、マサキ」
 その瞬間、マサキの身体が大きく震えた。
 この場に他人が通りがかるとは思ってもいなかったのだろう。弾かれたように面を上げた彼の顔色は、照明の加減もあるのだろうが、とてつもなく青褪めているように映る。
 呆然としている。いや、むしろ憔悴しきっているとでも例えればいいだろうか。
 苦境に立たされようとも逞しく前を向き、果敢に道を突き進んでゆく日頃の姿からは想像も付かない表情。マサキらしくない――色の抜け落ちた丸い瞳に見詰められたシュウは、見てはならないものを目にしてしまった衝撃に言葉を失ったまま。次の瞬間には、咄嗟に脱いだ上着をマサキの頭の上から被せていた。
 ――う、く……っ……
 それが呼び水となったようだ。押し殺した嗚咽が、シュウが被せた上着の奥から聞こえてくる。
 シュウはマサキの隣に立った。何が彼を泣かせているのかなど野暮なことは訊かない。戦い続けることを運命付けられた少年は、その唯一無二の立場と引き換えに様々なものやことを奪われてしまっていた。下手な慰めは却って彼を傷付けるだけ……シュウがマサキにしてやれるたったひとつのことは、その涙が収まるのを待ってやることだけだ。
 シュウは仄暗い踊り場の一点を見据えた。一秒が千秒にも感じられる。
 それでも黙って彼の隣に立つことしか出来ない。
 泣くな。などとは口が裂けても云えなかった。そのぐらいの思慮深さはシュウにある。
「もう、いいのですか」
 マサキの嗚咽が止んだのは、それから十数分後のこと。上着を剥いでシュウに付き返してきた彼は、悪かった。とだけ口にすると、シュウの返事を待つことなく。長い非常階段を真っ直ぐに上がって行った。




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