らぶなシュウマサが書きたかったのですが、出来ませんでした。笑
<貯金箱>
勝手知ったる他人の家と上がり込んだようだ。いつの間にかリビングの床に陣取っているマサキに、書斎から出てきたばかりのシュウは「声をかけてくだされば良かったのに」と、その顔を覗き込んだ。直後、顔の前に突き出されるブリキ缶。そこには日本語で『10万円貯まるBANK』と書かれている。
「これは?」
「ついに買った」
「いえ、ですから、これは……」
「貯金箱だよ。日本の」
「日本人は妙なものを作りますね」
シュウはマサキの手元から貯金箱を取り上げた。
側面に文字が印刷されている以外は、なんの変哲もないブリキ缶。上面に硬貨を入れる穴が開いているが、それだけだ。
恐らく、簡単に中身を取り出させない為だろう。空け口などは存在していない。ブリキ缶を検め終えたシュウはマサキの手にそれを戻して、「で、この貯金箱がどうかしたのですか」と尋ねた。
「貯めるんだよ、金を」
「小銭を貯めて喜ぶほど、資産がないという訳でもないでしょうに」
『世界の危機に際しては何を於いても戦え』という鉄の掟に縛られている正魔装機の操者たちだが、決して無料《ロハ》で戦っている訳ではない。戦いの度に与えられる報奨金。魔装機神操者としてラ・ギアス全土の紛争を鎮圧して回っているマサキともなれば、その額もかなりのものだ。
「夢がねえな、お前」
だが、マサキ自身はその資産に手を付けるつもりはないようだ。サイバスターの整備費に取っておかなきゃな。などと云いながら、小市民的な生活を続けている。
「私は使うべき時には使っていますから」
「あんまりでけぇ金を動かすのに慣れるんじゃねえよ。金の有難みを忘れるぞ」
シュウは肩をそびやかしてみせた。
自分の言葉を聞く気のない態度が気に入らなかったのだろう。口唇を尖らせたマサキが、ジーンズのポケットを探ると、掴み出した小銭を貯金箱に投入する。
「いっぱいになったら、ちょっといい店に飯を食いに行こうぜ」
「いつのことになるのやら」
「馬鹿、お前も一緒にやるんだよ」
どうやらふたりで貯金をしたいということであったらしい。
そういうことなら――と、シュウはコートのポケットから財布を出した。少額ではあるものの、小銭がある。投入する度に小気味いい音を立てるブリキ缶が、なんだかこそばゆい。
「楽しみだな。俺、これを一回いっぱいにしてみたかったんだよ」
「食事はついで、ですか」
「目的があった方がやる気が出るだろ?」
そう云って、にやりと口の端を吊り上げたマサキに、そうですね。と、シュウは深く頷いた。
<LOVE YOU,LOVE YOU,I LOVE YOU!>
「世界で一番マサキが可愛く見えて仕方がないのですよ」
「いつも通りね」
ここはラングラン王都。
情報局の執務室でシュウはセニアと向き合っていた。
「セニア」
「息せき切って駆けこんできたかと思えば、何なのそれ? あたしあなたの通常運転に付き合うほど暇じゃないんだけど」
「通常運転」
「違うの?」
「いや、確かにマサキは私から見れば輝いては見えますが、だからといって、そんな風な目で見ているかと云われるとそんなことはない筈ですが……」
重厚なる黒檀のデスク、書類が山となって積み重なっているその谷間から、顔を覗かせているセニアは不機嫌そうだ。
王室育ちの情報局の女傑は、王宮や情報局を舞台に責務を果たす傍ら、ときにはノルスを駆って自ら戦場に赴くこともある。加えて、趣味の魔装機開発にも余念がないとくれば、超人的なスケジュールをこなす必要があるのだが、今のシュウにはそういった彼女の都合は一切関係なかった。
そもそもシュウがセニアの許を訪れたのは、彼女であれば、この不調の対応策をともに考えてくれるだろうという当てがあったからだ。だのに、彼女にとってはシュウがマサキでおかしくなるのは『いつものこと』であるらしい。つれなくもまともに相手をしてくれそうな気配がない。
「ちょっと聞くけど、そんな風なってどういう目よ」
それでもシュウが云い淀んだのが意外であったようだ。興味を喚起された様子で、セニアが腰を浮かせてくる。
「それは勿論、劣情をもよおすという意味ですよ」
「やめてよ。あなた時々露悪趣味なのよ」
「しかし、他に表現のしようがありませんからね」
シュウはデスクを挟んでセニアの正面になる位置に陣取った。
けれども、シュウがきっぱりと云い切ってしまったことで、逆にセニアはこの問題に興味を失ってしまったようだ。視線をデスクの上の書類に落とすと、「多分、いつも通りよ。何も心配することじゃないわ」
「あなたは私をどういった人間だと思っているのです」
「マサキのことを好きな人だと思ってるわよ」
「好意はありますよ」
「なら、可愛く見えることもあるでしょう」
それではシュウは困るのだ。
確かにシュウはマサキに好意を抱いている。それは事実だ。
とはいえ、マサキとの間に何もないにも関わらず、マサキのことしか考えらない状態なのだ。お陰で、趣味の研究も読書も手付かずな有様だ。だったら、脳を強制的にシャットダウンさせればいいのではないかと横になっても止まらない。寝ても醒めても浮かんでくるのはマサキの笑顔。それがもう他に表現出来ないくらいに可愛く感じられて仕方ないのだ。これが異常事態でなければ何であろうか。
「そういう意味ではないのですよ、セニア」
「そうは云われてもねえ」セニアの白く細い指が書類を取り上げる。「あたしだって暇じゃないのよ」
つまり、話を訊いて欲しければ対価を支払えということであるらしい。「仕方ありませんね」シュウはデスクの片側を埋め尽くしている書類を指差した。セニアが処理しなければならない書類の約半分を、「こちらは私が処理しますよ」と、引き取る。
「本気で困ってるのね、あなた」
よもやそこまでの悩みとは思っていなかったようだ。目を見開いたセニアが、奇異なるものを見るような表情でシュウを見上げてくる。
「それはもう。昨日からこの状態ですからね」
「何か心当たりは?」
「ミオがくれたクッキーを食べたぐらいなのですが」
「えー? それだけ? だとしたら相当に面白いじゃない!」
「食べてみますか?」
シュウはコートの内ポケットから、袋に包まれたクッキーの残りを取り出した。
常人であれば、この話の流れで食べもしないところだが、シュウの傍迷惑な従妹は好奇心が強く出来ている。頂戴! と、デスク越しに手を伸ばしてくると、どうぞと差し出したシュウの手からクッキー入りの袋を奪い取った。
一枚を取り出して、ぽいと口の中に放る。
「味は辛めなジンジャークッキーだけど……」
などと口にしながら噛みしめること暫し。あら、と声を上げたセニアが、納得したような笑みを浮かべる。
「成程ねえ」
「使われているのはカルダモンだと思われるのですが、指向性が知りたいのですよ」
「ふーん。ってことは、ありがちだけど、レシピは胡椒に唐辛子、砂糖、カルダモンってところかしらね。あとは何かしら? あたしは突然ファングが可愛いと思えてきたわ」
「成程。しかし、昨日から今日に至るまで効果が切れないとなると……」
「量産したいわ」
「物騒なことを云う」
「売れるわよ、これ」
独立部隊扱いであるアンティラス隊の運営資金の捻出は、彼女にとっては切実な問題であるらしい。資金のショート問題の解決策がひとつ見付かったのが嬉しいのだろう。ご機嫌な様子のセニアが「成分解析に回すわ」と、ひとこと。
「そうしてもらえると有難いですね。いい加減に解呪したいのですよ。何も手に付かない状態ですからね」
「恋ね。立派な恋煩いだわ。これは明日のあたしが楽しみになってきたわ」
自身の状態を災厄とは考えていないようだ。
それとも恋をするとテンションが上がるタイプであるのだろうか。笑顔を浮かべたまま書類に向き直ったセニアが、「一気に片付けるわよ」と、物凄い勢いで書類を片付け始めた。
※ ※ ※
ちなみに、その日の午後に出た成分分析の結果を見たシュウに、すっかりファングへの衝動的な感情が治まってしまっていたセニアは、「やっぱりあなたのそれは通常運転なのよ」と云い放ってきたのだが、認め難い思いに駆られたシュウは自宅に戻って寝ること半日。ようやく治まったマサキへの発作的な衝動に、二度とミオの手を介した食べ物は口にしないと誓ったのだとか。
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ちなみに、その日の午後に出た成分分析の結果を見たシュウに、すっかりファングへの衝動的な感情が治まってしまっていたセニアは、「やっぱりあなたのそれは通常運転なのよ」と云い放ってきたのだが、認め難い思いに駆られたシュウは自宅に戻って寝ること半日。ようやく治まったマサキへの発作的な衝動に、二度とミオの手を介した食べ物は口にしないと誓ったのだとか。
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