最後までお付き合いいただけまして有難うございました。これにて完結となります。
とにかくただエロするのが楽しかったです。書いていて楽しかった記憶しかない。
次の黒と白で、私の延長戦も終わりです。もう少しだけお付き合いください。
では本文へどうぞ!エピローグなのでエロはありません!
<DARKNESS MIND>
二日後にはバゴニア領内に入りますよ。そうシュウに告げて、チカは次の場所へと飛び去って行った。
身体の震えは少しずつ収まりをみせていたものの、完全に止まりきるまではまだ時間がかかりそうだ。マサキはシュウに抱えられてベッドに向かった。ベッドの中、シュウに掛けられたブランケットに包まる。
目を覚ますときが来たのだ。自治区を今度こそ新しい一歩を踏み出せる街とする為に、この生活に別れを告げて、マサキは戦いに身を投じなければならない。大丈夫。シュウの言葉を胸に刻む。考えなければいい。考えてしまって、ままならなさに身を焦がされても、落ち着けばいい。
「そんな状態のあなたを残していくのは気掛かりですが、やらなければならないことがあります。今日はもしかしたら戻れないかも知れません。ひとりでも大丈夫ですか、マサキ」
マサキの身体中を支配していた愛撫の記憶は、性行為の終わりとともにその感触を失っていた。なければいずれは震えも収まるだろう。そう思ったマサキはシュウの言葉に頷いた。
(例の兵士にこちらの事情を打ち明けて、地方議会に情報が入った報告に行きます。もしかするとそのまま派兵になるかも知れません。そうなったら、彼らの蜂起に合わせて行動を起こすようにします。こちらのことは任せましたよ、マサキ)
当然だ。マサキは再び頷いた。
自分はやはり飼い慣らされるだけの生活には向いていないのだ。部屋を出てゆくシュウを見送ったマサキは思った。皮を剥いだように意思がみなぎってくる。騒ぎ立つ胸。二日後に事態が動く。たったそれだけの報告で、好戦的な自分が顔を覗かせる。お前の居場所は戦場《そこ》だと。
魔装機神の操者としての自我と自覚。どれだけ自尊心を捨てたかに見えても、マサキは自分の核たるその意識までもは捨ててはいないのだ。
快楽に身を委ねる生活は、羽根を休める為だけでいい。震えが収まったマサキはベッドから出て、服を着た。そして、早めのシャワーを済ませ、多めに夕食を取り、鈍《なま》った身体を起こすように筋トレに励んだ。
それがマサキが施設でシュウとともに過ごした最後の日となった。
バゴニア地方議会によるモニカ防衛戦の作戦展開と同時に、自警団の蜂起は行われた。地方議会の私設軍の中で多数を誇る彼らは、無血でマサキのいる施設を占拠。首輪を外されたマサキは、再会を果たした二匹の使い魔とともに|風の魔装機神《サイバスター》を駈り、彼らとともに施設の防衛戦及び地方議会の制圧を行った。
時を同じくして、モニカ防衛戦に当たっていたシュウもまた蜂起。セニアに結界の解除コードを託された魔装機神三体とともに、モニカの救出に成功する。
バゴニア地方議会がその制圧に多くの戦力を割いていた自治区の開放は、バゴニアとラングランの連合軍によってなされた。そこにはヴァルシオーネと何体かの正魔装機の姿があったという。
サイバスター及び自警団による地方議会の制圧の報を受けたバゴニア上層部は、翌日、その解体を決定。新たな議会の設立が果たされるまで、国が代理統治を行うとした。地方議会の議員の大半はその身柄を拘束され、マサキがいたあの施設へと送り込まれることとなった。
自警団の処遇にはバゴニア上層部も頭を悩ませたようだが、自治区住人たちより提出された嘆願書が彼らの心を動かしたようだ。自治区での自警団活動を継続させるとの決定が下った。その嘆願書の中にはラングラン国籍の住人たちからのものも数多かったと聞く。自警団の戦時下での働きを彼らは忘れていなかったのだ。
「デモだなんだとやっていても、生まれ育った土地はひとつ。そこに住まう人々の国は違えど、自治区は自治区というひとつの街である。それがよくわかったよ。いつかは国の違いを些細なものと笑い飛ばせるように、我々はこれからの自治区を育ててゆくつもりだ」
行方不明の議員もいる中で議場を空にする訳にも行かず、マサキは自警団員たちとともに地方議会の制圧を続けていた。それも今日で終わりとなる。バゴニア正規軍が国からの正式な要請を受けて、その任に当たることが決まったからだ。
「それは良かった。道のりは長いだろうけれどな、急いては事を仕損ずるって言葉もある。あんたらの目指す世界は、地道な活動によって成されるものであると俺は思ってるぜ」
「一歩、また一歩と、前に進む日もあれば、後ろに下がる日もある。けれども、前に進むことを諦めなければ、我々の夢が叶う日はきっと来るだろう。君のお陰だ。感謝する」
蜂起のリーダーとして自警団員たちを牽引した例の兵士は、いつもと変わらない面白味のない顔をしていたけれども、マサキにはその表情がどこか柔らかくなったように感じられた。
「ところで、彼との関係についてのことだが」
ああ、と頷いて、マサキはその先の言葉をどう続けるか悩んだ。まだ催眠術の効果は続いているのだろう。その辺りのことを考えようとすると、頭がぼんやりして上手く働かなくなる。
「困ったもんだ。相変わらずその辺りのことになると、まともに頭が働かない」
「安心したまえ。証拠となるものは何も残っていない。今の世の中は捕虜の扱いには煩いらしくてな。地方議会からはとにかく証拠となりそうなものは残すなと言われている。議員たちもわざわざ自分たちの罪を重くするような自白もしまい。まあ、話したところで与太話として扱われるのがオチだろうがね」
そこで彼は、初めてマサキが耳にする声を上げて笑った。高らかな声。青空に響き渡るほどの彼の笑い声を、マサキはここにきてようやく聞けたのだ。
「彼にも宜しく伝えておいてくれたまえ。世話になった以上、我々は君たちを裏切らないと」
施設でシュウとマサキの関係を見続けた彼は何を思い、何を考え、そしてどういった結論に至ったのだろう。マサキはそれを少しだけ知りたいとも思ったけれども、聞かない方がいいことも世の中にはあるものだ。マサキは派遣されてきたバゴニア正規軍に後を任せ、例の兵士に率いられて自治区に戻る自警団と別れた。
「丁度、いい所に。今、チカにあなたを呼びに行かせようと思っていたところでしたよ」
|青銅の魔神《グランゾン》に乗るシュウと会ったのはその帰り道。バゴニアとラングランの国境を越えて、王都を目指す最中でだった。
「お前ひとりか? 他の連中は」
「あなたに暗示をかけるのに、彼らがいては困るでしょう」
モニカを奪回したシュウはその身柄の安全の確保を優先し、ラングランに戻っていたのだという。一足先にバゴニアを脱出していたサフィーネやテリウスとの合流も果たし、今はかつてのバゴニア地方議会の背後に付いていたと思しき第三国の調査に当たっているらしい。
「総力戦のような様相でしたしね。私が下手に動くと、却ってあなた方の足を引っ張ってしまう。ああ、セニアにはちゃんと礼を述べてきましたよ。足を踏み入れてはならないところにまで足を踏み入れてしまったようで驚かれましたが」
「あんまりセニアをからかってやるなよ。しかし不思議なもんだよな。戦闘は普通にできちまう。こうやってお前と普通に話すのだってできる。なのにお前との関係について考えようとすると、頭が働かなくなるって、どういう原理なんだ」
「私がしたことは、私があなたに強制捕縛魔法《ゲ・アス》を使うのを|引き金《トリガー》として、あの日のことを思い出せるようにしただけのこと。あなたは暗示にかかりやすい人なのかも知れないですね、マサキ。効果の範囲がこちらの想定以上に広い」
通信モニターの向こう側。物騒なことを涼しい顔で言ってのけるシュウにマサキは眉を顰めた。とてつもない弱点《ウィークポイント》を見付けられてしまった気がする。催眠暗示にかかりやすい。これを悪用すれば、マサキにどんな命令でも聞かせることが可能になってしまうのではないだろうか。そう、かつてのテュッティのように。
「大丈夫ですよ、マサキ。私はそういった真似はしませんよ。自分の身体が自分の意思を裏切ることの恐ろしさは良く知っていますから」
「ってことは、あれは全て俺の意思ってことかよ」
「違いますか、マサキ?」
過ぎ去ってしまった日々を振り返る。途端に沸騰するように全身が疼いた。この身体のままならなさの所為だと思いきれればいいものを、全てを思い出してしまったマサキの記憶の中には、自らシュウに玩具扱いされるのを望んでしまった夜がある。
どこからが経験による追体験で、どこからが催眠暗示の所為なのか、マサキにはもうわからなくなってしまっていた。強い刺激に終わりはない。そのことを知ってしまった今となっては、暗示の効果などたかが知れているものだとも思う。
「ところで、そろそろ本題に入りましょう。薬の件ですが」
「ああ、あれな。でも、もう記憶は戻ってるんだよな。それでもやっぱりなるものなのか」
シュウがモニター画面に例の薬を映し出して見せる。赤と青と白。赤と青、二色の薬を見るのは平気なようだ。けれども白い錠剤。あの夜にマサキの身体に何錠も押し込まれた薬を目にした瞬間、どくん、とマサキの鼓動が跳ねた。
「一瞬で終わります。ちゃんと呼吸をして、マサキ。落ち着いて私の言葉を聞きなさい」
大きく息を吸って吐く。操縦席に身体を埋めているのが辛い。そこにシュウの温もりがないにも関わらず、身体に感じてしまっている愛撫の記憶。
こんな刺激を受け入れてはならない。そう思いながらも、その刺激に支配されることを望んでしまう自分。壊れている。マサキは思った。でも、これでいい。こうでいたい。
「薬を見て。大丈夫ですよ。直ぐに元に戻れます」
元に戻ることをマサキは物惜しく感じた。施設での最後の性行為。自分の全てをシュウに支配され尽くすというのは、あのときのあの状態を指すのだ。あれ以上の快絶は絶対にない。
けれどもそれは、きっと、経験し続けてはならないものなのだろう。
呼吸を整える。大丈夫と言ったシュウの言葉を、口の中で反芻する。日常に戻るのだ、自分は。知ってしまったことを、確かな記憶として。マサキはシュウの言葉に耳を傾けた。
「これはただの薬。それ以上でもそれ以下でもありません。効果は適切にあなたに及び、それ以上の害をなさない」
すう、っと体の中から何かが抜け落ちた。たったそれだけの言葉が、マサキの身体にその記憶を刻み続ける感触を消失させたのだ。
マサキは暫く呆然と、言葉もなくシュウが手にしている薬を眺めていた。催淫剤。それはわかっている。使われた日のことを思えば身体が疼く。けれども、それだけだ。
「どうです、マサキ? 様子を窺っている分には、もう大丈夫なように思えますが」
「ああ、もう大丈夫だ。ついでに最初の暗示も解いて欲しいもんだけどな。お前と戦場で顔を合わせる度にあれじゃ、俺の身体が持たないだろ」
「冗談を」クック……とシュウが嘲笑った。「私の愉しみを私が自分で奪う筈がないでしょう、マサキ」
やっぱり趣味なんじゃないかよ。シュウの返答にマサキは呆れつつも、またどこかで似たような環境に置かれたときには、自分はその扱いを今度は素直に受け入れてしまうのだろうと思った。
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