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あおいほし

日々の雑文や、書きかけなどpixivに置けないものを。

習作

 前サイトで告白したかどうか忘れてしまったのですが、私は記憶に障害を持っていまして、(恐らくは)自分の処理能力を超えた事態に陥ると、その記憶がすっぽりと抜け落ちてしまうという都合のいい記憶処理能力を持っています。今回久しぶりに記憶が(一部は欠落したままですし、おかしな記憶も沢山あるのですが)戻ったこともあって、忘れない内に記録を残しておかなければと「ぼやけた景色の~」を書き進めているのですが、そうなると二次元の世界に没頭できなくなってしまいます。
 とはいえ、リクエストを受け付けたままのアレやコレやが大量に残っていますし、せめてそれだけでも何とか書き上げたいのですが、今更に書き上げようとしてみたところ、設定から全部直したい衝動に駆られてしまったのみならず、ブランクの余りの長さ故でしょうね。己の文章の酷さといったら目も当てられない!(あちらとこちらで文体が違うので致し方ないのですが)
 この状態でリクエストに手を付け続けるのも申し訳ないと思い、「だったら今自分が書きたいものを書くのがリハビリには必要なんじゃね?」と、駄文を書き散らかしているのですが、そうするとあらどうでしょう。どれも同じものを書いているように思えてならなくなってきてしまったのです。
 
 もっと動きのある話を書きたいのに!
 停滞を続ける話なんて嫌なのに! 

 これはどこでも創作をやる人にとっての悩みの種だと思うのですけれども(マストドンでも議論になっていたので、恐らくは皆、同じ悩みを抱えているのでしょう)、凝れば凝っただけ読者は減るというか、結局アレかよ。ラブラブが読みたいだけなのね。という、創作者にとっては根源的な悩みを私もまた抱えております。
 そんなこんなで、以下はそんな「どうしようこれ」的な習作をひっそりと晒してみようかと思います。多分これは最後まで打ちきれる話だと思うので!
 



秘めたる純情
 
 

それはたった一文字の違いだったけれども、腹立たしいぐらいに、意味が異なる言い間違いの類だと思いながら、チカは主人が眠る寝室の窓の外、庇の上にて羽根を休めていた。
 それは愚鈍さだろうか、それとも言葉に鈍感であったからだろうか、それとも愛情というものは盲目に尽きるからなのだろうか……怒りもせずに、口がなさから生じた齟齬を取り繕うように訂正した主人のものわずらいを、よくあることと受け入れてしまっていた人物の来訪を思い返しながら、
 
――それでも怒られないのですから、人徳とでも言うべきでしょうかね。
 
チカは物思いに耽っていた。
 
狭い路地の通りを往く人々が、稀に藍色の羽根に目を留めては、微笑ましそうに口元を緩ませるのを、――人間とは実に単純な生き物ですこと! と感じながら、昨晩の出来事を振り返る。
 
厚顔不遜を地で行くチカの主人たるシュウが、珍しくもうなされている姿が目に入ったのは、昨夜も大分更けてから。どちらかと云えば、明け方に近かっただろう時刻にもなって、苦しげに吐息を洩らしては、眉根を寄せて苦悶の表情を浮かべていた。それは、夜もそれなりに過ぎた頃合に起こったある出来事の所為だっただろう。
 
退屈な日常に話し相手を求めたのだろう。その日の昼間に、使者の求めに応じてイヴンがいる神殿に赴いたモニカは、ひとときの仮住まいにしているこじんまりとした煉瓦造りのアパートメントに戻ってくる頃には、随分と思い詰めた様子で、無口にも食事を摂ることもせず、ただ部屋に閉じこもって、何かを思い悩んでいる様子だった。
 
口喧嘩の相手の不調が気にかかったらしいサフィーネが、体調を慮ってだろう。がさつに見えても繊細な面も持ち合わせている――とは、主人たるシュウのサフィーネ評だったけれども、胃に負担の少ないリゾットを差し入れたものの、モニカが口にしたのは一口ばかり。何かに没頭すれば、シュウも同様に食事に手を付けることすらしなくなったものだけれども、モニカは違う。口に合わない食事を残すことはあっても、そうした理由を明瞭りと口にしたものだった。
 
それがどうだ。昨夜に至っては、口数少なくただ「ごめんなさい……」とだけ言葉を吐いて、食器を戻してしまった。誰がどう見ても、明らかに趣味といった好ましい出来事による食欲不振ではなかった。
 
――何かご存知ではありませんの、シュウ様。
 
やけに深刻なモニカのただならぬ雰囲気に、サフィーネも珍しく焦れたようで、シュウに直接、事情を問い質しにかかった。シュウがその事情を知っていたのかいなかったのかは、使い魔たるチカにもわからない。けれども、知っていたとしても同じ態度を取ったに違いないシュウは、――さあ……。とだけ呟き、それ以上は話を聴く必要もないとばかりに、いつもと同じように書物をつまびらくと、自分だけの世界に没頭してしまった。
 
だからこそチカは、何も見ず、何も訊かず、天井の梁にてその身を休めていたのだけれども――。

 
その夜半のことだった。
 
チカの寝床は応接間の一角と決まっていたし、めいめいが個人のプライバシーを求めてだろう。邪神一行とも揶揄されるシュウたちであっても、そこはサフィーネを除けば元王族ばかり。彼らはそれぞれの個室にこもって、ひとりの時間を過ごすか、寝室とするのが常だった。
 
仲睦まじく集っているように見えても、かしずかれることに、また、必要以上に構われないことに慣れてしまっている彼らは、他人が思っている以上に群れるのを嫌がっているように、チカには思えてならなかった。だから、だろう。夜半に応接間まで響いてきた独り言のような声音が、やけに耳に障ったのは。
 
静かな安らぎの時間を、突如として破ったその声の持ち主がモニカであることに気付くまで、暫しの時間が必要だったのは、その声が思った以上に聴き取り難い大きさだったからだ。深い睡眠に落ちていれば気付かなかっただろう声の主を求めて、チカが応接間を出てみれば、薄く開いた主人の部屋の扉から薄明かりが洩れている。
 呑気で鈍感な面が目立つテリウスはさておき、シュウのことともなれば、獣以上の嗅覚を発するサフィーネが何も気付かずにいるのはおかしいと、閉ざされた扉の向こうを窺うも、僅かな寝息も聞こえてこないのだから、恐らくは情報収集という名の遊びに出かけたのだろう。シュウはサフィーネのそうした癖を、大いに助けられている部分があるからだろう――表立って非難はしなかったけれども、快くは思っていないようで、サフィーネが出掛けると聞いては、僅かながらも柳眉を細めて見せたものだった。
 サフィーネもそうしたシュウの本心に気付いていると見えて、夜半を過ぎ、全員が寝静まる頃を見計らって出掛けるのが習わしになっていたのだけれども、今日ばかりはそれが裏目に出てしまったのではないかと、シュウの部屋の扉の隙間から、内部を窺ったチカは思わずにいられなかった。
 
 

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