昨日から今日にかけての埼玉は本当に寒くて、私はコタツの中に篭ってダメ人間生活を満喫しているのですが、皆様のお住まいの地域は如何でしょうか。師走を迎えて、そろそろ本格的な冬の到来を迎えた気がします。
だらだら続いたこのお話も、残り二、三回ほどで終わりを迎えます。今回、もうちょっと白河とザッシュは歩み寄れるんじゃないかと淡い期待をしていたのですが……そんな回です。今回の更新分はいつも以上に長いのでお気を付けください。
そういや、スパクロのイベントの時にセニアがシュウのことを「従兄弟」と言っているのですが、間違いですよねえ。私、自分がこの年齢まで勘違いしていたのかと思って、調べ直してしまいましたよ。(年齢的にシュウが上の男でセニアの方が下の女になるので従兄妹が正しいのです)
ぱちぱち有難うございます! 本当に励みとなっております!(*´∀`*)
だらだら続いたこのお話も、残り二、三回ほどで終わりを迎えます。今回、もうちょっと白河とザッシュは歩み寄れるんじゃないかと淡い期待をしていたのですが……そんな回です。今回の更新分はいつも以上に長いのでお気を付けください。
そういや、スパクロのイベントの時にセニアがシュウのことを「従兄弟」と言っているのですが、間違いですよねえ。私、自分がこの年齢まで勘違いしていたのかと思って、調べ直してしまいましたよ。(年齢的にシュウが上の男でセニアの方が下の女になるので従兄妹が正しいのです)
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<ボタンの行方~PRIVATE LIPS~>
「何だ、知らなかったのか?」
ファング=ザン=ビシアスは、意外といった表情で、格納庫《ハンガー》に納めたジェイファーから降りてきた。どんな魔装機であろうとも乗りこなせる気《プラーナ》を持つファングは、テストパイロットとして、魔装機の調整や開発に携わる機会が多い。
暇をしているなら付き合え、と愛機の調整に訪れたマサキを誘って、ファングが調整の済んだジェイファーの稼働テストにサイバスターを狩り出したのが先ほどのこと。調整待ちとはいえ、そこは正魔装機の頂点に君臨する風の魔装機神。Bクラスの魔装機が相手とあっては、下手に反撃をしようものなら、修理が必要となるレベルのダメージを与え兼ねない。結果、マサキは動く標的の役割ぐらいしか果たせなかったものの、ファングからすればそれで充分なのだという。「グラフドローン相手ではな。反応速度の遅さもあって、どうしても調整に詰めの甘さが出る」
演習場から格納庫に戻る道すがら、あまり他人の噂話といった低俗な話題に口を挟みたがらないファングにしては、珍しくもザッシュに齎されている縁談につい自ら話題を振ってきた。
クーデターを目論んだことによって反逆者の烙印を押されてはいるものの、混乱状態にあったラングランの平定に多大なる貢献をしたザッシュの父、カークス前将軍のその働き自体は高く評価されており、軍内部にも未だに多くの信奉者《シンパ》が存在しているほどだ。その嫡男であるザッシュの動静に注目が集まってしまうのは致し方ないこと。ましてや最初の見合いの相手がゼノサキス家の遠縁とあっては――。そこまでファングの話を聞いたマサキは、そこでようやく「それは初耳だ」と口を挟んだのだ。
「俺の耳にまで届いたぐらいだから、お前たちは当然知っているものだと思っていたが」
「見合いをするとは聞いてたが、それがいつだとか、相手が誰だとかまではな」
マサキも格納庫に納めたサイバスターから降りつつ答える。人懐こい性格に見えても、他人との付き合いに一線を引くことを知っているザッシュ。彼は基本的に他人に自分の事情を語ったり相談したりといったことをしない人間だ。その友情を超えた好意がなければ、マサキとて、今回のザッシュの決心について、本人から直接話を聞けたりはしなかっただろう。
「しかし、ゼノサキス家の遠縁か。どれだけ末広がりな家系なんだよ。うじゃうじゃ遠縁が湧いて出てきやがる。しかも、プレシアとザッシュが縁続きになるかも知れない? 流石にちょっと思うところが出てくるな」
「お前とも縁続きになるんだがな、ランドール。ザッシュの何が不満だ。父親の威光に溺れず、謹厳実直に育った好青年だ。しかも人好きのする素直な性格をしている。そのくせ職務には忠実だ」
「世界が狭く纏まっちまうのはな。親類縁者が魔装機操者で固まるような状況はあんまり良くないだろ。所詮はそういうものだと、他国民なんかには思われちまう。それじゃ魔装機の抑止力に意味がなくなる」
「だからこその地上人の血の混入でもあるのだろう。まあ、魔装機計画を主導したのがラングランである以上は、どういった形であれそういった批判は避けられない。そこは諦めるんだな」
口ではこうも通り一遍の理由を述べてみせたものの、マサキの本音は違う。家の思惑が絡む縁談である以上、まさかザッシュが選べた相手でもないだろうが、結婚相手の候補としてのゼノサキス家の登場にマサキは動揺していた。もし、この話が纏まろうものなら、今後はザッシュと親族付き合いをしてゆくことになるのだ。
ザッシュはマサキとの縁《よすが》欲しさに、相手への感情を抜きにして、その家名だけで結婚を決めてしまうかも知れない。そのぐらいの危うさがザッシュにはあるように、マサキには感じられて止まない。
セニアもシュウも、どちらもザッシュの想いに応えないことが優しさだという。マサキとてそのぐらいは理解している。元々応える気すらないのだ。けれども、魔装機操者としての繋がりから一歩踏み込んだその立場は、逆に、延々同じことを繰り返させる羽目にザッシュを陥らせはしまいか。それとも、それはマサキの杞憂でしかなく、ザッシュ本人は既にそういった迷いすら捨てた次元にいるのだろうか。
ひとつを手に入れれば次が欲しくなる。ふたつを手に入れればまた次が欲しくなる。恋や愛といったものに不器用だったマサキは、シュウに出会って、その扉を開いたことで知ってしまったのだ。その奥に終わりのない欲望が続いていることを。そしてそれが、人をままならないほどに貪欲にさせることも。
だからこそザッシュの行動にわかってしまうことが増え、だからこそザッシュの行動に目を瞑らなければならないことも増えた。
マサキは目を瞑ることにしたのだ。如何に家の為に自分を犠牲にするザッシュの選択が気に入らなくとも、期待させるような真似をしてはならない。そうセニアとシュウに諭されたからこそ、マサキは自分の在り方を曲げてまで、ザッシュの縁談話を行く末をただ見守ろうと決めたのに。
プレシアや自分にも関わってくるかも知れない事態となっても、口を挟まずにいる方が正解なのだろうか。マサキにはどうしたらいいのかわからない。
「どうするんだろうな、ザッシュは」
「どうだろうな。お互いの家同士は乗り気らしいと聞くが、こういうものは本人同士の気持ちあってのものでもあるのだろう? まあ、この話が駄目になったとしても困らないくらいの量の縁談が舞い込んでいるとも聞く。ザッシュの目出度い話が聞けるのも、そう遠くない日なのかも知れないな」
「それでは、今日はこの辺りで」
デュラクシールの後継機の開発についての専門的な話は一時間ほどに及んだ。今年の異常気象の数々は、温暖な気候を常とするラングランだからこそ、どんな過酷な環境にも耐えうる機体を作り上げる為のテスト環境として、願ったりなものであるらしい。前回、情報局《ここ》で彼と顔を合わせた時とは異なり、軍のトラックでここまで足を運んでいるザッシュは、今回の話し合いに役立てられるデータの提供は出来なかったものの、やはりセニアとしては隙の大きい作りの機体の異常気象下での挙動データが気になるところらしい。近く天候を見て、集団演習を行うようにとの命を受けた。
ゆったりとした動作で彼が椅子から立ち上がる。差し向かいになって腰を落ち着けていたセニアも、それに伴って席を立つ。
「今度はあなたから連絡を頂けることを願ってますよ、セニア」
「その前にあなたが痺れを切らして来なきゃいいだけの話でしょうよ。果報は寝て待て。あたしから連絡がくるのを、気長に待とうって気にはならないのかしらね」
「アキレウスとて、亀に追い上げて来られては気にならない筈がない。どんな機体が出来上がるのか、これでも私は期待しつつ、脅威にも感じているのですよ。ですから、これからも気が向いたら足を運ぶことがあるでしょうね」
前を往く彼の少し後をセニアが付いて来る形で、ふたりでこちらに向かって来る。執務室の扉前。足を止めた彼にザッシュは道を譲った。「どうぞ、お気を付けてお戻りを」
「先日はお世話になりました、ザシュフォード」
「こちらこそ返礼品まで用意して頂いて。仲間と嗜ませて頂きました。有難うございます」
頭ひとつは高い彼を見上げながら、ザッシュはワインの礼を述べた。
決して温和とは呼び難い冷ややかな眼差しがザッシュを見下ろしている。それともそれは、切れ長の彼の目尻の所為でそう見えるだけなのだろうか? 元来が剣の立つ顔立ちをしている彼の表情から、その心境を汲み取るのは難しい。
けれども、それは、決して快さから来る表情ではないのだろう。
彼はマサキに対して好意を抱く誰に対してもこういった態度を取ってみせるのだろうか? ザッシュは思う。その割にはそういった話を、ウエンディやリューネから聞いたことがない。
リューネはあの通りの細かいことに拘らない性格だからこそ、彼のこういった遠回しな嫌味そのものに気付いていない可能性があるが、不世出の才女と謳われる練金学士のウエンディは、その聡さで的確に彼の気分を察してみせるに違いない。
にも関わらずの不聞達。内容が内容だけに、彼女らが言葉にするのを憚っている可能性もあるにはあるが、彼女らとて彼のマサキに対する執着心には気付いている様子。ザッシュとしては、自分ばかりが――と、いう思いが拭えない。自分はそんなに彼の気に障ることをしてしまったのだろうか?
「あなたたち、付き合いがなさそうな割には、何だかんだで親交があるのね。この間もボタンがどうのこうのって話をしていたし」
意外そうなセニアの言葉に少しだけ眉を動かしてみせると、それを打ち消すように、ふふ……と彼は嗤った。そうですね。短くそうとだけ呟くと、「では、また来月辺りにでも」扉に手を掛ける。
「今度は連絡を入れてから来て頂戴」
そのまま振り返ることなく執務室を後にした彼に、ザッシュはようやく小さく息を吐く。気疲ればかりが増していく。彼に張り合うのはそれだけ気の入ることであるのだ。感情が昂ぶっている時でもなければ、前回のボタンのように自分の意地は通せない。
よくぞああいった気難しい性質の人間と付き合っていけるものだ……従兄妹として子供の頃から親しんでいるセニアはさておき、日頃のマサキを見ている分には、どこかでそういった性質である彼との付き合いを投げ出してしまいそうにも感じるものだが、そこはやはり、彼らにはまだまだ隠された表情があるということか。
ちらりと、マサキのそういった顔を見たい衝動が、ザッシュの中に顔を覗かせる。諦めようと思って諦め切れれば苦労はいらないのだ。暫くは、自分のこういった感情と戦い続けなければならないのだろう。ザッシュは意志の力でその衝動を押さえ込む。
「お疲れ様、ザッシュ。直ぐに警備解除の報せもくるだろうし、あなたも紅茶でも飲む?」
「お気遣い有難うございます。ですが、まだ任務中ですので。すみません、気の緩みを見せしてしまったようで」
「気にしないで頂戴。大事にしたのは情報局《うち》の連中なのだから」セニアは卓上の電話機の内線を使って新しい紅茶をふたり分頼むと、ザッシュに席を勧めてきた。「座りなさい、ザッシュ。あなたにはいつも面倒事を引き受けて貰っているのだし、日頃の働きだってあるわ。少しぐらい息抜きをしても誰も咎めはしないでしょう」
任務解除の報せを受けていないザッシュとしては、その最中に身体を休めるのは、他の兵士たちの手前遠慮したくもあったが、如何に王位に絡まぬとはいえ王女たるセニアの命令でもある。ザッシュは躊躇いがちに勧められた椅子に腰を収めた。先程まで彼が座っていた椅子だ。
「しかし、我が従兄妹ながら面倒臭い性格よね。あれと付き合うのは疲れるでしょう、ザッシュ」
「先程も言いました通り、個人的な付き合いがある訳ではありませんので。少し前に城下の酒場で顔を合わせた際に、食事の代金を僕が持ったぐらいです。そのお礼に高価なワインを何本か頂いてしまって。本当にその程度ですよ、セニア様」
「へえ、ちゃんと人間らしい付き合いが出来るのね。あの男、あたしに手土産なんて一度も用意してきたことがないのよ。情報局をタダでティータイムが出来る施設と勘違いしてるんじゃないかしら」
「お待たせしました、セニア様」情報局の職員が紅茶の乗ったトレーを手に、執務室に姿を現す。彼からティーカップを受け取ったザッシュは、セニアに勧められるのを待ってから、その中身に口を吐けた。15℃の気温差という予報の割には、まだそこまで外の気温は上がりきっていないのだろう。暖房の入った室内が心地いい。「それでは、失礼致します。ザシュフォード様、どうぞごゆっくり」
「それは従兄妹だからこその気安さではないでしょうか。僕も親しい友人たちには甘えてしまいますし」
扉が閉まるのを待ってからザッシュは話の続きを口にする。大した内容ではないにせよ、セニアと彼のプライベートに絡む話である。余り多くの人間に聞かれていいものではないだろう。
「親しき仲にも礼儀あり、なのだけれどもね。貢がれることにばかり慣れてしまっては、一般社会では生きていけないでしょう? 自由が欲しいと言う割には、結局、そういった過去の人間関係も精算しきれていない訳だし、要はあの男、義務に対する責任を放棄したかっただけなんじゃないかしら」
「|ノブレス・オブリージュ《高貴たる者の責務》ですね」
「そうそう。その辺、どう考えているものだか聞いてみたいものだわ。きっと、あの男のことだから、詭弁を弄して誤魔化しに走るんでしょうけど」
けれどもそういった従兄妹の有り方を、セニアは否定しようとは思っていないのだろう。ああいう人間がいてもいい。そう言いながら愉し気に笑ってみせる。
「それにしても、あなたがお見合いで結婚相手を決めようんて思う日が来るとはね」
「夢ばかり追っていても仕方がありませんしね。現実世界の時間が止まってくれればいいのですが、実際はそういう訳にもいきませんし。誰だって、どこかでは自分の気持ちに踏ん切りを付けなければならない日が来るものでしょう。違いますか、セニア様」
「あなたがお見合いなんてものに手を出すのはもっと先のことになると思っていたのよ。家を継いでからの選択肢のひとつになるんじゃないかってね。案外、あなた現実主義者《リアリスト》だったのね、ザッシュ」
「どうでしょうね。夢想家《ロマンチスト》でいることに疲れてしまったのかも知れません」
「魔装機の操者をやっているぐらいだもの。あなたが見た目に不釣合いな激情家だってこと、あたしは知っているつもりよ」
「そんなことはありませんよ。僕は未知なるものには臆病な性質なんです。セニア様の評価通りの人間だったら、とうに結婚相手ぐらいは見付かっているんじゃないでしょうか」
「その割には、誰も彼も独身生活を謳歌していること!」
一向に艶っぽい展開にならない魔装機操者たちの関係を思い浮かべたのだろう。セニアはそう声を上げて、困ったことと苦笑してみせる。
誰が誰を好きだの嫌いだのといった話を聞く割には、中々進展が見られないのが自分たち魔装機操者だ。それはまるで日溜まりの中に留まり続けるように、居心地のいい関係を保ちたい気持ちから来るものでもあるのだろう。
十六体の正魔装機を駆る十六人の仲間。リューネを加えれば十七人もに及ぶ仲間たち。精霊に選ばれた烏合の衆にも連帯感は存在しているのだ。
一歩を踏み出した瞬間から仲間ではいられなくなる。それは十七人の結束感を揺らがせる結果になりはしないか? ザッシュがマサキに自分の恋心を伝えることを躊躇い続けたのは、彼の存在も勿論あったが、それ以上に、自分の気持ちが仲間内のパワーバランスを崩しかねない危ういものであることを自覚していたからだ。
「いつまでも地上にいる人たちを召還し続ける訳にも行かないし、出来れば彼らには子孫を残して欲しいのだけれどもねえ。当人たちがあれじゃ。ねえ、ザッシュ。あたしはあなたに期待をしてしまってもいいのかしら?」
「そういうつもりで持ち込まれる縁談に応じているつもりです。ただ、僕個人としては、自分の子どもらには、先ず軍属の世界で父の遺志を継いで欲しいと願っていますが」
「あなたのその物分りの良さなのよね、心配なのは。どこかで道を踏み外しそうな気がしてしまうのよ。だから、もっと自分自身の気持ちを大切にして、足掻いてみてもいいんじゃないかってね、あたしなんかは思ってしまうのだけれども。それとも、もうそういう気持ちは捨ててしまったのかしら」
あのままリューネを好きでいられればよかったとザッシュは思うことがある。そうすれば、どうにもならない袋小路に自分を追い込んでしまうことはなかった。自分の進むべき未来。その伴侶として得られる可能性だってゼロとは言い切れなかった。親族だって、彼女の気持ちさえザッシュに向いてくれれば、ヴァルファレビア家の嫁としての資質は申し分ないと言ってくれていたのだ。
人間の気持ちほど、ままならないものはない。
お見合いの席でゼノサキス家の遠縁でもある彼女と顔を合わせたザッシュは、その動作や話しぶりを逐一マサキと比べてしまっていた。病膏肓に入るとはこのことだ。諦めようとすればしただけ、鮮明に自分の心に残り続ける。それを、いつかはあんな情熱があったと、リューネが好きだった日々を思い返すように振り返れる日が来るのだろうか。
ザッシュにはわからない。未来見でもない以上、先のことなど、誰にも見通せはしないのだ。
「未来を選択するのは、いつだって自分の力です。迷い悩むことがあっても、進むべき未来が決まっている以上、僕はそれに逆らおうとは思いませんよ、セニア様」
「何て模範的な解答かしらね、ザッシュ! あの男に聞かせてやるべきだったわ!」
だからこそそう言うしかないザッシュに、セニアは心底悔しそうにそう叫ぶと、苦々しげな表情で、ティーカップに残った紅茶を一気に飲み干した。
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