埼玉出身のジャニーズといえば森田くん。その森田くんの退所が決まったので予告通りに書きます。とはいえ、大半は元夫の弟への愚痴で埋め尽くされています。悪しからず御了承ください。
私の記憶用でもあるので(この辺の記憶が全部吹っ飛ぶのです)読まなくて結構です。
私の記憶用でもあるので(この辺の記憶が全部吹っ飛ぶのです)読まなくて結構です。
私は苛立っていた。
二十代も半ばを過ぎたある日のことだ。今は無きグッドウィルの派遣に登録していた私のその日の現場は、何度も派遣された春日部のR運輸だった。通う内に社員さんからの覚えも目出度くなり、仕事をする上では何の不安もない筈の現場。そこに向かう道すがら、私が苛立っていたのには理由がある。
光一だ。
春日部の駅から徒歩四十分ほどかかる現場まで、他の派遣事務所はバスだのタクシーだのを出してくれたりもしていたものだったが、流石は後にその悪名の高さで取り潰しになった会社だけはある。グッドウィルは徒歩で四十分歩いて現場に向かえと来たものだ。仕事前に疲れ果ててしまいたくない私は、どちらかと云うとこの道のりを黙々と歩く方だった。
「かあさん、それでね……」
いつまで経っても終わらない光一の話。歩き始めてからずっとこう。延々一方的に話し続けている。私の友人が私に話しかけてきても話に割って入って自分の話に戻してしまう。そんな光一に、私は苛立ちを隠せなくなりつつあった。
「今からそれじゃ、あなた仕事を始める前に疲れてしまうわよ」と、やんわりと遠回しに注意をしてみたものの、「大丈夫」と聞かない。それもそうだ。ステージ上を駆け回るジャニーズアイドルと一般人では元々の体力に違いがある。
昔からこうだった。光一は私の関心を引きたくなると一方的に話を始める。
赤ん坊の頃からその片鱗はあった。あやせ、顔を見せろ、声を聞かせろとあーあー泣く。発語を覚えたら自分を見てろと「まま、まま」。それでもこの頃はよかった。面倒をみてさえいれば大人しい子だったからだ。
物心ついた六歳から酷くなった。私が光一の話に感想を一言云おうものなら数十倍になって返ってくる。口を挟む隙が殆どない。ただ一方的に光一の話を聞かされるだけの状態に「この会話に意味があるのだろうか」と思い悩んだ私が、「あなた、壁に向かって話をしたら?」と云ったら、「それじゃ意味がないでしょ。かあさんじゃなきゃダメなの」と云う。
仕方がないので、きっと今日あったことを母親に報告する子供というのはこういうものなのだ、と自分に言い聞かせて、光一のマシンガントークに耐えることにした。
しかしそれも昔のこと。年齢を重ねるに従って、会話が成り立っていると感じるぐらいには、光一は私の話を促すようになったし聞くようにもなった。だのに。
(……社会科見学の子供の気分なのかしら?)
ああ、うん、ええ、そうね。こんな返事しかしていないにも関わらず止まらない光一の話。それもどうしようもなくどうでもいい話。「ねえ、かあさん。あそこの高い建物見てよ。あれ〇〇に似てない?」このレベルの話が延々何十分も続いているのだ。それは光一の一方的な話に慣れている私だって疲れるに決まってる。
話はこの日の前日に遡る。
事務所に給料を取りに行った私は課長に呼ばれて、事務スタッフが仕事をしているブース内に入った。何か仕事で重大なミスが発覚したのだろうか? 心臓をバクバクさせながら課長の前に立つと、課長は開口一番、「堂本光一って知ってる? 向こうはkyoさんの知り合いだって云ってるんだけど」
その瞬間、(やられた!)と思った。少し前に別の現場に長瀬くんたちを連れて来てしまっていたばかりだ。また、また、この子は……高校を卒業してからというもの、私の勤務先に逐一姿を見せに来る光一を私は理解できずにいた。
販売促進のアルバイトに始まって、TSUTAYA、クレカの営業……働いている姿を見に来るだけならまだいいのだ。この子の恐ろしいところは私の職場の上司と仲良くなってしまうところ。一緒にランチをしていたこともあったし、剣道を教わっていたこともあった。
意味がわからない。
でも今回はその日で現場が変わる派遣だし、流石に光一も今までのようには……と思っていたらまさかの正面突破である。もういっそここで惚けた方が私の精神衛生上いいのではと思ったものの、事務スタッフの視線が私に集まってしまっている。
知ってますけど。諦めてそう云うと、「うちで働きたいって云ってるんだけど」と、世にも恐ろしい言葉が返ってきた。ぶっ倒れそうになるのを必死に堪えている私に課長は続けて、「それで明日の現場を一緒にしたから。なるべく同じ作業に入れるように云ってあるから、頼んだよ」と続けてきた。
これに深い意味があることを、この時の私は気付いていなかったのだ。
小煩い光一の話に付き合い続けて四十分。ようやくR運輸に着く頃には、私はすっかり疲れてしまっていた。だからといって帰ります、という訳にも行かない。休憩所に荷物を置いて、倉庫内に向かった。
知っている人間が他にいない以上、仕方がないとはいえ、二十歳を超えたいい男が私にべったり。移動も朝礼も。おまけに折角、男女で仕事が別になったにも関わらず、トイレにまで付いて来る。そんな光一に午前中だけで私は精神力を削られてしまっていた。
それでもお昼を迎える頃には仲良くなったスタッフが出来たようだ。「みんな俺のことを普通に扱ってくれる」嬉しそうにそう云って、その仲間たちとお弁当を食べていた。
「ジャニーズと云えば、森田くんもうちで働いているんですよ」
その昼休みも中頃。普段はあまり私たち派遣スタッフとプライベートな話をしない社員さんが、珍しくもそんな話をしてきた。何でも実家が近くにあるらしく、小遣いを稼がせて欲しいと来たのだそうだ。
森田くんが早い段階で親に家を建ててあげた話は有名で、春日部からはかなり離れた場所に住んでいる埼玉県民の私でも耳にしたことがある。遊んでいるという噂もあったけれど、孝行息子としての評判も高かった。だからきっと、その話を、R運輸の社員さんたちも知っていたのではないだろうか。
普通にアルバイトをするにも、空き時間が不規則な芸能人。そういった事情ならと、R運輸は森田くんを受け入れた。それからジャニーズの仕事がない日に、ぽつりぽつりと働いているらしい。
「運が良ければ会えるかも知れませんね」
そんな偶然はねーわ。冷めた態度の私とは裏腹に、女の子たちは喜ぶこと喜ぶこと。森田くんはさておき、光一のどこがいいんだろうなあ……生まれる前から光一を知っている私には、彼女らが喜ぶ理由が理解出来なかった。
午後は倉庫の一階でパッキン作りを光一と一緒にやることになった。私は光一をこき使った。というか、女の子たちが張り切っていいところを見せようと頑張った結果、最後尾の光一がこき使われる結果になった。多分、私は悪くない。
その最中、不意に光一が声を上げたのだ。「森田くん!」えー?流石にその偶然はないでしょ。そう思いながら光一が視線を向ける先を見ると、隣のブロックに積み上げられたダンボール箱の影に小柄な男性らしき人物が姿を消すところ。
テレビで見るよりもずっと小さく感じた人影に、「本当に森田くんだったの?」と聞くと、「間違いないよ。俺、顔見たもん」との返事。
「何で、森田くん逃げちゃったんだろ。俺だってわかった筈なのに」
流石にその理由は私にはわからない。強いて云うなら、いると思わなかった人物がいることに驚いてしまったぐらいではないだろうか。後は、光一はさておき、一緒にいる女の子たちに気付かれたくなかったぐらい。
きっと静かに仕事をしたかったのだろう。そう私は思ったものの、光一は納得が行かないらしくしきりと首を捻っていた。
それから数日と置かずに光一から連絡があった。森田くんにあの日の行動の理由を聞いたのだそうだ。「俺がいると思わなかったから、驚いて逃げちゃったんだって」あ、やっぱりそうなんだ。そう思いながらも、テレビでの彼のキャラクターとは異なる行動が、少し意外に感じられたものだった。
そんなシャイな一面を持つ森田くんも退所が決まった。
数年前、入院している時に暇潰しに読んでいた病院に置かれていた雑誌では、芝居に熱を上げている様子だった。森田くんは、恐らく内向きな子なのだ。評価の高い役どころを見ても、そう思う。
埼玉出身のジャニーズで他の有名どころというと、元になってしまうが山口達也がいる。彼の地元での評判は、私の友人に聞いたところ、芳しくないものばかりだったようだ。それはやっかみだけではないようにも思える。
火のないところに煙は立たないのだ。
だから私は積極的なファンではないけれども、森田くんのことは心の中でこっそり応援していた。評判の孝行息子。親を大事にしてきた彼は、今度は新しくできた家族を大事にしていると聞く。
どうか、これからの森田くんの人生に幸多からんことを。
ちなみに、地道に倉庫作業で小遣い稼ぎをしている森田くんを目の当たりにしたにも関わらず、光一ときた日には「割に合わない」とグッドウィルへの参加を一日で止めてしまった。そりゃあ、私だって森田くんを応援しますよ。若い頃の苦労をちゃんとしているのですもの!
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二十代も半ばを過ぎたある日のことだ。今は無きグッドウィルの派遣に登録していた私のその日の現場は、何度も派遣された春日部のR運輸だった。通う内に社員さんからの覚えも目出度くなり、仕事をする上では何の不安もない筈の現場。そこに向かう道すがら、私が苛立っていたのには理由がある。
光一だ。
春日部の駅から徒歩四十分ほどかかる現場まで、他の派遣事務所はバスだのタクシーだのを出してくれたりもしていたものだったが、流石は後にその悪名の高さで取り潰しになった会社だけはある。グッドウィルは徒歩で四十分歩いて現場に向かえと来たものだ。仕事前に疲れ果ててしまいたくない私は、どちらかと云うとこの道のりを黙々と歩く方だった。
「かあさん、それでね……」
いつまで経っても終わらない光一の話。歩き始めてからずっとこう。延々一方的に話し続けている。私の友人が私に話しかけてきても話に割って入って自分の話に戻してしまう。そんな光一に、私は苛立ちを隠せなくなりつつあった。
「今からそれじゃ、あなた仕事を始める前に疲れてしまうわよ」と、やんわりと遠回しに注意をしてみたものの、「大丈夫」と聞かない。それもそうだ。ステージ上を駆け回るジャニーズアイドルと一般人では元々の体力に違いがある。
昔からこうだった。光一は私の関心を引きたくなると一方的に話を始める。
赤ん坊の頃からその片鱗はあった。あやせ、顔を見せろ、声を聞かせろとあーあー泣く。発語を覚えたら自分を見てろと「まま、まま」。それでもこの頃はよかった。面倒をみてさえいれば大人しい子だったからだ。
物心ついた六歳から酷くなった。私が光一の話に感想を一言云おうものなら数十倍になって返ってくる。口を挟む隙が殆どない。ただ一方的に光一の話を聞かされるだけの状態に「この会話に意味があるのだろうか」と思い悩んだ私が、「あなた、壁に向かって話をしたら?」と云ったら、「それじゃ意味がないでしょ。かあさんじゃなきゃダメなの」と云う。
仕方がないので、きっと今日あったことを母親に報告する子供というのはこういうものなのだ、と自分に言い聞かせて、光一のマシンガントークに耐えることにした。
しかしそれも昔のこと。年齢を重ねるに従って、会話が成り立っていると感じるぐらいには、光一は私の話を促すようになったし聞くようにもなった。だのに。
(……社会科見学の子供の気分なのかしら?)
ああ、うん、ええ、そうね。こんな返事しかしていないにも関わらず止まらない光一の話。それもどうしようもなくどうでもいい話。「ねえ、かあさん。あそこの高い建物見てよ。あれ〇〇に似てない?」このレベルの話が延々何十分も続いているのだ。それは光一の一方的な話に慣れている私だって疲れるに決まってる。
話はこの日の前日に遡る。
事務所に給料を取りに行った私は課長に呼ばれて、事務スタッフが仕事をしているブース内に入った。何か仕事で重大なミスが発覚したのだろうか? 心臓をバクバクさせながら課長の前に立つと、課長は開口一番、「堂本光一って知ってる? 向こうはkyoさんの知り合いだって云ってるんだけど」
その瞬間、(やられた!)と思った。少し前に別の現場に長瀬くんたちを連れて来てしまっていたばかりだ。また、また、この子は……高校を卒業してからというもの、私の勤務先に逐一姿を見せに来る光一を私は理解できずにいた。
販売促進のアルバイトに始まって、TSUTAYA、クレカの営業……働いている姿を見に来るだけならまだいいのだ。この子の恐ろしいところは私の職場の上司と仲良くなってしまうところ。一緒にランチをしていたこともあったし、剣道を教わっていたこともあった。
意味がわからない。
でも今回はその日で現場が変わる派遣だし、流石に光一も今までのようには……と思っていたらまさかの正面突破である。もういっそここで惚けた方が私の精神衛生上いいのではと思ったものの、事務スタッフの視線が私に集まってしまっている。
知ってますけど。諦めてそう云うと、「うちで働きたいって云ってるんだけど」と、世にも恐ろしい言葉が返ってきた。ぶっ倒れそうになるのを必死に堪えている私に課長は続けて、「それで明日の現場を一緒にしたから。なるべく同じ作業に入れるように云ってあるから、頼んだよ」と続けてきた。
これに深い意味があることを、この時の私は気付いていなかったのだ。
小煩い光一の話に付き合い続けて四十分。ようやくR運輸に着く頃には、私はすっかり疲れてしまっていた。だからといって帰ります、という訳にも行かない。休憩所に荷物を置いて、倉庫内に向かった。
知っている人間が他にいない以上、仕方がないとはいえ、二十歳を超えたいい男が私にべったり。移動も朝礼も。おまけに折角、男女で仕事が別になったにも関わらず、トイレにまで付いて来る。そんな光一に午前中だけで私は精神力を削られてしまっていた。
それでもお昼を迎える頃には仲良くなったスタッフが出来たようだ。「みんな俺のことを普通に扱ってくれる」嬉しそうにそう云って、その仲間たちとお弁当を食べていた。
「ジャニーズと云えば、森田くんもうちで働いているんですよ」
その昼休みも中頃。普段はあまり私たち派遣スタッフとプライベートな話をしない社員さんが、珍しくもそんな話をしてきた。何でも実家が近くにあるらしく、小遣いを稼がせて欲しいと来たのだそうだ。
森田くんが早い段階で親に家を建ててあげた話は有名で、春日部からはかなり離れた場所に住んでいる埼玉県民の私でも耳にしたことがある。遊んでいるという噂もあったけれど、孝行息子としての評判も高かった。だからきっと、その話を、R運輸の社員さんたちも知っていたのではないだろうか。
普通にアルバイトをするにも、空き時間が不規則な芸能人。そういった事情ならと、R運輸は森田くんを受け入れた。それからジャニーズの仕事がない日に、ぽつりぽつりと働いているらしい。
「運が良ければ会えるかも知れませんね」
そんな偶然はねーわ。冷めた態度の私とは裏腹に、女の子たちは喜ぶこと喜ぶこと。森田くんはさておき、光一のどこがいいんだろうなあ……生まれる前から光一を知っている私には、彼女らが喜ぶ理由が理解出来なかった。
午後は倉庫の一階でパッキン作りを光一と一緒にやることになった。私は光一をこき使った。というか、女の子たちが張り切っていいところを見せようと頑張った結果、最後尾の光一がこき使われる結果になった。多分、私は悪くない。
その最中、不意に光一が声を上げたのだ。「森田くん!」えー?流石にその偶然はないでしょ。そう思いながら光一が視線を向ける先を見ると、隣のブロックに積み上げられたダンボール箱の影に小柄な男性らしき人物が姿を消すところ。
テレビで見るよりもずっと小さく感じた人影に、「本当に森田くんだったの?」と聞くと、「間違いないよ。俺、顔見たもん」との返事。
「何で、森田くん逃げちゃったんだろ。俺だってわかった筈なのに」
流石にその理由は私にはわからない。強いて云うなら、いると思わなかった人物がいることに驚いてしまったぐらいではないだろうか。後は、光一はさておき、一緒にいる女の子たちに気付かれたくなかったぐらい。
きっと静かに仕事をしたかったのだろう。そう私は思ったものの、光一は納得が行かないらしくしきりと首を捻っていた。
それから数日と置かずに光一から連絡があった。森田くんにあの日の行動の理由を聞いたのだそうだ。「俺がいると思わなかったから、驚いて逃げちゃったんだって」あ、やっぱりそうなんだ。そう思いながらも、テレビでの彼のキャラクターとは異なる行動が、少し意外に感じられたものだった。
そんなシャイな一面を持つ森田くんも退所が決まった。
数年前、入院している時に暇潰しに読んでいた病院に置かれていた雑誌では、芝居に熱を上げている様子だった。森田くんは、恐らく内向きな子なのだ。評価の高い役どころを見ても、そう思う。
埼玉出身のジャニーズで他の有名どころというと、元になってしまうが山口達也がいる。彼の地元での評判は、私の友人に聞いたところ、芳しくないものばかりだったようだ。それはやっかみだけではないようにも思える。
火のないところに煙は立たないのだ。
だから私は積極的なファンではないけれども、森田くんのことは心の中でこっそり応援していた。評判の孝行息子。親を大事にしてきた彼は、今度は新しくできた家族を大事にしていると聞く。
どうか、これからの森田くんの人生に幸多からんことを。
ちなみに、地道に倉庫作業で小遣い稼ぎをしている森田くんを目の当たりにしたにも関わらず、光一ときた日には「割に合わない」とグッドウィルへの参加を一日で止めてしまった。そりゃあ、私だって森田くんを応援しますよ。若い頃の苦労をちゃんとしているのですもの!
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