スパロボメンバー(甲児 との話というリクエストだったので、色々なメンバーを出そうとしていたのですが、出来上がったらいつもの甲児&さやか+シュウマサに……
うちの甲児がこんな性格なのは、無印第四次をプレイしてから購入したアンソロで見た女にやんちゃな甲児に影響されてのことです。悪ガキっぽくて好きなんですよねえ。
うちの甲児がこんな性格なのは、無印第四次をプレイしてから購入したアンソロで見た女にやんちゃな甲児に影響されてのことです。悪ガキっぽくて好きなんですよねえ。
<再会の操縦者たち>
空気がその香りを変え、ひんやりと身体を撫でる日も増え始めた九月の半ば頃。気まぐれに地上に出たマサキは甲児の元を訪ね、ふたりで街に繰り出してアミューズメント施設でボーリングに興じた。
「ひっでぇな、甲ちゃん。どうやったら30台のスコアが出せるんだよ」
「そういうお前だって80台じゃねえかよ、マサキ」
やたらと重いボールを投げたがる割には、そのコントロールが大いに怪しい甲児のスコアは散々だったものの、本人としては身体を動かせたことがストレス発散に繋がったらしく、機嫌を損ねることもなく、むしろ上機嫌といった塩梅で、そののちにマサキをファーストフードに誘うと、大きいサイズのポテトを「遊びに来てくれたから」という今どき子供でも言わないような理由で奢ってくれた。
「そういや、今日はさやかさんは?」
「習い事の日だったかな……まあ、俺も毎日一緒にいる訳じゃねえしなあ。っていうかお前も他の連中連れてくりゃあいいのによ。男ふたりだけで遊んでも話が広がらねえっていうか」
「花がねえってはっきり言えよ。あー、やだやだ。男同士だから面白えってこともあんのによ。いつから甲ちゃんはそんな軟派男になっちまったかねえ」
「女を寄越せなんて誰も言ってねえだろ。何でお前は俺をそういう目でばかり見るかね」
「そりゃあ、なあ……当然の帰結っつーか、他に思い浮かぶ理由がねえっつーか……」
ともに戦った日々の中で、マサキは何度か甲児が他の女性|操縦者《パイロット》にちょっかいをかけて手酷い反撃を受けているのを見かけたことがある。
食事に誘ってはつれなく断られ、ボディタッチをしては引っ叩かれ、シャワールームを覗いては、とても言葉では言い表せないような仕打ちを受ける。そんな碌でもない思い出も数多い甲児が、男ふたりでいることを楽しく感じていないのだとしたら、それは女性が不在であるからという理由に他ならない。そう感じてしまうマサキを誰が責められよう。
豪放磊落で色好み。大物の素質を過分に備えた甲児は、そんなマサキの言葉にふと思い至った様子で、「テュッティさんなんかいいよなあ。大人の女って感じで。ああいう女性に手ほどきされたいもんだね」さらりと言い放った。
「何の話だよ、甲ちゃん!」
「お前、そういうところ初心だよね。男のロマンじゃねえかよ。年上美女に手ほどきされながらアレコレ覚えていくのって」
「そういうもんかねえ。日頃のテュッティの生活を見てると、とてもそんな気にはなれねえっつーか」
「リューネもセニアさんも胸がでけえしなあ。ミオだってあれも結構あるタイプだぜ。いいよなあ、マサキは。女に囲まれた生活を送れてさ。俺なんかさやかさんとボスだぜ」
「あのじゃじゃ馬たちを胸だけであれこれしようなんていい度胸だな、甲ちゃん。いいじゃねえかよ。さやかさんの何が悪いんだよ」
放っておけばこの調子でどんどん耳に耐えない話をし始めるに違いない。明け透けな男の打ち明け話が苦手なマサキは、どう話の軌道修正をしようか悩みながらも甲児の話に相槌を打つ。
他人の話を聞くだけならいいのだ。ただそれが見知った人間や自分にまで及ぶとなると話は異なる。身近な人間にはできれば異性を感じないでいたい。マサキは仲間をそういった視線で見てしまうかも知れない自分に気付かされるのが嫌なのだ。
「そりゃあお前、あの胸」
「何の話かしら、甲児くん」
突然降ってきた声に驚いてマサキが顔を上げると、そこには満開の笑みで浮かべて立つさやかの姿。げ、と短く甲児が声を上げた。
白地に薄く浮かび上がる小花柄のワンピースを着て、にっこりと微笑んでみせるさやかの姿は、どこぞの令嬢と紹介しても誰にも疑われはしまい。それだけの品がある。なんでこんないい女をそういう扱いするかねえ。マサキが溜息を漏らす傍で、さやかは容赦なく甲児の耳朶を捻り上げた。
「ちょっとお話しましょう、甲児くん」
「いや、今は、ほら、マサキもいるし……」
「大丈夫よ、外で五分くらいお話しするだけだから。ね、マサキくん?」
その笑顔を一ミリも動かさずにさやかが言ってのける。こんな状態の女性に逆らえる男性がいるなら見てみたい。マサキはさやかの言葉に黙って頷いた。
「じゃあ、ちょっとで済むから待っててね。行くわよ、甲児くん」
きっと短い時間で済む話にはならないに違いない。その清楚な見た目とは裏腹に、さやかには執念深い一面があるのだ。無事を祈るぜ、甲ちゃん。胸の内で両手を合わせながら、マサキが店の外に連れ出されようとしている甲児を見送ろうとしたそのときだった。
「あら……?」さやかの足が止まった。
「珍しいところで会いますね。また、彼が碌でもないことをしたのですか?」
ファーストフード店には不釣合いな姿。地上に出るのに合わせて装いだけはそれなりに変えているものの、こんなに一般人が溢れる場所が似合わない男もそうはいまい。マサキはその姿を認めて、露骨に顔を顰めた。
「こんな素敵な女性を怒らせるような真似ばかりをして。あなたとは一度きちんと話をする必要がありそうですね、兜甲児」
シュウ=シラカワはスーツ姿の妙齢の女性と連れ立って、その入口に立っていた。連れの女性は黒々とした大きい瞳が印象的な美女だ。ゆるくウェーブを描くセミロングの髪が、外からの風を受けてふわりと揺れる。
その女性に先にレジカウンターに行くように促すと、シュウは他の客の迷惑にならないように、入口から少し脇に入った場所で甲児と向き合った。
「で、今度は何ですか? また覗きがバレたのでしょうかね。それとも他の女性を食事に誘ったのがバレたのでしょうかね。それとも……」
「いやいや、誤解ですって。御大尽様。そう、これは全て誤解の積み重ね」
「誤解が聞いて呆れますよ。大体、あなたはいつも碌なことを考え出さない。いつでしたっけね。女性のヌード写真と偽って、艦の乗組員たちに動物のメスの写真を売りつけようとしたことがありましたっけ」
「嘘は言ってませんぜ、御大尽様。あれだって立派な女性のヌード写真でござい」
「甲児くん、私、それ初耳なんだけど?」
ひぃ、さやかに更に耳朶を捻り上げられた甲児が声を上げる。思いがけないシュウの登場で話がややこしくなっているのは明らかだったが、だからといってその話に割って入っていい状況にも思えない。マサキは温くなったコーラを啜りながら、その光景を黙って眺めていた。
「教えてくださって有難うございます。私、ちょっと甲児くんと話をすることがあるので、これで失礼してもいいでしょうか」
「ああ、こちらこそ失礼しました。上手く話がまとまるといいですね、では」
丁度、連れの女性がコーヒーをふたつ買い終えてシュウの元に戻ってくるタイミングだった。さやかはそう言ってシュウに頭を下げると、甲児の耳朶を引っ張ったまま、ついに店の外に出ていってしまった。
ガラス越しに道端で話を始めた甲児とさやかのふたりを見る。開き直っている様子の甲児に詰め寄るさやか。予想通りの展開にマサキは店内に再び目をやった。
シュウと連れの女性は、奥の席に居場所を求めることにしたようだ。
しかし、美人だ。マサキはシュウと連れ立ってこちらに足を進めてくる女性を見遣った。テュッティやウェンディとはまた毛色の違った美人。どちらかというとサフィーネに近く、目鼻立ちがはっきりとしている。筋の通った小鼻に、口紅が映える厚めの口唇。シュウとはどんな関係なのだろう? マサキは考えて、ちくりと胸が痛むのを感じた。
「おや、あなたもいたのですか、マサキ」
テーブルの脇を通りすがるそのときに、シュウは目ざとくマサキの姿を見付けたようだ。話しかけられたものの、マサキはこういったシチュエーションでどういった表情をしたらいいのかがわからない。きっと今の自分は奇妙なまでに取り澄ました表情をしていることだろう。そう思いながら、傍らに女性を連れて立つシュウを見上げる。
「もしかして、男の友情に嫉妬する女性心理でしたか? それだとしたら彼には悪いことをしました」
「安心しろよ。悪いのはどう考えても甲ちゃんだからよ。胸、胸、胸ってうっさかったんだよ。っていうか、お前いいのか? 連れがいるのに俺たちにばかり構って」
「あなたに案じてもらわなくとも大丈夫ですよ。ビジネスの相手ですから。それとも、マサキ」
ふわり。マサキの鼻腔を擽る香水の匂い。いつもと違う匂いに、おやとマサキが思った瞬間。身を屈めたシュウがマサキの耳元で囁く。
「嫉妬しましたか」
一瞬、マサキは言葉に詰まった。ちくりと痛んだ胸。自分はこんな風にシュウの隣には立てないのだという寂しさが、自分の胸を痛ませたのだとマサキはわかっていた。
「誰がそんなことするかよ」
「ふふ……どうでしょうね」端近にあったシュウの顔が離れる。「しかし丁度いいところで会いました。ここで会ったのも何かの縁。帰りに私を地底世界《あちら》に連れ帰ってはくれませんか」
「てめえに立派な足があるのに、何で俺がお前を連れて帰らなきゃ行けないんだよ。てめえの機体を使えよ、てめえの機体をよ」
「私の機体は見付かると色々面倒なことが多いですからね。あなたの機体の方が色々と都合がいいのですよ、マサキ。では頼みましたよ」
それだけ言うと、マサキの返事を待たずに、シュウは店の一番奥の席に例の女性と一緒に収まってしまった。女性は席に着くなり、鞄の中から書類を取り出してそれをシュウに手渡して何事か話し始めた。シュウも書類に目を落としながら、時々、彼女の言葉に何言か言葉を返している。
ビジネス相手というのは本当らしい。目を引く男女二人組のテーブルにしては、まるで艶っぽい雰囲気がない。しかしだからといって、甲児とさやかの修羅場に目を戻すのも――マサキは暫く、シュウのいるそのテーブルを眺め続けていた。
周囲のテーブルに座っている客たちが、ちらちらとふたりに視線を送っている。当たり前だ。これだけの美女と美丈夫の組み合わせで視線を集めない方がおかしい。マサキはそれを当然のものと思いながら、やはり寂しさを拭えずにいた。
「いやあ、誤解が解けてよかった」
ようやく甲児がさやかとともに席に戻ってきたのは、それから十分後のこと。誤解どころか真実しかなかった現場を見られた状態で、一体、何の誤解を解いたのか。マサキがさやかに聞いてみたところ、「勝手に話を切り上げて、さっさと戻ってきちゃったのよ。酷くない、マサキくん」とのこと。
「まあまあ、さやかさん。俺はさやかさんと一緒にいるのが楽しいんだからいいじゃねえか」
「どうだか。さっきはあんなことを言ってたくせにね?」
「なんだかんだでお前らお似合いだよなあ」
所詮は痴話喧嘩。マサキは笑った。夫婦喧嘩は犬も食わないと聞く。だとしたら、マサキがふたりの遣り取りに口を挟まずにいたのは、野暮な真似をしなかったという意味で正解だったのだろう。
そう考えて、マサキはふと思った。男と女はいい。こうして白昼堂々と痴話喧嘩もできれば、仲良く席に収まることもできる。それを周囲の人間は、そういう関係なのだときちんと認識してくれる。
シュウと自分はそういった関係にはなれないのだ。
そう。だからこそマサキは、奥の席に収まっているシュウと例の女性の姿を見て、それがビジネスの相手であるとわかって尚、寂しさを拭えずにいるのだ。
「ところでこれからどうするよ。カラオケでも行くか? それともバッティングセンターにするか? 折角久しぶりに来たんだ。もう少し遊んで行こうぜ、マサキ」
「誘ってくれたところで悪いんだがな、甲ちゃん。俺、ちょっとこのあと用事があって」
シュウに地底世界に送れと言われている。マサキはそこまで言って口篭った。
マサキの返事を待たずに勝手に決めたことを、マサキが律儀に守ってみせる必要はなかったけれども、次にいつシュウと会えるかもわからない。
訊きたいこともある。地上に出てくれば基本的にいつでも会える甲児より、気まぐれにしか会えない男の方が大事だとは、口が裂けても本人には言えないマサキだったけれども、その気持ちを知ったらあの男はどう思うのだろう。
この機会を逃したくない、と思う気持ちが、こうしたときのマサキの歯切れを悪くさせているのだと知ったら。
「付き合い悪いじゃねえかよ。ボーリングで勝ったからって、そのまま逃げようなんて思ってないだろうな、マサキ」
「本当に用事があるんだよ。バッティングセンターもカラオケもまた今度の機会にしようぜ」
「えー。あたし三人で遊ぶの久しぶりだから、話を早く切り上げたのに」
甲児とさやかのふたりにやいのやいの責め立てられても無理なものは無理なのだ。どうふたりを納得させようか悩むマサキの脇を、例の女性が空いたカップをふたつ載せたトレーを片手に通り過ぎて行った。
「終わりましたよ、マサキ。そちらはまだ時間がかかりそうですか」
「おや、御大尽。マサキと何かなさるおつもりで」
「送ってもらうのですよ。私の機体が見付かると色々面倒なのでね」
「え、だったら四人でカラオケでいいんじゃないかしら。それじゃあ駄目なの、マサキくん」
さも当然とばかりにマサキを奥の席に詰めさせると、シュウはその隣に座った。「カラオケ、ですか」ぎこちなく口にしてみせる辺り、あまり得意ではないのだろう。それもその筈。地底世界で育った男は、地上世界のカラオケで歌える曲が極端に少ないのだ。
「なら、バッティングセンターにするかねえ」
「でも、あたしこの格好よ。見てるだけじゃつまらないんだけど」
甲児とさやかは四人で何かをすることを決定事項にしてしまったようだった。ふたりであれだこれだと話し合っている。マサキは悩んだ。あまりこういった話が続いてしまうようだったら、シュウはマサキと帰ることを諦めて、ひとりで先に地底世界に帰ることを選んでしまうのではないか。
「また今度にしないかねえ」
ぽつりとマサキが口を挟んでみるも、ふたりの耳には届いていないようだった。「では、こうしませんか?」何事か考え込んでいる様子だったシュウが口を開いたのは、その直後。
「ダーツかビリヤードでは如何です? 私はこちらの歌をあまり知りませんし、彼女はこれだけ上品な格好です。動きの小さいゲームの方が四人で楽しめるでしょう。もし、あなた方が遊び方を知らないのでしたら、私がお教えしますよ」
そのまま四人でアミューズメント施設に向かい、さやかの格好を考えてダーツに興じることにした。
ダーツの投げ方から教わる初心者の集まりだったけれども、それでもシュウはひとりひとりに懇切丁寧に遊び方を教えてくれた。ボーリングのときとは異なり、負けが込むのが気に入らないらしい甲児が、もうひとゲーム、もうひとゲームと煩かったけれども、女の子と呼んでも差し支えない年齢であるところのさやかが混じっているのだ。夜遅くの帰宅にならないように、そこそこで切り上げて帰路に付く。
ダーツのゲーム代はシュウが全部持った。「私が言い出したことですから。それに年長者ですしね」初心者ばかりの集まりに混じっては、経験者としては物足りなかったのではないだろうか。そう思ったマサキがサイバスターの中でシュウに訊ねてみれば、「あなたが彼らとどういった風な付き合いをしているかが見れただけでも充分ですよ。年相応に遊んでいるようでよかった」
地底世界から地上世界へ。来るのが一瞬なら、帰るのも一瞬だ。また私用で地上に出たのかと煩くセニアたちに言われない為に、街から少し離れた位置にサイバスターを転送したマサキは、暫くそこに留まって、シュウとふたり。
「そういえば、お前、今日は何で香水が違うんだ。変えたのか?」
小さなことといえば小さなこと。それでも気になっていたことをマサキが口にすると、シュウは答えるより先にマサキに口付けてきた。
「口を開いて、マサキ」
「何だよ。俺の質問に答えろって……」
見て見ぬ振りの使い魔たちの前で、何度も何度も口付けられる。「嫉妬したのでしょう、マサキ」言われて違うと首を振る。「本当に?」舌を絡められて、それに応じて、マサキはその都度首を振った。
嫉妬ではないのだ。ただ寂しかっただけ。
その気持ちを素直に伝えられないのはいつものこと。本心を明かさないマサキにシュウは、それ以上深く訊ねてくるような真似はしなかった。その代わりに、繰り返し口付けてくる。まるでそれでマサキを安心させたいとでも願っているかのように。
「いつもの香水は匂いが甘過ぎますからね。ビジネスの話をするときには不向きなのですよ、マサキ」
マサキがシュウから解放されたのは大分経ってから。やけにこざっぱりとした嗅ぎ慣れない香水の匂いの理由を、その香りに包まれながら聞いたマサキは納得すると、今度は自分からシュウに口付けた。
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