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あおいほし

日々の雑文や、書きかけなどpixivに置けないものを。

インモラルオブザーバー(14)
あと二回ぐらいで終わります!ホントに!多分!(心ともない)

話を畳む部分が長くなってしまってスミマセン……
何も考えずに書き始めた私が悪かったんです。今回は大失敗でしたね。

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<インモラルオブザーバー>

 凛と響く声は、まだ自身の考えを開陳する時ではないと覚悟を決めているようである。
 王位継承権を持たぬ彼女は帝王学こそ修めていないものの、それでも国家を支えていけるだけの潤沢な教育を施されている。その彼女が今ではないと判断したのであれば、一介の戦士でしかないマサキが口を挟める余地はない。情報局の局長として君臨する彼女は、情報戦に於いては国内有数のプロフェッショナルであるのだ。
「その前に、お前はどこまで今回の件を把握してるんだよ」
「あの馬鹿男が一団率いて自治区に攻め込もうとして失敗したってことぐらいね。背後関係は洗ってるけど、残念ながらこれといって目ぼしい情報はないわ。ラングランの国土は広いものね。彼らの行軍経路の割り出しもまだ済んでないぐらい」
「俺たちと一緒ってことか……」
「あの男、隠匿の術使えるでしょ。範囲拡大させれば師団ぐらい余裕で隠せるのよ。だから本人の話を聞きたいところではあるのだけど、その様子だと何も吐いてないと見えるわね」
 図星だ。マサキはシュウから受け取った例の紙片をモニターに拡大して映し出してみせた。
 五つ並んだ三桁の数理的魔法陣。マサキが軍に連絡を取っている間に解くことを試みた男によれば、ヒントとなる埋められたマスの数が少なく、相当に時間を掛けないと全てを解き切るのは難しいだろうという話だった。
「何、これ。魔法陣?」
 よもやここで数理パズルが出てくるとは思っていなかったのだろう。セニアが訝し気な表情を浮かべる。
「さっきシュウから渡された。ヒントをお前に貰えってさ」
「ふうん。あの男、随分のんびりしてるじゃないの。まあ、いいわ。ちょっとだけ待っててもらえる? |飛躍論理演算機《デュカキス》に通してみるわ」
 |飛躍論理演算機《デュカキス》――その言葉にマサキは緊張感を漲らせた。
 勘が使えるコンピューターであるデュカキスは、僅かな手がかりから正確に答えを導き出すことが出来る。仮にシュウがこの魔法陣にメッセージを潜ませていたとしたら。デュカキスであれば、それをきちんと正しく読み解いてみせることだろう。
 ――オーケー、オーケー。いい、デュカキス。この魔法陣を『解く』のよ。
 そっぽを向いているようにも捉えられるセニアの横顔。デュカキスのシステムを呼び出しているのだろう。コンピューターの稼働音が通信回線を伝って管理室に響き渡る。十秒……二十秒……三十秒……マサキは固唾を飲んで結果が出るのを待った。四十秒……五十秒……これで事態が動くかも知れないのだ。どうかシュウからのメッセージであってくれ。マサキは祈った。
 制限の多い生活にマサキは焦れていた。陸に上がった魔装機神操者に出来ることには限りがある。シュウの監視を続けるだけの日々。正体不明の敵に与して自治区を強襲してみせた男は、独房に繋がれても口を割ることがない。
 それこそがマサキが心を預けたシュウ=シラカワ。孤軍奮闘を常とし、場合によっては世界さえも敵に回してみせる男は、不屈の精神性を備えている。とはいえ、それを理解していても不満は募る。
 手掛かりのない状況は、閉塞感となってマサキを包み込んでいた。
 どうか自分に戦士としての役割を与えてくれ――魔装機神の操者であるマサキは、戦場に立つことこそが自分に与えられた唯一無二の役割であることを自覚している。だから祈った。事態がこれで打開されることを願って祈った。
「成程ねえ……」
 それはきっと数分程度の僅かな時間であったに違いない。
 けれども結果を求めるマサキからすれば、それは永遠にも等しい待ち時間だった。
「何かわかったのか?」
「答えはわかったわよ」
 感心した様子で言葉を吐いたセニアは、結果が出力された画面を眺めているようだ。モニターに映し出されている横顔が微かに笑う。
 モニターに映し出される魔法陣の解答。一桁から三桁までの数字を潤沢に使って埋められた魔法陣は、確かに副団長である男が云ったように、簡単には解けなさそうではあった。だが、シュウからのメッセージを期待していたマサキからすれば、それがわかったところでだから何だとしか思えない。
「これだけか。他には?」
「それは後でのお楽しみよ」
 どうやらセニアが受け取ったシュウのからのメッセージは、かなり秘匿性の高い内容であったようだ。静かな微笑。したたかさとしとやかさを同時に感じさせる不思議な笑みは、彼女がデュカキスの解析結果に満足していることを伝えてくる。
 そこにセニアの意志を見たマサキは、彼女を追求することを避けた。あの魔法陣にどういったメッセージが隠されていたのか知りたくはあるが、この女傑のことだ。軽々しく明かしもしまい。
「ところで、話を戻すんだけど」
「話を戻す?」
「あたしが何で動かなかったかって話よ」
「ああ」マサキは頷いた。
 ラングランとバゴニア。二つの国から成る自治区は、両国からすれば手を出し難い場所ではある。過干渉と取られれば両国の外交に影響が出かねない。自治区が自治権を有しているのもその関係だ。
 バゴニア側の代表とラングラン側の代表からなる合議制。加えて両国の正規軍に迫る能力を誇る自警団も存在している。国家の庇護がなくとも充分に運営が成り立つ環境。それがラングランとバゴニア両国に自治区を独立した小国のように扱わせていた。
 しかしだからといって、自治区が両国への帰属意識を捨てた訳ではない。
 街の中央を走る国境。この街は、確かにラングランとバゴニアの領土であるのだ。
 マサキが囚われの身となった前回の騒動にしても、自治区の住人たちが自身が属する国家へのアイデンティティを失っていなかったからこそ起こったことである。その際に、セニアは速やかに正魔装機を派遣してみせた。それが今回に限ってはどうだ。マサキがいるとはいえ、自警団に全てを任せるかのように沈黙を続けていた。
「あたしは軍を派遣しようとしたのよ。あの馬鹿男が敵方に回った以上、自治区が無事で済むとは思えなかったし。ただ、あの男、捕まっちゃったでしょ。今後の動きがどうなるかわからないから、自治区に打診したのよ。どの規模の支援が必要かって。そしたら、現状では必要ないって云われたのよね」
「何だって?」
 マサキはそれまで黙ってマサキとセニアの遣り取りを聞いていた男を振り返った。壁際にて直利不動でいた男は、僅かに眉を顰めている。鉄壁のポーカーフェイスを常とする男の表情の乱れは、今の話が初耳であったことを表していた。
「でも、それも納得がいったのよ」
 セニアの視線がモニターの影にあるだろうデュカキスに向く。そこにはマサキたちの知らない『答え』が記されているのだろう。シュウが伝えたかったメッセージが。
 それをマサキが知る日は来るのだろうか?
 マサキは不安を覚えた。動き始めた事態に、けれども自分たちは取り残されている。
「納得がいった……か。俺は何が何だかわからねえんだがな」
 だからこそ不満を露わにしてみるも、それで動じるセニアでもない。
「あなたたちは心配しないで頂戴。後はあたしが上手くやるわ」
 モニターを振り返ったセニアが典雅に微笑む。だが、その瞳は決して笑っていなかった。





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