リクエストをいただきました「はじめて宇宙に上がり地球を見つめるシラカワ」です。私が白河を単独で書くと、女々しいか気難しいかのどちらかになることが多いような気がするのですが、今回は後者だと思います。汗 もうちょっとほのぼのさせたかったのですが、無理でした!!!
この頃の白河は絶好調で色々拗らせていたと思うので、内面的には世の中を斜に構えて見ていたのではないかと。青年期のアイロニーですね。そんなお話です。
ぱちぱち&メッセ有難うございます(*´∀`*)とっても励みになります!では本文へどうぞ!
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<大いなる福音>
|それでも地球は回っている《E pur si muove.》。と、云ったのは天文学の父たるガリレオ=ガリレイだ。イタリアのカトリック教徒であった彼は、異端の徒として宗教裁判にかけられた際に、弟子にこの言葉を遺したと伝えられている。
地球を旅立ち、その青く美しい姿を真下に眺めたシュウは、生まれて初めて目にする宇宙に、地上人たちが宇宙に出るまでの長い歴史を思った。
古代ギリシアより伝えられ、ローマ教会が真理としてきた天動説。地球における宇宙観を長く支配したその思想を覆す端緒となったのは、コペルニクスが記した『天体の運行について』という一冊の本だった。コペルニクスはそこで、地球は太陽の周りを一年に一周の周期で周回し、且つ自身も一日に一回の自転を行っている惑星であると述べた。
この説を自身が作成した望遠鏡で天体観測を続けることで、データ的に証明したのがガリレオ=ガリレイだった。彼自身はカトリックの弾圧を受け、自身の説を取り下げなければならなかったが、その後にヨハネス=ケプラーによって導き出された惑星運動の法則の効果もあり、それまで幾度も提唱されては消えていった地動説は、一般に広く受け入れられるまでになったという。
その惑星運動の法則における運動エネルギーがどこから生じるものであるのかを証明したのが、アイザック=ニュートンの万有引力の法則だ。太陽の引力というものは、太陽系にある八つの惑星にまで及ぶものである。惑星運動のエネルギー発生源を明らかにした彼の功績によって、地動説はその地位を不動のものとするに至った。
ひとつの真理が生み出される影には、数多の科学者たちの不断の努力がある。自身が必要とする知識を集めた結果が博士号だったに過ぎないシュウは、彼らのように成したい業績があった訳ではなかったけれども、彼らのたゆまぬ努力には敬意を払っている。
この宇宙《そら》に届けたのも、弾圧に挫けず真理を追求し続けた彼らのお陰だ。
地底世界ラ・ギアスには存在しない宇宙。空洞世界の中心点に輝ける太陽は、今日もあの恵み深き大地を照らし出しているのだろう。夜の闇が存在しない己の故郷を思いながら、|それでも地球は回っている《E pur si muove.》。シュウは次第に小さくなる地球を視界に収めて呟いた。
幼い頃から憧れ続けた場所だった。
自らが生まれ育った世界の外側には地上という別の世界があり、その世界の外側には宇宙という更なる世界が広がっている。それは、輝ける無数の星々を抱える闇の世界。終わりの見えないその世界に、シュウはいつか辿り着きたいと願っていた。そう、小さくも狭い王宮という籠の外。全ての制約から解き放たれて、シュウは無限に広がる世界の中に羽ばたけるその日を夢見ていたのだ。
望みは叶えられつつあった。
自らを守る鎧を手に入れたシュウは、忌まわしい思い出が尽きぬ王宮を去り、その心の望むがままに生きていた。それなのに消せない渇望。夢見た世界に辿り着き、その象徴たる宇宙に身を置いて尚、満たされない思いが胸の内に渦巻いている。
それは暴虐な嵐となって、シュウの自我を嬲ったものだった。
過去を縛る人間関係を精算すれば、自由を得られると思っていた。しかし、ひとつの人間関係が終わりを告げたところで、柵《しがらみ》までは消せはしないのだ。ましてや新たな人間関係が構築されないとどうして云えたものだろう。人はひとりでは生きていけないのに。
それでもシュウは自由が欲しかった。
何者にも縛られない自由が。
月へと向かう道すがら、人間が宇宙に進出した結果生み出されるようになった宇宙屑が、行き場を失って彷徨っているのをシュウは何度も目にした。戦いの残滓であるのか、それとも止む得ない事故によるものであるのか、シュウはその残骸から原因を読み取ることは出来なかったが、大切なものを汚されたような気がして酷く気分を害したものだった。
嗚呼、やはり人間という生き物は害悪であるのだ。
煌く星々を従えて、消えることのない闇。ぽっかりと浮かぶ青い惑星に生きていた人々は、更なる資源を求めて宇宙に進出を果たした。それは彼らに宇宙に住居を求めさせ、小さい惑星の中で済んでいたいざこざを外の世界にまで持ち出させてしまった。
この広大な世界を目にしながら、己の矮小さに気付かない歪《いびつ》な存在。だのに彼らには欲を果たせるだけの知能は備わっているのだ。故に、生まれる争い。ひとつの戦いが終われば、また次。目の前の大事よりも小事に囚われてばかりの人類のいざこざを、けれどもシュウは自分には関係ないものとして眺めていた。
世の中は|持ちつ持たれつ《ギブ・アンド・テイク》ではないのだ。
利用する者と利用される者で成り立つ世界では、より心を殺した者が勝つ。自らの目的の為に他人を利用することを厭わなくなったシュウは、だからこそ、他人の目的の為に自分が利用されることだけは頑なに拒絶してみせたものだった。それは時ととして、他人に血を流させることを強いる結果にもなったものだが、そのことに後悔を抱いていてはたったひとつの望みでさえも叶えられなくなったものだろう。
何者にも縛られない自由が欲しい。
だのに何かを利用すれば、そこに人間関係が生まれてしまう。それはシュウをして柵に縛り付けたものだった。シュウはその矛盾に、恐らく薄々気付き始めていたのだ。完全なる自由など、この世には存在し得ないことを――。
「そう……親父は、死んだんだ……」
眩いばかりの金髪《ゴールド》の髪を持つ少女は、父の訃報を耳にして気丈にもそう呟くだけに留めてみせた。恐らくは覚悟を決めていたのだろう。その親子関係を目の当たりにしてきたシュウは、自身にはなかった親子の情愛というものに思いを馳せた。
きっと、これからこの少女は、様々な大人の思惑に巻き込まれるに違いない。
父であるビアン=ゾルダークはその現実を果たしてどれだけ予見していたものか。DCという巨大組織。その利権を手放したくないと思う輩は、掃いて捨てるほど存在している。彼らがDC復興の為にビアンの娘たるリューネを利用しようと目論まない筈がなかった。
「で、あなたはどうするのです? DCを復興させますか?」
もしかするとシュウは羨ましかったのかも知れなかった。親子であることを最期まで忘れなかったビアンとリューネの関係が。でなければどうしてその今際の際の言葉を叶えたものか。「リューネに会うことがあったら伝えてくれ」彼は娘に謝罪を伝えて欲しいとシュウに望んだのだ。
「まさか。あたしはそんな面倒臭いことは嫌いだよ。そうだね。もう一度、木星にでも行ってみるよ。もしかしたら、親父の云っていた異星人ってのが来るかも知れないしね」
だからシュウはリューネに手伝いを申し出たのだ。庇護者であった父を喪った彼女のこれから先の苦難の道のりは計り知れない。それに……シュウには成したいことが出来たのだ。ビアン=ゾルダークという男と関わったことによって生まれたその欲を、ビアンの娘たるリューネと果たすのも悪くない。
「結構! あんたは信用できないからね!」
「ふふ……嫌われたものですね」
木星に向かうリューネとその愛機の姿が遠く消え去るのを眺めながら、シュウは次なる目標に向けて行くべき場所を定めようと考えを巡らせた。
ロンド・ベル。彼らを利用するのはどうだろう? しかしそれには再びの戦火が必要になる。戦いは終わったばかり。彼らが再び活動を活発にするには、暫くの時間が必要だ。
それまで何をして過ごしたものか……まあ、いい。どうせ滅び行く世界なのだ。シュウは嗤った。
「さて……これからまた、面白くなりそうですね……」
ふっと、自らを追い続けている少年の面差しが、脳裏に思い浮かんだ。煩わしい。そう思いながらも、無視しきれないラングランからの追跡者。彼はシュウの思惑を知ったら、必ずや全身全霊をかけて潰しに来るだろう。
何かを成すためには障害も必要なのやも知れない。
障害とするには取るに足らない存在だと思いながらも、何もない人生も案外つまらないものだと思わずにいられない。だったら何かを自分の中に生み出せばいいだけの話。そう、ビアンの意思を次ぐのは自分だ。大いなる福音をこの世界に。そして汚れを取り去った楽園を創り上げよう。
「|それでも地球は回っている《E pur si muove.》」
シュウは自らの手で成そうと決めた目的の為に、今日も太陽の周りを回り続ける青く輝ける惑星に向けて、自らの愛機を疾《はし》らせ始めた。
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