もう何か更新をしないと……!ということで、出来たところまで上げます。
先日見た夢を、これ幸いと使うことにしました。当初の予定からタイトルを変更しています。
毎日シュウマサ夢を見られれば幸せなんですがねえ笑
先日見た夢を、これ幸いと使うことにしました。当初の予定からタイトルを変更しています。
毎日シュウマサ夢を見られれば幸せなんですがねえ笑
<崖の下>
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稀にはヤンロンの真似もいいだろうと、高地でグラフドローンを相手に|風の魔装機神《サイバスター》の戦闘訓練をこなした後のことだった。トラブルもなく無事に終わった訓練に、マサキは長く操縦席に沈めていて硬くなった身体を伸ばそうと魔装機から外に出た。
空は快晴。雲ひとつない青空からそよそよと吹き付ける風が心地いい。二匹の使い魔はその陽気に誘われるように、草むらを駆けている。あんまり遠くへ行くなよ、と声をかけて、マサキもまた付近の散策に出た。
その最中のことだった。木々に囲まれるようにしてぽっかりと開けている野原が、もっと先まで続いているようにマサキの目には映っていたのだ。何気なく踏み出した一歩の先の地面の感覚がないと気付いた時には既に遅し。バランスを失った身体は野原の中央を走っていた細い谷の斜面を滑り落ちていた。
幸い、十メートルほど滑り落ちたところで、少し広めの岩棚に身体が引っ掛かり、谷底への滑落は防がれたものの、その際に右足を捻ってしまったようだ。腫れ上がった足に鈍い痛みが繰り返し走っている。これでは崖を自力で這い上がるのは無理だ。マサキは岩棚に座り込んで、崖の上に向かって声を上げた。
「シロ、クロ! いたらこっちに来てくれ!」
二匹の使い魔を呼び続けること十分ほど。ようやく谷の存在に気付いたらしいシロとクロが頭上から顔を覗かせた。「マサキ!」「どうしたんだニャ!」マサキは二匹の使い魔に、崖から落ちた際に足を痛めてしまったことを告げると、サイバスターの通信機能を使って救援を呼ぶように云い付けた。
「場所が場所だしニャ。救難信号を出しても拾ってもらえるかどうかニャんだニャ。この辺りには軍の施設もニャかった筈ニャんだニャ。流しの魔装機でもいニャい限りは、助けが来ニャいと思うんだニャ」
「それだったら、サイバスターで近くの駐屯地まで行った方がいいんじゃニャいの? あたしたちでも動かすだけだったら出来るんだし、その方が助けを確実に呼べると思うのよ」
「お前らが俺の使い魔でなければ任せたいところだがな、この辺りには目印になるものがないだろ。ここを離れたが最後、戻って来れないんじゃな。面倒でも救難信号を出し続けるしかないだろ」
「ニャんでマサキの使い魔ってだけで、あたしたちまで方向音痴にニャるのかしら」
「主人の特性を受け継いだと思って諦めてくれ。じゃあ、頼んだぞ」
あいニャ! と声ばかりは威勢よく姿を消した二匹の使い魔に一抹の不安を感じつつも、頼れるものは他にない。マサキは崖に背中を預けて静かに救援を待つことにした。
山の天気は変わり易い。二匹の使い魔が姿を消して十分もすると、空に雲が立ち込め始めた。風も少しずつ強さを増してきた。上空には気流が渦巻いているらしい。厚く空を覆う灰色の雲が凄まじい勢いで西から東へと流れてゆく。
そこから二十分ほど。
ぽつぽつと降り始めた雨はあっという間に激しさを増し、マサキの身体を濡らした。水を吸った服が肌に張り付いて体温を奪ってゆく。悴《かじか》む指先を擦り合わせ、息を吹きかけることでどうにか暖を取る。
身体が冷え切らない内に、誰かが救難信号に気付いて救助に来てくれればいいのだが――マサキがそう思った瞬間だった。
山間《やまあい》に響き渡るモーター音。徐々に距離を近くするそれは、やがて大地を揺るがす轟音となって、突然に止んだ。どうやら幸いにも誰かの機体に救難信号が届いたようだ。耳慣れた戦闘用人型汎用機のエンジン音を耳にしたマサキは、ほっと息を吐いて、冷え切った足を服の上から摩《さす》った。
「ここニャんだニャ!」
「下の岩棚にいるのよ!」
ほどなくして聞こえてくる騒々しい声。マサキが天を仰ぐと、防寒具を羽織り、フードを深く被ったシュウが、崖上から二匹の使い魔とともにこちらを覗いていた。
「少し待っていてください。今、ロープを下ろします」
シュウはマサキにそう声を掛けると一度姿を消した。
借りを作りたくない相手の登場に、マサキは思うところがない訳ではなかったものの、この状況下では贅沢を云ってもいられない。ただ静かに、ロープが下ろされるのを待つ。
恐らくは、木の幹にロープの端を括り付けていたのだろう。岩棚にロープが下りてくるのには、それなりの時間が必要だった。
「マサキ、自分を落ちないようにロープで縛ることは出来ますか? それが出来るのでしたら、このままこちらから引き上げるだけで済むのですが」
「どうやってやればいいんだ?」
「私があなたを背負って上がった方が早いようですね」
止む気配のない雨の中、シュウがロープを伝って岩棚に降りてくる。肩に担いでいるロープは、マサキの身体を固定する為にあるのだろう。それを岩棚に下ろすと、ほら、とシュウはマサキに背中を向け、腰を落とした。
「重いぞ」
「グランゾンの部品を運ぶのに比べれば、軽いものですよ」
マサキは右足を庇いながらゆっくりと立ち上がり、覆い被さるようにシュウの身体にもたれかかった。防寒具のごわついた感触は決して心地良いものではなかったものの、布越しに伝わってくる熱は冷えた身体を温めてくれた。
「少し苦しいでしょうが、我慢してください」
シュウはマサキごと身体をロープで縛ると、「上がりますよ」と立ち上がった。宙に浮いた足が心ともなく感じられて仕方がなかったけれども、マサキにできることなど何もない。シュウの肩に回した腕に力を込め、強くその身体にしがみ付く。
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