何をしたいのかよくわからない話になりそうな悪寒がひしひしと。汗 単純に昔の白河を書きたいだけなんですけど、私の話は前置きがやたらと長かったりするのが困りものです。っていうか今回の更新分、名前しか白河が出てきてません!Σ(´Д`;)えー?
ぱちぱち有難うございます!(*´∀`*)先週は申し訳ございませんでした!納期がいっぱいあって、仕事で手一杯になってしまいました。まあ、今週もいっぱいいっぱいぽいんですけど……笑 と、いうことで頑張ります!それでは本文へどうぞ!
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<蝿の王>
ひとりの男が姿を消した。
古くからマクソード家に使えていた男が最後に目撃されたのは、現在の主たるクリストフの執務室に入るところだった。時刻は夜更け近く。いつものように一日の終わりの報告をしに向かったのだろうと見られている。
事件が発覚したのは翌朝。やや潔癖なきらいはあったものの謹厳実直な男は、マクソード家に仕え始めてから一度も定められた職務を放棄したことがなかった。それがどこにも姿が見当たらないとなれば、使用人たちの間で騒ぎになるのも当たり前。ましてや、数多くの使用人を纏め上げる立場にあった男。男がいなければ進まない職務も多かったのだから、彼らが男の姿が見えないのを放置しておく筈がない。
使用人たちはそんなに時間を置かず、男が身体を休めるために与えられている部屋に向かった。きちんと整頓された部屋にあって、それは異彩を放っていたのだそうだ。部屋のタンス。開きっぱなしになっていた引き出しからは、衣類の袖などが垂れ下がっている状態だった。
まるで男が急いで旅支度をしたようにも映る惨状に、しかしそんなことは有り得ないと、使用人たちは日頃の男の真摯な仕事ぶりを思い返して、部屋の調査を開始した。
王宮に持ち込まれるものは、例え主たるクリストフの持ち物であろうともリスト化される。不審物が持ち込まれるのを防ぐ為だ。そのリストを元に調べたところ、数点の衣類と財布、そしてそれを詰めたと思われるボストンバックが消えていたのだという。
もしや実家に急な問題でも起こったのだろうか? と、使用人たちは急ぎ男の実家に連絡をしてみたものの、家の者は途惑うばかり。どうやら十年は里帰りをしていないようだ。
男が姿を現したら連絡を寄越すようにと頼んだものの、その日の内に連絡が届くことはなかった。それどころか、翌日も、またその翌日も男の行方は知れぬまま。
男の代理は直ぐに決まり、彼の指揮の下、使用人たちの職務は滞りなく行われていたが、だからといってこのまま放置しておいていい筈がない。そこでようやく使用人たちは、主たるクリストフに許可を得た上で、男の失踪事件の調査に王宮警察を入れることにしたのだ。
「王宮に務める侍従の中にすら信じている者がいるのだから、仕方はないのだがね」
いつも執務に忙しいフェイルロードは、任務を終えたテュッティが報告ついでと訊ねてきた陰謀論を豪快に笑い飛ばすと、彼女の深刻な表情に笑ってばかりもいられないと思ったのだろう。幾分、表情を引き締めると、「大丈夫だよ、テュッティ。大半の者はわかっている」
「しかし、殿下」
「ないものを証明することは出来ないのだよ、テュッティ。ましてや人の思惑など、心を切り開いてみてもわからないものだろう。どんな世界であっても人の口に戸は立てられないものだ。彼らが職務に忠実であるのならば、私としては充分だよ。噂話を口にした程度で咎めていては恐怖支配になってしまう」
「殿下がそう仰るのでしたら……」
そうは口にしてみたものの、テュッティの心には拭いきれない不安が渦巻いていた。
テュッティがその話を耳に挟んだのは、ここに来る道すがらでだった。人気のない通路で出し抜けに話しかけてきた壮年の男は、少し前に王宮で起こった失踪事件は国王直下の暗殺部隊の仕業に違いないと早口でまくし立てると、「あんたたちも気を付けるんだな」と告げ、テュッティの返答を待たずに足早に立ち去ってしまった。
国王直下の暗殺部隊などという物騒な単語を耳にしてしまったテュッティは、それが例え噂話であったとしても看過できるものではないと、些かきつくフェイルロードに詰め寄ってしまった。噂話が事実ではないことを表明しなければ、彼らの話は大きくなる一方だろう。それはラングランに対する不信となりはしないか? それに対するフェイルロードの返答がこれだ。テュッティとしては気が気ではない。
「彼の失踪事件が収まりの悪い結果になってしまった以上はね。噂話が出るのは時間の問題だっただろう。私たちとしては予想していた範囲内に内容が収まっているし、問題視はしていないよ」
「結局、彼の行方はわからないままですか?」
王宮警察の調査では、マクソード家の家宝が幾つ紛失しているということだった。持ち運び易そうな小物の宝飾類。恐らく行方をくらました男が持ち出したのだろうと警察は結論付けた。
「小物とはいえ、家宝だからね。売り捌けるルートは限られていると思うのだが、今のところ市場に出回ったという情報は入ってきていないね。城下町での目撃情報がなかった以上は、こちらからのルートを探るしかないのだが」
「他の目的で持ち出されたとは考えられないのでしょうか」
「王宮警察もそういった可能性は考えているようだが、では他の目的とは何かと訊かれてもね。昔は祭祀に使われることもあったが、今となっては。案外、宝飾品に他の使い道はないものだよ、テュッティ。パーティで身に付けるか、眺めて満足するぐらいではないかな」
「そうですか……」
「何か彼にここを去りたいと思わせる出来事があったのだろうね。その原因はわからないままかも知れない。けれども、王宮で起こる事件というものは、得てしてそういったものだよ。ラングラン王制の歴史は長い。これが初めてではないのだから、君がそこまで気にする必要はない。それとも君も彼の王宮内での立場が気がかりなのかな?」
三人の王位継承者。フェイルロード、モニカ、クリストフ。王位に近い三人には、それぞれ王宮内に支持基盤が出来つつあった。やがて来る王位交代。彼らの支持者たちはその日を視野に、王宮内でそれぞれが静かな戦いを繰り広げていた。
元老院の囲い込みもそのひとつ。新たな王位継承順位決定の方策の策定を。支持者たちは自らが担ぎ上げんとする継承者をより高い継承順位に押し上げる為に、法の改正さえも厭わない態度でいた。
王位継承順位の安定を求めるフェイルロードの支持者たちは、現行法の維持が叶えばいいだけということもあってか、穏やかな者が多かったものだが、モニカやクリストフの支持者たちは、フェイルロード曰く「成してはならないことを成そうとしている」者たちだけあって、誰も彼も腹に一物ありそうな一筋縄ではいきそうにない者ばかりだ。
失踪した例の男は、主たるクリストフを王位に就けんと、緋のカーテンの内側で暗躍していたと聞く。
研究ばかりで実務に興味を示さないらしいクリストフの代わりに、マクソード家を取り仕切っていたと専らの噂だった男。元々、由緒正しい家柄の出で、社交界にも顔が利く男だったそうだ。元老院を囲い込む為に有力者たちの支持を取り付ける一方で、他の王位継承者の支持基盤の力を削ぐ為の有力者の追い落としも行っていたらしい。そんな日々を積極的に過ごしていた男が、どうして突然に姿をくらましたものか。テュッティには腑に落ちない。
「気にならない筈がありません。それが結果的に悪意に満ちた噂話を生み出してしまっているのですから」
口さがない者たちは云う。男は対抗勢力によって消されたのだと。
事実、王宮内でのシーソーゲームは、フェイルロードに分を取り戻させつつあった。その支持者たちがどこから流れてきたものであるのかは云うまでもないだろう。
彼らは畏れたのだ。ひとりの男の失踪事件をきっかけに、フェイルロード=グラン=ビルセイアという王位継承者を。そうでなければ、どうしてこうもあからさまに支持基盤の勢力図が変わったものか。
「王や私は同じ轍は踏まない。いいかい、テュッティ。人は恐怖では支配出来ない。力で制した者は、同じだけの力で制し返されるものだ。ラングランの長い歴史がそれを証明している。だから、安心するんだよ。私はすべきことをこなすことで彼らに正しく認められてみせよう。なあに、昔から云ったものさ。権謀術数などと云ったところでその実態は噂話が大半に過ぎないとね」
「ですから、噂話というものは恐ろしいものなのです」
「まあ、ないものはないとしか言い様がないし、やっていないこともまたやってないとしか言い様がないからね。だから噂話が恐ろしいものであるというのには同意するけれども、その火消しに躍起になったところで、噂を加速させるだけというのもこれまでの歴史が証明してしまっているしね」
「では、フェイルロード殿下としては、特には何もする気はないと」
「寡黙だよ、テュッティ。沈黙は金なり、だ」
わかりました、テュッティはそう云って、フェイルロードの執務室を後にした。
通路に出て暫く。テュッティはひとつ大きく息を吐いた。自らに向けられる無礼に対して寛容なフェイルロード。その考えを聞いて尚、不安が燻る胸は晴れる気配を見せない。
フェイルロードら王族とって、王宮内の噂話など取るに足らぬもの。わかっている。日常茶飯事的に発生するそれらを、逐一相手にしていては際限がない。証拠のない噂話を信じるような猜疑心に囚われた者たちが相手なのだ。迂闊な行動は慎むべきである。テュッティは自らに言い聞かせながら、治安局を後にした。
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