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あおいほし

日々の雑文や、書きかけなどpixivに置けないものを。

Lotta Love(42)
後編20,000字突破おめでとう私!

このペースで本当に50,000字程度で終わるのか不安になってきましたが、着々と彼らの時間は進んでいます。いつか終わると信じて、今日の分を更新したいと思います。

来週もALLPC業務WEEKです。早目に帰って来れる日が多いので、ここで一気に先に進めたいところです。

今回でプール編は終わり、次回からはショッピング編に入ります。果たしてマサキは何をプレシアへの土産に選ぶのか。私にも全然予想が付かないのですが、それだけに次回からの展開も楽しみで仕方がないです。

拍手有難うございます!励みにしております!偶には感想をくださってもいいのですよ……などと久しぶりにこの手の台詞を吐いてみます。笑 それを励みとして更に頑張る所存です。宜しくお願いします!

では、本文へどうぞ!
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<Lotta Love>

 ほら、乗って。
 彼の支えを頼りにフロートマットに乗る。マサキはフロートマットに寝そべって空を見上げた。雲に限りのある青空が、鮮やかな色を湛えて広がっている。
 突き抜けるような青さ。水を撫でて温度を下げた風が、心地良く身体を摩る。
「見ろよ、シュウ。飛行機が飛んでる」
 ふたりでウォーターガンを撃ち合ったからか、もうひとつのフロートマットは陸に上がってしまっている状態だった。それをプールに引き込んで、シュウもまたフロートマットの上。マサキに並ぶようにして仰臥した。
「陽射しを受けて輝いていますね。今日のバリも暑くなりそうだ」
 銀色に煌めきながら機影を遠くする飛行機が、ややあって、囲いに切り取られた空から姿を消した。あの飛行機にも数多くの観光客が乗っているに違いない。ゆったりとしたバリの空気を味わうべく飛行機に乗り込んだ彼らは、きっとその瞬間を心待ちにしながら空港に降り立つのだろう。
 マサキは目を閉じた。
 閉ざされた視界を突き抜けてくるバリの陽射し。瞼の裏側に広がる強い光の波に、夏だな。マサキが呟けば、乾季ですからね。ほど近い場所から聞こえてくるシュウの声。どうやら彼のフロートマットはマサキのフロートマットの隣に並んでいるようだ。うん。と、頷いて口唇を結ぶ。ちゃぷちゃぷと波を立てる水面が、フロートマットを揺らしている。ああ、気持ちいい――。マサキは両腕を広げて、バリの陽射しを全身に浴びた。
 身体に当たる温い風が、濡れた肌を乾かしてゆく。
 シュウの存在を間近に感じながら、ゆったりとした時間の流れに身を置く。風が草木を撫でる音……鳥が空を羽ばたく音……水面が静かに揺れる音……慌ただしい日常生活では意識することさえない音の数々に、安らぎを感じ取った身体の力が抜けてゆく。
 自然とはこんなにも賑やかなものであるのだ。
 時折、シュウとぽつりぽつりと会話を交わしつつ、波に揺られること暫く。リラックスしきった身体が、そろそろ眠気を訴え始めた頃。このままだと一日をプールで終えてしまいそうだ。唐突にシュウがマットの上に起き上がった。
「何だよ。眠れそうな気がしてたのに」
 それは失礼。と、謝罪の言葉を口にしつつも、フロートマットを降りたシュウがマサキのマットの脇に立つ。
「ですが、マサキ。今日はデンパサルでショッピングをするのでしょう?」
「それはそうなんだけどさ」マサキは目を瞬かせた。
 短い休暇のつもりだったからこそ、時間に追い立てられるように観光に精を出した。けれども本来、バカンスというものはこうしたものであるのではないだろうか。異国の風に吹かれながら、ただただ身体を休める。これに勝る贅沢な時間などそうはない。
「こうやって何もせずに寛ぐのもいいもんだなって思ったところだったからさ」
 どうかするとぬかるみのように身体に纏わり付いてくる眠気に嵌まりそうになる。マサキは身体に襲い来る睡魔を振り切るようにひとつ大きく欠伸をした。そして、自身を見守るように立っているシュウに顔を向けた。
「成程。あなたと私ではここで使った時間の長さが違ったのでしたね」
 マサキが訪れるまで、ヴィラで怠惰な時間を過ごしていたシュウ。その生活に飽きを感じていただけはある。今日もマサキを共連れにアクティブに動き回るつもりであるらしいシュウに、仕方ねえな。マサキは身体を起こした。
 ほら、と両手を広げた彼の胸に凭れ込む。重心の崩れたフロートマットがマサキの身体を擦り抜けて、少し離れた位置にぽんと浮かんだ。やっぱ、眠い。シュウの首周りに腕を絡めながらそう言葉を吐けば、既にタクシーを手配した後であるらしい。明日こそここでのんびりとした時間を過ごしましょう。今更キャンセルをするのも億劫なのだろう。シュウはそう云って、水に浮かんだマサキの身体をプールの縁へと運んで行った。
「片付けは私がしますよ。先にシャワーを浴びてきなさい。一時間もすればタクシーが来ます。それまで少しだけではありますが、リビングでゆっくりしましょう」
 嫌《や》だ。シュウの言葉にマサキは首を振って、彼の身体にしがみ付いた。眠気で脳の働きが鈍っているからか、自分の力で身体を動かすことが面倒臭く感じられる。何より、それ以上に、ひとりでシャワーを浴びるのが寂しく感じられて仕方がない。「お前と一緒に浴びる」
 子どものように駄々をこねれば、それがシュウの心を揺らがせたようだった。あまり可愛いことを云わないでくれますか。彼はマサキの腕を解いて顔を仰がせると、幾度も口唇を重ね合わせてきながら、吐息混じりに言葉を吐いた。
「この時間からベッドに篭りたくはないでしょう」
 昨日に比べれば幾分まともではあったものの、汚れたシーツ。ベッドに残っている昨夜の情事の痕跡がちらと脳裏を過ぎるも、その程度で消え失せてしまう欲でもない。それでも、いい。更に深く、シュウの口唇を求めて口唇を重ねて行けば、どうあっても先に決めたスケジュールを優先させるつもりなようだ。シュウはやんわりとマサキの身体を引き剥がすと、夜まで待ちなさい。クックと嗤い声を洩らしながら、つれなくも云い放ってきた。
「何だよ。いつもだったら直ぐに手を出してくるクセに……」
「旅先ですからね。あなたとここでこうして過ごせる時間に限りがある以上、ここでしか出来ないことに時間を割きたいと望むのは当然でしょう」
 そしてマサキに立ち上がるように促してくるシュウに、わかったよ。マサキはのろのろと立ち上がった。
 そろそろ醒め始めた脳が、気恥ずかしさを呼び覚まそうとしていた。
 バリの雰囲気に流されて、気の赴くがままシュウを求めようとしてしまった自分。微かに熱を帯びた頬に、マサキはシュウから顔を背けて立ち上がった。確かにシュウの云う通り、時間に限りがある以上、ここでしか出来ないことには限りがある。
 疼く身体を理性で抑え込んでウッドデッキを伝い歩き、ベッドルーム側からバスルームに入る。水着を脱いだマサキは火照る身体を沈めるように冷えたシャワーの水を頭から被った。この生活が、今日も明日も続けばいい。そう願いかけてしまった自らの心を誤魔化すように――……。
 シュウと入れ違いにバスルームを出たマサキは、リビングで服を着替えて籐椅子に座った。すっかり片付けられてしまったプールは入る前と同様に静かな波を湛えていたけれども、脳裏に焼き付いたシュウと過ごした時間の記憶が、味気なくなった筈の景色をとてつもなく輝ける場所として映し出してくる。
 あんな風に無邪気にウォーターガンを振り回すシュウの姿を目にすることは、この先のマサキの人生にあるのだろうか?
 もしかするとこれが最後かも知れない。そう考えた瞬間、マサキの心は暗く沈んだ。自身が子どもじみた遊びに興じることを、どこかで忌避している節がある彼のこと。今回のことは、異国の地にいるという解放感が、彼の心をも解放的にしただけなのだ。
 人の悪い面を多々見せることのある彼は、けれども根本的には堅物だ。しかも意地っ張りときては、今後のマサキの誘いに応じてくれるとも限らず。
 宝石をちりばめたような思い出を振り返れば振り返っただけ、その時間の感情が蘇ってはくるものの、さりとて今後の安泰が保障された訳でもない。マサキは何をするでもなく椅子の上、物思いに耽り続けた。
「髪を乾かさないの?」
 やがて姿を現わしたシュウにかけられた言葉に、マサキは自身の髪を抓み上げた。上昇を続ける気温に乾き始めた髪が、がさがさとした感触を指に伝えてくる。マサキの指通りのいい髪が好きだと云ったシュウがこの髪の惨状を感じ取ったら何と云うか。マサキは籐椅子から立ち上がった。洗いざらしの髪の感触を、マサキ自身は決して嫌ってはいなかったが、彼がこの髪に心を寄せてくれているのであれば、それ相応に保つ必要がある。
「何だよ。お前が乾かすつもりとか云わねえよな」
 洗面台にまで付いて来るシュウにマサキが尋ねれば、させてくれないの? と甘えたような口ぶりで尋ね返してくる。別にいいけど。マサキは鏡の前に立った。


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