忍者ブログ

あおいほし

日々の雑文や、書きかけなどpixivに置けないものを。

TimeTunnel
いつかリクエストが来た時の為にと取っておいた妄想だったのですが、一向に来る気配がないのでお蔵出しします。笑 未来から来た白河と幼いマサキが会う話です。
「蝿の王」の続きを先にやるべきなのはわかっているのですが、ダークな時代の白河を書くのは、私が感じているより精神力を削るものであるようです。私も丸くなったんですね。笑
 
誤字脱字衍字がありましたら遠慮なくお知らせくださいませ。
 
ぱちぱち有難うございます(*´∀`*)本当に励みになります。と、いうことで本文へどうぞ。
<TimeTunnel>
 
 公園のベンチにひとりで座っていた。
 地面に届かぬ足を前後に揺らしながら、今日、幼稚園であったことをマサキは思い返していた。
 友人のことだ。
 近所に済むその子は、生まれつき足が悪かった。杖を突くほどではなかったものの、びっこを引くようにして歩く。だから、歩いたり走ったりするスピードが少しばかり遅い。マサキの母親の話では、悪くなることはあっても良くなることはないらしく、もしかすると将来的には義足になるかも知れないとのことだった。
 じわり、と目に涙が浮かんだ。
 決してその子を可哀想だと思ったからではない。その子はマサキにとっては気の合う友人だ。おもちゃを交換して遊び、一緒に駄菓子を食べ、時々親の目を盗んで悪さをする……喧嘩をすることもあったけれど、それも一瞬のこと。翌朝になれば何事もなかった風に顔を合わせて、どちらからともなくごめんと謝り、笑い合いながら幼稚園に向かった。
 のろまだと云ったのだ。
 マサキもこの年齢にしては口が達者な方だと自分で自覚していたけれど、それを上回る口達者な同じ組の園児。歳の離れたきょうだいがいるらしく、そこから知識を得ているらしい。マサキの知らない言葉を数多く知っているその子は、担任も扱いに困っている時があるぐらいの問題児だった。
 その問題児が今日の昼。園庭で遊んでいた時に、マサキの友人に向かってのろまだと云ったのだ。それだけではない。マサキに向かって、「お前もこんなのとよく一緒にいられるよな。邪魔で仕方がねえのに」吐き捨てるように云ってのけた問題児に、マサキは次の瞬間、殴りかかっていた。
 掴み合いに発展した喧嘩は五分ぐらいは続いただろう。必死にマサキを止める友人の手を振り払って、マサキは何度も問題児に向かって行った。掴みかかっては払われ、また掴みかかっては払われ……それは、他の園児たちと遊んでいた担任が気付いて止めに来るまで続いた。
 担任はマサキから事情を聞いて、それでも先に手を上げるのは良くないことだと諭した。
「きちんと話をすることから逃げては駄目よ。あなたは他の子供たちよりも言葉が早いのだから、彼のどこにその考えの間違いがあるのか云い聞かせてあげなくては」
 担任の言葉は間違っていない。でも、マサキは思った。思って泣いた。あの問題児はいつもそうだ。担任の目を盗んではグズだののろまだの友人に云ってくる。
 友人は慣れてしまったのだろう。問題児の嘲りの言葉に「ごめんね」と笑うだけだ。それに対する問題児の発言がまた憎たらしい。白痴かよ、と彼は云うのだ。
 最初、その言葉の意味がわからなかったマサキは、父親にその言葉の意味を訊ねたものだった。父親はちょっと困った顔をして、その言葉をどういった経緯で知ることになったのか聞いてきた。幼稚園のクラスの子にそういった言葉を使う子がいる、とマサキが云うと、そうか、と頷いて、その言葉の意味を教えてくれた。
 その瞬間、マサキは目の前が真っ赤になるほどの怒りを覚えたものだった。
 マサキがその言葉の意味を友人に訊ねると、友人はきょとんとした表情をしたものだった。同じ組の賢い同級生は、「彼はそういう子だよ」と、渋い表情で云ったものだった。
 問題児は幼稚園児にはわからないとわかっているからこそ、あの瞬間に白痴と云ったのだ。賢い同級生に教えられて彼の思惑を知ってしまったマサキは、問題児の姿を見るだけで苛立ちを覚えるようになった。
 マサキの感情が爆発するのは時間の問題だったのだ。
 今日の出来事を担任から聞いているに違いない母親は、マサキが外に遊びに行くと云うと、翳りのある笑顔を浮かべながらも、行ってらっしゃいと送り出してくれた。
 マサキの両親はマサキを信用してくれているのか、他の幼児と比べると格段にマサキの好きに行動させてくれる。きっとマサキがひとりになって考えたいのを見抜いているのだ……涙を拭いながら、マサキは何も聞かずに好きにさせてくれる両親の為にも、きちんと自分の力で解決しなければと強く思った。
 そのマサキの座っているベンチにひとりの老紳士が近付いてきた。
 白く染まった髪を綺麗に撫で付け、深く刻み込まれた皺の下から穏やかな瞳が覗いている。相当に歳を重ねているようでありながらきちんと伸ばされた背筋。身の丈はマサキの父親よりも高い。
 老紳士はマサキの隣に座ると、おもむろに、どうしたのですか、と低くも穏やかな声で問いかけてきた。
「友だちと喧嘩でもしたのですか」
 う、とマサキは言葉を詰まらせた。問題児はマサキからすれば友達ではなかったものの、喧嘩をしたのは事実。マサキは自分の表情から、今日あったことを読み取られたような気がした。
「何だよ、あんた……」
「幼い子供がひとりで泣いていれば気になるもの。ご両親は?」
「かあさんは家にいるよ。遊びに行くって出て来たんだ。父さんは仕事」
 そうですか。老紳士はそう頷くと、「泣いているということは負けたのですね」
「負けたっていうか、途中で止められたっていうか……」
 老紳士はマサキが良く知る同じ年代の老人とは違って、大きな声を出さずとも、こちらの言葉がはっきりと聞き取れているようだ。口篭るマサキに、「何故、喧嘩に?」と、その理由を訊ねてくる。
「別に……あんたに云うほどのことじゃねえよ」
 理由を思い出せば、言い表せない悔しさがこみ上げてくる。それは涙となってマサキの頬を濡らした。あんな卑怯な奴に勝てない……その現実はどうしようもなくマサキの胸を痛ませた。
「そんな風に泣くということは、きっとただ単純に相手が気に入らないだけでした喧嘩ではないのでしょうね」
 老紳士は自らが着ている上着を脱ぐと、それをマサキの頭の上から掛けてきた。洗い立ての服の香りがする。途端に涙腺が緩んだ。次から次へと溢れ出してくる涙に、マサキは両手で顔を覆って泣きじゃくった。
 泣いて、泣いて、気が済むまで泣いて。
 その間、老紳士は黙って隣に座っていた。涙が引き始めたマサキがそっとその様子を伺うと、老紳士は視線を正面に向けて、目の前の遊具ではない一点を見詰めているようだった。
「ごめんなさい」
「何故、謝るのです」
「泣いちまったから」
「悔しい時に涙が流れるのは普通のことですよ」
「でも、大人は泣かないだろ。俺、早く大人になりたい。強い大人に」
 友人の問題を上手く片付けられないのは自分がまだ幼児だからなのだ。マサキはそう思っていた。
 身長が伸びて、手足が大きくなれば、きっと心も強くなる。言葉だって、考えられることだって増える。目の前の問題を片付けるのだって上手くなるに違いない。
 マサキの言葉に老紳士は口元を歪ませた。眩いものを見るような目がマサキに向けられる。しかしそれも一瞬のこと。次の瞬間、老紳士はその表情を引き締めた。
「大人はね、他人に見えないところで泣くのですよ」
「そうなのか?」
「あなたたちにみっともない姿を見せては、あなたたちを守ってあげられないでしょう。あなたたちに頼って欲しいからこそ、大人は強い自分を演じているのです。だから、頼りなさい。あなたは未だ幼い。自分ひとりの力では解決できないことが沢山ある。それを助けるのが大人の役目ですよ」
 両親が悲しむ顔を見たくないばかりに、マサキは両親に問題児の行動を打ち明けられずにいた。
 担任から話を聞いているに違いない両親は、だからといって、マサキに幼稚園で起こっていることを深く聞こうとはしてこない。ただ、今日の母親のようにマサキを案じているかのような表情をしてみせるだけだ。それが耐え難く感じられてしまうからこそ、マサキは両親の前では何事もなかったかのように振舞ってしまう。
 頼りたかったのだ、本当は。
 マサキを信じ、好きにさせてくれる両親の期待を裏切りたくなかった。自分の力で解決できることだと思っていた。何度も何度も言い返して、その都度、友人に窘められて、だったら自分に何が出来るのかを考え続けた。
 でも、上手くいかない。
 マサキの努力を無駄だとせせら笑うように、あの問題児は今日も友人を罵った。マサキは限界だったのだ。問題児の聞くに耐えない言葉の数々を耳にしてしまうのも、それを笑って受け流す友人の全てを悟りきったような表情を見るのも。
「頼ってもいいのかな」
「あなたの両親もそれを待っていますよ」
「じゃあ、かあさんに話をしてみる。でも、いいのかな。俺、大人の力を借りるのは狡いことなんじゃないかって思ってて……だから自分の力でなんとかしたくて、なのにどうにもならなくて……」
「初めから全てを自分ひとりで解決出来る人間などいませんよ」
 高い身長に大きな手。諭すように言葉を吐く。
 穏やかに佇む老紳士からは、何故だろう。マサキには、自分と同じような迷いや悩みを持った幼少期が想像出来なかった。
「あんたもそうだったのか?」
「私に限らずあなたの両親だってそうでしょう。皆、あなたのように子供だった時代がある。沢山悩み、沢山迷い、自分の力でどうにかできないかともがいて、そうして人の力を借りることの大切さを学んでいった……」
 私はそのことに気付くのに時間がかかってしまいましたがね。老紳士はぽつりと付け加えるように云った。けれども、その表情に曇りはない。静かな微笑みを浮かべてマサキを見下ろしている。
 その表情を見た瞬間、マサキは思った。
 きっと、この老紳士は、沢山の辛い過去を乗り越えてきたのだ――と。
 穏やかな人間ほど辛い過去を乗り越えてきているものだ、とマサキの父親はよく口にしたものだったが、その言葉はそれまでのマサキにはいまいち心に響かないものだった。何より父親が例える相手が気に入らなく感じられてしまってどうしようもない。彼らの態度の何がそんなに自分の癇に障るのか、マサキにはわからなかったけれども、腹に一物あるという言葉は彼らの為にあるような言葉だとは思ったものだ。
 だからマサキは信じてみようと思ったのだ。目の前のこの老紳士を。
「あいつもそうなのかな……悩んだり、迷ったりするのかな……」
「あいつ?」
 マサキは友人と問題児と自分の間に起こっている問題を話した。嘲りの言葉を聞かされ続けていること、友人がそれを笑って受け流していること、これまでにも何度か口論になっていること、そして今日ついに喧嘩を起こしてしまったこと……黙って静かにその話に耳を傾けていた老紳士は、マサキの話が終わると一言。酷いことを口にする、そう呟いた。
「自らの力でどうにも出来ない能力に対して云っていい言葉ではない」
「そう……だよな。やっぱり、そうだよな」
「とはいえ、誰でも知らない言葉を吐けはしないものです。恐らくその子にとって、そうした言葉の数々は、家族や知り合いなどから日常的に聞かされている言葉なのでしょう。出来れば価値観が固まらない内に、影響を与えている人間から引き離したいところですが、あなたひとりの力では難しいところでしょうね」
「そっか……じゃあやっぱり、大人の力を借りないと無理なのか」
「彼らがどう動くか見ておきなさい。それが次のあなたの力となるのですから」
 マサキが頷くと、老紳士はマサキの身体を覆っている自らの上着をそっと取り去ると、立ち上がってそれに袖を通した。「さて、私はそろそろ行かなければなりません」小さなマサキの背と比べると遥かに大きな背中。それがマサキを振り返る。
「きちんと両親と話をするのですよ」
「うん。なあ、あんた……じゃなかった。じいさんは次はいつここに来る?」
「私はここの住人ではないのですよ。ですから、また会うことはないでしょうね」
「そうなの? お礼、したかったんだけど」
 地面に届かない足を遊ばせながら、マサキは背の高い老紳士を見上げていた。幼稚園の先生はマサキに自分で解決するようにと云うばかり。両親も無理にはマサキの内面に踏み込んでこない。自分の痛みを理解しようとしてくれる大人に恵まれなかったマサキにとって、老紳士はようやく出会えた信用できそうな大人だった。
 だのに、その相手は二度と自分とは会えないと云う。
 寂しい。マサキはそう思った。
 けれども同時に、この老紳士はきっとそんなマサキの気持ちに構わず、この場から立ち去ってしまうのだろう。そうも感じていた。
「もし、私にお礼をしたいのであれば、その気持ちをあなたがこれから出会う人に向けてあげなさい。それはいつか巡り巡って私の元に届くことでしょう。私はそれで充分ですよ」
「なんか狡い」
「そう云われましてもね……」
 そこで老紳士は何が可笑しいのか、ふふ……と笑った。少しの沈黙。老紳士は身を屈めるとマサキの髪を撫でた。
 皺が刻まれても大きな手。二度、三度と髪を梳くように撫でる。それは風に吹かれれば忘れてしまいそうなほどに頼りない温もりを残して、すっとマサキの頭から離れた。
「では、お別れです。問題が上手く解決することを願っていますよ」
 そして老紳士は前に向かって歩き始めた。一歩、また一歩と、足取りもしっかりと公園の出口に向かって歩いてゆく背中が、次第にマサキから遠ざかってゆく。
「なあ、じいさん!」マサキはベンチから降りて、その背中に呼びかけた。
「名前、教えてよ! 俺の名前はマサキ! 安藤正樹!」
 老紳士は足を止めない。ゆっくりと歩を進めてゆく。その身体がうっすらと世界に溶けていっているような気がした。我が目を疑ったマサキは目を擦った。擦って、もう一度老紳士の姿を見ようと視線を前に向けたものの、そこにはもう老紳士の姿はなかった。
 
 知っていますよ。
 幼子がその名前を告げた瞬間、振り返りたい衝動に駆られながらも、シュウは次の一歩を前に踏み出していた。愛おしい人の幼少期。本当なら今直ぐ駆け寄って、その身体を力いっぱい抱き締めたかった。
 既に禁忌を犯してしまった身。何も恐れるものなどない筈だった。
 出来なかったのは、これから自分と出会うだろう幼子の未来を歪めたくなかったからだ。マサキの未来の果てには、シュウとふたりで過ごす長い時間がある。それを自らの手で奪いたくない。かけがえのない思い出。その輝ける日々を胸に、シュウは貪欲に今日までのひとりの人生を生きた。
 過去のマサキと会う。最期の望みを叶えに来たシュウは、それがどれだけ危険な行為であるかを認識していた。でなければ、どうして技術的に可能な行為がラ・ギアスで禁じられたものだろう。
 髪に触れる、たったそれだけのことですら、未来から来たシュウには勇気の要ることだった。
 長い孤独を過ごしてきたシュウにとって、マサキを目の前にして耐えるというのは、相当の忍耐を必要とする行為だった。それでも、胸に残る思い出の数々を消したくない。その一心でシュウは耐えた。
 誰にも真似が出来ないほどに、我儘に、そして自由に生きた人生だった。それはシュウの周りの人間に、少なからず不自由を強いたものだった。犯罪者の烙印を押されたこの身の穢れは、そう簡単に取り去れるものではなかったからこそ。
 そう、それはマサキであろうとも同様に。
 シュウの傲慢さを大きな子供を見守るように赦してくれたマサキの瞳がシュウには忘れられない。仕方がない、と笑いながら云ったその声さえも、今さっき聞いたばかりのもののように思い出せる。だからこそ、シュウは命が尽きようとしているこの瞬間に、初めて守らなければならならいものの為に耐えようと思えたのだ。
 ――お前は、生きろ。
 そうマサキが言葉を遺してからどれだけの歳月が過ぎただろう。長くもあっという間の数十年。いつかは再びその魂を宿した人間と出会えるに違いないと、シュウはマサキが遺した言葉の数々を信じて生きてきた。
 風の精霊サイフィスは、激しくも温かなその魂を手放すつもりはないようだ。
 精霊界に送られた魂は浄化の時を迎え、再び人間世界に下ろされる日が来る。精霊信仰を信じているシュウはその教えに逆らうつもりはなかった。でなければ、どうしてマサキが再びこの世に生を受ける日を待てたものだろう。
 邪神に心を委ねてしまったシュウでは、精霊界に招かれることは難しい。シュウが一度の死を迎えたその時に蘇ることが出来たのも、精霊の影響下を離れてしまっていたからだった。邪神と呼ばれようとも神は神。サーヴァ=ヴォルクルスの呪縛はそれだけ強力なものであるのだ。
 だからこそシュウは、辛抱強くマサキの出現を待った。
 しかし、例え地上人であろうとも英霊は英霊。マサキはラ・ギアスの数多の戦乱を、その守護を得て収めてみせた英雄だ。精霊たちが放置する道理はない。彼らによって精霊界に取り上げられたマサキの魂は、シュウが老境を迎えて尚、解放される気配がないままだ。
 人の命には限りがある。
 命の終わりを悟ったシュウは身体がまだ動く内にと、いつかその日が来た時の為に用意しておいたシステムを起動させることにした。練金学士協会が禁忌と定めたタイム・トラベル。その罪は重く、禁固刑では済まない。
 過去に行くことを許してしまっては、過去から世界を変えることが可能になってしまう。練金学が隆盛を誇る世界であろうとも、その欲に耐え切れる人間ばかりではないのが世の常だ。だからこそ、練金学士協会の学士たちは知力を結集して、数十年の歳月をかけて、その咎を与えるシステムを作り出した。
 歴史からの異分子を排除するシステムは、感知した異分子を魂ごと消滅させてしまうものであるという。ウエンディから聞かされていたそのシステムが起動して久しい。それでもシュウは過去に行くことを選んだ。
 二度と会うことが叶わなくなるのであれば、最期にひと目、その姿を目に焼き付けたかった。そうして、その純粋な魂に触れたかった。その幼少期にシュウが姿を現したのは、自分を知らない時代のマサキを目にしてみたいという欲でしかなかったけれども、その成果は充分にあったとシュウは思っている。
 自分が全てを賭け、全てを捧げたマサキ=アンドーという存在。
 彼が彼たる所以は幼少期の頃よりあったのだ。
 見たいものを全て見た人生だった。欲しいものを全て手に入れた人生だった。恐らく、その死を知った他人は、自らの心に忠実に生きたシュウを、憐れだとも、傲慢だとも、或いは愚かだとも評価することだろう。それでいい。シュウは嗤った。
 自分の人生の価値は自分にしか決められないものだ。
 自分という存在が尽きる道筋を歩みながら、シュウは決してその歩みを止めようとは思わなかった。歩み続けるシュウの目の前に広がる景色が、ゆっくりと闇に溶け始める。その手足の先から順繰りに感覚が失われ始める。そうして、ついにシュウの身体は世界にかき消された。
 
 
.
PR

コメント