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あおいほし

日々の雑文や、書きかけなどpixivに置けないものを。

2022X'mas「White Christmas.(1)」
今日、明日はやることが色々あるので(年末ですので)、更新量は少なめです。今年の元旦も初詣に友人と一緒に行くので、大量のテキストというのは難しいかも知れません。

と、いうことでクリスマスリクエスト連作、第二篇を始めます。
前作の続き物となりますので、出来れば前作をお読みになられてからどうぞ。

拍手、コメ有難うございます。
明日の夜にでも纏めて返信いたしますので、今暫くお待ちください。では、本文へどうぞ!
<White Christmas.>

 思い立ったが吉日とは良く云ったものだが、リューネや正魔装機の操者たちは、実は単独行動を好んでいるようにみえて、群れをなしていることの方が多かったりしたものだ。
 クリスマス休暇を終えてゼオルートの館に戻ったマサキは、そのまま酒と祭りが好きな彼らが開催しているニューイヤーパーティに参加させられることとなったのだが、いくら乱痴気騒ぎで正体を失っている者ばかりな状態だったとはいえ、リューネとふたりで連れ立って席を外しては、残った仲間の目を引きかねなかったし、そもそも目出度いパーティの席。酷な話を聞かせるのは躊躇われる気がした。
 結局、マサキが彼女と腰を据えて話す機会に恵まれたのは、ニューイヤーパーティから一か月後。休暇中に溜まった任務を全て片付け終えてからのことだった。
 ふたりきりで話せる場所を何処に求めるか悩んだものの、結局マサキは城下町にある喫茶店を選ぶこととした。人目がある場所であれば、彼女もそう取り乱しもしないだろう。狡い考えであるのは承知していたものの、ラングランの豊かな自然の中でリューネと真実ふたりきりになるのは、彼女の高い能力値を考えると避けたい選択肢だった。
 何せ彼女は大の男を捻じ伏せる力の持ち主だ。父親によって幼少時より訓練を強いられてきた彼女は、元々の素質があったことも手伝って、比類なき力を手に入れてしまった。しかも魔装機神に匹敵する力を誇るヴァルシオーネRの操縦者でもある。勿論、私事如きで無闇にその力を揮うことはないとマサキは信じていたが、長い年月を費やした先に起こる悲恋が彼女にどういった影響を及ぼすのかまでは見通せない。そうである以上は、どれだけ彼女を信頼していたとしても、全ての可能性を視野に入れる必要があった。
 ―――……どうして?
 それを告げた瞬間のリューネの表情を、再び巡ってきたクリスマスシーズンの今となっても、マサキは明瞭《はっき》りと思い出せる。
 ―――狡いよ、マサキ。そんなの……
 色を失った瞳。呆然と見開かれたその眦から、一筋の涙が零れ落ちた。
 涙を拭うこともせず、表情を変えることもせず、抑揚を失った声で言葉を放つリューネ。いっそ怒ってくれた方が良かったのに。表面に珠となって溜まる雫が木製のテーブルにゆっくりと吸い込まれてゆくのを、マサキは黙って見詰めていた。
 ―――ずっと、あたしを騙してたんだ。
 そうだな。としか云えなかった。下手な云い訳を口にしたところで、彼女の心は慰められないのだ。かといって本音を口にするのも躊躇われた。どういった反応をされるのかを見るのが怖かったから云えなかった。そのひと言をマサキが口に出来ていたら何かが変わっただろうか? それは彼女を信用していないと告白するも同義なのに。
 それに見方を変えれば、彼女の指摘は事実なのだ。マサキはずっと彼女を騙していた。秘密を抱えていることを打ち明けずに、それまでと同じ日常が続いていると思わせるように振舞う。それで騙していなかったなどと、どうして口に出来たものか。
 ―――ごめんね、マサキ。あたし、暫くマサキの顔を見たくない。
 そうして席を立ち上がり、喫茶店から出て行ったリューネの小さな背中を見送ったのが最後。
 彼女はそれから三ヶ月間、仲間の前から姿を消した。
 任務に参加することもなければ、ウエンディの所に姿を見せることもなく、ましてやゼオルートの館に訪れることもないままに。仲間の前から彼女は忽然と姿を消した。しかもどうやらリューネは誰にも何も告げずに姿をくくらましてしまったようで、マサキの許には仲間からその居場所を問う電信《メール》が何通も届いたものだったけれども、知らないことには答えようもない。
 マサキは覚悟を決めた。もし、このままリューネが地上に戻ることを選択したとしても、それが彼女の選択である以上は受け入れよう。それだけではない。仲間からの非難も甘んじて受けよう――。
 既にヤンロンから話を伝え聞いていたらしいテュッティやミオは、マサキがそこまでの責任を負う必要はないと優しい言葉をかけてくれたものだったけれども、今のマサキは過去のマサキとはもう違う。他人の感情に鈍感だったあの頃のマサキであれば、リューネの勝手と容赦なく突き放すことが出来ただろう。けれどもそうではない。そうではないのだ。シュウとの関係を受け入れることでリューネの恋心に気付けるようになったマサキは、彼女の繊細な心の動きに共感するまでなっていたし、だからこそ、その苦しみや悲しみ、辛さを身を以て理解出来るようになってしまっていた。
 ―――大丈夫とは云えないけど、いつまでも色んなことを放置してもおけないしね。
 そう云ってリューネが再びマサキの前に姿を現わしてみせた三ヶ月後。少しばかり痩せた彼女と、マサキは再びともに戦場を駆けるようになった。任務と聞けば西へ東へ。大丈夫とは云えないとリューネが自ら口にしてみせた通り、ふたりの間に漂うぎくしゃくとした空気はいつまで経っても薄れることはなかったし、そのことを仲間たちが気に病んでいる様子も伝わってきたものだったけれども、今更後に退けることではない。
 マサキは決心したのだ。
 彼が許してくれる限りはシュウとともに生きていこうと。


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