おはようございます。
本年は格別のお引き立てを賜り、誠に有難う御座います。
来年も引き続きのお引き立てのほどを、宜しく御願い申し上げます。
これから新年の準備に入る為、念の為に挨拶をしておきます。
※undergroundと30の記事を一時的に非表示にしました。
※クリスマスイベが終わったら戻します。
では早速、本文へどうぞ!
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<White Christmas.>
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年々長さを増してゆくクリスマスシーズンの休暇願いに、流石のセニアもそろそろ物を申してくるのではないかと思われたが、彼女はそれは拍子抜けするほどあっさりとマサキの希望を聞き入れてみせると、おまけとばかりにこれまで上げた武勲に対してと多額の報奨金を渡してきたものだから、マサキとしては驚くより他なく。
「随分と気前のいいことをしてくれるじゃねえか。これで土産でも買って来いって?」
「まさか。純粋なボーナスよ。ここ三年ほどのあなたは細かい任務まできちんと拾ってくれたのだもの。そもそも休暇には出費がつきものでしょ。ましてやあの男と過ごす休暇なんて、どれだけの出費がかかるものやら。あの男、市井《しせい》の人間になった割には贅沢する癖が抜けてないみたいじゃない。だから、ふたりで過ごすクリスマスだか、ニューイヤーだかにかかる費用の足しにでもしたら?」
リューネとのぎくしゃくした関係は、マサキが全員に打ち明けるより先に、シュウとの関係を仲間たちに広めてしまっていた。それはセニアとて例外ではなかったようで、マサキのクリスマス休暇願いに彼女は先ずこう口にしてみせたものだ。あの男に宜しくね、と。とはいえ、議会や軍部、情報局の局員たちより女傑と称えられる彼女のこと。ましてやモニカの姉である。もしかすると、ヤンロン同様に、既に情報を入手していながら敢えて黙っていることを選んだのやも知れなかった。
しかし報奨金《ボーナス》まで出してくれるとは豪気なことである。恋人とクリスマスシーズンを過ごすという完全なる私用の為の休暇願。些細な任務が続くばかりの世界情勢となってしまって久しいにせよ、いつ何時、|風の魔装機神《サイバスター》が出動しなければならないような有事が起こるとも限らない。ラ・ギアスはそれだけ動乱の歴史を刻んできた世界である。我儘を通してばかりのマサキとしては、そこに加えてクリスマス休暇を過ごす為の資金まで提供されてしまったのだから、逆に居心地の悪さを感じてしまうこと限りなく。
「物わかりが良すぎて不安になるぜ。お前、そんな性格だったか?」
「まっさか! あなたに云いたいことはあるわよ。でもそれはどうして云ってくれなかったの? ってことだけ。云ってくれればしてあげられることだってあったでしょ。リューネのこととかね。他のことは胸の中に仕舞っておくわ。人の恋路を邪魔する奴は馬に蹴られて死んじまえって、あなたの国の言葉でしょ」
嗚呼、やはり彼らはそれぞれに物思うことがあるのだ。マサキはセニアから視線を外して床を見詰めた。ガラス板の向こう側に配線が剥き出しになっている機械的な部屋。機械愛好者《メカフェチ》の彼女の好みに彩られた情報局の局長執務室は、凡そ、人間らしい温かみに欠けるものであったけれども、手軽に非日常感を味わえる空間《スポット》として、マサキたち魔装機操者からは好評だったりする。
けれども今日ばかりは、その非日常感がネガティブな方向に働いた。
明滅する発光ダイオードに半田が流し込まれたパッドにランド。そして金色のシルク。銅箔が重ねられた配線《パターン》といった基盤の各部が蛍光色を浮かび上がらせている。流れる七色の光。まるで雨上がりの虹のように床の中を規則的に疾《はし》る鮮やかな光の波は、インテリアとしての視覚的な効果を狙っているのだそうだ。
その色取り取りに光を放つ床を眺めていると、マサキは自分が置かれている状況が夢か幻のように思えてきたものだ。
しかし、マサキとリューネとの関係が改善されていないのは事実であったし、仲間に広くシュウとマサキの関係が知られてしまっているのも事実である。マサキは自分が置かれている状況を振り返った。躊躇いがちに言葉を交わすことしか出来なくなってしまったリューネ。仲間の中にはリューネのようにマサキと微妙に距離を取るようになった者もいる。
とはいえ、それは仕方のないこと。想定の範囲内の出来事でもある。
既に覚悟を決めていたマサキは、そういうものだと割り切って彼らとの付き合いを続けていた。世の中にはままならないことがあるということを、青年となったマサキは認めている。恋愛を主軸とした人間関係というものはそうしたもの。例えそれが異性愛《ヘテロ》だろうが同性愛《ホモ》であろうが、否定的な感情を持つ人間はいる。全ての人間に祝福してもらえる関係など、そうは存在しないのだ。
「云われるのは覚悟してたんだけどな」
「そう云っておいて、云われるとダメージ受けるのがあなたじゃないの」
「そうなのかな。まあ、受け入れてもらえることに越したことはねえし、それはそれでいいんだけどさ。だからってこんなに多額のボーナスをはいそうですかって貰う訳にもいかねえだろ」
「それはあなたが受け取るべき正当な報酬よ、マサキ。他の魔装機の操者たちにも出してるわよ」
「そうなのか? それだったらいいんだけどよ」
「あなたたち、この時期はクリスマスだニューイヤーだってパーティ尽くしじゃないの。だからちょっとだけ、普段の報酬をプールしておいたのよ。気兼ねなくあなたたちがこの時期を過ごせるようにね。だけど軍部からのクレームなんて笑っちゃうわね。『この時期の魔装機操者は酒臭い息をぷんぷんさせながら任務をこなしに来るが、あれは地上世界の風習なのか』って、そんなことがある筈ないじゃないの」
口を押えてクスクスと。声を上げて笑うセニアに、笑いこっちゃねえだろ――。マサキは渋面になった。
自分も人のことは云えないが、他の魔装機操者たちも大概である。酔って魔装機を運転するのは飲酒運転にならないのかねえ。溜息とともにそう吐き出してみせれば、案の定、セニアはマサキに云たいことがあったようで、あなたは一番、他人《ひと》のことを云えないと思うけれど、と言葉を継いできた。
「ねえ、マサキ。あなたにはきつく云っておきたいんだけど」
「何だよ。俺はあいつらみたいに底なしに飲んだりはしねえぜ。酒は得意じゃねえんだ」
そうじゃないわよ、とセニアがマサキの言葉を遮る。
どことなく不機嫌が窺える表情。けれども魔装機操者に寛容な彼女は、魔装機操者たちのあらゆる行動を笑って済ませられるだけの胆力を有している。そういった彼女がこうした表情を晒してみせるのだとしたら、それは議会や軍部からの突き上げを食らっているといった内部的な問題に直面している時。マサキは警戒を強めた。恐らくは自分の何某かの行動が、彼らの反発を招いているのだろう。
その予想は当たっていたようだ。次の瞬間、セニアは珍しくも執務室に響き渡るほどに鋭く、マサキを問い詰める言葉を吐いた。
「あなた、去年も私用の為にサイバスターを使って地上に出たでしょ」
「ああ、まあ、うん……クリスマスオーナメントが欲しくてな……」
「地上に出ようが何をしようが休暇中のあなたのすること。好きにしていいけれども、地上に出る時にサイバスターを使うのだけは止めて頂戴。最近、平和とも呼べるような状況が続いてるからか、またぞろ議会が煩いのよ。魔装機の存続意義がどうとかこうとか」
シュウと地上でクリスマスシーズンを過ごす予定を立てていたところにこの云い渡しだ。
マサキは途惑った。数ヶ月を掛けてふたりで計画を練った今年のクリスマス休暇。よもや今年のクリスマスが平穏無事に済むとは思っていなかったマサキだったが、それはシュウとの関係を周知することによって起こるだろう不都合を指していたのであって、根本的なサイバスターの私的利用を咎められるとは思ってもいなかっただけに、その混乱は果てしない。
このままではクリスマスの予定が全て流れてしまう。
果たしてどう地上へと向かったものか。悩むマサキにセニアは話を続けた。
「あたしとしては今後も正魔装機が必要になる局面はあると思っているし、だからこそあなたたちの腕が落ちないように細々とした任務を依頼しているのだけど、そういった根本的なエラーを起こされると庇うものも庇えなくなってしまうのよ。まあ、あなたたち自身が、ラ・ギアスが平和になった以上は地上に戻りたいっていうなら止めはしないけど」
「永遠の平和なんてもんは存在しねえだろ。今の細々とした小競り合いだって、不穏の種じゃないとは云いきれないんだぜ」
「だったらサイバスターで地上に出るのは止めておくことね。なんだったら各州の軍の駐留地に通達を出しておくわよ。あなたがサイバスターを預かって欲しいと云ってきたら、無条件で受け入れるようにってね」
「そうは云われてもなあ。神殿を使う許可を取るのって面倒臭えんだよな。あいつらホント細かくあれこれ聞いてきやがってさ……里帰りぐらい普通にさせてくれてもいいんじゃねえかね。そのぐらいは俺たち魔装機操者の権利としてあってもいいだろ」
「あなたでも神殿を使うなんて正規のルートを選ぶことを考えるのね!」
目を丸くして驚いてみせたセニアは、何故彼女がそこまで驚いているのかわからず、呆けた表情を晒しているマサキに至極当然とばかりにこう云い放った。
「だってグランゾンは単機で地上に出られるじゃない!」
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