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あおいほし

日々の雑文や、書きかけなどpixivに置けないものを。

シュウ=シラカワの実験
疲れてるんですwwww



<シュウ=シラカワの実験>

 乗ってみますか――と、グランゾンを指し示したシュウが口にした瞬間、マサキは身構えずにいられなかった。
 サイバスターのプラーナコンバーターが壊れて立ち往生していたマサキの目の前に姿を現したシュウ。彼はグランゾンでマサキごとサイバスターを牽引すると、自らがグランゾンの整備に使用しているという施設に運び込んだ。何でも捨てられた科学プラントであったらしい。そこに機材を運び込んで、グランゾンの整備用の拠点としたのだそうだ。
 プラーナコンバーターの修理は直ぐに済んだ。
 最終チェックも無事に済んだサイバスターに、マサキはそのまま何事もなかった風に立ち去ろうかとも思ったのだが、相手は貸し借りに煩い男。後に不条理な要求を突き付けられるくらいならば、今ここで返してしまった方が後腐れはない。だからマサキはシュウに尋ねた。何か俺に出来ることはあるか。
 その問いに対する返答がこれである。
 だからマサキは恐れ慄いた。
 マサキがサイバスターに抱いている感情以上の思い入れが、シュウにあるのは間違いなかった。何せ、仲間でさえグランゾンの操縦席に立ち入らせようとしないのである。うかうかとマサキをグランゾンのコクピットに招き入れるような真似を、果たしてこの男がしたものだろうか?
 マサキはこれまでシュウから受けた仕打ちを思い返した。
 棒切れと踏み台で頭上に吊るされたバナナを取らされるのは序の口。怪しげな城に迷い込まされた時などは酷かった。口にするのも憚られるトラップの数々。シュウ=シラカワという男が、どれだけ己の思い付きにマサキを付き合わせるのを躊躇わない人間であるのかを、マサキはあれで思い知ることとなった。
 その彼が、グランゾンに乗ってみないかとマサキに勧めている。
 怪しいどころの騒ぎではない。
「大丈夫ですよ、マサキ。私も一緒に乗りますから」
 マサキの警戒心に気付いたのだろうか。シュウが柔らかな笑みを浮かべながら口にする。怪しい。マサキはシュウを睨んだ。
「お前も乗る……って、じゃあ俺は何の為に乗るんだよ」
「操縦ですよ」
「操縦」
 間抜けな声が喉を衝く。マサキは微かに目を見開いた。
 わざわざグランゾンに乗るよう勧めてくるぐらいである。マスコットとして乗る筈がないのはわかっていたが、彼が手足として重宝している愛機である。操縦までさせるつもりでいるなどとは思ってもいなかっただけに、驚きが勝った。
「モンキーチェックという言葉をご存じですか?」
「知らねえ。何だそれ」
「手順を定めずにするテストのことですよ。実地者が好きに動かすことで、開発者の想定していなかった動作やバグを洗い出すのです」
「それを俺にやれって?」
「実は、先日、大きな改良をグランゾンに加えましてね」
「成程な。お前が動かすんじゃ、想定の範囲内になっちまうってことか」
「そういうことです」
 シュウの言葉に心が動く。
 好奇心がない訳ではなかった。魔装機とはまた異なる技術で組み立てられた人型汎用兵器。乗ってみたくないと云えば嘘になる。
「わかった。お前も乗るっていうなら、乗ってやる。サイバスターの修理もしてもらったしな」
 よもや大事な愛機におかしな仕掛けもすまい。シュウの言葉に納得したマサキはシュウとともにグランゾンに乗り込んだ。

※ ※ ※

「な、なんでお前の膝の上に俺が乗らなきゃならないんだ」
「立ったままだと危ないですからね。あなたに操縦してもらう以上、私が座れる場所はここしかありません」
「だからってな……」
 さも当然とばかりに操縦席に陣取ったシュウに、自分の居場所を尋ねたマサキは即座に後悔した。男ふたりでせせこましい操縦席に腰を重ねて座るなど狂気の沙汰だ。そうは思うも、今更降りれもしない。だからマサキはシュウをその場からどかせないかと試みた。だが、シュウは危ないからと引く気がない。「仕方ねえな」マサキはシュウの膝の上に座った。
 そのままではマサキが危ないからだろう。シュウの手がマサキの腰を抱え込む。
「どうやって動かすんだよ、これ」
「魔装機と似たようなものですよ」
「ってことはこうだな」マサキはコントロールパネルを操作して、グランゾンを駆動させた。「おお、動力回路が動いた」
 出力の大きい機体だからか、下から突き上げるような振動がある。しかも、ギアがかなり重く出来ているようだ。操縦の感覚がサイバスターとは異なり、長めに操作しないと前に進まなくなっている。
「ここを出たら西に向かいましょう。デモンゴーレムが良く湧く場所があるのですよ」
「そこでテストをしろって?」
「武器をかなり弄りましたからね」
「わかった、西だな」マサキはグランゾンの舵を切った。
「マサキ、そちらは北ですよ」
 進路を取った途端に背後のシュウが呆れた声を発する。マサキは慌ててレーダーを見た。確かにシュウが云う通りに北に向かっている。
 サイバスターの精霊レーダーは、マサキの爆発的なプラーナに当てられて壊れるのが当たり前だ。だからマサキは、レーダーがあってないものとして操縦するのが日常となってしまっていた。かやらグランゾンだ。精霊の力を借りないグランゾンのレーダー技術は地上の仕様であるのだろう。マサキを乗せてもびくともしない。
「そっか。これはグランゾンだったな」
「どういう意味です」
「サイバスターの精霊レーダーは俺のプラーナで駄目になっちまうんだよ」
「それで良く今まで……いえ、実際あなたは頻繁に迷っていましたね……」
 溜息混じりで言葉を吐いたシュウは、そのままマサキに進路を任せておくのは危険と考えたようだ。細かくナビゲートをして目的地へとマサキを誘ってゆく。
「いるな。三匹か」
「丁度いい数ですね」
 平原から谷に入り、少し行った先。ぽっかりと開けた山間の盆地にデモンゴーレムが三匹うろついている。駆動音で敵の到来に気付いたようだ。こちらを振り返ったデモンゴーレムに、マサキは先ずは位置取りと、少し高い場所にグランゾンを移動させた。高低差を使って、デモンゴーレムを足止めしつつ、攻撃を加えていく算段だ。
「行くぞ! ブラックホールクラスター!」
 先制はマサキが取った。コントロールパネルを叩いて、ブラックホールクラスターを射出しようとする。だが、何だか様子がおかしい。敵に回られた時は威力の高さに慄いたあの全てを薙ぎ払う勢いがない。
「なんだ?」
「おお、早速確率を引きましたね」
「確率?」
「32分の1の確率で出力が弱いブラックホールクラスターが出るように」
「馬鹿じゃねーの! それに何の意味があるんだよ!」
 迫りくるデモンゴーレムから距離を取るべく、マサキは更に高い場所を目指した。後退を繰り返しながら、ブラックホールクラスターを射出する。その間にシュウが得意げに語っていたのを纏めるに、歯応えを感じる戦闘がしたくなった彼は、グランゾンのデチューンに踏み切ったのだそうだ。
 確かに、グランゾンの性能は常軌を逸している。そこいらの敵では相手にならないばかりか、超魔装機さえも雑魚のように捻り潰してみせる。それがシュウには予定調和的な勝利に感じられるようだ。だから性能を落とそうと思いまして。とあっさり云ってのけた。
「お前の考えることはまるでわからねえ」
 呆れつつ、マサキは四発目のブラックホールクラスターの準備に入った。照準を手前のデモンゴーレムに合わせてトリガーを引く。と、ぱすん。という音とともに砲門から白い煙が噴き出した。
「シュウ!」マサキはシュウを振り仰いだ。
「流石はマサキ。64分のⅠの確率の不発を引くとは」
「お前さあ……!」
「大丈夫ですよ。このぐらいのミスで墜ちるグランゾンではありません」
「本当かよ」
「グランゾンの装甲値を舐めないでいただきたいものですね」
 とはいえ、早く決着を付けた方がいいのは間違いない。
 デモンゴーレムの鬱陶しい波状攻撃を掻い潜りながら、気力の溜まってきたマサキは続けて縮退砲を射出することにした。これならば、一撃で墜とせる筈だ。そう思いながらトリガーを引く。と、ぱあん! 小気味いい音が響いたかと思うと、グランゾンの砲門からフラッグが飛び出た。そこには、操縦席からでもわかるほどの大きな文字で『ハズレ』と書かれている。
「シュウウウウウウッ!」シュウを振り返ったマサキは迷わずに彼に飛びかかろうとした。
「まあまあ、マサキ。これで仕込んだハズレは全て出ききりましたから」
「武器にハズレを仕込むんじゃねえ!」
「1024分の1の確率でしか出ない大外れを引くなど私には出来ませんからね。あなたにテストを任せて良かった」
「そういう問題じゃねえよ! どうやってこいつらを倒すんだよ! 確率引き過ぎだろ、俺が!」
「剣を使えばいいのでは?」
「くっそお! お前、自分が戦う気がねえな!」
 云われたからには剣を使うしかない――コントロールパネルを叩いたマサキは、「グランワームソード!」と雄叫びを上げながら、三匹のデモンゴーレムの中に飛び込んで行った――……。

※ ※ ※

「す、すげー、時間がかかった……」
 ようやく最後の一体を倒したマサキは、腕を休めるべくコントロールパネルから手を放した。
「本当にお前は余計なことばかり」
 云いながら振り返ると、目を閉じて操縦席に身体を沈めているシュウの姿がある。マサキは慌ててシュウの鼻に手を当てた。呼吸はしているようだ。「おい、シュウ。シュウ?」マサキはその身体を揺さぶったが、シュウが目を開く気配はない。
「あーら、寝ちゃいましたか。ご主人様」
 その瞬間、シュウの上着のポケットの中からチカが飛び出してきた。辺りをふわりと舞った彼が、直後、マサキの肩にとまる。
 主人に似て底意地の悪い使い魔は、どうやらシュウの上着のポケットの中で一部始終を見ていたようだ。にひひと笑いながら、「お疲れ様ですねえ、マサキさん!」などと吞気にも限度がある言葉を吐く。
「お前、いたなら出て来いよ」
「やですよぅ。そんなことをしたらマサキさんの八つ当たりの矛先があたくしに向くじゃないですか」
「この使い魔……よく……わかってやがる……」
 マサキは拳を握り締めた。この遣る瀬無さをどこにぶつければいいかわからない。
「ご主人様なら大丈夫ですよ、マサキさん。今日で徹夜四日目でしたからね。限界がきちゃったんでしょ」
「それならいいんだけどよ」マサキはシュウの顔を覗き込んだ。「顔が青いぞ、こいつ」
「そりゃ徹夜四日目ですよ。顔色が良かったらその方がヤバくないですか」
「お前らはよー……健康な生活をしろよ、健康な生活をよ。てか、まさかこのとんでもグランゾンの為に四日も徹夜してないよな?」
「流石にそれは。ただ徹夜三日目を迎えた辺りで、面白いことを思い付いたとは云っていましたが」
「その結果がこれかよ!」
 マサキはグランゾンのコントロールパネルを叩いた。衝撃で縮退砲の射出システムが動いたようだ。ぱあん! 再び小気味いい音が響き、砲門からフラッグが飛び出す。
「……確率1024分の1とか絶対に嘘だろ」
「マサキさんの運が良過ぎるんですよ」
 マサキは盛大に溜息を吐いた。そしてシュウの顔を見た。ちょっとやそっとでは起きなさそうな深い寝息。マサキを揶揄う為だけに四日目の徹夜を選んだのだとしたら大したものである。「俺、いつまでこいつに玩具にされるんだろうな」思わず口を衝いて出た言葉に、チカがくけけと笑う。
「あらあら、マサキさん。ご主人様の執念深さを舐めてませんか。一生に決まってるじゃないですか」
 その返事に底のない絶望を覚えたマサキは、シュウの膝の上で、ひたすらに途方に暮れた。






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