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あおいほし

日々の雑文や、書きかけなどpixivに置けないものを。

シュウ=シラカワの結論
そういや私忘れてたんですけど、このシリーズのマサキは白い文庫のマサキなんですよね。




<シュウ=シラカワの結論>

 いつものことであるが、いつ干渉波を出されたのかがさっぱりわからない。
 マサキはうっすら暗い森の中で途方に暮れて宙を仰いだ。頭上を見上げれば生い茂る木々の合間から、サイバスターの頭頂部が覗いている。だのに、どれだけ歩いてもそこまで辿り着けない。森の中で夜を二回過ごすこととなったマサキは、ことここに至って、ようやく悪魔的な思考を持つ総合科学者の存在に思い至った。
 とはいえ、今日はサイバスターに乗って迷ったのではない。廃坑調査の依頼――セニアに頼まれてこの地に赴いたマサキは、なんと驚異的なことに、目当ての廃坑まで問題なく辿り着けばかりか、複雑な構造をしていた廃坑内でも迷うことなく、一度で全ての調査を終えていた。
 それが慢心を招いたのだろうか。
 迷いに迷うこと三日目。森に生る木の実や果実で飢えを凌いでいたマサキの足は、疲労で棒のようだった。
 どうせ直ぐ済む調査だからと食糧などの必需品を詰め込んだバックバックをサイバスターに置きっ放しにしてしまった。それがこんな展開を生み出すなど、さしものマサキも考えていなかった。そろそろ空腹を訴え始めた腹に、周囲を窺うも、右も左もわからない。マサキは神経を研ぎ澄ましてシュウが放っているだろう干渉波を探した。けれども何も感じ取れない。
 くそ。小さく呟きながら、マサキは地面を蹴った。木の根っこにブーツの先端が嵌まり込む。
「ああ、くそ。全部シュウの所為だ!」
 ブーツを木の根から抜き取りながらマサキは吠えた。
「本当に? だってシュウの仕業らしいこと、ニャにも起きてないのよ」
「そうニャ。もしかしたらマサキが自分で迷ってるだけニャのかも知れニャいんだニャ」
 随伴している二匹の使い魔の呑気な声に顔を顰める。
 確かに、ここまでマサキはひとりと二匹で迷い続けているだけである。いつもならある筈の性質の悪いトラップも今日はない。それでもマサキは嫌な予感を拭えなかった。これまで、どれだけマサキが方向音痴でも、二日もすれば王都に帰りつけていた。それはマサキの特性を重く見たセニアが、王立軍をマサキの救出に動かしてくれていたからだ。今回だってそうだろう。自身が与えた任務でマサキが行方不明になっている以上、セニアは絶対に王立軍を捜索に出動させている筈である。だのに、人っ子一人見かけることがないばかりか、王立軍所有の魔装機のエンジン音を聞くことすらない。
「腹減った」
 絶望的な気分になりながら、その場に座り込む。
 果実の大半は鳥に食い散らかされていたし、かといって木の実を齧るのも限界があった。とにかく米が食べたい。あとは肉。マサキは途方に暮れながら、見上げる分には直ぐそこにあるサイバスターの頭部を眺め続けた。前回、シュウから貰った非常食は山と残っている。だのに、近い筈のサイバスターが遠い。
 このままでは空腹で行き倒れてしまう。
 溜息混じりに腰を上げたマサキは、サイバスターがあると思われる方向に足を向けた。今度こそ。そう思いながら藪を掻き分けて前に進んでゆく。と、十数メートルほど進んだところで、唐突に食欲をそそる匂いがしてきた。
「何だ?」
 同時に拓ける視界に、嫌な予感が最高潮に達する。
 マサキはそろそろと前に進んで行った。木々に囲われた森の広場の中央に、弁当箱と思しきプラケースが置かれている。その近くには立て看板。そこに達者な字で「すき焼き弁当」と書かれているのを見て取ったマサキは、その場でがっくりと項垂れた。
「ニャんだ。やっぱりシュウだったのか」
「どうするの、マサキ。あのすき焼き弁当食べる?」
「食べる筈がねえだろ! あれを見ろ、あれを!」
 マサキは二匹の使い魔を怒鳴りつけた。
 すき焼き弁当と思しき物体が置かれている地面にこれみよがしに広げられている網。四隅に繋げられたロープが、木々に引っ掛けられている。もうどう考えても不穏な予感しかしない。「どうせ弁当を取った瞬間に、網が跳ね上がる仕掛けなんだろうよ」弁当を取った瞬間に起こる事態の予想がついたマサキは、網に足を引っ掛けないようにしながら先を往った。
 またぽっかりと拓けた空間に出る。
 手書き看板には「からあげ弁当」の文字。今度は藁が敷き詰められた上に、弁当箱が置かれている。
「何の罰ゲームだよ……巫山戯やがって……!」
 スパイスの利いた美味しそうな匂いが鼻腔を擽る。けれどもマサキは耐えた。あの藁の下に落とし穴がないなどという保障はどこにもない。シュウの性格を熟知しているマサキは、頭上を見上げて、サイバスターの位置を確認してから先に進んだ。
「いい加減にしろよ、あの野郎ォ!」
 続いてマサキの目に飛び込んできたのは、ハンバーグ弁当だった。
 地面には何の仕掛けもなかったが、弁当の直ぐ上に、吊り下がっている木製の檻がある。立て看板も健在だ。マサキをおちょくっているとしか思っていないシュウからの挑戦状めいた仕掛けに、いよいよ腹が減ったマサキとしては、このぐらいの罠であれば脱出も容易なこともあり、かかるのを承知の上で弁当に手を伸ばしてもよかったが、如何せん仕掛けを作った人物がシュウである。手を出した瞬間に負けが決まる戦い。マサキは匂いを嗅がないよう口で呼吸をしながらその場を遣り過ごした。
 暫く行くとどうやら森の出口に着いたようだ。立て看板に「出口」と達者な字が矢印とともに書き付けられている。
「親切ニャのね」
「どこかだ!」
 マサキは立て看板の方向に向かった。
 サイバスターがある方向とは右方向に90度曲がってはいるが、確かに、その先は木々が途切れているようだ。「何の研究だったんだよ……」脱力しながらマサキが森を出ようとすると、こつんと頭に何かが当たった。視線をゆっくりと動かす。と、マサキの頭ぐらいの大きさの籠が吊り下げられている。中身は良く見えないが、匂いからしてチャーハンと餃子であるようだ。
 まさか。マサキはその場から逃げ出そうとした。
「あああああ、あの野郎!」
 瞬間、足元から飛び出してきた柵に周囲を囲われたマサキは、最後の最後でついにマサキを罠に仕掛けたシュウめがけて絶叫した。

※ ※ ※

「云いたいことは山ほどあるが、ひとつだけ云わせろ。謝れ」
 ほぼ丸二日ぶりの食事に舌鼓を打ったマサキは、ひと心地ついたところで、目の前で悠然と足を組んで座っているシュウに云った。
「感謝はしますよ、マサキ。あなたのお陰で、またひとつ研究が完成しました」
「俺に弁当を拾わせて罠に仕掛けただけで何の研究が完成するってんだよ!」
 毎度毎度罠に仕掛けておきながら、意地でも謝罪をするつもりはないようだ。シュウがメニューブックを差し出してきながら、食事のお代わりを尋ねてくる。「その手には乗らねえ」マサキはメニューブックを手で払った。そして、空腹が限界だったとはいえ、シュウとレストランにいる自分に腹を立てた。
 柵を壊すのは容易ではなかった。
 杭で出来ているだけの柵だというのに、マサキが押しても引いてもびくともしない。それでも粘ること三十分ほど。手に肉刺が出来たところでシュウが姿を現した。彼曰く、柵には鋼鉄の魔法がかけているらしい。通りで何をしても壊れない筈だ――と、納得すると同時に、安心感が押し寄せてきたから。盛大にマサキの腹が鳴った。
 ――緊張感の欠片もない人ですね、あなたは。
 かくてシュウに救出されたマサキは、彼とともに近くの街の手頃なレストランにやってきたのだが。
「大体、何で俺を使って実験するんだよ。テリウスだって、モニカだって、サフィーネだっているだろ」
 付き合いの長さだけでいえば、彼らの方が圧倒的に長いのだ。研究の手伝いと訊けば喜んで奉仕するだろう。だのに、シュウはマサキばかりを標的に悪戯ともつかない実験をやってのける。その点をマサキが指摘すれば、シュウは即座に真顔になった。
「そんなことをしては、彼らが可哀想ではありませんか」
「お前、俺に対してとんでもなく失礼だよな!」
「それは冗談として、あなたの行動は私の研究に重要な示唆を与えてくれるのですよ、マサキ」
「弁当箱の周囲に罠を仕掛けて、それに気付いた俺の反応を見て、何が示唆だ」
「まあまあ。マサキ、落ち着いて」
「これのどこが落ち着けるって云うんだよ! 原理がわからないお前の実験はもう飽き飽きだ!」
「なら、飽きないようにすればいいのですね」
 瞬間、シュウがこれ以上となく極悪な笑みを浮かべてみせる。
 早まった。マサキは焦った。怒りに任せて、云ってはならないことを口走ってしまった気がする。
「あ、いや。そういう意味じゃなくてだな」
「私の仕掛けはあなたにとっては単調過ぎたようですね。安心してください。次からはもっと面白い仕掛けを用意しておきますよ」
「用意しておきますよ、じゃねーよ! 俺を使って実験するのを止めろって云ってるんだよ!」
「しかし、あなたの反応を見ていると、泉のように研究インスピレーションが湧いてくるのですよ」
「俺を犠牲に研究を進めるんじゃねえ!」
 そこで何かを思ったようだ。ふむ。と、シュウが手を口に当てて考え込む。
 ようやく自らの行いが不条理であることを認めたのだろうか? それとも新たな研究テーマが浮かんできたのだろうか? 沈思黙考に入ったシュウに不安を残しつつも、マサキはこれをきっかけにこの場を去る決心をした。
 腹もくちたのだ。
 そうである以上、長居は無用。
 マサキは伝票をシュウに押し付けて、席を立ち上がった。酷い目に合った以上、ここの支払いはシュウが持つのが筋だ。そう思いながら、椅子をテーブルに収めて背を向ける。
「待ちなさい、マサキ」
 シュウの手がマサキの手首を掴んだのは、その刹那。
「わかりましたよ、マサキ。あなたに物理的な仕掛けを施さずに、あなたの反応を楽しむ方法が」
「ほお……どうせ碌なことじゃないとは思うが、訊いてやる」
 マサキはシュウに向き直った。
 つまらない実験に付き合う必要がないとはいえ、ただで済むとは考え難い。現にシュウはマサキの反応を楽しむ方法と口にしている。そうである以上、椅子に座るほどの話でもない。シュウの柔らかな髪を見下ろしながら、マサキは彼の言葉の続きを待った。
「結婚しましょう、マサキ」
 直後、耳に飛び込んできたシュウからのプロポーズに、マサキは我が耳を疑わずにいられなかった。
「はあぁ?」
「そうすれば、時間を問わず、いつでも新鮮なあなたの反応を楽しむことが出来ます。それ即ち、この国の練金学の発展。どうですか、マサキ。素晴らしいアイデアだとは思いませんか」
「ふ、巫山戯んなよ。この変態総合科学技術者!」
 マサキはシュウの前に置かれている伝票を引っ手繰った。彼と結婚するぐらいなら、ここの清算を全部持って、後腐れのない状態にした方がいい。追い縋るシュウを振り切って会計を済ませたマサキは、脱兎の如くその場から逃げ出した。






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