今回は短め。
前中後編で終わらせようと思っていたのですが、無理だということがわかったのでナンバリングに直しました。連作だから短く済ませようなんて甘かったですね。
前中後編で終わらせようと思っていたのですが、無理だということがわかったのでナンバリングに直しました。連作だから短く済ませようなんて甘かったですね。
<被虐の白日>
マサキがシュウの手で都合三度の|絶頂《オーガズム》を迎えている間に、外の世界では彼の思惑通りに展開が進んでいたようだ。私はこれで。と、身支度を整えたシュウが|隔壁《ハッチ》の前に立つ。
「開けていただけますか、マサキ」
「ちょっと待てよ、シュウ……」
放心状態で操縦席に座り込んでいたマサキは、のそりと身体を起こした。床に散らばった衣服を拾い上げる。ぷんと香ってくる自身が撒き散らした精液の臭いに顔を顰めつつも、どうせ|隔壁《ハッチ》を開けばいいことだとジーンズを履く。
「大丈夫なのか、お前。今出て行っても」
「ええ。あなたも聞いていたでしょう、マサキ。もうこの辺りに彼女らはいませんよ」
シュウは身勝手にも|性行為《セックス》の最中に、マサキの許可を得ずに|風の魔装機神《サイバスター》の通信機能を弄り、サフィーネとモニカの通信内容を傍受していた。それによると、操縦席がもぬけの殻の|青銅の騎士《グランゾン》の周辺で暫く待機していたウィーゾル改とノルス・レイは、可笑しなことに本物である筈の|青銅の騎士《グランゾン》をシュウが面白半分で作り上げた|偽物《フェイク》と認識してしまったらしい。滑稽にも|本《・》|物《・》|の《・》|青銅の騎士《グランゾン》を探しに、あの場を離れてしまったのだとか。
「あいつらのことだ。戻ってくるんじゃねえの」
「彼女らがあちらを離れて五十分ほど経っていますからね。戻ってくる気があるのであれば、とうに姿を現していることでしょう」
「まあ、確かにな」シャツを被って袖を通し、ジャケットを羽織る。
グローブとブーツは後でいいだろうとコントロールモニターの前に立ったマサキは、|隔壁《ハッチ》の開閉用レバーを下げた。では。と、振り返ることなく外の世界へシュウが出てゆく。新鮮な空気で満たされるコントロールルーム。流れ込む空気にシュウのコートの裾がなびいた。
けれどもそれも一瞬のこと。
物云わず消えた白い背中に、マサキは大きな溜息を吐きながら再び操縦席に座り込んだ。
シュウとの|性行為《セックス》のあとはいつもこうだ。好き勝手に扱われた身体が悲鳴を上げている。マサキの身体のことなど考えずに欲望をぶつけてくるシュウに、いつもマサキは体力を削られっ放しだ。とにかく一刻も早くベッドで身体を休めたい。マサキは森を駆け回っている二匹の使い魔の戻りを待った。
「わかってたけど、またニャのね」
「おいらもそう思って、ちゃんと外で待ってたんだニャ」
程なくして、二匹の使い魔がコントロールルームに姿を現す。
彼らはマサキのしどけない姿を目にして全てを覚ったようだ。呆れた風に声を上げると、それぞれ計器類が密集するスペースに陣取った。
シロとクロ、マサキの二匹の使い魔が、シュウとマサキの肉体関係に気付いたのは三度目の逢瀬を終えた後だった。|客室《キャビン》のベッドにぐったりと伏せているマサキの肌に散る紅斑を目にした彼らは大いに騒いだものだったが、その相手がシュウであり、また継続した関係であると知ると、途端に大人しくなってみせたものだった。
使い魔に性欲はニャいからニャ。と、以前口にしていたシロ。
マサキがいいニャらいいのよ。と、肯定するような台詞を吐いていたクロ。
二匹の使い魔が、本音の部分でシュウと主人の関係をどう考えているのか、彼らに直接問い質したことのないマサキには|理解《わか》らない。恐らくは、シュウに強引に迫られて押し切られたと思っていることだろう。けれども、彼らが主人の選択を尊重してくれているのは間違いない。暫くゆっくりするといいんだニャ。マサキを労わる言葉を口にしながら、マサキが身支度を整えるのを見守っている彼らに、「帰るぞ」グローブとブーツの装着を終えたマサキは云い放った。
「もうニャの?」
「少しゆっくりした方がいいんじゃニャいか?」
何と云っても数時間に渡る|性行為《セックス》の直後である。まさか直ぐに帰途に就くとは思っていなかったらしい。目を丸くする二匹の使い魔を無視して、マサキはコントロールパネルに手を置いた。
「ベッドで寝てえ」
「まあ、それはそうニャんだけど」
「大丈夫ニャの? 途中で寝たりしニャい?」
「寝たら起こせ」
コントロールパネルに指を滑らせる。|風の魔装機神《サイバスター》の起動セットアップを開始したマサキの正面に浮かび上がるホログラフディスプレイ。流れるように表示されるプログラムの果てに、READY? の文字が浮かび上がる。
素早い帰宅の為には通常形態での移動では機動力に劣る。マサキは|風の魔装機神《サイバスター》を|巡行形態《サイバード》に変形させた。行くぞ。と、二匹の使い魔に声をかける。
森を抜け、平野を|疾《はし》り、州境を抜ける。
途中で何度か危うい場面はあったものの、二匹の使い魔の助けもあり、決定的に意識が落ちてしまうこともなく、無事にゼオルートの館に辿り着く。だが、天はマサキに試練を課すつもりであるらしい。門前に並ぶ色とりどりの魔装機。どうやら仲間が尋ねてきているようだ。
適当にあしらって、部屋に籠ることにしよう。そう決意を定めてドアノブに手をかける。だが、玄関の扉を開くなり響いてきた彼らの笑い声を聞いたマサキは、底のない絶望を味わわずにいられなかった。
どう考えなくとも酔っている。
嫌な予感に顔を顰めながらリビングを覗けば、ベッキーを筆頭に、ヤンロン、ファング、アハマドと床に車座になって酒を煽っている仲間の姿がある。しかも輪の中心にいるベッキーは既に上半身が裸ときたものだ。酔った彼女を相手に、飲まずに済ませるのは難しい。マサキは壁の影に隠れてその場を遣り過ごそうとした。
「あっれー? マサキぃ! 帰ってきたんだね!」
万事休すとはこのことだ。全員の視線が一度に自分に注がれるのを目の当たりにしたマサキは、ゆっくりする暇もねえ。と、諦観の念を抱きながら目を閉じた――……。
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