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あおいほし

日々の雑文や、書きかけなどpixivに置けないものを。

【LUV 4 U】被虐の白日(五)
次回はお楽しみ回です。やったね☆



<被虐の白日>

 高火力なヴォルクルスとの戦闘は短期決戦が|常套句《セオリー》だ。射程の長い武器で細かくダメージを与えつつ、距離を詰めて火力の高い武器でとどめを刺す。とはいえ、三体のヴォルクルスに対してこちらは二機だ。マサキはシュウと足並みを揃えて、背後に回り込まれぬよう細心の注意を払いながら、ヴォルクルスの撃破を急いだ。
 一片の細胞片からでも再生可能なヴォルクルスは、倒し方を間違えようものなら無限に湧き出てきてしまう。三体をなるべく同じタイミングで倒せるようダメージを計算しながら攻撃を加えること、ニ十分ほど。先ずは二体が|風の魔装機神《サイバスター》と|青銅の魔神《ネオ・グランゾン》の攻撃で墜ちた。
 こうなれば機動力の高い|風の魔装機神《サイバスター》のものだ。マサキは少し離れたところに陣取っている最後のヴォルクルスの許に向かった。攻撃を放つつもりであるのだろう。身体の中心点にエネルギー収束させてゆくヴォルクルスと撃ち合うべく、この為に残しておいた武装を解く。
「とどめだ! 消えちまえ、アカシックバスター!」
 召喚プログラムを起動し、魔法陣を展開する。同時に|風の魔装機神《サイバスター》を|攻撃形態《サイバード》へと変形させたマサキは、上空へと機体を舞い上がらせた。この一撃で墜とさねば、後処理が間に合わなくなる可能性がある。炎を纏った鳳と化した|攻撃形態《サイバード》に、マサキはコントロールパネルをひたすらに叩いた。そして、今まさに攻撃を放たんとしているヴォルクルスへと、機体を突進させた。
「貫けえええええええッ!」
 放たれた攻撃を切り裂きながら、前へ。ひたすらに前へと。
 やがて、異形の生物の集合体にその|嘴《くちばし》が届く。細かく揺れ動くコントロールルームに、マサキは足裏を床に押し付けて操縦席から放り出されぬよう耐えた。凄まじい荷重が首を揉がんとする勢いで襲い掛かる。どん! と、外装を通じて伝え聞こえてくる轟音に、ふっと身体が楽になる。
「やったな?」
 バックモニターを確認すれば、業火に焼かれるヴォルクルスの姿がある。その身が崩れ落ちるのを確認したマサキは、続けてコントロールパネルを叩いた。残されているかも知れない細胞片の始末をしないことには、ヴォルクルスとの戦いは終われない。識別機能付き広域範囲攻撃たるサイ・フラッシュのコマンドを打ち込む。「よし、後始末だ。シロ、クロ、サポート!」マサキは|補助操縦《サブコントロール》を担当している二匹の使い魔に声をかけた。
「プラ―ニャコンバーターは正常に稼働中ニャのよ!」
「エネルギー変換率が射出ラインを超えたんだニャ!」
「なら行くぞ! 纏めて消え去れ! サイ・フラッシュ!」
 |風の魔装機神《サイバスター》を起点としてドーム状に青白い光が広がってゆく。|風の魔装機神《サイバスター》が特異な魔装機として認識されるに至る静かなる攻撃。それは飛び散ったヴォルクルスの肉片を飲み込んで、静かにその全てを分解させていった。
「お見事でしたよ、マサキ」
「何を云うかね。お前の力がなきゃ無理だっただろ」
 静けさを取り戻した荒野に、ようやく余裕を得たマサキは通信モニターに映し出されているシュウの言葉に応えた。|皮相的《シニカル》な笑みを浮かべているシュウに笑いかけている暇はない。マサキは通常形態に戻した|風の魔装機神《サイバスター》を、正体不明機が自爆した地点へと向かわせようとした。
「マサキ、あなたは今はあまり動かない方が」
「大丈夫だろ、まだ」
 やるべきことはまだ残っている。ジンオウに似た正体不明機の操者とヴォルクルスを召喚した術者の探索。周辺地域の探索を終えぬことには、王都には戻れない。セニアに報告を上げる為にも、詳細な情報を得なければ。
 と、身体から何かが抜けた気配がした。
 直後、マサキの視界が暗くなったかと思うと、身体が虚脱症状を起こす。そう、|共鳴《ポゼッション》が解けたのだ。
 いつものことと理解していても慣れるものではない。手足から抜けた力に、マサキは息も切れ切れになりながら虚空に向けて喘いだ。
「ですから尋ねたというのに」苦笑しきりなシュウが告げてくる。「少し待っていてください。あの正体不明機に搭載されているブラックボックスが回収出来ないかだけ確認してきます」
 海の底にいるかのように耳の奥で反響するシュウの声。俺も行く。そう答えたいのに言葉が出てこない。マサキは二匹の使い魔に目配せした。頷いた二匹が通信モニターに向かって声を放つ。
「直ぐに戻って来るんだニャ」
「マサキはまともに動ける状態じゃニャいのよ」
「わかっていますよ。なるべく早く戻ります」
 マサキは喘いだ。
 敵機の増援が、ヴォルクルスで最後とは限らないのだ。
 時間差で増援が出ないとも限らない以上、マサキをこの場に置いてシュウが探索出来る範囲は少ない。精々、正体不明機の残骸の探索ぐらいだろう。足を引っ張る形となった自分に口惜しさが込み上げてくる。敵機の戦力が不明だった以上は仕方のないこともあるが、撃破が容易かっただけに、安易に|共鳴《ポゼッション》に逃げてしまった感が否めない。
 シュウに機会を損失させてしまったのも、マサキの感じている口惜しさを助長させる一因だ。
 長年にわたって教団を追い続けているシュウにとって、今回の戦闘はまたとない機会になったかも知れないのだ。それを、ブラックボックスを回収させる程度で済ませてよいものか……胸を圧迫してくるような苦しさに身悶えしながら考えること数十分。最早、マサキが|共鳴《ポゼッション》で前後不覚に陥るのは当たり前のことだとでも認識しているのだろうか。ようやく|風の魔装機神《サイバスター》のコントロールルームに姿を現したシュウに、マサキはほっとしたような、それでいて申し訳ないような気持になった。
「あなた方は出てゆくのですね、シロ、クロ。外にチカを待たせてあります。遊んで来なさい」
「わかってるんだニャ」
「云われニャくともそうするのよ」
 早速とばかりに自分たちを追い出しにかかるシュウに、二匹の使い魔も慣れたものだ。即座に|隔壁《ハッチ》を抜けてゆくシロとクロに、マサキはようやく楽になれるのだと目を閉じた。ふわりと動く空気が、コントロールルームが密閉された空間になったことを伝えてくる。
「見付、かったのか……」
「ブラックボックスは無理でしたね」マサキの顔をシュウが覗き込んでくる。「ただ、幾つかの興味深い部品は回収出来ました」
 マサキはぜいぜいと息を吐いた。
 言葉をひとつ発するだけでも、全身の血が抜け落ちてゆくような疲労感がある。それでも、シュウの探索が無駄足にならなかったことに安堵する。だのに、上手く発せない言葉。良かった。と、云いたいのに、疲労感がマサキの身体を食らい尽くしている。
「先ずは|気《プラーナ》の補給からですね」
 シュウの手に手首が取られたかと思うと、身体が引き上げられる。立っているのもままならない程の疲労感に苛まれているというのに無茶をしやがる。とは、マサキは云わなかった。云おうにも言葉が上手く発せない。ただ、迫ってくるシュウの顔に僅かばかり目を閉じるだけだ。
 口唇が重なる。
 腰に回されたシュウの手が、強くマサキを引き寄せてくる。挿し入れられた舌が、激しくマサキの口内を犯していった。同時に流れ込んでくるシュウの|気《プラーナ》。凍てついた荒土を思わせる性格の割には、妙に身体に馴染む。波長が似ているのだ。幾度か彼から|気《プラーナ》の補給を受けたことのあるマサキは、彼と自分の|気《プラーナ》が似通っていることに気付いていた。
 無論、仲間はその事実を知らない。
 シュウがマサキに|気《プラーナ》の補給をしてくるのは、いつだって彼らの目がない場所でだ。仲間がいれば役目を譲るとばかりに――それどころか、ふたりの間で幾度か|気《プラーナ》の補給が行われていることすらなかった風に――振舞うシュウ。それにマサキは不満を抱いたりはしな。シュウと肉体関係を結んでいるという事実は、それだけマサキにとっては仲間に知られたくない|弱点《ウィークポイント》であるからだ。
 それはシュウにしても同様である。
 シュウの意思を確認したことはなかったが、根本的な考えにマサキと似通った部分の多い男である。サフィーネとモニカというふたりの女性に対して、マサキ同様に、いずれは責任を取らねばと考えていることだろう。彼がどういった考えでマサキを抱くに至ったのかは不明だが、長く自らに付き従っている女性たちをそのままにしておくような無体もしまい。
 そうである以上、いつかは終わる関係なのだ。
 次第に楽になってゆく身体に、マサキは緩く舌を動かし始めた。絡められるばかりの舌が癪に障る。シュウの舌を追って、彼の口内へと舌を忍ばせていったマサキは彼のうなじに腕を回した。
 どうせいずれ終わる関係であるのであれば、今、この時ばかりは欲望に素直になってもいいではないか。シュウの温もりは、マサキの中にある狡さを露わとする。未来を望まない関係でありながら、求めることを止められない。マサキは舌を動かし続けた。シュウの冷えた温もりを、自分の熱で温めるが如く。何より、合理的な利己主義者であるシュウの力を借りた以上は、それ相応の手土産を持たせてやらなければならない。それは幾つかの部品だけで叶えられるものであるのだろうか?
 否、欺瞞だ。
 マサキは気付いていた。彼の肌に馴染んだ分だけ、彼を求めるようになっている自分に。
 昨日の今日で滑稽だと思うも、時に仲間に振られる自分の未来はマサキをナーバスにさせた。リューネとウェンディ、ふたりの女性に対する責任を全うすることは当然だと思っている半面、迫りくるその現実を直視した際に、足元にぽっかりと大きな穴が開いているような感覚に囚われる。そう、シュウとの関係を足枷に感じていないのにも関わらずである。
 当たり前の未来を上手く脳裏に思い描けない自分に、マサキは焦っているのだ。
 ありきたりで幸福な家庭とは何であろう。彼女らとの間に子を成し、笑いの絶えない家庭を作り上げることだろうか? それとも三人で、波風立たない穏やかな家庭を作り上げることだろうか? もしかするとシュウは、その答えを既に手に入れてしまっているのかも知れなかった。
 そうでなければ熟考の末に動くタイプの彼が、衝動的にマサキを抱きもしまい。
 するりとマサキの腰から外されたシュウの手が、ジャケットの合わせ目を解き始める。当たり前のようにシャツの内側に忍んでくる手が、やんわりとマサキの乳首を捉えた。ぴくりと身体が震えるも、嫌だ。とは云わなかった。ただ、無言で彼の舌に自らの舌を深く絡めてゆく。
「珍しいこともあるものですね、マサキ。あなたがその気でいるなど」
 ゆっくりとマサキの口唇から口唇を剥がしたシュウが嗤う。
 冷ややかな眼差しは、滅多なことでは心安くマサキを捉えることがない。残酷な嗤い顔だと思うも、その程度で腰が引けてしまうようでは、シュウとの付き合いは続けられなかった。マサキはジャケットの袖から腕を抜いて、床に落とした。そして、シャツの下で蠢ているシュウの手に、生地の上から手を重ねていった。



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