リクエストの日に受け付けたリクを消化した作品になります。
リクエストは「1日だけゼオルートに甘えるマサキ」です。
もう初っ端から道を外している気がひしひとしているんですが、違うんですよ!ここからちゃんと甘えるんですよ!私の中ではそうなってるんですよ!た、多分!!!!!????
3~5回ぐらいでさっくりと終わる予定です。
では、本文へどうぞ!
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リクエストは「1日だけゼオルートに甘えるマサキ」です。
もう初っ端から道を外している気がひしひとしているんですが、違うんですよ!ここからちゃんと甘えるんですよ!私の中ではそうなってるんですよ!た、多分!!!!!????
3~5回ぐらいでさっくりと終わる予定です。
では、本文へどうぞ!
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<For the longest time.>
寒々としたコンクリートジャングルの狭間で、幾つもの薄暗い影に囲まれていた。
月のない夜。音もなく忍び寄った闇が、マサキと彼らを包み込んだ。お前がいるから……お前がいるから……不気味に響き渡る声。ゆらりと震えた影が空に向かって伸びた。疫病神……穀潰し……役立たず……彼らは輪の中心にいるマサキに対して、繰り返し、繰り返し、思いつく限りの罵詈雑言を浴びせかけてくる。
マサキは足元に広がっている自身の影を見詰めた。
黙っていれば嵐はいずれ去る。それはマサキが短い自分の人生で得てしまった経験則だった。地上で生きていた頃のマサキは力なき卑小な存在だった。だからこそ、過酷な運命に飲み込まれてしまったマサキは、他人の悪意を遣り過ごすことを覚えてしまった。お前が……お前が……お前が……輪唱となってマサキを襲う呪詛。空に向かって伸びていた彼らの影がマサキに向かって降りてきたかと思うと、まるで蛇のように全身に絡み付いた。
――お前が殺したんだ!
瞬間、マサキはベッドの上で目を開いていた。まだ夜が明ける前。暗がりの中で胸を上下させながら、喉の奥に溜まっていた息をぜいぜいと吐く。
――お前が殺したんだ!
瞬間、マサキはベッドの上で目を開いていた。まだ夜が明ける前。暗がりの中で胸を上下させながら、喉の奥に溜まっていた息をぜいぜいと吐く。
いつの間にか呼吸が止まっていたようだ。
過去を想起させる夢を見た後はいつもこうだ。面白くねえ。マサキはそう思うも、遣り場のない感情の持って行き先がない。畜生。スプリングの効いたベッドのマットレスを力任せに叩くも、拳に伝わってくるのは手応えのない柔さだけだった。
※ ※ ※
「おや、マサキ。今日は遅いですね。プレシアはもう家を出ましたよ」
※ ※ ※
「おや、マサキ。今日は遅いですね。プレシアはもう家を出ましたよ」
まんじりとしない夜を過ごしたからだった。明け方近くになって襲ってきた睡魔に抗えなくなったマサキが次に目を覚ますと、太陽が煌々と世界を照らし出していた。
時刻は昼近く。プレシアがダイニングテーブルに残して行った朝食を、食欲の湧かなさからどう扱うべきが悩んでいると、リビングから顔を覗かせたゼオルートが声をかけてきた。
「待ってはいたのですが、中々起きてくる気配がなかったので……」
凝《じ》っとプレシアが作った料理を眺めていると、どうやらマサキの心境を勝手に推し量ったようだ。ひとり残された朝食になったことに不満を感じている――と、思い込んだらしい。どこか申し訳なさそうに言葉を継いだゼオルートに、そういうんじゃねえよ。マサキはそっぽを向いた。
そのままキッチンに向かう。
「機嫌が良くなさそうですね」
背中に迫ってくるゼオルートの声を聞きながら、冷蔵庫の中から水入りタンブラーを取り出す。
コップに注いだ水を半分だけ飲み干したマサキは大きく息を吐いた。喉を通り抜ける冷えた感触が、まだ半分眠りの中にある脳を覚まさせる。けれどもやけにざわめいている心。鎮まることを知らない荒ぶった感情が、別に。ぶっきらぼうに言葉を吐かせる。
「もっと肩の力を抜きましょう。別に今日明日で世界が滅ぶ訳ではないのですから」
「だからそういうんじゃないって云ってる――」
そう答えながら振り返れば、ダイニングキッチンの手前まで入り込んできているゼオルートの姿がある。
丸眼鏡の奥で瞬く眼。何かを考えている時のゼオルートの癖に、マサキの脳裏を良くない予感が過ぎった。前回はいつだっただろう。同じように機嫌を損ねていたマサキを連れて、ゼオルートがピクニックへと出かけて行ったのは。
プレシアに作らせたサンドイッチを昼食に、何をするでもなく。ただただ男ふたりでラングランの雄大な自然を眺め続けた。時折、思い出したように他愛ない話をするゼオルートに、何しに来たんだよ、ここに。マサキが尋ねれば、「雄大な自然に囲まれていると、自分という存在がどれだけ大きなものであるか感じ取れるでしょう」ゼオルートは静かに微笑みながら、穏やかな口ぶりでそう答えてみせた。
――逆じゃねえのかよ。ちっぽけな存在だろ、人間って。
さやさやと肌を撫で付けるような風が吹いていた日だった。
――そのちっぽけな人間が、この雄大な自然の中で生きていけるのは何故だと思います?
――さあな。それこそ自然の為すことってことじゃねえの。世界ってのはそういうもんだろ。あるがままに出来てる。
特別なことなどなにもないピクニック。マサキはラングランの風を感じ、咽るような草の匂いを嗅ぎ、強く降り注ぐ太陽の光を全身に受けていただけだった。
――人間というのは脆弱な生き物ですよ、マサキ。そのままでは弱肉強食の世界を生き抜けないような……それだのに、何故でしょうね。私たちはこの雄大な自然さえも自分たちの意のままに扱おうとしている。
ゼオルートの言葉は時に酷く抽象的で、時に酷く観念的だ。端的に云えばどうでもいい話も多い。けれども彼の言葉は聞いているだけで、マサキの胸の奥で疼いている暴力的な何かを鎮めてくれる。
――何だか人間が悪いみたいな口を利くな、あんた。
――善い悪いといった問題ではないのですよ。それもまた自然の為したことなのですから。
――それなのに人間が大きな存在だって?
――そうですよ。自然の為したこと。この世界が人間を生み出したからこそ、人間は、自然を制御しようとするまでに大きな存在となれたのです……そうは思いませんか、マサキ?
――俺にはわからねえ。でも、あんたの話のお陰で気持ちが落ち着いたよ。
いつでも穏やかに振る舞うゼオルートの柳に風な態度が、正直、マサキは好きではなかった。自分はそこいらの子どもとは違う。だのにいつでも飄々と、ゼオルートはマサキをいなしてみせた。それだけではない。どれだけマサキが苛立ちまぎれに激しい言葉をぶつけようとも、表情を変えることなく受け流してみせた。それは、自分の存在に誇りと自負を抱いているマサキからすれば、自身が子どものように扱われているのと同じことだった。
ちっぽけな自尊心が他人に軽くいなされるのを良しとしない。
けれどもゼオルートの言葉には、マサキが抗えないぐらいに魔力的な何かがある。
通り一遍で物を語ることをしないゼオルートは、声を荒らげることをしない。彼は静かに闘志を滾らせ、そしてそれを力として戦場を切り抜けるタイプの戦士だ。だからだろうか。聞いているだけで心が鎮まる声の階調《トーン》。口惜しさと、憧憬。百年経っても敵う気がしない巨大な背中を、マサキは追いかけ続けている。
けれども、今は――。
マサキは首を振った。自分の部屋から出てくるのが早かったのだ。せめてもう少し気分が落ち着くのを待ってから出てくるべきだった。そうは思うも後の祭り。ゆっくりとマサキに近付いてきたゼオルートがその腕を取る。行きましょう、マサキ。にこにこと人懐っこい笑みを浮かべながら、ゼオルートが云った。
「何処に行くんだよ。俺、飯もまだだってのに」
行かないで済む理由を頭の中で探すも、上手い言葉は見付からなかった。
「釣りですよ」ゼオルートの手がマサキの腕を引く。「今日はのんびり魚釣りといきましょう、マサキ」
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