忍者ブログ

あおいほし

日々の雑文や、書きかけなどpixivに置けないものを。

衰弱の魔装機神操者(中-4):シュウマサ
シリアスに話が進むと思いましたでしょう!?

私が一番驚いています。何だこの話……
そんな回ですがどうぞよしなに。次回はちゃんとシュウマサします!



<衰弱の魔装機神操者>

 逢魔が時の空が赤黒く燃えている。
 玄関の前に立ったシュウは、細く伸びているレンガ敷きの小路の果て。木々が折り重なって影を作っている孔に目を遣った。この家を正面から訪れるつもりであれば、この路を通ってくるしかない。無法者たちの|気《プラーナ》を探りながら、シュウは僅かな猶予をただ待つことに費やした。
「あまり、人を待たせるのは如何かと思いますがね」
 気配を殺して立っていたシュウに彼らが気付いたのは、その距離が数メートルに迫ったときだったようだ。
 よもや家の前で待ち構えているとは思わなかったのだろう。シュウの言葉に息を呑んだ彼らだったが、そこは流石に場慣れしているのだろう。シュウを中央に、即座に扇状にばらけてみせる。
 その数、二十人余り。
 身なりから察するに、三分の二ほどがモンテカルロファミリーの手の者、三分の一ほどが所属の知れない連中であるようだ。とはいえ、黒いフードを目深に被った彼らの正体など、心当たりはひとつしかない。マントを留めるクラスプに彫り込まれた見慣れた紋章は、紛れもなく彼らが教団の暗殺者であることを示している。
 餌を撒いた甲斐はあった――待ち望んだ敵との邂逅の瞬間を迎えたシュウは、銃や小刀を手にじりじりと距離を詰めてくる彼らに、口の端が吊り上がるのを止められなかった。
 恐らくは即席の戦闘集団であるからだろう。先に動いたのは教団の暗殺者たちだった。機を制するには先手を打つべきとの教えが教団にあるのかは知らないが、彼らは待つのが苦手らしい。彼らは身のこなしに自信を持っている。マントを翻して一斉に飛び掛かってきた彼らに、シュウは腰を低くした。身体能力であれば負けずとも劣らぬ。彼らの合間を縫うようにして駆け抜けたシュウは、ついでと見舞った数発の手刀が三人ほどの暗殺者の動きを封じたのを確認してから、正面のマフィアの目の前に躍り出た。
「な、なんだ。こいつ」
 武器に頼らぬ戦闘では、|気《プラーナ》の使い方が勝敗を分ける。拳をぶつけるのであれば指に、蹴りを食らわせるのであれば足先に|気《プラーナ》を集めればいい。
 それだけで、人間の肉体は凶悪な兵器と化す。
 たったこれだけのことが出来るか否かで勝敗が分かれるのが肉弾戦の世界だ。勿論、素人が使いこなせる技能ではない。柔軟に|気《プラーナ》を巡らせられなければ、剣はその真価を一割も発揮しないのだ……それは、剣技を修めたシュウであるからこそ会得した気功術であった。
「く、くそ。撃つぞ。本当に撃つぞ!」
「撃つ気がないなら、そう云えばいいのですよ!」
 問答無用で目の前のマフィアから拳銃を奪ったシュウは、その両隣のマフィアにそれぞれ拳と蹴りを見舞った。声にならない呻き声を発した二人のマフィアが、綺麗な放物線を描きながら左右に二メートルほど吹き飛んでいく。ひぃ。と、恐怖に震える声が正面のマフィアの口から聞こえてきたような気がしたが、気にしている暇はシュウにはない。
 まだ戦いは始まったばかりだ。
 シュウは続けざまに正面のマフィアの鳩尾に掌底を食らわせた。
 これで六人目。地面に転がったマフィアには目もくれず、シュウは背後に迫っていた二名の暗殺者に振り向きざまの一撃を放った。手刀を二発。喉仏の下、天突の上の窪みを抉るように差し入れる。と、波が割れるように左右に倒れた彼らの中央から、小刀を振り上げた別の暗殺者が突っ込んできた。
「裏切り者に死を!」
「ようやく尻尾を掴ませましたね。その言葉を待っていましたよ!」
 暗殺者の一撃を後ろに退いて躱したシュウは、まだ層を厚くしている右手側のマフィアの背後に跳躍して回り込んだ。
 一度に三人。立て続けの掌底で纏めてマフィアを地に沈めたシュウは、距離の近さ故に発砲出来ずにいる残りの二人を蹴りで吹き飛ばして、ぽっかりと空けた空間の中央でしつこく立ち向かってくる暗殺者を迎えうった。
 残りは十一人。内訳は暗殺者が三人とマフィアが八人だ。
 暗殺者たちの派手な動きが発砲を抑えているのだろう。銃を構えたままその場を動けずにいるマフィアたちは、シュウの目の前を囲んでいる暗殺者たちからは少し離れた場所で固まっている。加えて、先に地に沈んだ連中は、かなりのダメージを負ったのだろう。まだまだ立ち上がる気配がない。
 それもその筈。
 シュウには彼らの骨を砕いた自覚があった。骨を砕けないにしても、内臓や器官にダメージがある筈だ。急所に攻撃を当て続けてきたシュウは、地面で藻掻き苦しんでいる彼らから視線を戻した。とはいえ、あまり非道な真似を続ける訳にもいかない。何人かは口がきける状態で確保せねば、情報が得ないだろう。息を合わせて切り込んでくる暗殺者の相手をしながら、そうシュウは考えた。
 その瞬間だった。
「……物騒な気配をさせてるんじゃねえよ」
 玄関ドアが開け放たれたかと思うと、一羽と二匹の使い魔を周囲に侍らせたマサキが姿を現す。慌てふためく彼らの制止もなんのその。思ったよりもしゃんとした様子で玄関前に立ったマサキは、周囲をひと睨みしてから言葉を続けた。
「何だ、肉弾戦か? まだるっこしいことをしてるんじゃねえよ」
 当然のことながら、風邪を引いている彼の声はとても聞けたものではない何を云っているかやっと聞き取れるぐらいの頼りなさ。それでも、彼が怒っているのは理解が出来る。きっと安らかな眠りを中断させられて気が立っているのだ……シュウは暗殺者の一人を宙に吹き飛ばしながら云った。
「私でも憂さを晴らしたくなることはあるのですよ」
「憂さ晴らしッ!?」マサキの頭の回りを飛び回っているチカが声を上げた。「何て明け透けな!」
 話がややこしくなることを好まないのだろう。それとも単純に騒がしいチカの声が癇に障っているのかも知れない。即座にチカを引っ掴んだマサキが、地面に彼を投げ捨てる。
「ああ? てめえの鬱憤だか憂さだかはどうでもいいんだよ。てか、こいつらは何だ」
「あなたの予想通りの方々ですよ」
 小刀を突き出してきた暗殺者の手首を掴んだシュウは間髪入れずに手首を捻った。
 ふわりと暗殺者の足が宙に浮く。目の前で綺麗に半回転した身体に、シュウは掌底を当てた。わあ、嫌な音。骨の砕ける音を聞いたチカが、地面の上で首をもたげながら口にする。
「なら、遠慮はいらねえって訳だ」
 風邪を引いても気の強さは相変わらずであるようだ。斜め前で固まっているマフィアたちにマサキが向き直る。だが、流石は救国の戦士として名高い英雄だけはある。マサキの顔を見たマフィアたちは、思いがけず顔を拝むこととなった大物の姿に恐れおののいてしまったのだろう。見る間に顔を青褪めさせるとざわつき始めた。
「まずいっすよ、兄貴。アレを相手にしたらラングラン政府を敵に回します」
「そうっすよ。俺たちの勝手でボスに迷惑がかかるようなことになっちまったら」
 けれどもマサキは彼らの言葉など聞いていないようだ。鼻が詰まって、聴覚に影響しているのか。気が立って聞く気がなくなっているのかは定かではないが、果てしなく凶悪な目つきをした彼は、
「ごちゃごちゃ煩えな。ぶっ飛ばすぞ!」
 云うなり、マフィアたちが固まっている中央へと飛び込んでいった。
 喜劇ここに極まれりである。
 流石に気を取られたようだ。隙を見せた最後の暗殺者の背部にシュウは回り込んだ。鳩尾の裏側、身柱の中央に肘を当てると、げぼ。と気味の悪い声を上げて倒れる。手応えはあった。シュウは暗殺者には目もくれず、マサキに加勢すべくマフィアの一団を振り返った。
「行くぞ! ダイナミック・ハリケーン!」
 その瞬間にシュウを襲った底なしの絶望! 聞いたことのない技名もさることながら、熱があるとは思えない暴力的な量の気《プラーナ》。炸裂したマサキの一撃に、次の瞬間、マフィアたちが四方に吹き飛ぶ。
「知っていましたけど、ご主人様もマサキさんも人間離れしてますよね……」
「マサキの機嫌を損ねるからニャ」
「寝起きとか本当に最悪ニャのよ」
 苦悶の呻き声が響き渡る惨状でありながら、呑気に響き渡る一羽と二匹の使い魔の声。それでも殺気に満ちた気《プラーナ》が消失した分、静けさを取り戻した気でいるのだろう。「寝る。ちゃんと片付けろよ」そう口にしたマサキが、足をふらつかせながらシュウの家に帰ってゆく。
「私ひとりでも何とかなりましたものを」
「煩え。人間を玩具にするんじゃねえよ」
 どうやらシュウの目論見など彼にはお見通しだったようだ。
 シュウはマサキと使い魔たちの姿が消えたのを確認してから、は比較的軽傷と思われるマフィアの傍に立った。
 では――と、笑いかける。地面に転がっているマフィアが、瞬間、声にならない悲鳴を上げたような気がしたが、その程度のことで時間を無駄にする気はない。知っていることを吐いていただきましょうか。シュウは画面蒼白なマフィアを見下ろして、歌うように言葉を紡いだ。





PR

コメント