ど、どんどん皆様の予想を外れる展開になってゆく……!
そんな感じの回です。ここから巻き返せるといいですね、@kyoさん!
次回はアクション回の予定です。盛り沢山にし過ぎですかね?では、本文へどうぞ!
そんな感じの回です。ここから巻き返せるといいですね、@kyoさん!
次回はアクション回の予定です。盛り沢山にし過ぎですかね?では、本文へどうぞ!
<衰弱の魔装機神操者>
薬を飲んだマサキがベッドの中に潜り込んだのを見届けて書斎に向かったシュウは、調査状況を訊くべく、エーテル通信機を使ってサフィーネに連絡を取った。
――先程、ご連絡を差し上げたのですが、反応がございませんでしたので……
どうやらシュウがマサキに食事を取らせている間に連絡を寄越したらしい。即座にシュウの呼びかけに応えてきた彼女は、マサキがシュウに引き取られたことを知っているのだろう。彼の世話で大変なこととは存じますが。と、恨みがましそうに口にすると、シュウの反応を引き出せたことで満足したようだ。苦笑しきりなシュウにふふと笑い、アタルゴの街のエージェントについての情報を報せてきた。
どうやら彼は、シュウの有する|情報網《ネットワーク》に初報を上げた直後に、何者かに襲われてしまったようだ。
――路地裏に隠れていたのを先程確保いたしました。酷い怪我を負ってはいますが、命に別状はなさそうです。
――それならば結構です。怪我の手当は済んでいますか。
――それは既に。
シュウはエージェントを連れて街を出るようにと、サフィーネに告げた。
今回は尻尾を掴まれてしまったようだが、彼は情報収集能力に長けた有能なエージェントだ。面が割れ、危険度の上がったた街に無理をして置いておくよりも、別の街で活躍させた方がいいだろう。
サフィーネも反意はないようだ。シュウの言葉に畏まりました。と、諾意が返ってくる。
――ですが、シュウ様。今回の襲撃犯は、恐らくモンテカルロファミリーの連中です。このままにしておいては……
――わかっていますよ、サフィーネ。
一見して平穏に映る街、アタルゴ。だが、どこにでもならず者のはばかる隙はあるものだ。アタルゴの街には幾つかのマフィアの組織があった。勿論、表立って活動はしていない。繁華街を中心とした裏社会が彼らの主戦場だ。
激動の時代を幾度も乗り越えてきたクラリトンとマスザップ。由緒正しい二大組織に対して、ラングラン内戦下の混乱期に興ったばかりのモンテカルロ。彼らは古き良きマフィアを体現する二大組織を快く思わない連中を仲間に引き入れることで、急速に|支配域《シマ》を拡げていった。
ナンバー3の位置に甘んじない彼らは、人間や薬物の売買も積極的に行っているようだ。他の二つの組織が|支配域《シマ》の上りを主な|収入《シノギ》としているのに比べれば、随分とアグレッシブで過激な遣り口。そこからは、何が何でもアタルゴの街の裏の支配者となってやるという彼らの意気込みが感じ取れる。
そういった彼らがどうして教団と手を結ばない筈があろうか?
シュウは彼らの流通ルートに目を付けた。薬物はまだしも、人間の売買は手間がかかる。ぽっと出の組織で安定供給が出来るような商品ではない。欲に付け上がった人間の影にヴォルクルスありだ。裏社会に深く食い込んでいる邪神教団が、彼らの派手な動きにどうして絡まないことがあろうか。
そうやって自分たちが表に出ることなく、世界を手中に収めんと常に画策しているのが邪神教団だ。
そう、サーヴァ=ヴォルクルスに捧げる為に……
放っておけば食い合いになるマフィアの勢力争いを、シュウが様々な手を使ってコントロールしているのはだからだった。
きっとモンテカルロはそれに気付いたのだ。でなければ、わざわざ善良な市民に擬態しているシュウの手駒を手に掛けたりもしまい。モンテカルロファミリーの背後に邪神教団がいるのか、シュウはまだ確証を得ていなかったが、仮にその予測が事実であれば、教団の情報網はラングラン全土に渡る。シュウの動きを把握するぐらい、容易いことであるだろう。
ならば、マサキ――或いはシュウ自身が、撒き餌となればいい。
――背後関係の洗い出しが終わっていない以上は、まだ泳がせておきたくありますね。
シュウはサフィーネに手出しは無用と伝えた。それだけで彼女はシュウの計画を把握したようだ。
――了解いたしました。ですが、シュウ様。無茶はなさいませんよう。
それに、心得ておきましょう。とだけ返して、シュウは通信を終えた。
伊達に幾度もともに修羅場を潜ってきた仲間ではないということか。仲間としてのサフィーネ=グレイスは、重用するに足る能力の持ち主だ。その彼女をして心配せずにいられない何かが自分にはあるようだ。
シュウは書斎を出た。
何をもってして無茶と定義するのか。常軌を逸する才能の持ち主であるシュウにはサフィーネの考えはわからない。ただ、彼女はいつでもシュウの身を大仰に案じてみせる。放っておけばひとりで黄泉への旅路を往くのではないかと、シュウのことを思っているのではないかと思うぐらいに。
「それなりにこの家も気に入ってたんですがねえ」
どうやら聞き耳を立てていたようだ。ドア枠の上に身を隠していたチカがふわりと舞い降りてくる。
「まだ何も始まっていない内から悲観的なことを」
「いや、もう充分始まってますでしょ。今まで散々あの連中の邪魔をしてきたのは何処のどなたで?」
「痺れを切らしてくれるのでしたら、それに越したことはありませんね」
「やーだやだ。ホント、ご主人様って性格悪い!」シュウの肩にとまったチカが喚き始める。「誘い込んで一網打尽って、蛸壺漁より酷い! その過剰防衛の後始末をするのは御主人様じゃないんですよ?」
シュウは静かに――と、チカのくちばしに指を当てた。騒がしい彼の声でマサキが起きてきてしまっては、彼が寝ている間にことを済ませようとしているシュウの計画が破算する。
善良なマサキのことだ。シュウの遣り口を知れば、必ずや厭悪をもよおすことだろう。病人である自分をも餌にして、敵と目した連中を誘い込みにかかる。幾ら相手がマフィアであろうとも――いや、マフィアであるからこ、まだるっこしいことを嫌う彼は怒るに違いない。
――なんでてめえはそうなんだよ。そんな連中、正面から潰せ。
マサキの云いそうな台詞が不意に思い浮かぶ。シュウは忍び笑いを洩らさずにいられなかった。
「少しは万が一に備えたらどうなんです? ご主人様、いつも丸腰でああいった手合いと戦ってますけど」
「御冗談を。あの程度の相手如きに私の力を揮うなど勿体ない」
シュウがこの住処を穏やかに保つ手段は幾つもあった。魔法で障壁を張り、外界から見えなくする。練金学の技術を用いて、次元の狭間に隠す。戦いで身に付けた技能で、罠を周囲を張り巡らす。科学技術で彼らの攻撃を封じる。けれどもシュウはそのどれにも手を付けようとは思わなかった。
所詮はマフィア風情。
街ひとつ単独で支配出来ぬような連中に、自らが持つ高度な技能を揮ってみせるなど、クリストフ=マクソードの名が泣く。
だからシュウはリビングでその時を待つことにした。彼らが襤褸を出すかも知れないこの好機を逃さない為に。
自分たちの力では及ばない相手と知れば、彼らは必ずや背後にいる存在に連絡を取るだろう。いや、もしかすると既に連絡を取っていて、ともに――或いは、先手必勝と教団側の暗殺者が先にやってくる可能性もある。いずれにせよ、彼らを潰す機会を窺っていたシュウとしては願ったりな展開だ。
たかだか街のマフィア如き、なのである。
他にも相手にしなければならない組織が幾つもあるシュウにとって、彼らの背後関係の洗い出しにかけられる時間には限りがあった。それに、シュウの狙いは邪神教団にこそある。目的と手段を見間違うことのないシュウは、だからこそ見切りをつけるべき時期を心得ていた。
――故に、これは必要な餌なのだ。
そろそろ住むのに飽き始めていた住処だ。マサキのことを思うからこそ未練が生じるが、元々シュウにこの家を惜しむ気持ちなどなかった。それならば、マサキを帰して終わりにすればいい――……目の前でまたもじゃれ合い始めた一羽と三匹の使い魔に、何を云う気も起きなくなったシュウはソファに座って、いずれ訪れ来るだろう敵をどうもてなすかを考え始めた。
その矢先だった。
無数の|気《プラーナ》が、こちらに向かって迫ってきている。
距離にして百メートルほど先にある気配を感じ取ったシュウは、異常事態に気付いたらしい。動きを止めた使い魔たちに寝室に行くように告げ、ソファから立ち上がった。壁にかかっている上着を手に取る。それに袖を通しながら玄関に向かい、ドアに手を掛ける。その瞬間、脳裏を過ぎった予感。決して快いものではないそれを案じて寝室の方角を振り返るも、今更シュウに何が出来る筈もない。ただ、使い魔たちが役に立つようにと願いながら、外に出た。
PR
コメント