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あおいほし

日々の雑文や、書きかけなどpixivに置けないものを。

衰弱の魔装機神操者(中-5):シュウマサ
嘘やろ私まだ書きたいシーンが一個しか書けてない!?笑
先は長そうです。

大丈夫です。〆は決まってるんで!!!!
次回こそシュウマサぽくなります!!よろしくお付き合いのほどを!



<衰弱の魔装機神操者>

「君も懲りないね、シュウ」
 半目がちな瞳。ぼんやりとした面差しは、表情だけでは何を考えているのかシュウに理解をさせなかったが、口振りから察するに呆れているようだ。宵のうちの闇の中。ガディフォールから降りてきたテリウスは、未だ呻き声を上げてもんどり返るばかりの賊の姿に、後始末にかかる手間を考えたらしい。はあ。と、大仰に溜息を吐く。
「幾ら君にとっては動く的だからって、玩具にするのはどうかと思うけど」
「まあ、何てことを云うのです、テリウス。シュウ様のことですわ。慈悲に決まっているじゃありませんの」
 隣にはモニカ。潔癖な元王女も、シュウとともに行動する内にこの過激な環境に慣れてしまったようだ。いや、もしかすると、シュウを見上げて陶然と言葉を吐いているぐらいである。彼女の潤んだ瞳には、不遇な賊の姿は映っていないのやも知れない。
「慈悲? ねえ、姉さん。慈悲ってわざと苦痛を与えることだったっけ?」
「シュウ様に襲いかかって命が残っているのですわ、テリウス。充分に慈悲だと思いませんの?」
「あー……うん、まあ、そうだね……」
 らしくなく困惑しきった表情になったテリウスが、助けを求めるようにシュウに視線を向けてくる。とはいえ、夢見る元王女はシュウが何を口にしたところで、自分に都合のいい解釈をするだけだった。だからシュウは余計な口をきかずに、ただ「後の始末は任せましたよ」とだけ云った。
「大丈夫かい、シュウ。今回のこれは再生出来る?」
「あなた方でしたら問題なく治せる程度の傷でしょうに。何が心配ですか、テリウス」
「本当かなあ」テリウスは足元で助けを求めているマフィアのひとりの手を踏みしだいた。「毎回そう云っておいて、何人かは使いものにならなくなってるけど」
 シュウは静かに微笑んだ。それで云いたいことを察したようだ。まあ、いいけど。と、テリウスが苦笑しながら、魔法陣の展開を始める。
 潤沢な魔力や豊富な知識を有しているのは、シュウに限らない。地面に描き出される魔法陣。足元から吹き上がる神々しい光に照らし出されたテリウスの口元に浮かぶ笑み。そういった意味で彼は紛れもなく、シュウの従弟だった。
「始めるよ、姉さん」
 ものの数秒もせず、辺り一帯に目晦まし用の障壁が組み上げられる。
 マトリクス状に積み重なったそれは、彼らの作業を人目に付かぬようにするだけでなく、魔力が流れ出ないようにする効果もあった。最小の効率で最大の効果を得る遣り方を好むシュウが開発した最新鋭の魔法陣。それが張り巡らされたのを確認したモニカが、心得ておりますわ。と、天に向かって両手を掲げる。
「この方々の意識改革をすればよろしいのでしょう?」
 鈴が鳴るような愛くるしい声。穏やかな笑みを浮かべている彼女はまるで天女のようだ。さらりと口を吐いた台詞が賊の人権を蹂躙する言葉でなければ、拝み倒す人間が出てもおかしくはない。
 それが、モニカを慕っているテリウスには耐え難く感じられる時があるらしい。眉を顰めると咎めるように言葉を継ぐ。
「もうちょっと穏やかに云ってくれないかなあ、姉さん」
「そうは申されましても。わたくし、これでも充分に柔らかく云っているつもりなのですが」
「まあ、洗脳って云っちゃうよりはマシだけどね」
 日々溜息が増えるテリウスに構わず、モニカが手の内に魔力を溜め始める。それは光の球となって辺りを照らし出した。
 何かが起ころうとしているのを悟ったのだろう。どうにかしてこの場から逃げられないかと藻掻くマフィアに暗殺者たち。けれども上手く手足が動かないのだろう。悲鳴に似た呻き声が四方から上がる。
「まあ、大人しく身を任せてくださいませ。直ぐに済みますわ」
「自分の台詞を省みた方がいいんじゃないかな、姉さん」
 惚けた口調でのんびりと会話を繰り広げているようにみえても、そこは流石の元王族。辺りには凄ましい量の魔力が渦を巻いている。それが温かな風となって、足元に伸びている彼らを包み込む。
「僕の好きに再生していいんだよね」
「ええ。どうぞお好きに」
「丁度、剣の練習用の『人形』が欲しかったところなんだ。今回のは長持ちしてくれるといいんだけど」
「油断はしないことですね、テリウス。モニカの術があるとはいえ、人間は時に、思いがけない力を発揮する生き物なのですから」
「わかってるよ」
 シュウは後のことを彼らに任せて、家に戻った。
 練金学が隆盛を誇るラングランに生まれ付いていなければ、もっと活躍出来る場に恵まれたことだろう。それだけの力を得るに至ったふたりを、シュウは人生の裏街道を歩み続ける自分の傍に仲間として置き続けている。そのことに何も思わないシュウではない。そろそろ彼らには新たな道を提示してやる必要がある……そういったことを考えながら書斎へ向かう。
 そして、通信機を使ってサフィーネを呼び出す。
 ――次は何をいたしましょうか、シュウ様。
 成果を報告せずに次の命令を尋ねてくる辺りが如何にも隠密行動に長けた彼女らしい。それは即ち、エージェントの無事が確保されたということでもある。その彼女に、シュウはモンテカルロファミリーを潰すように命じた。あら、もうよろしいのですか? 少しばかり驚いた様子の彼女に、先ほど彼らが教団の暗殺者と集団となって襲いかかってきたことを告げる。
 ――おいたが過ぎますわね。
 ――彼らが、ですか。
 ――まさか。シュウ様に決まっておりますわ。またそうやっておひとりでお遊びになられて……
 恨み言まがいの言葉を口にするものの、その鬱憤をぶつけられる場所を与えられたことについては素直に喜んでいるようだ。明日の朝には吉報をお届けいたします。頼もしく言葉を吐いた彼女は、久方ぶりの戦闘に胸を疼かせているのだろう。ではこれで。と、微かに弾んだ声で挨拶を済ませると、名残惜しさを感じさせない勢いで通信を切った。
 事後の処理を采配し終えたシュウは、汚れた身を洗うべくシャワーを浴びた。
 優れた能力に長けた仲間たちに後を任せた以上、彼らの身を案じるのは、その信頼を損ねる行為だ。だからシュウはマサキに考えを戻した。きっと今頃の彼はベッドで深い眠りに落ちているに違いない。瞬間的に爆発させた|気《プラーナ》は、彼の身体に相応の負担を与えている筈だ。バスルームから出たシュウは着替えを取りに行くついでに、マサキの様子を窺うことにした。喉に痰が絡んでいるからだろう。鼾を掻いて眠っている。
 シュウはベッドの端に腰掛けて、その表情を窺った。
 真っ赤に染まった頬。額に浮かぶ汗をタオルで拭ってやる。
 魔力を感じ取れない彼に、テリウスとモニカの動きは覚れないのだろう。何にも阻まれることなく眠りを貪る姿。力の抜けきった表情が、彼が感じている疲労の度合いを伝えてくる。
 シュウは視線を上げ、壁に掛かっている時計を見た。
 そろそろ夕食にしてもいい頃合いだ。
 ベッドから立ち上がったシュウは、マサキを起こさぬように着替えを済ませて寝室を出た。そして、そのままキッチンに入った。コンロの上に乗っている鍋の中には、数時間前に作ったスープが残っている。
 喉を腫らしているマサキに食べさせられるものには限りがある。かといって、残り物をそのまま口にさせるのも気が引ける。
 シュウは冷蔵庫を覗いた。薬を飲ませる為にも食事は取らせなければならなかったが、シュウの家にある食料は、その大半がスープに姿を変えてしまったあとだ。何か残っていればいいが。と、思いながら空に近い冷蔵庫の中を漁る。ひとかけらのチーズに、そろそろ乾ききりそうなパン。これだけでもないよりはマシだ。シュウはそれらをひと口大にちぎってスープに加えた。
「流石に明日は食料を補充しないと駄目なんじゃないですかねえ」
 鍋を火にかけると同時に、口喧しくお節介な使い魔が飛んでくる。
「ああ、そうでしたね。後でテリウスに頼んでおきましょう」
 火が通るのを待つ間にリビングを覗けば、テレビを見て退屈を紛らわせていたようだ。点けっぱなしになったテレビの前で二匹の使い魔が丸くなっている。チカ曰く、あたくしを玩具にするのに飽きたらしいですよ。とのこと。何でも、先ほどのシュウの振る舞いを見て、自分たちの行動が似たようなものであることを自覚したのだとか。
「流石はマサキの使い魔といったところでしょうか。面白い思考回路をしていますね」
「自省するだけの良心があるだけマシなんじゃないですか? だってご主人様は自らの行いを悪いとは思ってないんですよね」
「まさか。私にも良心はありますよ。一般人混じりだからこそ手加減したというのに」
「なら、暴虐なのはマサキさんなり、ってことですかねえ」
「そうかも知れませんね」シュウはふつふつと煮えた鍋の中を覗き込んだ。
 溶けたチーズにふやけたパンが、味気ない野菜のスープに彩りを添えている。このぐらいの固形物であれば、マサキでも食べられるだろう。温まったスープを皿によそい、スプーンとともにトレーに載せる。
「ご主人様にここまでさせるマサキさんって凄いとあたくし思うんですけど」
「あなたはいつも私の良心を疑ってばかりですね」
「まあ、そりゃ」
 そこで彼はシュウの動かぬ表情に、不安定な感情を呼び覚まされたようだ。いやいや、あはは。などと口籠りながらシュウの肩を離れると、一目散にリビングに逃げ込んでゆく。
 余計な口をきいてばかりの自身の使い魔を、これでもシュウは気に入っているというのに。
 苦笑しきりなシュウは、トレーを片手に寝室に向かった。マサキ。名を呼ぶも、深い眠りに落ちているようだ。ぴくりとも動く気配がない。シュウはサイドテーブルの上にトレーを置いた。ついでと水差しの中身を確認する。大分量を減らした水は、彼が合間に起きては水を飲んでいたことを示している。
 キッチンに戻り、水を補充してまた寝室に戻る。
 マサキが起きる気配はない。マサキ。シュウは再びその名を呼んだ。





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