今回のリクは「体調悪いマサキを見つけてお持ち帰りお世話するシュウさん」です!
ただ普通に甘々お世話をさせようと思っていたのですが、何だか雲行きが怪しく……
だ、大丈夫です!ちゃんとお世話させます!
ということで、本文へどうぞ!
ただ普通に甘々お世話をさせようと思っていたのですが、何だか雲行きが怪しく……
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<衰弱の魔装機神操者>
邪神教団に対抗すべく作り上げた|情報網《ネットワーク》を通じて、その情報がシュウの許に届けられたのは、今から数えること二時間ほど前のことだ。風の魔装機神の操者がアタルゴの街で行き倒れている。まさか。あまりに突飛な報せにシュウは我が耳を疑った。
ラングランが戦神、マサキ=アンドー。歴戦の覇者たる彼が、容易なことで行き倒れもしまい。一体、その身に何が起こったのか――シュウは詳細な情報を求めて情報網を浚ったが、詳報もなければ続報もない。
もしかすると罠かも知れない。シュウは自らが作り上げた情報網の堅牢なセキュリティに自信を持ってはいたが、自身が巨大組織に命を狙われている身である現実を軽んじてはいなかった。それならば――。シュウは急ぎ家を出て、北北東に位置するアタルゴの街へと向かった。
セキュリティが破られたのか、それとも、情報網へのキーを持つエージェントに何かあったのか。対策を講じる為にも、先ずは情報の真贋を確認しなければ。そう考えたからだった。
とはいえ、気持ちとしては、自身が作り上げた情報網を信じる方に傾いていたのだろう。それがシュウをして動揺させたのか。道中で|使い魔《チカ》を家に置き忘れていることにシュウは気付くが、口達者な彼が役に立つ局面は極々一部の特殊な環境に限られたもの。
今更、彼を連れ帰るのも手間だ。
何より、情報が正しいのであれば、あのマサキが行き倒れているのだ。シュウに負けず劣らず敵の多い青年を、このままにはしておけない。アタルゴの街に辿り着いたシュウはマサキの行方を探し歩いた。
けれども、それらしい姿が何処にも見付からない。
目に付き易い場所は全て回ったが、もしかすると、方向音痴に過ぎるマサキのことだ。人けのない路地に入り込んでいるのかも知れない……最悪の事態が脳裏を過ぎる。シュウは捜索範囲を広げるべきか少しばかり思案した。そして、いや――と、首を振った。頑丈さだけが取り柄のような青年だ。そのしぶとさや逞しさを疑う気にはなれない。
とはいえ、ここでいつまでも立ち尽くしている訳にも行くまい。シュウは大通りから幾本も伸びている小路を、手前から捜索してゆくことに決めた。
その瞬間だった。
前方から駆けてきた少女が、少し先にある店の軒先で番をしている中年女性の前で足を止めるなり、
――ねえ、ママ。聞いて! 戦士さまがこの街に来てるんですって……!
興奮しているのだろう。声を弾ませて母親に話を聞かせている少女に、シュウは足早に近付くと、失礼。とふたりの会話に割って入り、「そのお話を詳しく聞かせてはいただけませんか」自らに向けられる怪訝そうな眼差しを振り払うように微笑みかけた。
※ ※ ※
英雄と云えども人間である。病魔には抗えない。
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英雄と云えども人間である。病魔には抗えない。
広場の噴水前で力尽きたようだ。市長宅に運び込まれたマサキを、セニアから手を回してもらって『確保』したシュウは、彼を自宅に運び込むと知己の医者を呼び、その到着の間、念の為にとアタルゴの街にサフィーネを派遣することにした。
情報は正しいものであったし、街で何かが起きた訳ではなかったが、詳報が上がってこなかった理由は不明なままだ。念の為にきちんと調べておくべきだろう。シュウはエージェントの身辺調査を依頼して、サフィーネとの通信を終えた。
そうして、マサキを寝かせている寝室に向かった。
マサキの二匹の使い魔に話を聞いたところによると、昨晩から調子を崩していたようだ。それを熱がないからと、プレシアが止めるのも聞かずに外出してしまったのだとか。流石は風の魔装機神操者。無茶と無謀は専売特許だ。
「具合は如何ですか、マサキ」
顔を赤くしてベッドに横たわっているマサキに声を掛けると、最悪だ。と、呻くような声が返ってきた。直後、ごほごほと盛大に咳込む。昨晩から突発的な咳に見舞われるようになったのだとか。少し掠れた彼の声に、シュウは呆れるより他なかった。
熱がなかったにせよ、この調子でよくぞ外に出ようと思えたものだ。シュウはマサキ身体を抱えて起こさせた。サイドテーブルの上に用意した水差しを取って、口元に運んでやる。鼻が詰まって口で呼吸をせざるを得ないからか。喉が渇いて仕方がないようだ。ひと思いに水差しの水を飲み干したマサキに、「医者が来るまでもう少しですから、それまで起きているのですね」そう云って、ベッドの中へと彼の身体を戻してやる。
医者が往診に訪れたのは、空となった水差しに、シュウがキッチンで水を注ぎ始めた矢先だった。厳めしい顔付きの初老の男性は、その見た目とは裏腹に丁寧な治療を行うことで有名だ。シュウとは長い付き合いになるだけあって、口の堅さは折り紙付き。ベッドに横たわっているマサキの姿を見ても眉ひとつ動かさなかった彼は、ひと通りの診察を終えると、最近流行りのウィルス性の風邪だろうと診断を下した。
解熱剤に、咳止め。うがい薬とトローチ。念の為の整腸剤。
あとは栄養を付けて寝るんだな。と、笑って診察を終えた医者を見送ったシュウはリビングに入った。流石に主人があの様子では枕元で騒ぐ訳にもいかないと理解しているようだ。獣の本能に従ってチカを追いかけ回しているシロとクロに、風邪だそうですよ。シュウは告げた。
「だと思ったんだニャ!」
「重病じゃなくてよかったのよ!」
主人の容体がそこまで深刻ではないとわかったからか。二匹の使い魔が更に勢いに乗ってチカを追いかけ回す。ひぃぃぃぃぃ! 助けてぇ! 悲鳴を上げて逃げ回っているチカを横目に、シュウはキッチンに戻った。
水差しと処方された薬を手にまた寝室に向かう。
マサキを市長宅から動かすことに反対していた二匹の使い魔だったが、シュウが自身の情報網に気掛かりな点があることを打ち明けると納得したようだ。そういうことならと、素直にマサキを任せてきた。
どの道、市長宅の警備状況では、マサキを守り切れない。かといって、こちらの情報が筒抜けな場合を考えると、プレシアの許に戻すのも不安が残る――サイドテーブルに水差しと薬を置いたシュウは、マサキの額からずり落ちている氷嚢を戻してやった。
ごほごほと苦し気に咳込むマサキに、「食事は取れそうですか」と尋ねる。と、氷嚢の下の瞼が開いた。直後、熱に侵されて潤んだマサキの目がシュウを見上げてくる。
「喉に何か引っかかってる感じがする」
「扁桃腺が腫れているらしいですからね。とはいえ、薬を飲む為には何かを胃に入れないといけない訳で。どうしても食べられそうにないのであれば、ホットミルクを用意しますが」
「食わなきゃ治らないんだろ。なら、食う……」
長く言葉を吐いていると、喉に障るようだ。ごほごほとまた咳込んだマサキに、シュウはその胸を摩ってやった。
「お前が優しいと後が怖え」
「私にも誰かに善行を施せるぐらいの良心はあるのですよ」
暫く続けてやると、落ち着いたようだ。ゆっくりと瞼を伏せたマサキに、「食事を用意してきますよ」そう告げて、シュウは寝室から立ち去った。
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