もうね前中後編とか大嘘でしたね!!!!またやっちゃった!!!
白河が物思いに耽る回です。一生ぐるぐる回ってて欲しい!今の私の欲はそこですね!
と、いうことで、その辺りお含みおきの上でお読みください。
一時間半ほどで書いたので、詰めが甘い部分もありますが、白河はしっかりぐるぐる回ってます!
白河が物思いに耽る回です。一生ぐるぐる回ってて欲しい!今の私の欲はそこですね!
と、いうことで、その辺りお含みおきの上でお読みください。
一時間半ほどで書いたので、詰めが甘い部分もありますが、白河はしっかりぐるぐる回ってます!
<衰弱の魔装機神操者>
キッチンに入るついでにリビングを覗き込む。飽きたようだ。ソファの上で毛づくろいをしている二匹の使い魔にちらとだえ目を遣る――と、テーブルの上で乱れた羽根を直していたチカがふわりと宙を舞って肩にとまった。
「治る頃にはあたくしの羽根がなくなっちゃいそうですよ、ご主人様」
「遊び相手がいる日常もいいものでしょう」
「何を仰いますか! これでもあたくし、ご主人様の使い魔ですよ! そりゃあ静かに暮らす方が性に合っていると申しますか、ご主人様相手にお喋りしている方が楽しいと申しますか、やっぱり」
チカの止め処ないお喋りをBGMに冷蔵庫を開く。きっと、日本人のマサキのことだ。おかゆやおじやの方が喜ぶのだろう。そう思いながら食材に乏しい冷蔵庫を漁る。
「何を作るんです?」
「この中身で病人が食べられる食事となると、野菜スープぐらいでしょうかね」
「でしょうね。聞くだけ野暮ってもんでしたよ」
サプリメントやオートミール、サラダなどで手軽に食事を済ませることが多いシュウからすれば、食欲旺盛なマサキの食べっぷりは驚嘆に値するものだ。よくぞその細い身体の中に入ると思うくらいに良く食べる。毎食そのくらいの量を食べているのかは定かではないが、いつぞや同陣営になった時などは、三人前のカレーを当たり前のように平らげていたのだから恐れ入る。
「明日は街に買い出しに行きましょう。とにかく栄養を付けさせなければ」
「お優しいですねえ。ご主人様の慈悲に与るなんて、あたくしでさえ滅多にないことだっていうのに」
玉葱に人参、キャベツ。缶詰のマッシュルームにコーン。ついでと最後の一枚だったベーコンを冷蔵庫から取り出したシュウは、焼き餅ですか。と、チカに返事をしながらキッチンカウンターに立った。
魔法生物とはいえ、人間に使役される為に生み出されるからだろう。彼らは主人に実に忠実だ。口の悪さが目立つチカであっても、それは同様である。彼は滅多なことではシュウの傍から離れなかったし、それ故に孤独を好むシュウに邪険にされることも多かったが、それをものともせず、主人に忠実たり続けている。
「あたくしが焼き餅を焼くような下心がおありで?」
「ないとは云えませんね」
ピーラーに包丁、まな板にボウル。調理器具を揃えたシュウは、野菜のカットに取り掛かった。
「相手は病人ですよ」
「そういった意味ではありませんよ。サフィーネの調査次第ですが、釣り餌になる可能性はありますからね」
「やめたげてくださいよう。あんな具合の悪そうなマサキさん、初めて見たっていうのに」
喉があの調子では、さしたる量も飲み込めまい。マサキの具合を考えて、野菜は小さく刻む。
「だからここに連れてきたのですよ。足取りを追えば辿り着けるように」
「万が一でも連中が辿り着くようなことがあったら、また引っ越しじゃないですか。あの人らのネットワークだって馬鹿に出来ないですからね。放っておけば二、三日もしない内に傍迷惑な来客のご登場って、これ何回繰り返してます?」
「とはいえ、時には餌を撒くことも重要ですよ。そうしなければ、教団に続くルートは掴めませんからね」
「いーや。ご主人様のそれは趣味ですよう。引っ越す口実を作るついでの殲滅作業。飽き性って云うんですかね。ホント、ご主人様ってひとところに落ち着こうとしない」
そう、チカも云うように、シュウはひとところに根を張るような生活を好まなかった。丁度いい罠とばかりに自らの居所に敵を招き寄せては叩き潰し、そして新たな居場所へと旅立ってゆく……シュウにとって大事なのは、自らの生き甲斐である研究に使う施設のみ。そこさえ無事であれば、自宅などどうなっても良かった。
どうせ、研究所と自宅を往復するような日々なのだ。その合間に戦いに出ることはあっても、それは自らの宿業の清算。即ち、当たり前にすべきことをこなしているだけのこと。趣味らしい趣味を他に持たないシュウは、だからこそ自らの居所をひとつに定めないことで、気分転換を図っている。
それでも……と、シュウはボウルに溜まった野菜を目の前に手を止めた。
考えてしまうことはあるのだ。ひとところに居所を定めれば、もっと楽に彼と親交を深められるのではないかと。
定住しないシュウがマサキと会うのには、偶然の行きがかりが必要だった。とはいえ、広大な領土を誇るラングランでは、起こせる偶然には限りがある。王都に赴いたとき、情報局に足を向けたとき、或いは練金学士協会に向かったとき。だからシュウは、大抵は予め情報を仕入れた上で自らマサキの許に赴いた。そうでなければ、シュウはマサキと会えなかった。そもそも、シュウの住処を知らないマサキがシュウを訪ねてくることはなかったし、興味もないのだろう。住所を尋ねてくることもないのだ。
「そう考えると、ここを離れるのは惜しくもありますね」
シュウはコンロの前に立った。たっぷりと水を張った鍋を火にかけ、ボウルの中のスープの材料を放り込む。
シュウの現在の居所を知ったマサキは今後どうするだろう? 偶には思い出して足を運んでくることもあるのだろうか? いや、ない。それがわかっていながらも、抱かずにいられない期待。浅ましい。シュウは喉に溜まった苦みを飲み込んだ。
「それはまた随分と欲に塗れた発言で!」
肩で喚くチカを横目に鍋が煮えるのを待つ。主人の欲に気付いている彼としては、シュウのまだるっこしい遣り口が気に入らいのだろう。だったらもっとストレートに迫ればいいのに。だのと姦しい。
――出来ることならとうにそうしている。
シュウは自らの幼児性に苦笑を禁じ得なかった。
前に進むのも怖ければ、後ろを振り返るのも怖い。そう、シュウは怖いのだ。マサキとの関係が変わってしまうのが。
それは決してシュウの妄想通りの展開にはならないだろう。
そういった意味でシュウは紛れもなくひとりの人間だった。前に進んだ結果が亀裂と化してしまうのであれば、気兼ねなく言葉を吐き出し合える今の状態こそが、マサキとの付き合いにおけるベストな距離感ではないのか。溜息の数と同じ回数だけ考え尽くした問い。堂々巡りなまま、答えが出ないその問いを今また胸の内で繰り返す。
シュウは静かに息を吐き出した。
輝ける未来こそが相応しい風の魔装機神の操者は、いつかは自分を置き去りにして人生の栄光を掴むのだろう。それをシュウは見たくないと思いながらも、その道しかないとも思っている。
ラングランが戦神、マサキ=アンドー。彼はその魂そのものが輝ける人間だ。陰鬱な人間であることに自覚があるシュウとは対極にある存在。シュウは精神的な意味で、マサキが自分に馴染めない側の人間であることを覚っている。だからこそ、彼には彼の、自分には自分の、往くべき道があるのだろうと――自分を納得させてしまうのだ。
「ご主人様、煮えたんじゃないですか?」
ぼんやりと物思いに耽っていると、どうやらいい頃合いになったようだ。チカが鍋を覗き込んで催促してくる。シュウは吊り下げ棚に並べている調味料を手に取った。塩、胡椒、そしてコンソメ……鍋の中に詰まった野菜が、底から湧き上がってくる泡で踊っている。ひと口でも多く口に入れてくれればいいのだが。そう思いながら、暫く鍋を掻き混ぜたシュウはコンロの火を止めた。
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