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あおいほし

日々の雑文や、書きかけなどpixivに置けないものを。

YOUTUBER白河番外編 その後のふたり(後):シュウマサ
今回のリクの中では、この作品はほのぼの枠に入ると思うんですけど、だからこそそれに見合う話になるように頑張りました!いや、ホント頑張ったんです!!!(不穏)

ただちょっと、白河が披露宴に拘り過ぎてしまっているだけで……

楽しんでいただけますと幸いです!では、本文へどうぞ!



<YOUTUBER白河番外編 その後のふたり>

 そもそもシュウ=シラカワという男は、表裏の差が激しい男だ。他人の前では人間味に欠けるほど理知的である割に、マサキの前では子どもじみた一面を隠そうともしない。マサキに張り合ってか。意見を潰すように言葉を重ねてきたり、揚げ足を取っては勝ち誇ったり。一時期など、会う度に嫌味や皮肉が飛んでくるものだから、マサキは本気で彼に嫌われているのだと思っていたぐらいだ。
 それが所謂『好きな相手に素直になれない男心』だと知った瞬間のマサキの衝撃!
 今のシュウがそうした振る舞いに及ぶことはなくなったが、ふたりきりになると豹変してみせるのは相変わらずだ。マサキがスキンシップに応じるまで鬱陶しく纏わり付いてくるのは勿論のこと、目に入れても痛くないといった勢いで甘やかしにかかる。性行為の終わりを先延ばしにするのも、いつだってシュウの方だ。
 それは普段のシュウしか知らない人間からすれば、天地が引っ繰り返るほどの衝撃を受けるものであるだろう。だからマサキは、シュウが披露宴の開催に強い意欲をみせた時も驚かなかった。この男ならやるな。むしろそう思いもした。
 何せ、自信が服を着て歩いているような男である。知力に武力に魔力と、そのどれもがトップレベルときては、生半可な能力では隣に立てもしない。比類なきステータス。不可能さえも可能としてみせる男は自身の成功に貪欲で、だからこそ、どれだけの失敗を繰り返そうとも心折れることがなかった。
 百万回の|失敗《ミス》を犯そうとも、百万一回目に成功すればいい。シュウのメンタリティを支えている金科玉条は、だからこそ彼にマサキを獲得させるに至った。それをどうして自信家のシュウが自慢せずにいられたものか。他の魔装機操者、或いは彼の仲間であればまだしも、あまりにも浮いた噂がなかったが故に、『難攻不落の英雄』と有難くない二つ名で呼ばれるようになったマサキが相手である。これで見せびらかしたくならない方がおかしいとも云える。
 宣誓式だけでなく、披露宴をも彼が望んだのはだからだ。
 それが叶わなかったが故に溜まった憂さを、動画で晴らそうというのが如何にもシュウ=シラカワという男らしい――たっぷり数十秒言葉を失ったマサキは、「いや、だからって、何も一からウェディングケーキを作らなくとも……」と、ようやくそれだけ口にした。
「披露宴と云えばつきものなのが、夫夫初めての共同作業たるケーキ入刀でしょう。かといって、ウエディングケーキを買ってきたところで、一瞬で済んでしまうものですからね。それだけでは味気ない。ですので、どうせだったら作るところから共同作業にしてしまおうかと」
「お前、俺が想像してる以上に動画馬鹿なんだな」
「そこまでは流石に。私はただ、あなたとの結婚をより記憶に残るイベントにしたいだけですよ。披露宴が出来なかった分も含めてね」
 マサキにとってはこれまでの生活の延長線上にあった結婚という人生の区切りは、シュウにとっては人生のステージを数段上がるくらいに重い出来事であったようだ――澄ました顔で披露宴への未練を感じさせる言葉を吐いてみせたシュウに、マサキは長く重い溜息を吐き出さずにいられなかった。
 同時に湧き上がってくる諦観の念。
 披露宴などという『自らが動物園の珍獣宜しく見世物にされるイベント』に対する忌避感は、今でもマサキの胸から消え去ることはない。それでも、シュウが披露宴に対して強い思い入れを持っていたらしいことは理解出来た。なら、ウエディングケーキを一から作ってやろうじゃねえか。シャツの袖を捲ったマサキに、やる気を見出したようだ。シュウが微かに表情を綻ばせる。
「では、早速ウエディングケーキ作りを始めましょう。先ずは土台となるスポンジケーキを二台焼くところからですね」
「二台? 三台じゃないのか?」
 どうやらレシピを|小型携帯端末《PDA》で確認しながら進めるようだ。ボウルに計量器、泡だて器にへらと、カウンターの上に置かれた|小型携帯端末《PDA》を覗き込みながら、シュウが必要な材料と調理器具を手前に引き寄せてくる。
「何故ウエディングケーキが三段になっているか、あなたはご存じですか」
「いや。何か意味があるんだろうなとは思うが、詳しくは知らねえ」
 必要な材料が揃ったようだ。|小型携帯端末《PDA》をカウンターの中央に立てたシュウに、マサキはその画面を覗き込んだ。オーブンを予熱で温めておくだの、無塩バターを溶かすだの、目にするだけで眩暈が起こる手順が並んでいる。
「一段目は来てくれた招待客に振舞う用、二段目は来られなかった招待客に振舞う用、三段目は記念日などに夫婦で食べる用だったのだそうですよ。とはいえ、今のウエディングケーキは生ものですからね。どう頑張っても記念日までは持たないでしょう」
「確かに。だから二段なのか」
「招待客もいませんし、一段でも良かったのですが、それだと見栄えがウエディングケーキらしくなくなるでしょう。それに、私たちの能力で三段のウエディングケーキを崩さずに作れるとは思えませんしね」
「あー……そうか。高さが出ると崩れる可能性があるのか」
 マサキはオーブンを振り返った。システムキッチンの左下にある立派なオーブンは、シーズンに一度は鶏だの豚だのの丸焼きを作るマサキ用にシュウが新調したものだ。当然ながら、この一ヶ月の間にこのオーブンが使われたことはない。
「無駄な買い物をするなと思ってたが、こういった役にも立つんだな」
 オーブンの温度を160℃に設定し、予熱を入れる。と、バターを溶かすつもりであるようだ。計量を終えたシュウがバターを入れた容器を片手に電子レンジに向かいながら、「シーズンに一度のあなたの料理の為なら安い買い物ですよ」と笑った。

 そこからはてんやわんやだった。

「5グラムぐらい良くないか?」
「駄目です」
「これならいいだろ。1ミリグラム」
「駄目です」
「お前、ミリ単位まで正確に計量しろって無理だろ!」

 大雑把な性格であるが故に多少のずれは誤差として処理しようとするマサキに、几帳面な性格であるが故に小数点単位まで正確な計量を求めるシュウ。彼はマサキの性格を熟知しているからか。マサキが計量に立とうものなら、逐一チェックを入れ、正確な重さへの修正を求めてきた。

「おい、ハンドミキサーがどこにもないぞ」
「あなたに使わせない為に隠しました。その方が動画として面白いので」
「人力でやれってか!? お前、披露宴のこと相当根に持ってんな!?」
「良くおわかりで」

 キッチンカウンターの上に当たり前のように置かれていた泡立て器。卵とグラニュー糖を掻き混ぜる程度であればこれでも用は足りるが、先々にある生クリームの泡立てに使用するには心ともない。先の長い作業工程に少しでも楽をしたかったマサキはハンドミキサーを求めて戸棚を開いたが、そこにはハンドミキサーの影も形もなく。しかも隠した当人であるところのシュウが泡立て器を持つことは、最後までなかった。

「スポンジに挟み込む苺は7ミリ幅にカット……7ミリって測りながら切るのかよ」
「きちんと幅を揃えないと後が大変ですよ。ケーキが崩れます」
「マジか。なら真面目にやらねえとな……」
「頑張ってください。私は魔法で切りますが」
「何でだよ!? だったら俺にハンドミキサーを使わせろよ! 何でお前だけ楽してんだよ!」
「披露宴さえしていれば、こういったことにはならなかったものを……」
「こ、この、我儘元大公子め……ッ」

 スポンジケーキに挟む苺の幅は7ミリ。きちんと揃っていないと土台になるケーキが斜めになってしまう為、慎重にカットするより他なく。その脇で、フルーツ包丁を使うことなくフルーツをカットしてゆくシュウ。彼が出来なかった披露宴に、どれだけ恨みを募らせているかが知れる。

「……? なんか今、視界の隅で動いたもんがあった気が……まさか……」
「ああ、すみません。私がマジパンで作った薔薇ですね。使った魔力が移ったのでしょう」
「お前さあッ! 苦手な作業を全部魔法で片付けるの止めろよ!」
「後で処分しておきますので、お気遣いなく」
「そういう問題じゃねえんだよ! てか処分って何だよ!?」
「それについては聞かない方が身の為ですよ、マサキ」

 どうやらシュウは、細かい作業の全てを魔力で片を付けるという荒業に打って出たようだ。カウンターの隅で踊るように揺れているマジパン製の薔薇。幸いにして、魔力が移った薔薇は三つだけで済んだが、ウエディングケーキの飾りとはならなかったそれが、シュウの手によってどう処分されたのか。マサキは知らないままでいる。

「魔法を使いまくった割には、ケーキを重ねるのは人力なのな」
「大事な部分は手作業で行わないと、充実感が得られないでしょう」
「お前、美味しいとこ取りって言葉知ってるか?」

 何かをする度に起こる騒動に足を引っ張られながらも、奮闘すること四時間。スポンジケーキの焼きが少し硬かったり、生クリームが思ったほど上手く塗れなかったりと、かなりのハプニングがあったものの、マジパンで作られた薔薇の飾りや、ふんだんに使用されたフルーツのお陰で、その程度のミスなど失敗の数にも入らないぐらいに立派な見た目となったウエディングケーキ。片付いたキッチンカウンターの上に鎮座している白亜の塔を目の当たりにしたマサキは、その華やかさに感心せずにいられなかった。
「すげーや……素人ふたりで二段重ねのウエディングケーキが完成した」
「成功しても失敗しても動画ネタにはなりますが、やはり完成した方が面白いでしょうしね。無事にここまで辿り着けて良かったですよ、マサキ」
「お前は大半魔法を使って作業してたがな」
 マサキは小麦粉だの生クリームだのが染みを作っているエプロンを脱いだ。そしてカウンターの隅に置かれた|アクションカメラ《GoPro》を取り上げた。マサキの言葉に肩をそびやかしているシュウには目もくれず、ファインダーにウエディングケーキを収める。
 マサキにとっては初となる|アクションカメラ《GoPro》での撮影だったが、けれどもシュウは意外だとは感じていないようだ。マサキの気が赴くがままに撮影させている。
 実に四時間近くの激闘の成果。溢れんばかりのフルーツで飾られた一段目に、マジパン製の薔薇があしらわれた二段目。これをふたりの手で生み出したのだと思うと感慨深い。だからこそ、マサキはウエディングケーキを自らの手で撮影した。この映像が動画に使われるといいなと思いながら。
「このまま披露宴に出しても通りそうだな、これ」
「今からでも披露宴をやるのは遅くないですよ」
「それは嫌だ。てか、ケーキカットするんだろ?」
「ええ」
 相変わらずなマサキの披露宴に対する拒否反応に、けれども口で云うほど恨みを募らせている訳ではなさそうだ。穏やかな微笑みを浮かべているシュウがエプロンを脱ぎ、食器棚から大ぶりのナイフを取り出してくる。マサキは|アクションカメラ《GoPro》をカウンターに置いて、正面の|アクションカメラ《GoPro》に向き直った。
「ふたりじゃ食い切れないな」
「後でプレシアに持って行きましょう」
 そう言葉を交わしながら、ナイフの柄に手を添え合う。
 マサキはシュウの顔を見た。シュウもまたマサキの顔を見ている。惜しむ気持ちも多少はあれど、これもひとつの夫夫になる儀式であるのだ。視線で合図を送ったマサキは、シュウとともにウエディングケーキにナイフを入れた。

 ※ ※ ※

 一ヶ月振りとなる企画動画には、いつも通りに沢山のコメントが寄せられた。まさかのウエディングケーキ制作チャレンジは視聴者の度肝を抜いたようだ。中にはぽつぽつ披露宴を求める声もあったが、大半は完成したウエディングケーキの豪華さに驚く声だった。
 マサキ初の本格的なお菓子作りとなるウエディングケーキの出来は、料理の腕では遥か上を往く義妹の舌を巻かせた。ダイエットしてるのに。と云いながらも、切り分けられたケーキをぺろりと完食。後日、聞いたところによると、お裾分けに与った他の魔装機神操者たちにも好評だったらしい。
 そのケーキを、マサキはシュウとシャンパンを傾けながら食べた。
 舌が蕩けそうな甘い生クリームに、酸味の利いた山盛りのフルーツ。調和の取れた味が癖になる美味いケーキだった。
 きっとこれからも、こうして動画を通じて、幸せな記憶を積み重ねてゆくのだろう。その先には、改めて披露宴をする未来もあるかも知れない。そんなことを思いながら、マサキは当たり前になりつつあるふたりでの生活の幸福の重みを噛み締めた。







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