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あおいほし

日々の雑文や、書きかけなどpixivに置けないものを。

ZU-TTO(中-1):シュウマサ
今回の水上バンガロー、マジで綺麗なんですよ!
私の筆では美しさが語り切れないぐらい!!!!!

てかパラオ自体がそう!!!!

流石は地上最後の楽園ですよね。私が若い頃からずっとそう云われ続けていて、しかも今になってもその美しさがくすむことがない。いやーパラオの写真は癒されますね!旅に出たくなる!

そんな感じで続きです。ヽ(´ー`)ノよろしくどうぞ!



<ZU-TTO>

 夕暮れの名残が色の群れとなって海と空を染め上げる宵の口。頭上に煌めく星々を従えてビーチでのディナーを終えたシュウは、足取り軽くバンガローへの道を往くマサキの半歩後ろを付いて歩いていた。
 波打ち際にセッティングされたテーブル。ふたりで向き合って座ったディナーの席は、テーブルの中央に灯るキャンドルの明かりがムーディに非日常感を演出するものだった。
 海の幸をふんだんに使用したコース料理。味は絶品のひと言だった。マサキも存分に堪能したようだ。旨い々々と声を上げながら食事を終えた彼は、遮るもののない空を見上げながら上機嫌でいる。
 今回の旅の目的は、日常に疲れてしまったマサキの精神のリフレッシュにある。その為ならシュウは金に糸目を付けなつけなかった。ディナーのプランもそのひとつだ。ビーチでのバーベキューやホテル本館にあるレストランでの夕食プランもあったが、他の宿泊客と密集して食事をするのは気が詰まるというもの。だからシュウは一番値が張るプランを、惜しげもなく選択したのだ。この旅の間、マサキが気兼ねなく過ごせるようにと。
「そういやさ」
 バンガローに戻って、リビング兼寝室に入る――と、マサキがソファの前に回って、足元に目を遣りながら口にした。
「ここ、テーブルの下。海中が見えるようになってるんだな」
 シュウはマサキの隣に立って、テーブルを見下ろした。
 小さなテーブルは、飲み物とつまみを置けばいっぱいになってしまうぐらいの広さしかなかったが、その下には夜を迎えて深い藍色を湛えている海が波を揺らしている。それはあまりにも美しく、あまりにも非現実的な光景だ。
 ガラスの天板の下に覗く小さな水の世界。ぱっと見、出来のいいCGを見せられているような気にさえなる。
「そうですね。バルコニーデッキから海に下りられるようにもなっていますし、どこまでも美しい海に拘った造りですね」
 美しい海を眺めている内に胸が騒ぎ出したようだ。泳ぎてえな。子どもが悪戯を思い付いたような表情でそう口にしたマサキに、時間は幾らでもありますよ。シュウは微笑んだ。
 金の力にものを云わせて取った水上バンガローの宿泊予定日数は一週間。とはいえ、多忙なマサキのことだ。途中で呼び戻されてしまう可能性も十二分にあった。
 幾ら認められた休暇とはいえ、魔装機神操者である。有事が起これば休暇もそれまでだ。
 それでもシュウは構わなかった。自身が叩いた大枚が無駄になるのは承知の上。何より、ここパラオはマサキが自ら選択した行き先なのだ。彼が心行くまでこの土地を堪能する為であれば、どれだけ金を積んでも安い出費にしかならない。
「見たいものも沢山あるし、泳ぎたい気持ちもあるし、ここでのんびり過ごしたい気持ちもある。一生に一度程度じゃ足らないかも知れないな」
「なら、また一緒に来ましょう。あなたの気が済むまで付き合いますよ」
「お前も楽しめよ」
 言葉の割には満ち足りた表情。願いが叶ったのが嬉しくて堪らないようだ。
 打ち解けた雰囲気を漂わせているマサキに、シュウは手を伸ばした。肩を抱き寄せて、心のままに言葉を継ぐ。
「私はあなたのその表情だけで充分ですよ、マサキ」
 そう、マサキとともに過ごしているときのシュウには、それ以上の望みなどなかった。彼が悦び、笑い、楽しんでくれさえすればそれでいい。
 自身が他人にとって決して面白い人間ではないことを自覚しているシュウは、そういった偏屈な人間であるところの自分に付き合い続けてくれているマサキに、だからこそ、せめて自分と一緒にいる間ぐらいは気兼ねなくいて欲しいと望んでいるのだ。
 だが、彼はシュウの返事に呆れたような表情を浮かべると、シュウに凭れてきながらこう言葉を返してくる。
「お前、俺もお前のそういう表情が見たいって思ってるとは思わないかな」
「そうは云われましても」
 シュウにとってマサキは大事な掌中の珠だ。長く恋焦がれて、ようやく手に入れた宝物。それを大事に扱えないようなシュウではない。シュウが時に、行き過ぎるぐらいにマサキの願いを優先してしまうのもだからだというのに。
 マサキの髪に顔を埋める。
 これだけでいいのだ。
 他のことなど、シュウは望む気もなければ、願う気もなかった。ただ健やかなる彼とともに生きていければいい。パラオの海の潮を含んだ髪から立ち上ってくる磯の香り。それを胸いっぱいに吸い込んだシュウは、ねえ、マサキ。マサキの耳元に口唇を寄せて囁きかけた。一緒にシャワーを浴びませんか。
 うん。と、頷いたマサキが、するりとシュウの腕を抜けて、行こうぜ。と、先に洗面所に入ってゆく。
 そのつれなささえも愛おしい。
 シュウはマサキを追い掛けて洗面所に入った。海に向けて二方がガラス張りになっているバスルームは、ロケーションを考えて造られたのだろう。隣のバンガローの死角になる位置になるようだ。
「贅沢だよな。海を見ながらの入浴ってさ。露天風呂みたいだ」
 さっと服を脱いだマサキが、一足先にバスルームに入ってゆく。ああ、気持ちいい。ドア越しにシャワーを浴びるマサキを眺めながら、シュウもまた服を脱ぎ終えると、バスルームに入った。
「洗わせてはくれないの?」
「云うと思って待ってやってたんだよ」
 とうにシュウの考えなどお見通しだったようだ。シャワーの湯に打たれ続けていたマサキが、不敵な笑みを浮かべながら濡れた髪を掻き上げた。
 吸い込まれそうになるボトルグリーンの瞳がシュウを向く。力の漲った眉の下に映り込む自分の姿。シュウはアメニティの封を切った。手のひらに広げたシャンプーをマサキの髪に馴染ませてゆく。
 こうして彼に触れて、彼の世話をするのがシュウは好きだった。
 抜けた面も多々あるが、基本的にマサキはプライドの高い人間だ。恐らくは、両親がいないことと関係しているのだろう。どれだけ下手でも、自分でやれることは自分でやらないと気が済まない。そういった彼が日常の雑事をシュウに任せている。それは紛れもなく彼がシュウに気を許してくれている証だった。
「お前、俺の髪だの身体だの洗うの好きだよな」
「それは勿論。始めの頃は、こんな風には触らせてくれませんでしたしね」
「俺に洗わせるのも好きだし」
「何か不満でも?」
「ねえよ。今更何を云ってるんだ」
 シャンプーを終えたシュウは、続けてマサキの頭をマッサージをしながら、コンディショナーを髪に馴染ませていった。
 瞳と両揃いのボトルグリーン。癖の立ちやすい毛質だが、日本人らしく潤いがある。水を吸って艶めいた彼の髪は絹のような手触りだ。それが指に心地よい。シュウはマサキにシャワーを浴びせながら、彼の髪を弄んだ。
「このペースで洗われたら湯冷めしそうだ」
 苦笑いで爪先を立てたマサキが、シュウに顔を寄せてくる。そうして、軽く口唇を合わせてくると、表情を戻して――早く済ませろよ。焦れたように言葉を吐いた。
 どこかしどけなく映る眼差し。揺らめく光を湛えた両の瞳が彼の感情を雄弁に物語っている。
 したいの? シュウはマサキに口付け返しながら尋ねた。したい。|明瞭《はっき》りと言い切ったマサキに、「なら手早く済ませることにしましょう」シュウは今一度、今度は深く、マサキの口唇に口付けを落としていった。





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