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あおいほし

日々の雑文や、書きかけなどpixivに置けないものを。

ZU-TTO(前):シュウマサ
どうしようかと悩んだ結果、またふたりで旅に出てもらうことにしました!
旅をするシュウマサはいいぞ!!!!

三、四回で終わる予定です。

今回のリクエストは折り畳みの先にあります!
では、本文へどうぞ!ヽ(´ー`)ノ





<ZU-TTO>

 ――彼は忘れた頃に思いがけない行動を取って、とうにそうした振る舞いに慣れた筈のシュウを大いに途惑わせるのだ。

 パラオにマサキと旅行に行こうとシュウが決めたのは、或る日シュウの許を訪れたマサキが、日常に倦みきった表情で「景色が綺麗で自然が溢れている場所に行きたい」と云い出したからだった。
 豊かな自然に溢れるラングランであれば、その程度の希望など叶えるのは容易いと思いきや、欲が少ないようにみえて人一倍貪欲な彼は、「エメラルドグリーンの海があって」「満天の星空が眺められる」「異国の観光地がいい」などと、地上に出ないことには希望を満たせないという無理難題な願いを口にしてきたものだ。
 これにはさしものシュウも口を開けそうになったが、欲を抑え込んで生きているようなマサキの滅多に聞けない我儘である。ならば叶えてやろうではないか。地上に上がって候補地のガイドブックを取り揃えたシュウは、彼が再び自分の許を訪れるのを待ってそれらを手渡した。
「何処に行くか、次回までに考えておくのですね」
「そこまで本気に取らなくてもいいんだぜ」
 茶化すように言葉を返してきたマサキだったが、戦いばかりの日々にかなりのストレスを溜め込んでいたのだろう。シロとクロと、おまけのチカを従えてソファに陣取ると、これがいいだのあれがいいだのと、賑わしく目的を探し始めた。
 地上最後の楽園。
 キャッチコピーが気に入ったようだ。パラオに行きたい――と、二時間ほど経ってシュウにねだってきたマサキに、異論などある筈もない。なら、明日。シュウは間を置かずに地上に出ることを決めた。
 そうでなければ、お人好しなマサキのことだ。延々と情報局の女傑に扱き使われて、休暇が取れなくなるに違いない。
 思い立ったが吉日なシュウの即決力にマサキは驚いていたが、王都に戻ったが最後。次に自分がシュウの許を訪れることが出来るのがいつになるのかわからないからだろう。身体が空いている内に行動を起こすべきだというのは本人も理解しているようで、素直にシュウの計画に同意してみせると、待ちきれない様子で、ガイドブックで覚えた知識をあれだこれだとシュウに語って聞かせてきた。

 ※ ※ ※

「また凄え雰囲気ある水上バンガローだな。昨日の今日だぞ。何したらこんな絶好のロケーションのバンガローが取れるんだよ」
 パラオの宿泊施設は本州の真下に位置するコロール島周辺に固まっている。その中のひとつ。アラカベサン島の西岸にあるリゾートホテルは、水上バンガローで構成される宿泊施設だ。
 海と空の境界に広がる島の緑。バルコニーだけに留まらず、バスやリビング兼ベッドルームからでも見渡せる風光明媚なパラオの自然。遮るもののない景色を目にしたマサキは、自らの希望が叶ったにも関わらず、不審に満ちた眼差しをシュウに向けていた。
 確かに、これだけのロケーションに恵まれた宿泊施設を、昨日の今日で手配するのは、世界最高峰の物理学理論を理解するのと同じくらいの難易度だろう。現に流石のシュウも、今回ばかりはかなりの無茶をしている。だからこそ、マサキの不審も尤もだと笑いながら、世の中の大抵のことはお金で解決出来るのですよ。シュウは当たり前の世の道理を口にした。
「本当によー……お前って奴はよー……」
 旅に必要な荷物は全て地上に出てから買い揃えた。リビング兼ベッドルームのソファにバックパックを置いたマサキが、正面に開けている海を向こうにひとつ背伸びをして、「そういう金の使い方をしてると、いつか誰かに刺されるぞ」そう口にしながら呆れた表情で振り返った。
「金は天下の回り物ですからね。使わなければ意味がありませんよ」
 どこまでも海が見えるロケーションに拘ったようだ。リビング兼ベッドルームの奥には、キングサイズの天蓋付きベッドが海を正面に捉えられるように配置されている。外には木製のバルコニーデッキ。広々とした空間に、リクライニングデッキチェアがふたつ並んでいる。
 この部屋で過ごすのはかなりのリラクゼーション効果となりそうだ。シュウは早速、バルコニーデッキへと出て行ったマサキを横目に眺めながら、自身はソファに居場所を定めた。本格的な観光は明日からになるが、このままバンガローに篭って過ごしたとしても充分な満足感を得られるだろう。正面に広がる海を眺めて、シュウはゆったりとした時間の流れに身を任せた。
 ストレスを溜め込んでいるマサキにとってはこの上ない環境だ。
 あくせく働く人の姿もない。空をけぶらせる車や工場の排気ガスもない。あるのは押し迫ってくるような青さに彩られた空と海だけだ。
「凄いな。景色に溺れそうだ」
 バルコニーデッキから戻ってきたマサキがシュウの隣に腰を下ろす。ゆっくりと休めそうですか。シュウはその肩を抱き寄せながら問いかけた。当たり前だろ。はにかみつつも極上の笑顔を浮かべたマサキに、幸福で胸が満たされる。
「しかし、良くセニアが許可を出したもんだよ」
「滅多に私と会えないほどに働いているのですよ。このぐらいの休暇は当然の権利でしょう」
 身体が空いている内に――とはいったものの、旅の伴連れが、いらぬ罪状がオンパレードで付いてくるシュウである。そうである以上、幾らマサキが自分で判断したことにせよ、シュウとしては無断でマサキを地上に連れてゆく訳にはいかなかった。
 救国の英雄なのだ。
 シュウの血筋を恐れる者からすれば、マサキの行方不明などこれ以上の餌もあるまい。だからシュウは、マサキに休暇を申請させた。勿論、セニアへの根回しを先に済ませた上で、だ。
 ――いつの話を蒸し返してるのよ、この悪党!
 お転婆で勝ち気なシュウの従妹は、シュウが取引の為に提示した彼女の重大な秘密事項に悔しそうに歯軋りをしていたが、取り立てて急務となる事案もないからだろう。わかったわよ。と、マサキの休暇を認めることを了承してくれた。のみならず、それがシュウの手回しによって実現したことをマサキには知らせないという条件にも同意を示してみせた。
 彼女にとって、幼少期の淡い恋心というものは、それだけ隠したいものであるようだ。
「こんな凄い場所に来てるって知ったら、テュッティたちは悔しがるだろうなあ」
「それもあなたの権利ですし、自由ですよ」
「プレシアに土産買って帰らなきゃな」
「そうですね。とはいえ、あまり他のことに気を取られてしまわないでください。今、あなたと一緒に旅をしているのは私なのですから」
 シュウはマサキの身体を引き寄せた。わかってるよ。そう口にしたマサキの身体を膝に乗せて、腰に腕を回す。
 海を臨む。
 視界いっぱいの青。終わりなき空と海が、まるで良く出来た|写真《フォト》のように窓枠にフレームインしている。
 シュウはマサキの髪から立ち上ってくるラングランの風の匂いを嗅いだ。圧倒され続けているのだろう。感嘆の吐息がマサキの口から洩れる。
「こんな凄え景色があるんだな。見ろよ。島と島の間で、空と海がひと続きになってる」
「最後の楽園と謳うだけはありますね。本当に、目が覚めるような青ですよ」
 揺れる波間に視線を送る。乱反射する太陽の光が眩く瞳を照らし出す。疲れているのはマサキに限ったことではなかったようだ。シュウは手足に満ちる活力に、自分もまた日々に疲れていたのだと覚った。




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