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あおいほし

日々の雑文や、書きかけなどpixivに置けないものを。

春|幽《かそ》けき日にありったけのお返しを(4)【改稿済】
私がギャグパートをやるともれなくマサキが不幸になるんですが、今回の彼は群を抜いて不幸だと思います。でもそれもここまで。残りのパートはシリアスに話を進めたいと思います。

と、いうことで次回はアクションパートです。つーても戦士三人組が雁首揃えているので、あっという間に終わってしまうパートだとは思うのですが、でも私は書きたかったのよ!!!!!この三人を揃えて事件に立ち向かわせたかったの!(我儘)

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では本文へどうぞ!
<春|幽《かそ》けき日にありったけのお返しを>

「久しぶりだな、マサキにザッシュ」
 ザルダバの街にほど近い軍の駐屯地。格納庫にサイバスターとガルガードを預けたマサキとザッシュが魔装機を降りると、どうやら先に着いていたようだ。ローリングタワーを下りきるより先に、ファングが格納庫内に姿を現わした。
「本当に久しぶりだな、ファング」
「ご無沙汰です、ファングさん」
 この辺りの土地は日射しが強いと聞く。すっかり日に焼けて黒く染まった肌を晒しているファングに、随分と名馴染んでいるみたいじゃねえか。タワーを下りきったマサキはファングの額を小突きながら言葉を続けた。
「王都の警備を放り出して何をしやがっていたのかと思えば、調査を続けてやがったとはな」
「成果は出したんだ、そう嫌味を云うな」
「スタンド・プレーは俺の専売特許だったんだがな」
「違いない」白い歯を零しながらファングが笑う。
 マサキの言葉に心当たることがあったのだろう。事実を口にしただけのマサキだったが、こうも愉し気にファングに応えられては、気まずさを感じずにいられない。あの頃は俺も若かったんだよ。思わず口を衝いて出た云い訳じみた台詞に、過去を振り返るほどの年齢《とし》か。と、ファングは更に笑った。
 今となっては懐かしい過去だ。
 魔装機操者にはストイックなまでの自律が求められる。平時であろうと羽目を外すのは禁物。無断で姿を眩ますなど以ての外。有事がこちらの都合に合わせて訪れてくれない以上、求めに応じて出動出来る態勢を整えておくのも魔装機操者の務めだ。
 かつてのマサキは、魔装機神の操者としてどう振舞い、どう行動すればいいかわかっていなかった。自らの心のままに忌憚なく意見を述べ、自由闊達に振る舞うマサキに、王宮騎士団の一員として節度を求められる立場にあったファングは、相当な屈辱を感じていたようだ。強く当たられることはなかったものの、打ち解けられることもない。あの頃のお前が憎らしかった――そう述懐したこともあったファングは、今ではこうして軽口を叩くまでに、マサキに心を許してくれている。
「今でも十分若いだろう」
「そうなんだけどよ。精神的に成長したっつうか」
「そうしたことを口にしている間は、まだ子どもだと云うんだ」
 仕返しとばかりに額を小突いてくるファングに、マサキは頬を膨らませた。
「まあ、いい。それで例の双子についてだが、何か妙な能力でも持ってやがるのか? セニアにそこのところを確認するようにって云われてるんだが」
「今日の午後にも彼女らのステージがある。チケットは手配済みだ。先ずはその芸を見てもらおうか」
 余計な先入観を持たずに判断して欲しいというセニアの考えもあって、マサキたちは件の双子の能力を知らないままザルダバの街に向かうことになった。
 その思いはファングも同様なのか。それとも事前にセニアから云い含められているのか。先に双子のステージを見るよう勧めてくるファングに不安を感じながらも、マサキはそれがどういった芸であるのか様々に想像した。
 ジャグリング、火の輪くぐり、猛獣使い……マジック・ショーやサーカス芸も広義の大道芸だ。果たしてショーのステージで起こる『奇跡』とは何であるのだろう? 預言書にわざわざ奇跡と表記されたからには、ただの大道芸ではない筈だ。マサキは軍部への挨拶もそこそこに、今回の任務の目的地となる西の街ザルダバに向かうことにした。
 20kmほど離れたザルダバの街までの移動には、軍部が車を出してくれるという。
 王都の警備が上手くいかなかったことで、情報局との関係が悪化している軍部ではあったが、それまで歯牙にもかけていなかった『預言の実現』論を検討するぐらいには、潰された面子の回復に躍起になっているようだ。
 それも無理なきこと。鼠一匹通さない警備体制を魔装機操者と協力して敷いておきながらの失態は、国王や王宮が無事だったからこそ、さしたる処分もなく済んだのだ。次がないことは彼らも理解しているのだろう。ささやかながらも彼らがマサキたちに協力体制を敷いてくれているのも、そうした背景があってこそ――マサキは運転手を務める兵士に軽く挨拶をしてから迷彩車両に乗り込んだ。
「この辺りは日差しが強いとは聞いていたが、かなりのものだな」
「必要だったらボンネットでも被るんだな」
「冗談じゃねえ。あんな女子どもが被るモノ。そもそも日焼けを恐れてテロリストの相手が出来るかよ」
 焼けた大地を往く車の内部は揺れが激しい。
 マサキは目を細めて、窓の外を流れるラングラン西部の景色を眺めた。強い日差しが顔面に降り注ぐ。ファングに対して口では反発してみせたものの、日除けとなる何かは買い求めた方がよさそうだ。
 しかし地上とは異なる民族風習を持つラングランとあっては、日除け用の被り物といったところで、キャップや幅広のハットといった地上的なデザインは望めなかった。ファングが口にしたように後頭部から髪全体を覆うボンネット、或いは目を除いた頭全体を覆うバラクラバ……俺の格好であれを被るのはな――珍妙なことにしかならないだろう自らの姿を想像して、マサキは眉を大きく歪ませた。さりとてこのまま何もせずに済ますのも……などと日除け対策を考えていると、注意が逸れていたからだろう。唐突にザッシュの声が耳に飛び込んできた。
「東部の調査は芳しくなかったと聞きます。こちらで成果が出たのは幸いでした」
「何だ? 俺に対する嫌味か」マサキは即座に声を上げた。
 セニアの命令通りに帰還を果たした結果、成果を出せずに終わった東部地方の調査。片や、セニアの命令を無視して調査に励んだ結果、思わぬ成果となりそうな西部地方の調査。そこを対比させるようなザッシュの言葉は、東部地方の調査に赴いた側であるマサキとしてはいたたまれなく感じられる。
「そんなことはありませんよ。ああいった断片的な文の連なりからなる詩編を解読するのは、僕たちにとっては畑違いの仕事ですからね。空振りに終わるのも已む無しです。ですから幸いなんですよ、マサキさん。預言書の第一篇第三節と第四節は対になっている預言のようですから」
 確かに。と、マサキはザッシュの言葉に深く頷いた。「こっちで預言の実現を食い止められれば、東側の預言の実現も食い止められる可能性が高い。大山鳴動して鼠一匹、空振りだった、なんてことはご免だぜ、ファング」
「その時にはまたこの辺りの地域を虱潰しに当たればいいさ」
 生真面目な性質であるファングは、預言書問題が防げる可能性のある惨事であるからこそ、そのまま放置してはおけないと考えているようだ。さらりと恐ろしいことを口にしてのけると、口の端を不敵に吊り上げた。それも尤もなこと。ファング=ザン=ビシアスというマサキの兄弟子は、マサキとは対極的に地道な努力を積み上げられる勤勉な男なのだ。
 そのファングがふと、マサキの手の甲に視線を落としてきた。
 恐らくは小指に嵌まっている指輪が気にかかったのだろう。何だよ、とマサキが左手を庇いつつファングに尋ねれば、お前が指輪をするとはな。既に何回となく他の面子から聞かされたた台詞を今また聞かされる。
「俺がファッションで指輪をするのがそんなに可笑しいことかね。どいつもこいつも意外そうなことばかり口にしやがる」
 とうに皮膚に馴染んだ指輪であるとはいえ、改まって誰かの目に留まると気恥ずかしさが先に立つ。しかもその内側には、大した文言ではないにせよシュウからのメッセージが、そのかつての名とともに彫り込まれているのだ。マサキはそっと左肘を窓枠に凭れかけさせた。そうしてファングの不躾な視線から指輪を逃す。
 その不自然な動作を目にして、道中であれだけマサキをおちょくってみせたザッシュが大人しく黙っている筈がない。彼は即座にファングの向こう側からマサキの方へと、顔を覗かせてくると痛烈なひと言を放った。
「え、でもその指輪ってプレゼントですよね?」
「プレゼント? 何だ、マサキ。お前も隅におけないな」
「でしょう、ファングさん。結構品のいいファッションリングですよね。薬指、なんてあからさまじゃないところがまた控えめで可愛らしい。知ってます? 小指の指輪はピンキーリングって云うんだそうですよ」
「俺が選んだ指輪なんだよ、ザッシュ! お前はさっきの俺との会話を忘れたのか!」
 本当に油断も隙もありはしない。放っておけば際限なく余計なことばかりを口にしそうなザッシュに、マサキは声を荒らげた。犬のように人懐っこい笑顔の下に邪悪な本性を隠し持っている彼は、自身とリューネとの仲を進展させる為なら、マサキの名誉が傷付くことも厭わない。ファングにマサキとシュウとの仲についての疑念を植え付けるぐらいは平気でするだろう。
「僕が云わないって云ったのは料理の件だけですよ。指輪の件は別件です」
「俺の名誉に関わる問題なのは一緒なんだよ! 黙れったら黙れ!」
「どうせファングさんの耳にも入ることですよ。偶々こちらで調査に勤しんでいたから知らないだけで、向こうに戻ったら直ぐだと思うんですけどねえ」
「そういう情報が筒抜けな状態が良くねえって云ってるんじゃねえかよ……俺にだって秘密にしたいことはあるんだよ……わかれよ、そのぐらい」
 憔悴して項垂れるマサキに、無骨で感情表現が苦手ながらも仲間思いな男であるファングは気掛かりを感じたようだ。秘密にしたいこと? と、マサキの顔を覗き込んでくる。
「その指輪に何か問題があるのか」
「いいんだよ、ファング。お前は知らなくていい」
「マサキさんがいずれお嫁に行くって話ですよ」
「本当にお前は余計な口を慎む気がないな! 実力行使で黙らせるぞ!」
 きょとんとした表情のファングを尻目に、マサキは彼の背中側から手を回すとザッシュの頭を掴んだ。それを笑っていなすザッシュ。お前らは騒々しいこと他ないな。彼からはマサキとザッシュが寄ると触るとじゃれ合っているように映っているのだろうか。満ち足りた表情で呟くファングに、誤解にも限度があるだろ――と、マサキは呟かずにいられなかった。
 その頃にもなると街も近くなっていた。
 砂煙を上げながら乾いた大地を走る軍の迷彩車両。その窓の奥に映る輝ける白壁が立ちはだかる。
 ザルダバの街を囲う城塞だ。
 ファングに尋ねたところ、領主制度が有効だった時代に造られたものであるらしい。調和の結界が機能している現在となっては過去の遺産でしかないが、城塞の各部には砲門も設置されているのだとか。今では弾を打ち出せないようになっているようだが、観光客の受け入れに積極的な街らしく、近くまで寄って大砲を触ることも出来るらしい。
「任務が無事に片付いたら寄ってみるのも一興だぞ。前史時代の戦いの歴史が知れる」
「まあ、今更大砲を触る機会もそうないしな。後で寄ってみるか……」
 ファング曰く、ザルダバの街はバゴニアの国境近くにあるということもあって、過去よりそこそこ交流があったようだ。ラングランとバゴニアの文化様式を折衷したような景観を持つ街は、歩いて回るだけでも異国情緒が味わえるそうだ。
 人口は三万人。決して大都市には遠く及ばないものの、集落としては規模が大きい部類に入る。
 焼けた大地の目の前に道路が迫った。ザルダバの街に入る交通網にぶつかったようだ。ここからザルダバの街の入り口までは直ぐだ。ファングの言葉にマサキが高くそそり立つ壁を見上げれば、そこから突き出ている時計塔が昼を告げていた。
「思ったより規模の大きい街ですね。人口三万人とは思えない」
「以前の領主がやり手だったようでな。周辺地域の交易拠点とすることで、発展を遂げていったのだそうだ」
 程なくして城門前に到着した車より、マサキたちは街へと降り立った。篭るような熱気。照り付ける日差しが頬を打つ。
 丁度いい頃合いだとファングが呟く。午後のステージに余裕を持って入れる時刻に到着したことで、昼食を取る時間があるらしい。先に飯を済ますか。ファングに問われたマサキとザッシュは、そろそろ空き始めている腹にそれぞれ頷いた。
 巨大な城門を潜り抜けてゆく車や馬車の群れ。交易の拠点だけあって、積み荷を搭載した乗り物が多い。それを避けるようにして城門へと身体を潜らせて行けば、白壁も目に鮮やかなザルダバの街並みが姿を現した。
「海近くの街にも似た景観ですね」
「通気性を高く保たないと、この暑さでは身体が持たないからだろう」
 そうしてマサキたちが街に一歩入った瞬間だった。
「何だ。あっちの通りが騒がしいようだが」
「治安部隊の姿が見えますね。何かあったのでしょうか」
 大通りの奥にある四つ辻に人だかりが出来ている。拡声器を手にした治安部隊が退くように声をかけているが、人混みは増えるばかりで減る気配がない。少し離れたマサキたちの許にまで野次馬たちのざわめく声が聞こえてくる。
「とにかく行って様子を見てみるか」
 異変を悟ったマサキは、ファングとザッシュを伴って、急ぎ四つ辻へと向かった。物々しい一団、武装した治安部隊が野次馬の群れの向こう側で、角にある四階建ての建物を囲んでいる。
 ――ファングさんに、マサキさん。
 肩を並べて様子を窺うマサキとファングの背後に控えていたザッシュが、程なくして小声で囁きかけてくる。周囲の野次馬の話に耳をそばだてていた彼は、早くも現在起こっている異変がどういった状況にあるかを把握したようだ。
「立て籠もり犯のようです。銃を武器にアパートの住人を人質にしているらしく、治安部隊としては迂闊に踏み込めない様子であるのだとか」
 ふむ、とファングがマサキに視線を送ってくる。成程、とマサキもまたファングに視線を送った。それでザッシュは全てを察したようだった。行きますか、とひと声上げると、率先して人いきれを縫って歩んでゆく。
 人の薄い所を右に左に。決して薄くはない人垣を、そうしてザッシュはひと足先に抜けたようだ。すみません。穏やかながらも有無を云わせない声が、野次馬を整理している治安部隊員にかけられる。


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