前に書いたと思うんですけど、この話はひと月に一話。12の大きな物語と幾つかの小さな物語ががひとつに纏まるシリーズです。12月から始まって、現在3月。10年ぐらいで終わればいいやと云っていましたが、果たして10年で終わったものか不安になる今日この頃です。
今回の話は比較的軽めですが、次回は重くなる予定となっています。
拍手コメは帰宅後に返信したいと思います。
もし語りたいことがございましたら、感想は随時受け付けておりますので、宜しくお願いいたします。それを心の支えにきちんと書ききるよう頑張ります。では、本文へどうぞ!
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<春|幽《かそ》けき日にありったけのお返しを>
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「朝も早くから呼び立てて悪かったわね、マサキ」
地上の暦ではホワイト・ディとなるこの日。バレンタインのお返しを期待して浮足立つリューネに叩き起こされたマサキは、直後に直通電話《ホット・ライン》で呼び出されたのをいいことに、単身、情報局へと赴いていた。
「いや、いいぜ。どうせ今日家にいたって、碌なことにはならないからな」
どうやらリューネから解放された悦びが顔に現れていたようだ。あからさまなマサキの表情の変化に、セニアは小首を傾げてみせながら、その理由を尋ねてきた。
「酷く安心した顔をしているようだけれど、何かあったのかしら?」
「大したことじゃねえよ。地上で今日はホワイト・デイって云ってな、バレンタインのお返しを期待される日って、お前に云っても伝わらねえか」
「バレンタインって、この間チョコレートってリューネたちが騒いでいた日のこと? それにお返しをしなきゃいけないの? お世話になっている人にチョコレートを贈る日なんでしょ、バレンタインって」
「なんか海外じゃそうらしいな。けど、日本では好きな人に贈る日なんだよ」
それを聞いたセニアは盛大に眉を顰めてみせた。意味がわからない、顔にそう書いてあるように映るぐらいに怪訝そうな表情。それもそうだよなあ。マサキは宙を睨んだ。そうした風習が横行する日本生まれのマサキですら、『何故に好き好んで贈られたプレゼントにわざわざお返しをしなければならないのか?』という根本的な問題に、『製菓業界の陰謀』以外の明白な理由を挙げられずにいるのだ。生粋のラングラン人であるセニアには、とてつもなく不合理な習慣に感じられていることだろう。
しかも、料理の腕はからっきしな癖にチョコレートを手作りしたがるリューネは、不出来なチョコレートをマサキに押し付けるだけに留まらず、そのお返しを力任せに奪いに来るときたものだ。朝も早くから叩き起こされた後には、城下町を西へ、東へ。女性向けのアイテムを扱う有名な店を方々連れ回されては、あれがいいだのこれがいいだの……どれだけマサキが魔装機神の操者として人一倍の忍耐力を誇っていようとも、よくぞこの不条理な状況に怒らずにいられたものだと自分のことながら感心せずにいられない。
「地上の風習っておかしなものが多いわよね。クリスマスだのニューイヤーだの、あなたたち暇さえあればイベントって騒いでるじゃないの」
「そりゃあ楽しいからだろ。理由もなく騒ぐよりは、数百倍は楽しいぜ。お前らだって感謝祭だ精霊祭だってやってるじゃねえか。それと同じようなもんさ」
「まあ、確かに普段するパーティよりは楽しいわね」
「だろ。特に日本人はお祭り好きが多くてさ、海外の風習も自国流にアレンジして取り入れちまう民族なんだよ。だからいつだってお祭りお祭りって……って、そういう話をする為に呼んだんじゃないだろ。本題に入れよ。こんな時間から呼び出したんだ。それなりの理由なんだろ」
自ら話を切り出したマサキに、そうよ、と短く言葉を返したセニアは、数枚に渡る書類をマサキに差し出してきながら、「ファングから連絡があったのよ」と、長く行方をくらましている魔装機ジェイファーの操者の名前を口に出してきた。
思いがけない人物の名前が出たことに驚きながらも、マサキはセニアに促されるようにして書類に目を落とした。どうやら身上調査書らしい。まだ幼さ残る面差しのふたりの少女の写真が添付されている。ふたりとも似た顔立ちをしているあたり、姉妹か双子であるのだろう。
「まだ子どもじゃねえか。まさか今回の任務は、こいつらの調査だとか云わねえよな」
「近いけど外れよ」凛と通る声が執務室内に響き渡る。
いつしか引き締められていた表情。きりりと結ばれた口唇は、これから話す内容がそれだけ厳しいものであることを示しているようだ。無理もない。マサキもまた表情を引き締めた。子どもが関わる話が穏便に済むことはそうないのだ。
「近いけど外れ、か。後味の悪い話にならないことを祈るぜ」
「どうかしらね」憂いを帯びた瞳がマサキを通り越した先を臨む。
けれどもそれも僅かのこと。直後に女帝の顔を取り戻してみせたセニアは、いつも通りにマサキに語りかけてきた。
「ファングはどうやら西方で、ずっと調査を続けていたみたいでね」
「あの野郎。どこに行ってるかと思えば、お前の云うことも聞かずにスタンド・プレーかよ」
「困ったものよね。でも、今回はそれが功を奏したわ」
日頃はどんな要求であろうとも、セニアの命とあれば唯々諾々と従ってみせるファングの暴走。飼い犬に手を噛まれた形となったセニアだったが、結果が付いてきたからだろう。セニアはファングの働きに満足している様子だ。お陰で預言の実現が食い止められるかも知れないわ。彼女はマサキにとっては思いがけない台詞を口にすると、続けてマサキを情報局に呼びたてるに至った経緯について語り始めた……。
Ⅰ-Ⅲ
Ⅰ-Ⅲ
東に黒き果実が、その実を口にした者に祝福を与えし時
王都より東方、ラングランの東部で調査を行ったマサキとテュッティは芳しい結果を残せず帰還することとなったが、ラングラン西部に赴き、セニアの帰還命令を無視してしぶとく調査を続けていたファングは、どうやらそれらしい情報を手に入れられたようだ。
Ⅰ-Ⅳ
王都より東方、ラングランの東部で調査を行ったマサキとテュッティは芳しい結果を残せず帰還することとなったが、ラングラン西部に赴き、セニアの帰還命令を無視してしぶとく調査を続けていたファングは、どうやらそれらしい情報を手に入れられたようだ。
Ⅰ-Ⅳ
西の双【子】は【奇跡】を起こす
バゴニアとの国境からは少し離れた場所に位置する人口三万人ほどの小規模な街、ザルダバ。そこの娯楽施設で繰り広げられている大道芸人たちのステージに、新たに加わった双子の姉妹がいるらしい。ゼフォーラ=ミーシャとシーシャと名乗る双子の歳の頃は十一。ラ・ギアス社会ではまだ子どもと扱われる年齢である彼女らのステージは、演目のセンセーショナルさも手伝って、街ではかなりの話題になっているそうだ。
バゴニアとの国境からは少し離れた場所に位置する人口三万人ほどの小規模な街、ザルダバ。そこの娯楽施設で繰り広げられている大道芸人たちのステージに、新たに加わった双子の姉妹がいるらしい。ゼフォーラ=ミーシャとシーシャと名乗る双子の歳の頃は十一。ラ・ギアス社会ではまだ子どもと扱われる年齢である彼女らのステージは、演目のセンセーショナルさも手伝って、街ではかなりの話題になっているそうだ。
彼女らについての調査報告をファングより治安局経由で受け取ったセニアは、一読して精査が必要な内容であると感じ取ったようだ。マサキに西部に赴き彼女らの“能力”を確認するよう求めると、その重要性如何においては彼女らの身柄を確保するようにと命じてきた。
――今回の任務においては慎重に事を進めて頂戴。相手は子ども。しかも女の子よ。どれだけ社会が男女の平等を謳って法整備を進めたところで、一般社会においての彼女らの立場は弱者にカテゴライズされるものだということを忘れないでね。
一市民の身柄の確保といえども、各所に様々な根回しは必要だ。その間に彼女らに行方を眩まされては元も子もない。齢十一と云えども、ラングラン各所に被害を齎している預言の登場人物と目される少女たちである。ただでマサキたちに身柄を預けるような真似はしないだろう。
任務の遂行をスムーズにする為には、煩雑な手続きの簡素化が必須。
その為にセニアがマサキに用意した同行者、それがザッシュだ。
各所に顔が利く彼であれば、穏便に事が済む方法を取ってくれるに違いない。セニアはそうザッシュに期待しているようであったし、マサキもそれに異論はなかった。事実、先の将軍カークスの嫡子たる彼は、それだけ強いコネクションを軍部や治安局に有している。
無論、マサキとて超法規的な立場たる魔装機神サイバスターの操者だ。立場を有効に活用すれば、そうした面倒な手続きの数々を省略させるのは容易なことであったが、任務の対象が年端も行かない少女たちとあっては、強権を発動しての身柄確保は物議を醸す可能性が高い。
しかも、武器を持たない一般人とあっては。
軍部は元より、他省庁の反発も必至。特にラングラン議会は強く反応するだろう。
そうでなくとも16体の正魔装機の存在意義に関しては、賛否両論、意見が分かれるところであるのだ。軍部との関係が上手くいっていない今、議会までもを向こうに回す訳にはいかない。だからこそ、マサキは素直に同行者《ザッシュ》の存在を受け入れた。彼が持つコネクションを利用して任務を果たし、預言の実現を今度こそ事前に食い止める。その為に。
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