艦内シュウマサエロ。夜毎マサキの許に忍んだ白河。
<謀略の夜>
寝起きになんとなく身体がだるいとマサキが感じたのは、ロンドベル部隊を収容する艦が補給地に着いた翌朝のことだった。前の晩に甲児たちとトランプに興じたのが良くなかったかと、その時は深く考えずにいたのだが、その翌朝も、そのまた翌朝も――となると話は異なる。何せマサキは魔装機神サイバスターの操者だ。地底世界の代表として地上に出てきている以上、そして乞われて部隊に参加している以上、無様な姿を味方に晒す訳にはいかなかった。
何より、敵と味方を識別出来る広域兵器を使用出来るのはマサキただ一人だ。それはマサキの存在を部隊にとって貴重なものとしていた。戦況をひとりで引っ繰り返すことが出来る操者《パイロット》として、『白き旋風』の二つ名で呼ばれるまでになったマサキが体調不良では、部隊の士気にも関わり兼ねる――隊を率いる指揮官《リーダー》ブライトにそう説得されたマサキは、身体に異常を感じてから四日目にして、ようやく重い腰を上げて艦医を尋ねることにしたのだが。
「肉体を酷使したことによる過労ですね」
一通りの検査をしたのちの艦医の言葉にマサキは衝撃を隠せなかった。それは確かに、マサキは部隊のエースパイロットのひとりとして出撃する回数は多かったが、遠距離攻撃が主体の機体である。敵味方が入り乱れる最前線からは距離を取った場所に陣取ることが当たり前の自分が、どうして疲労を感じなければならないのか。
「蓄積された疲労ですよ、マサキ殿。ひとつひとつの戦闘での疲労は少なくとも、積み重なれば大きな疲労となり得ることもあります。むしろ早めに気付けて良かったと思った方がいいでしょう。重度になってからでは、戦場で大きなミスを犯しかねなかったのですから」
念の為に栄養剤の点滴を受けたのち、艦医に二、三日休息を取るように勧められたマサキは、部隊への早期の復帰を目指して艦の自室《キャビン》に籠ることにした。
部屋に戻ったマサキは、騒々しくマサキに纏わりついてくる二匹の使い魔を追い出すことにした。なんとなくのだるさは度合いを増し、手足の先にまで滲み出る倦怠感と化している。とにかく身体を休ませたい。普段であれば酷いだの人非人だの煩い彼らだったが、流石に艦医のお墨付きとあっては素直に云うことを聞かねばならないと思ったようだ。わかったニャ、マサキ。素直に自室《キャビン》を後にした二匹に、これでゆっくり休める――と、マサキは早速シェルターベッドに寝そべった。
直ぐに襲い掛かってくる眠気に、瞼を閉じる。
意識がぼんやりとし始める。これなら直ぐに眠れそうだ。微睡みに身を任せたマサキは、浮遊感に包まれながら深い眠りへと落ちていこうとしていた。
そこで鳴り響いた|呼び出し《コール》音。リリリリリと、まるで目覚まし時計のアラームの如く、起きるまで止まらないとばかりに続く。マサキは微かな苛立ちを覚えながら目を開いた。随分と無遠慮な艦の乗組員《クルー》もいたものだ……そう思いながらも、万が一の可能性もある。のそりとベッドから這い出て、扉の前に立つ。
「……何だよ、お前か。何の用だ……」
白い蝋のように滑らかで澄んだ肌。端正な面差しに浮かぶ紫の双眸は鋭さに満ちている。紫色のストラを白いロングコートの首からかけた姿は聖職者のようでもある。とはいえマサキからすれば、気障が鼻に突く男は苦手とする最たる人物だ。シュウ=シラカワ。再び味方としてロンドベルの艦に乗り込んできた男は、薄い笑みを湛えてマサキに向かい合っている。
「過労と伺いましたよ、マサキ」
「話が早いな。誰に聞いた」
早くも話を聞き付けたようだ。艦医を尋ねた直後の来訪に、驚きながらもマサキが尋ねれば「艦医《ドクター》に聞いたのですよ」と思いがけない答えが返ってきた。
「用があって医務室を窺ったところ、あなたが出ていくところだったものですから、どういった用件で来ていたのか尋ねたのですよ」
「それで様子を見に来たって? 面倒臭え奴だな、お前。放っておけよ、俺のことぐらい」
「広域兵器《サイフラッシュ》を持っているあなたは艦の財産ですからね。どの程度の不調であるかは確認しておかねば」
云うなりキャビンに足を踏み入れてきたシュウに、マサキは途惑った。
体調不良を知らないのであればともかく、知っていての狼藉である。少し前までベッドで休んでいたとはいえ、五分ほどだ。まだまだ疲労の抜けていないマサキは、さぞや見苦しい顔をしていることだろう。それだのに。
シュウ=シラカワという男は、体調不良の人間に絡んでくるような暑苦しい人間ではない。むしろ――そうむしろ、自分に関係のない事態に於いてはあくまで傍観者を決め込む人間である。その在り方は、利己的で排他的。彼の傍にいるのは限られた仲間のみで、知己の人間であるマサキとさえも滅多なことでは絡みもしない。それがマサキに無理をさせてまで関わってこようとしている……マサキは身構えた。冷静沈着なシュウをこうした行動に駆り立てるからには、それ相応の理由がある筈だ。
「何だよ、お前。俺はこれから身体を休める」
「あなたが参戦出来るか否かは、私の計画を左右する要素なのですよ、マサキ。なに、大したことはしませんよ。不調と云っても過労なのでしょう」
「軽く云わないで欲しいんだがな」マサキは眉根を寄せた。「だるくて堪らないのは違いないんだ」
「睡眠は取れていますか」
「まあ、そこそこ」
「なら、質の問題ですね。前屈をしてみせてください」
シュウに云われるがまま、マサキは上体を折った。
ところが、である。手のひらが床に付かないのだ。
運動神経に優れているのはマサキは、その能力に見合うだけの柔軟性を誇っていた。脚を開けば腿裏が床に付くほどであったし、立位で膝裏を合わせるのだって余裕で行える。前屈にしてもそうだ。いつものマサキであれば余裕で手が床に付いたし、何なら手首の奥まで床に付けられる。
それがこの有様だ。
まるで鉄板を入れられているかのように、背中が曲がらない。自らの身体の変調に微かな焦りを抱いたマサキに、シュウは心当たるものがあったようだ。やはりと頷く。
「これでわかりました。あなたの疲労の原因は、緊張感からくる倦怠感ですよ、マサキ」
「緊張感か。まあ、そりゃこんな生活だしな……緊張しないなんてことはないが」
「ストレッチはしていましたか」
「あー……。筋トレは良くしてたけど、ストレッチまではあまり……」
マサキには思い当たる節があった。
サイバスターの操者として、戦場での長時間戦闘に耐えうる身体作りは欠かせない。とはいえ、いつ何処でどういった形で戦闘が始まるかは、この混乱する情勢では予測が効かなかった。だからマサキはトレーニングを優先した。無論、そこにストレッチも取り入れはしていたが、持久力を養う有酸素運動や、筋力の維持の為の筋トレに比べると、どうしても割合は少なくなる。
「身体が硬くなると、睡眠の質が悪くなりますからね」
「成程な。じゃあストレッチをしてから寝るか……」有用なアドバイスに、マサキは安堵した。
どういった思惑であったにせよ、シュウがマサキを案じているのは間違いないようだ。ならば、素直に彼の意見を聞き入れることにしよう。その為には、ストレッチをする場所を確保する必要性がある。マサキはシュウとの話を切り上げることにした。
「有難うな、シュウ。助かった」
「手伝いましょう」
「はあ? お前が?」
間髪入れずに手伝いを申し出てきたシュウに再びマサキは途惑うも、確かに自分一人でストレッチを行うには眠気をも引き起こす倦怠感が邪魔だ。だからマサキは不承不承ながらもシュウの申し出を受け入れることとした。とにかく一刻も早く眠りたい。その気持ちがシュウの厚意を受け入れる気持ちを後押しする。
「頼んだ」
「なら、ベッドに伏せてください。先ずはマッサージで、身体の凝りを解しましょう」
マサキは何も案じずにベッドに伏せた。と、シュウが手慣れた手つきでマサキの身体にマッサージを施し始める。肩に背中、腰、臀部に腿……柔らかくマサキの身体を揉み解してゆくシュウの手が、想像以上のリラックス効果をマサキに齎してくる。
だるさに対するストレスもあったのだろう。マサキの身体がゆっくりと弛緩してゆく。身体をベッドに投げ出す心地良さ。忘れてしまっていた感覚にマサキは溺れた。暫くは戦闘に出なくともいいという艦医の言葉もある。そこに申し訳なさを感じる部分もあれど、安心する気持ちの方が大きい。それだけ、戦闘に備えて気を張り詰めていなければならない生活は、マサキを極限状態に追い込んでいたのだ。
「お前、上手いな。マッサージ……」
「私はお尋ね者ですからね。簡単に医者にかかれない以上、自分の身体のケアは欠かせないでしょう」
「そっか……そうだよな……なあ、ちょっと寝てもいいか……」
「ああ、なら軽くストレッチをして、終わりにしましょう。身体を起こしますよ、マサキ」
その言葉と同時にマサキの身体が返される。続いて、少し身体を持ち上げますよ。と、ベッドに上がってきたシュウがマサキの脇の下に腕を入れながら、上半身を起こさせた。マサキの背中がシュウの胸に密着する。思いがけず厚みのある胸板を感じることとなったマサキは、その意外性に微かな驚きを感じるも、睡魔の誘惑には勝てそうにない。半目がちになりながら、腕を取られつつ、上半身を左右に傾けるストレッチを受ける。
「眠いですか、マサキ」
「ああ、凄く……眠い」
「なら、最後の仕上げに軽いマッサージをしましょう。あなたがもっと心地よく眠れるようにね」
微睡みの中にいたマサキは、直後目を剥いた。
シャツの中に潜り込んできたシュウの手が、緩くマサキの乳首を揉んでいる。な……。マサキは身を竦めた。それはシュウに性的に身体に触れられてきたことに対する驚きも勿論だったが、それ以上に、確かな快感を覚えてしまった自分に対する驚きの声でもあった。
「待てよ、シュウ。お前、何を」
「あなたが感じている通りのことですよ、マサキ」
まさかとは思ったが、シュウの言葉で確信に至る。
これはマッサージではないのだ。
これまで性的な意味で触れられたことがなければ、触れたこともない部位だった。自ら触るのは入浴の時、タオルで擦るぐらい。勿論、その際にこういった感覚に捉われたことなどない。だのに今の自分は、シュウの手で快感を覚えさせられてしまっている。
「やめろって。お前、何を考えて」
「気持ちいいのでしょう、マサキ。違いますか」
抵抗しようにも、身体がままならない。マサキは焦った。数日に渡って疲労感に苛まれてきた身体は、シュウのマッサージで解きほぐされたこともあって、すっかり力が抜けきってしまっている。
「やめっ……、やめろって。そこ、触るな……ッ」
「快感を否定してはなりませんよ、マサキ」
云うなりシュウがシャツの裾に手をかけてくる。かと思うと、乱暴にシャツを剥ぐ。素肌に当たる外気が涼しさにまたも身を竦めたマサキの身体を温めるように、改めて膝の上に抱え込んできたシュウがゆっくりと乳首へと指を這わせてくる。マサキはシュウの愛撫を受けて顔を覗かせた乳首に目を落とした。先端を執拗に攻めてくるシュウの指先に、股間が熱くなる。
「苦労しましたよ、あなたの身体をここまでにするのは」
「ど、ういう……こ、と……だ……」
耳に忍んで来る低いテノールボイス。深みを感じさせるシュウの声にマサキの腰が震えた。何を云っているのかがまるで理解出来ない。いや、理解は出来ているのだ。ただ、これまでもこういった行為に及んだことがあるようなシュウの口振りに、心当たりのないマサキは混乱するしかなく。
「あなたは理解《わか》らないでしょうね」クックと嗤ったシュウが声を潜めて云い放つ。「あなたの倦怠感の理由は私にあるのですよ、マサキ」
ほら、とシュウがマサキの脚からジーンズを脱がせた。次いで下着にかかる手。待て、とマサキは身体を捩らせるも間に合わない。もうこんなにして。天を仰ぐマサキの男性器《ペニス》に、シュウが愉し気な声を上げる。
「連日、あなたの身体を可愛がった甲斐がありましたよ。たったこれだけの愛撫でもこんなにも反応するようになった……」
マサキは羞恥に身体を震わせた。マサキ自身には記憶がないが、どうやらシュウは夜毎マサキの身体を弄んでいたようだ。それは恐らく、マサキが寝入ったのちのことであったのだろう。それが証拠に、マサキの身体はシュウの愛撫を覚えている。乳首に擦れられただけでも男性器《ペニス》をいきり立たせてしまうまでに……
恥ずかしさに消え入りそうになるものの、身体は貪欲だ。あっ、あっ。続けて愛撫を加えられたマサキは喘いだ。たった指ごときでと思っても、消えることのない快感。身体の中央で渦巻くそれが、マサキの理性を一枚、また一枚と剥ぎにかかってくる。
「お、前……俺に、何をし、た……」
「部屋《キャビン》の扉の暗証番号は変えておくべきでしたね」ふふと軽い嗤い声を立ててシュウが続ける。「催眠暗示ですよ。寝ているあなたに不埒な行いだとは思いましたが、私の欲望も限界に近付いていましたのでね」
「催眠暗示……だと……?」
「起きないように暗示をかけたのですよ。起きたらあなたは暴れることでしょう。その上で存分に可愛がって差し上げたのですよ、マサキ。ここまで疲弊するとは計算外でしたが、お陰で私の望み通りの身体に仕上がりましたよ」
「巫山戯……」
マサキは衝動的にベッドを下りようとした。
シュウがどういった感情をマサキに抱いているのかは不明だが、ここ数日の倦怠感の原因は彼のけしからぬ行いにあったのだという。それを聞いて怒らずにいられないマサキではなかった。とにかく一発殴らないことには気が済まない――そういきり立ったものの、相変わらず四肢に力が入らない状態だ。直ぐに力尽きたマサキは、喘ぐようにしてシュウの胸に凭れかかった。
「安心しなさい、マサキ」愛撫の手を休めることなくシュウが囁きかけてくる。「私がしたのは私の愛撫にあなたの身体を馴染ませることだけ。最後まではしていませんよ」
耳介を食まれたマサキは仰け反った。あっ、あっ。乳首を弄ぶ指が小刻みに蠢く度に、口を衝いて出る喘ぎ声。細く高く響くその声の隙間にシュウの言葉が滑り込んでくる。呆気なく快感に攫われてしまう己の現状をマサキは恨めしく感じるも、引き返せないほどの快楽に浸っている感覚があるのもまた事実。とはいえ、流石に後ろ孔の純潔が守られていたことには安堵を禁じ得ない。
だが、そうしたマサキの感情が伝わったのか。三度嗤い声を上げたシュウが、「繋がるのでしたら、あなたの意識がある時にしたいですからね」と、ねっとりとマサキの耳に舌を這わせてきながら口にしてくる。
ぞっとした。
マサキの身体の動きがままならない状況下、シュウが本懐を遂げるのは間違いない。その奇禍からどうやって逃れればいいのか。脳にうっすらとした膜がかかっているかのように、スムーズに思考が働かない。マサキは喘ぎ乱れながら、それでも精いっぱいの力を振り絞って考えた。
けれども具体的な解決案は見付からない。
精々、シュウの良心に訴え出るくらいが関の山だろうが、とはいえ、眠っているマサキが目覚めぬよう催眠術をかけた上で行為に及ぶような男である。彼の欲望がどういった契機でマサキに向くようになったのかは不明だが、マサキの身体の自由が利かない状態で性行為に及ぶくらい造作ないことだろう。
「昨日のあなたなどは最高でしたよ、マサキ。私の愛撫に身体が大分慣れたのでしょうね。乳首を軽く弄っただけでも達してしまった。とはいえ、そう簡単に達されてしまっては、最後まで保《も》たないでしょう。だから、マサキ――」
シュウが乳首を弄ぶ手を止める。
やっと得られた解放感にマサキの口から安堵の吐息が洩れるが、それは切ないまでに一瞬だった。すぐさま、耳孔を吸い上げるように口付けてくるシュウに、びくりとマサキは身体を跳ねさせた。背筋から首筋にかけて立ち上ってくる快感がマサキの意識を研ぎ澄ます。
「|私《・》|が《・》|達《・》|す《・》|る《・》|ま《・》|で《・》達《い》ってはなりませんよ」
耳の奥に潜り込んでくるシュウの低音が、マサキの腰を跳ねさせた。
――あっ、ああ……ッ……
軽い絶頂《オーガズム》を感じたマサキだったが、射精には至らなかったようだ。いや、至れなかったというべきか。シュウの声はそれだけ妙な説得力を有していた。そう、それはまるでマサキにそうならなければならないと命じるような響きで。
催眠術。
そう云えば――と、マサキは思い出した。ここ最近、うつらうつらと夢を見る中で、幾度かこの声を聞いたような……その記憶に思い至ったマサキは焦った。どうにかしてこの男を満足させないことには、自分が射精を済ませることはないのだ。
マサキは自らの股間に目をやった。
未だ乳首を弄られただけだというのに、切なげに鎌首をもたげている男性器《ペニス》。そろそろ達したい気持ちが生じてきているのに、その先端に先ぶれがない。それに先ほどの感覚だ。絶頂《オーガズム》に至った感覚は確かにあった。あったのにマサキは射精に至っていない……。
マサキの動揺を見抜いたのだろう。マサキの身体をベッドに引き倒しながら、シュウが顔を間近にしてくる。元が端正なだけに凄絶な印象を受ける切れ長の瞳。その双眸に獰猛な光を見て取ったマサキは腰を引くも、上背に勝るシュウに組み敷かれていては叶わぬ望みだった。
「い、やだ。止めろよ、シュウ……誰かに熱くなるなんて、お前らしくもない……」
このままではシュウに犯される。遠からず訪れるだろう現実に耐え兼ねたマサキは、咄嗟に思い付いた言葉を吐いた。
けれどもそれをシュウはまともには聞いていないのだ。
冷静で理知的で、才覚に優れる男。他人に興味も関心もないように振舞うのが常なシュウこそが、マサキの良く知るシュウ=シラカワだ。そのつれなさたるや、自身に好意を抱いている異性に対しても冷淡に振舞えるほどである。だというのに、今の彼はどうだ。まるでマサキに身も心も狂わされてしまったかのような表情をしているではないか。
「直ぐに熱くなるあなたが云っていい台詞ではないですね」ふふと嗤った彼が、その双眸にマサキを捉えたまま続ける。「さあ、愉しみましょう、マサキ。今日こそ私はあなたを私のものにしてみせますよ」
そのまま、マサキを組み敷いたシュウが初めに仕掛けてきたのは、柔らかくも激しい口付けだった。口唇を軽く合わせてきたかと思うと、ゆっくりと幾度も吸い上げてくる。先刻の宣言からしてもっと激しい行為を想像していたマサキは、その意外性に途惑いもしたが、口付けぐらいであれば|気《プラーナ》の補給で慣れている。絡められた舌の動きの激しさには驚いたものの、口腔内をあますところなく舐め上げてくる彼の舌は心地よく、身構えていたマサキの身体の緊張をほぐしていった。
かといって、このまま大人しく抱かれるつもりはマサキにはなかった。
マサキの手足が脱力しているのは、シュウが施したマッサージの所為である。倦怠感もあるにはあるが、普通に動く程度であれば問題はなかった。純粋な力のぶつかり合いとなれば、身体能力に優れるマサキの方が上なのは理解《わか》っている。いずれ力が回復した時の為にも、体力は温存しておいた方がいい。そう判断したマサキは、シュウに身を委ねることにした。
ところが、だ。
じっくりと口内を攻めてくるシュウの舌。舌を絡めては吸われを繰り返している内に、マサキはすっかり彼に骨抜きにされてしまっていた。
とかく腰が砕けそうなまでに陶然としてしまうのだ。
何に対しても才能を発揮する男は、愛撫に対してもそうであるらしい。口付けの下で動き回る彼の手が、マサキの身体の各所を撫でている。その都度、感じる陶酔。長い口付けが終わる頃ともなると、あまりの快さにマサキの瞳はすっかり潤んでしまっている有様だ。
どうして――と思うも、シュウの愛撫は止まらない。乳首を弄びながら、こめかみ、耳、首筋と舌を這わせてくる彼に、マサキの息はひたすらに上がった。上がって、激しい熱を帯びた。そう、喘ぎ声を掠れさせるまでに……。
――あっ、あ、ああっ……
もしかするとそれは、射精を許されない男性器《ペニス》の所為なのかも知れなかった。
熱を帯びるばかりで解放を迎えられない男性器《ペニス》の、切なさ混じりのもどかしさ。出そうなのに、出せない。あと一押しで射精に至れそうな割には、幾度そのあと一押しを受けても反応しない己の男性器《ペニス》。勃起を続けるだけの状態というのは、これほどまでに辛く苦しいものであるのだ……マサキは今更にシュウの催眠暗示を恐ろしいものと感じるも、さりとて、云って止まるような状態にシュウがないのは先ほどの遣り取りで理解《わか》っている。乳首に腰、臍とシュウの舌と指でじっくりと嬲られたマサキは、も、達《い》きたい……と、我知らず口にするまでに身体を溶かされてしまっていた。
シュウの顔が下半身に移動する。
先ずは足の指。指先から指の間と舌を隅々まで舐られたマサキは、その快さに酔い痴れた。
次いで、くるぶしからふくらはぎ。脚を持ち上げられて、節々に口付けられる。それは静けさと激しさでもって、マサキの身体を支配しにかかった。
最後に、腿。内股に狂ったように口付けてくるシュウに、マサキは我を忘れて喘いだ。男性器《ペニス》に触れるか触れないかの箇所を執拗に攻めてくるシュウの口唇。もどかしさは快感と化してマサキの身体を虜にしたばかりか、理性さえも取り去ろうとしていた。
「どうです、マサキ。気持ちがいいのでしょう。こんなによがって」
シュウの愛撫にしたたかに酔ったマサキだったが、その陶然とした時間もそこまでだった。
だらしなく開いた足の谷間にシュウの指が忍んでくる。窪みを探り当てた彼が、後ろ孔のひだをなぞり始める。焦ったマサキは身体を捩らせた。これ以上は流石に無理だと思うも、身体は未だままならないまま。直ぐに足首を掴み取ったシュウに引き戻されてしまう。
「や、だ。止めろ。止めろって、シュウ……」
「止めろと云われて止めるぐらいなら、最初から催眠暗示でどうこうしようとは思いませんよ」
力なく訴えるも、シュウの指は止まらない。ぬとり――とひだを割って後ろ孔の|内部《なか》へと|挿入《はい》り込んでくる二本の指。どうやらここまでの愛撫は受けていたようだ。思いがけずすんなりシュウの指を受け入れた菊座《アナル》にマサキは覚るも、流石にこれ以上の無体は許せない。経験のないことを、感情の持って行き場もないままにするのは嫌だ。ゆるゆると動き始めたシュウの指に、マサキは首を左右に振った。
だが、その直後だった。
後ろ孔の内部《なか》にあるしこりのようなもの。その一点を擦り上げられたマサキは、陰嚢に鋭い快感を感じたような気がして腰を跳ねさせた。続けて指先で叩くようにして刺激を与えられる。あっ、あっ、あっ。触られていない筈の男性器《ペニス》に快感を覚えたマサキは、断続的に短く喘ぎ声を上げた。
「な、んだよ……これ……」
「前立腺ですよ。聞いたことぐらいはあるでしょう」
四日に渡る催眠生活は、すっかりマサキの身体の準備を済まさせてしまったかのようだ。前立腺は勿論のこと、指を抜かれる度に菊座《アナル》に感じる怖気を伴う快感。未知なる快感に、マサキの気分が高揚する。たった二本の指でさえ、こうもマサキを翻弄するのだ。もし、シュウの男性器《ペニス》を受け入れようものなら。
恐ろしさにマサキはシュウの腕を掴んだ。掴んで取り去ろうと藻掻いた。
この先に進むということは、ある種、男という性別を捨てることでもある。無論、男女平等思想が行き渡った今の世の中で、女性性だ男性性だと拘るのはナンセンスだ。マサキとてそのぐらいのことは理解《わか》っている。それでも捨てられない自尊心《プライド》。何せ相手は|あ《・》|の《・》シュウなのだ。これが見知らぬ男であれば、事故にあったようなもの。マサキはまだ自分の気持ちに整理を付けることが出来た。だが、一度は命を奪った男――なのである。引導を渡した相手が何故こんなにも自分に執着心をみせているのかはさておき、これから先も度々顔を合わせるだろう相手とどうして肉体関係を結べたものか。
その瞬間、マサキは確実に何かを失ってしまうだろう。
自分が自分でなくなってしまうような気がしてならなくなったマサキは、その耐え難さを力と化して自らの手に込めた。当然ながらシュウが易々と腕を引く筈がない。今のマサキにとっては追い縋るのも難儀なまでの力で手が振り払われる。そのまま、マサキの膝を割って双丘の谷間へと顔を埋めてきた彼に、マサキは情けなくも下半身の力が完全に抜け落ちてしまったのを感じ取った。
菊座を吸う、彼の口唇の柔らかさ。時折深く挿し入れられる舌が、例えようのない恍惚感をマサキに齎してくる。
――あ、やだ。やだ、シュウ。
開かされた脚を閉じることも叶わず。マサキは彼の髪に指を埋めて、あられもない声を上げた。あ、そこ、やだ。出る。出そう、シュウ。快感の高まりを感じ取ったマサキは声を上げるも、これまでと同じだ。軽い絶頂《オーガズム》には至るものの、漲る男性器《ペニス》は沈黙を続けたまま。も、やだ……ッ。終わりのない快楽に根を上げたマサキは子どものように駄々を捏ねるも、それで愛撫の手を休めるような男ではない。更に動きを増したシュウの舌に、感極まったマサキの瞳から涙が一|滴《しずく》零れ落ちる。
「あなたは本当に可愛らしい人ですね、マサキ。ここを弄られるだけでもそんなに声を上げて」
「馬鹿、か。俺、は……男だ、ぞ……」
「そういうあなたの表情ですよ、可愛らしいのは」身体を起こしたシュウが、愛し気な視線を向けてきながらマサキの両脚を抱え込んだ。「待たせましたね、マサキ。さぞやこれまで辛かったことでしょう。そろそろ楽にして差し上げますよ」
言葉の意味など問うまでもない。言葉が終わるなり腰を進めてきたシュウに、マサキは細く長い叫び声を上げた。
菊座《アナル》を割ってのそりと挿入《はい》り込んできた男性器《ペニス》が、後ろ孔の底で息衝いている。そう簡単に挿入《はい》ると思っていなかったマサキは、腹の底に感じる圧迫感に喘がずにいられなかった。無理、無理だ。シュウ。そう声を上げて抗議するも、シュウが腰を引くことはなく。
「安心なさい、マサキ。直ぐに良くなります」
マサキが寝ている間にマサキの身体を開発したと豪語するだけはある。余程の自信があるのだろう。ややあってゆっくりと男性器《ペニス》を抽送し始めたシュウに、無理、だって。マサキは再び抗議の声を上げるも、矢張りシュウがその凶器を収めることはなく。
「く、あ。くう、シュウ。やめ、止めろよ。本当に、無理、なんだって」
挿し入れられては抜かれ、抜かれてはまた挿し入れられる。耐えられなくはないが、先ほどまでの快楽と比べるとどうしても苦しみが先に立つ。とても喘いでいられる状態ではない。眉根を寄せたマサキは、苦しさのままにくぐもった声を洩らした。
そういったマサキの様子に嗜虐心を煽られたようだ。嫌味に皮肉と、マサキを言葉で虐げることに歓びを感じる男だけはある。シュウはマサキの身体を深く折り畳んでみせると、マサキの後ろ孔の浅いところ目がけて亀頭を擦り付けてくる。
――あ、あ、う……そこ、やだ。やだ。
じわりじわりと染み出てくる快感に、マサキは首を振って抵抗した。身体への愛撫に快感を覚えてしまうことは許せても、菊座《アナル》に快感を覚えてしまうことは許せない。それは、マサキが自分の性的志向が異性にあると信じて疑わないからこその抵抗だった。シュウに抱かれてよがっている自分の本性を認めたくない。後ろ孔を突かれて快感を覚えてしまったマサキは、だからこそシュウに必死の抵抗をみせた。
だが、隠そうにも隠し切れない陶酔。次第に全身へと広がっていった快感が、マサキの口唇をだらしなく開かせる。あっ、あっ。高まりをみせる情動が、薄皮一枚で残されているマサキの理性を剥ぎにかかった。い、やだ。シュウ――頭の上に挙げた手でシーツを掻きながら懇願するも、シュウが抽送を止める気配はない。やめ、イク。イっちまう。細めた視界が滲んでいるのは、尽きぬ快感の所為だ。理性を取り戻す時間の少なさが、マサキの本能を剝き出しにする。溢れ出る涙は歓喜の涙だ。イク。イク。譫言のように繰り返しながら、マサキは全身を硬直させた。
絶頂《オーガズム》を迎えたのだ。
だのに出ることのない自らの精。すぐさままた高まりを見せ出した身体に、満足が尽きぬのだろう。一度、股間の凶器を抜き取ったシュウがマサキの身体を返す。続けて即座に挿入を果たした彼は、マサキの身体を膝の上に騎《の》せると膝裏に手を差し込んできた。そして、抱え込んだマサキの脚を大きく開かせる。
「鏡がないのが残念ですよ、マサキ。折角こうした機会が訪れたというのに、深く私の男性器《ペニス》を咥え込んでいるあなたの菊座《アナル》が見られないとはね」
「そ、んなもん……見たが、あっ……るんじゃ、ねえっ、よ……」
「そうは云ってもね」腰を小刻みに動かしながらシュウが尋ねてくる。「前立腺を擦られるのが気に入ったのでしょう、マサキ」
「違、う……」
マサキはなけなしの自尊心《プライド》に縋って首を横に振った。ぬちょりぬちょりと音を立てている自らの菊座《アナル》。視界の端に嫌でも入り込んでくる後ろ孔を、シュウの男性器《ペニス》が深く犯している……。
耐え難い。
耐え難いと思っているのに、目が離せない。
知性に勝るシュウは男の性とは無縁だと勝手にマサキは思い込んでいた。何せその手の話の話が耳に入ろうものなら露骨に顔を顰めてみせる男だ。自らの潔癖さを隠そうともしない振る舞いに、勘違いをしてしまったとしても無理はない。
その男の隠された本性。自らに向けられた性欲に、マサキが上手く対応できずにいるのは、彼にも本能的な性衝動があるということに、これまでのマサキが微塵も思い至っていなかったからだ。
「ああ、マサキ。素晴らしいですよ、あなたの菊座《アナル》は。こんなにも熱に満ちているとは」
性行為を行っていることを強く自覚させるシュウの言葉に、マサキの頬が熱くなる。
マサキは自らの菊座《アナル》に出入りを繰り返しているシュウの男性器《ペニス》を眺めた。マサキの男性器《ペニス》よりもふた回りは太い陰茎。それが後ろ孔を押し広げて頻繁に腸内に挿入《はい》り込んでいる。マサキは溜息混じりの喘ぎ声を宙に漂わせた。都度々々前立腺を叩く亀頭。それがマサキの隠された顔を暴いてしまいそうだ。
「や、め。シュウ、お願、いだから……っ、も、う、止めろ――」
愛撫受けていた時と同様に高まりをみせる身体。これ以上は無理だと思うほどに張った陰嚢が、精の吐き出し口を求めて荒れ狂っている。ああ、ああ、ああ。マサキはひたすらに喘いだ。このままではまた絶頂《オーガズム》を迎えてしまう。
――あ、イク。イク。イクッ。シュウ、また、また、あっ、イクッ……
直後、マサキの頭が白く弾けた。立て続けの絶頂《オーガズム》に身体の力が失われてゆく。
「本当に可愛らしい人ですね、あなたは。こんなに簡単に連続で絶頂《アクメ》に至れるとは」
力を失って木偶の棒と化したマサキの菊座《アナル》を、シュウの男性器が穿り続けている。早く楽になりたい。快感に限りはなかったし、その状況にマサキ自身は一種の陶酔を覚えるようにもなっていたが、だからといって射精に至れないのは辛過ぎる。何でもいい。とにかく出したい。そう思いながらも、マサキの身体はまたも快感に晒されてゆく。
「イキたい……っ。イカせろよ、も、本当に、頼む……」
涙を流しながら懇願すれば、流石にシュウも心を動かされたようだ。わかりました。と頷いた彼がマサキの身体を抱え上げる。
視界の底で屹立しているシュウの男性器《ペニス》は、そう簡単には射精に至りそうになさそうに映るというのに、何をするつもりであるというのか。構えたマサキの顔を覗き込んできたシュウの表情は、悪辣という言葉が実に良く似合う雰囲気に満ちている。切れ長の眦に、彼の人の悪さを見て取ったマサキは身構えた。
「次はあなたに腰を振っていただきましょう、マサキ」
弾む声に感じる絶望感。どこまで行っても独り善がりな男は、性行為の場に於いても己を貫くつもりであるらしい。云うなりマサキをベッドの上に置いて横になったシュウに、マサキは躊躇いを覚えるも、もうずっと決定的な瞬間を迎えていないからだ。射精をしたい気持ちが躊躇いを上回った。差し伸べられた手に導かれるがまま、その腰に跨る。
「ゆっくり腰を沈めるのですよ、マサキ。忘れていないとは思いますが、私も人間ですからね。あまり力まれては、入《はい》るものも挿入《はい》らなくなります」
「わかってるよ……そのぐらい……っ」
この期に及んで余裕を崩さないシュウの態度に苛立ちを覚えもするも、他に取れる手立てもない。マサキはシュウの言葉に従ってゆっくりと腰を落とした。緩やかに挿入《はい》り込んでくるシュウの男性器《ペニス》に、彼がマサキの身体を馴染ませるのに使った時間が窺い知れる。どうなっちまうんだよ、俺の身体。そう思いながらも本能には打ち勝てない。マサキはゆっくりと前後に腰を振り始めた。
腰の位置を調節して、当たり所を調節する。
今日が初めてであるにも関わらず、スムーズに動く身体。それは絶頂《オーガズム》を繰り返したことで、マサキが自分の性感帯を覚えたからでもあった。これだけの身体に仕上げる為に、シュウは多忙な艦内生活の合間を縫って四夜もの時間を使ったのだ。
眩暈がする。
暇さえあれば格納庫《バンカー》に籠って整備三昧。次機の改修に余念がない男は、整備士たちの人望が厚いと聞く。何せ世界に名を轟かせた科学者だ。彼の薫陶を受けたい技術者は枚挙にいとまがない。その男が果たしたかった執念。自らの身体が有する魅力に、けれどもマサキは理解が及ばない。それでも、彼がマサキの身体に強い執着心を抱いていることだけは伝わってきた。
前立腺を抉ってくる亀頭が果てしない快感をマサキに与えてくる。
このままではまたもマサキの方が絶頂《オーガズム》を先に迎えてしまいそうだ。マサキは遮二無二腰を振った。楽になりたい。頭の中が欲望で満たされる。頼むから、今度こそ達してくれ。長時間シュウとの性行為《セックス》に時間を割いているマサキは、蓄積された疲労も手伝って理性が利かなくなってしまっていた。
本能の赴くがままに腰を振り、快楽を貪る。
と、何の前触れもなくそれが来た。脳が焼けつくような快感。全身を戦慄かせながら絶頂《オーガズム》を迎えたマサキを目にしてシュウの顔が愉悦に満たされる。まだですよ、マサキ。快感の残滓に震える身体を休めようとしたマサキをその場に押し留めて、シュウがクックと嗤い声を上げた。
直後、腰も動き始めるシュウの腰。
マサキの動きに合わせるようにして、抽送するシュウの男性器《ペニス》。剛健《タフ》な男の生殖器は、やはり剛健《タフ》であるのだろうか。体位を二度も変えているにも関わらず達する気配のないシュウの男性器《ペニス》に、細かく絶頂《オーガズム》を迎え続けているマサキの理性は完全に吹き飛ばされた。
「――あっ、やだ。シュウ、もうヤダ。頼むから、達《い》けよ……ッ……!」
正常位で一度、背面座位で一度。そして騎乗位となってからもう一度。都合三度の絶頂《オーガズム》は、同時にマサキから抵抗するだけの気力も奪ってしまっていた。早く、とにかく早く。射精をしたくて堪らない。何せ絶頂《オーガズム》を迎えたか思うと、その直前と等しいだけの快感がまた襲い掛かってくるのだ。終わりたいのに終われない快楽の地獄。気持ち良さも度を過ぎれば責め苦に等しくなるのだと、マサキは初めての体験にして思い知ってしまった。
「私に達《い》って欲しければ、もう少し頑張りなさい。ねえ、マサキ」上半身を起こしたシュウが、マサキの膝を抱え込んでくる。「とはいえ、流石に私もそろそろ達しそうですよ、マサキ。私にしっかりと掴まってもらえますか。あなたに任せていては、終わるものも終わらなくなりそうですからね」
云うなり腰の動きを速めたシュウに、ああっ。と、マサキは情けなくも泣き喘いだ。
シュウの男性器《ペニス》が上下に動く度に、その亀頭が前立腺を掠めてゆく。たったそれだけの刺激だ。だが、その刺激が例えようもない快感と化して、マサキの男性器《ペニス》を貫く。彼の指が導いた快感と同じだ。腰を引かれては後ろ孔に感じる快さに泣き、突き上げられては陰嚢を刺激する快感に貫かれて泣く。そんなマサキの涙に塗れた顔を、シュウは愛し気に舐め回してくるのだ。
「はあ、ああ、シュウ。シュウ、本当に、も、出させて、くれよ」
互いの吐息が混じり合う中、無言でシュウに口付けられたマサキは、その引き際に悲鳴に近い声を上げた。当初感じていた不安や恐れ、怒りや途惑いはとうにどこかに消え去ってしまっている……ただ、あるのは終わらせたいという思いばかり。本能の導きのままに射精を求めるマサキは、今また覚えた軽い絶頂《オーガズム》に、シュウの背中へと爪を立てずにいられなかった。
「ほら、出ますよ。マサキ、待たせましたね……」
その痛みが彼の嗜虐心を満足させたようだ。一度、その凶器を抜き取ったシュウがベッドの上にマサキを四つん這いにさせる。背後から四度、双丘を割って菊座《アナル》に挿入される男性器《ペニス》。流石にもう余裕がないのか。最初から動きを激しくするシュウに、マサキは呆気なくも底なしの快楽の中へと堕ちてゆく。
「あ、また、またイク……ッ、イク、シュウッ……」
「いいですよ、マサキ。達《い》きなさい」
どうやら本当に達するようだ。マサキの後ろ孔をひたすら深く貫いていたシュウの男性器《ペニス》が、不意にその動きを止める。同時に襲い来る快感。これまで未踏だった域に突入した快感の深まり具合に、アッ、ああ……ッ。マサキは菊座《アナル》を激しく収斂させながら、ベッドの底へと沈んで行った。
――アッ、ああ、ああ……
快感の余韻は止め処ない。自らが解き放った精液の上に伏せているマサキに、シュウの手際は良かった。マサキを抱き上げて部屋の隅にあるソファに運ぶと、手ずからシーツを変え、服を着せてくる。放心状態でシュウにされるがままでいたマサキは、その時に初めて自分の肌をまともに目にした。全身に散った紅斑がシュウの熱情を伝えてくるようだ。視界に映り込む自身の肌にシュウの想いを見て取ったような気になったマサキは、聞かずには終われないと、シュウにこの一連の不埒な行為の理由を尋ねることとした。
「お前、何で俺にこんなこと」
「あなたが理解《わか》らないと云うのであれば、そのままにしておいた方がいいのでしょうね」
ふ……と笑みを浮かべたシュウが、どこか寂し気にマサキの目には映る。自惚れてもいいのだろうか。他人の感情を推し量る能力に欠けるマサキは、恋愛事に於いては相手との距離の詰め方を間違えがちだ。あのよ――。悩みながら次の言葉をマサキが口にしようとした刹那、続くマサキの言葉を聞きたくなかったのやも知れない。身を屈めてきたシュウが、「次はいつにしますか」と、予定を尋ねてくる。
「お前、今はそういう話をする流れじゃねえだろ」
「そうでしょうかね」クックと声を潜めたシュウが今また嗤う。「気に入っていただけたと思いましたが」
マサキは盛大に顔を顰めるも、催眠暗示の件もある。解かれたのか解かれていないのかわからない以上、これを超える快感をひとりでは生み出せない身体のままだ。
「俺が寝てる時には手を出すな。そうでなければ考えてやる」
欲に溺れたマサキの胸中を見抜いているのだろう。そういうことなら喜んで。と、いけ好かない笑顔を浮かべたシュウが、頭を垂れてマサキに口付けてくる。絡む舌に伝わる熱。マサキに限らずシュウの身体にも性行為の残滓が熱となって残っているのだ。それを感じ取ったマサキは気が済むまでシュウの口唇を貪った。これでようやく解放されるのだ。そう思えど、物惜しさが消えない。
澄ました男だとばかり思っていた男の意外性に満ちた顔。性行為の際には、彼であっても野獣と化すのだ……シュウの性行為中の顔を思い出したマサキは、知らず知らずの内に彼への苦手意識が消えてしまっていることに、しみじみとした想いを噛み締めずにいられなかった。
「では、マサキ。私はこれで失礼しますよ。あとはゆっくり休むのですね」
ベッドにマサキを運び込んだシュウが、辺りに漂う空気のように静かに、マサキの部屋《キャビン》から去って行く。次のマサキは恐らく抵抗しまい。残されたマサキはひとりベッドの上。次のシュウとの性行為を夢見ながら眠りに落ちた。
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