去年完成させられず上げられなかったので、この休みの間に仕上げてしまおうと……
今更なクリスマスネタです。
今更なクリスマスネタです。
ラ・ギアスに住んでいるとどうしても忘れがちになる地上の風習を、シュウがふと思い出したのは、例年であればこの時期になると家にやってくる筈の彼が待てど暮らせど姿を見せなかったからだ。そう、風の魔装機神が操者、マサキ=アンドーだ。彼はシュウの前にふらりと姿を現しては、唐突に去ってゆくのが常だ。
そんな彼ではあったが、幾つかのイベント時にはシュウの許で過ごそうという意識が働くようで、計画的に家を訪れたりもする。例えばバレンタイン。例えばホワイトデイ。クリスマスもそうであったし、年末年始にしてもそうだ。当たり前のように顔を見せては、シュウとともにイベントを過ごしてゆく。
だのに今年に限っては、連絡もなければ訪れもない。
鋼の精神を誇るシュウであっても、想い人のこととなれば心が揺らぐ。もしや礼を失する真似をしてしまったのではなかろうか。マサキと喧嘩をした覚えのないシュウは、前回の彼の来訪時の出来事を思い返した。けれども、該当しそうな出来事がひとつも思い浮かばない。
そもそもマサキはネガティブな出来事を長く引き摺る性格ではない。
しかも細かいことを気にする性質でもないのだ。
ならば。シュウは研究の手を止めて、書斎を出た。その足でリビングに向かい、壁にかけてある上着を取りながらチカを呼ぶ。はいはーい。明るい声とともに天井の桟から舞い降りてきた使い魔が、シュウの肩にふわりととまった。
――来ないのならば行くまでだ。
シュウがゼオルートの館に到着する頃には、夕闇が辺りを支配し始めていた。
――来ないのならば行くまでだ。
シュウがゼオルートの館に到着する頃には、夕闇が辺りを支配し始めていた。
厚い雲に覆われた空の隙間がグラーデションを描く闇に染まっている。随分と寒くなった辺り、雨か雪が降りそうだ。シュウは面を上げて正面にそびえるゼオルートの館を見上げた。
暗がりに明かりを灯す幾つもの窓。どうやら在宅なようだと思って近付けば、庭にライトに彩られた巨大なツリーが飾られている。より近くで様子を窺うべく歩を進めてみれば、どうやらガーデンパーティの真っ最中であるようだ。きゃいきゃいと賑やかな声が響いてくる。
シュウはそうっと柵の隙間から顔を覗かせて、庭の様子を窺った。
プレゼントを開けたところであるようだ。プレシアが煌びやかなドレスを両手に持って、嬉しそうにくるくると回っている。お兄ちゃん、ありがとう! 澄んだ高い声がマサキに礼を述べるのを耳にしたシュウは、思いがけず口元を綻ばせた。
鈍感で気の利かないマサキにしては上出来なプレゼントだ。
更に様子を窺ってみれば、どうやらパーティは終盤に差し掛かっていたようだ。椅子にだらしなく座って寝息を立てている何人もの魔装機操者の姿。きっと酔い潰れてしまったのだろう。彼らを一人ずつ、ゲンナジーが部屋の中に運んでいる。
「帰りましょうか、チカ」
「ええ? 今来たばかりですよ、ご主人さま」
「ホストが姿を消していい雰囲気ではなさそうですからね」
闇に紛れてひっそりと、自分のような陰気な人間は姿を消せばいいのだ。シュウはゼオルートの館に背を向けて、一歩、また一歩と宵闇に向かって歩んで行った。シュウ。自らの名前を呼ぶ青年の声を聞いたのはその瞬間。シュウは足を止めてゆっくりと後ろを振り返った。
館の門を開いたマサキが、こちらに向かって駆けてくるのが見える。
シュウはその場に留まって、マサキが目の前に立つのを待った。揺れるボトルグリーン。足を止めたマサキが息を荒らげながら口を開く。
「どうしたんだよ、シュウ。お前がここまで足を運んでくるなんて」
「あなたの訪れがないのが気にかかったからですよ」
「明日、行くつもりだったんだがな」
わざわざ自邸にまで訪れてきたシュウを、そのまま返すのに気まずさを感じているようだ。頭を掻いたマサキが、食事でも行くか? と、尋ねてくる。結構ですよ。シュウは首を左右に振った。
「あなたの予定が知れたのですから、その準備をしないとね」
「ケーキも食事もそんなにはいいぞ」
「今日、もう食べたから?」
華々しかったガーデンパーティのテーブルを思い返してシュウが口にすれば、余計な嫉妬をさせたくないと思ったのだろう。そうじゃねえよ、馬鹿。と、マサキが眉を顰める。
「お前、毎年食い切れない量を用意するだろ。無駄はさせたくねえんだよ」
「とは、云われてもね」シュウはクックと嗤った。「あなたに食べさせたい物を選んでいるとつい」
困った風に宙を睨むマサキに、シュウは微笑ましさが止まらない。「好きに用意させてもらいますよ。年始まで食べるものですから」続けてそう口にしてから、マサキに自邸に戻るように促す。不安が過ぎるのだろう。幾度も振り返りながらゼオルートの館に戻っていったマサキに、軽く手を振ってからシュウは再び踵を返した。
イベントごとになると、途端に几帳面になるマサキ。
彼はシュウとの逢瀬を忘れていた訳ではなかったのだ。
それが嬉しく、また誇らしい。静かに振り始めた雪に身体を包まれながら、シュウはチカとともに帰途を歩んで行った。
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