もうね!ストレスが!臨界点!なんですよ!
エロを私に寄越せええええッ!!
と、いうことで、サイトに更新する時に上げるつもりだった加筆部分を上げます。まだ続くよ!
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<チョコレイトキス>
マサキには理解が及ばないが、シュウにとって、マサキの口唇というものは劣情をそそるものであるらしい。
欲望を隠しもしない男の過剰なスキンシップ。自身の口唇に無遠慮に触れてきたシュウの指先に、反射的に彼との口付けの記憶を脳裏に蘇らせていたマサキは、酷い口寂しさを感じた己の浅ましさを誤魔化すように残った食事を一気に片付けた。
そろそろ食堂はピークタイムを迎えようとしていた。
混雑の始まりを告げるような長蛇の列。カウンターに伸びるその中にミオとプレシアの姿がある。果たして彼女らは用意したチョコレートを配り終えたのだろうか? 席を立ち、食器を片付けたマサキは彼女らの許に向かった。
「あれ、マサキ。もう夕食済ませちゃったの?」
「さっき、お兄ちゃんの部屋に寄ったんだよ?」
「悪いな。もう食った」
云いながらシュウから受け取ったラッピングバッグを手渡す。何、これ? きょとんとした表情で包みを受け取ったふたりにシュウからのお返しだと告げると、「ラッキー♪」と声を上げたミオの脇でプレシアが露骨に嫌気が差した表情になった。
「あたし、いらない」
「我儘云うな。お前があいつにもやるって云った結果だぞ」
「そんなつもりじゃなかったのに……」
プレシアにとってシュウはあくまで大勢の味方の中のひとり。そう割り切った彼女は、だから彼だけを弾く訳にはいかないとチョコレートを渡した。だのに、そうした思惑とは裏腹に律儀にもお返しをされてしまった……。
それはプレシアとて途惑う筈でである。マサキとしても義妹の胸中は察して余りあった。とはいえ、他人宛のチョコレートをマサキが受け取る訳にもいかない。
「そんなつもりじゃなかったなら、最初から渡さなきゃ良かっただろ。あいつだってお前から貰えるとは思ってなかったんだ。そりゃお返しも用意するだろ」
マサキは続けざまに言葉を吐いた。それが駄目押しとなったようだ。しぶしぶながらもマサキの言葉に従うことにしたらしい。プレシアがしっかと包みを掴む。
物思いに沈む顔。シュウに対する気持ちに彼女が決着を付けるのには、まだまだ時間がかかるのだろう。頑固な義妹はマサキの言葉程度で自身の気持ちを揺らがせたりはしない。「じゃあ、俺は行くぞ」マサキはまだまだ人の流れが途切れない食堂を後にした。
通路に出たマサキは悩んだ。
何処に向かおう――就寝まではまだ時間がある。このまま自室に戻ったところですることもない。とはいえ、艦内はまだまだ自由に出歩ける空気ではなさそうだ。歩き始めた先から乗組員《クルー》に袖を引かれる道のりに、うっとおしい。マサキはキャビンのある居住スペースへと戻ることにした。
瞬間、目に飛び込んできた光景に曲がり角に姿を隠す。
サフィーネに、モニカ。そしてシュウ。
どうやら先程のチョコレートのラッピングの礼をしているようだ。プラケースに詰められたひと掴み程度のキャンディ。それでも彼女らには嬉しい贈り物であるのだろう。うっとりとした表情でシュウを見上げている。
実に恋は盲目である。めでてえな。マサキは顔を緩ませている彼女らに、苦々しさを感じずにいられなかった。
ややあって、サフィーネとモニカがきゃあきゃあと嬌声を上げながらその場を立ち去る。その背中を見送ったシュウは、今日はこのままキャビンに篭るつもりであるようだ。自らに割り当てられているキャビンの前に立った彼は、入り際、マサキが身を隠している方へと顔を向けてきたかと思うと、ふ――と、口元に笑みを浮かべてみせる。
それきりだった。
まるでマサキを誘い込もうとしているかのようなシュウの動きに、思い返されるのは食堂での一幕だ。無遠慮に触れてきた彼の指の温もり……ふわりと口唇に蘇った感触にマサキは逡巡した。
口寂しさと自尊心。どちらを取るべきなのか。
シュウの姿が通路から消える頃には、マサキの気持ちは決まっていた。
彼の後を追って、キャビンの中へと身体を滑り込ませる。予想は付いていたのだろう。今しがた腰を落としたばかりといった様子のシュウが、ベッドの端からマサキを見上げてきた。無言を貫く彼のすかした嗤い顔が憎たらしい。マサキは真っ直ぐにシュウの許に歩み寄ると、その膝の上に乗り上がった。
頬にかかったその手に導かれるがまま、口唇を合わせる。
自らの欲望に正直に口唇を重ねてくるシュウに、かつてのマサキは激しく抵抗したものだった。腕を払い、頬を叩き、顔を背け、口唇を噛む。けれども、そうしたマサキの度重なる拒絶にもシュウは退かなかった。
彼には何があろうとマサキを獲得してみせるという強い意思があった。血を流そうとも、痕が残ろうとも、諦めることなく果敢にマサキに挑み続けてくる。そのシュウの姿が頑なだったマサキの心を動かした。誰かにそこまで強く求められたことのないマサキは、他人の好意に縛られるという生まれて初めての経験に酔いしれてしまっていた。
浚われて、溺れてゆく。
そもそも、マサキがシュウに抵抗をしたのは、彼に嫌悪感や拒否感を覚えたからではなく、プレシアや仲間に罪悪感を覚えてしまったからだった。誰にとっても父であったゼオルート。彼を失った重みをマサキは忘れていない。
だのに、彼はそうしたマサキの葛藤を飛び越えて、真正面からマサキの心を奪いにかかってきたのだ。
時に暴虐ですらある彼の愛情表現は、マサキに二者択一の現実を突き付けた。奪われるか、抵抗を続けるか。シュウを赦したマサキは、前者を選んだ。愛だの恋だのといった重苦し感情に囚われるなど馬鹿らしい。大事な人を奪われ続けることに慣れてしまっていたマサキは、そう考えてしまうまでに恋愛事を斜に構えて眺めるようになってしまっていた。
だというのに――……。
マサキはシュウによって、快楽を与えられることを知ってしまった。それが好意の表れであるのかは、実のところマサキはわかっていない。けれどもシュウの温もりは、確実にマサキの心を覆っていた氷を溶かしていった。今となっては何に苦しんでいたのかさえも思い出せない。そこまでマサキはシュウを必要としてしまうようになっていた。
「口寂しかったのですか」
「煩えよ。だったらどうだって云うんだ」
「寂しくないようにしてあげようと思ったのですよ。ほら、マサキ」
ポケットから取り出したチョコレートを口唇で挟み込んだシュウに、マサキは口唇を重ねていった。ほろ苦い、けれども舌が蕩けそうに甘いチョコレートキス。彼の舌の上に乗ったチョコレートを丹念に舐め取りながら、マサキは続く行為に想いを馳せた。
期待に高鳴る胸。マサキの額はいつしかしっとりと濡れ、前髪を張り付かせるまでになっている。そこに伸びてくるシュウの手。掻き上げられた前髪に、まともに視線がかち合う。照れ臭い。マサキは今一度、シュウに顔を寄せていった。
深く合わさった口唇の下、シュウがマサキの身体をベッドに沈めた。予想した通りの展開に更に胸を高鳴らせたマサキの首筋に、次いでシュウの口唇が下りてくる。柔らかい温もりに触れられた箇所が熱い。舌で肌を辿られたマサキは、ひくり――と、身体を小さく震わせた。
肉欲に執着するなど自分らしくない。マサキはそう思うも、容易には収まりそうにない身体の火照り。体中の細胞がシュウを欲しがって悲鳴を上げている。これを自らの意思の力のみで制御しろというのは難しい。マサキはシュウの背中にそろそろと腕を回していった。
顔を上げたシュウがマサキの表情を窺ってくる。熱情を露わとするかのようにゆらめいている怜悧な瞳。相反する印象をひとつに纏め上げた眼差しが、確りとマサキの顔を捉えている。あなたが欲しい。物云わぬシュウの口唇がそう語っているような気がする。
強烈な愉悦。マサキを支配したがっている男は、それだけ自分に支配されてしまっているのだ。
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